悲憤、いかばかりだろう「手塩にかけた牛がなぜ」「子牛はわが子と同じ。可愛くてね」

2010-05-19 | いのち 環境

天声人語2010年5月19日(水)付
 「殺人事件が起きたような雰囲気だった。殺された牛を思うと涙も出なかった」。畜産農家の主人の悲痛が、9年前の小紙宮崎版に載っている。その前年に宮崎県と北海道で口蹄疫(こうていえき)が発生した。1年をへて出来事を振り返った記事である▼「情けなくて。手塩にかけた牛がなぜ」「子牛はわが子と同じ。可愛くてね」。深夜も眠れず、焼酎をあおる日が続いた。妻は家に引きこもったそうだ。金銭もさることながら、精神的な痛手が大きかった。それでも全体の被害はまだましだった。740頭を処分しただけで流行を封じた▼今回は燎原(りょうげん)の火を思わせる。宮崎県内の処分対象は、きのう現在で豚や牛など11万8千頭に膨らんだ。国内では過去最悪の流行である。感染はついに、「宮崎牛」ブランドを支える種牛の管理施設にも及び、屋台骨を揺さぶっている▼種牛はブランドの象徴でもある。中でも「安平(やすひら)」という老牛は誉れ高く、冷凍精液が盗まれる事件も起きたほどだ。20万頭の子を世に出し、悠々の余生を送っていたが、感染が危ぶまれ処分されるという。悲憤、いかばかりだろう▼口蹄疫は感染力が強い。01年には英国で大流行し、600万頭が処分された。人間を侵すウイルスは「人類最悪の敵」とも言われる。人には感染しないとはいえ、このウイルスもやはり最悪の敵に変わりはない▼市場へ送り出す朝だろうか。〈ふり向く牛ふり向かぬ牛どちらをも送りて友はしばし動かず〉と先月の朝日歌壇にあった。農家の丹精と落胆を思えば、対策の遅滞はもう許されない。
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<口蹄疫>「全頭処分、仕方ない」 宮崎の農家ら覚悟
5月19日11時44分配信 毎日新聞
 宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題で、感染が広がっている地域の牛や豚が全頭処分される見通しになった。感染まん延を遅らせるためにワクチンを接種したうえでの処分となる。畜産農家や地元は大きな打撃を受けることになるが、発生地区や地区外の農家などからは「全頭処分は仕方ない」との声も上がった。
 感染1例目が確認された都農(つの)町。牛40頭を飼育する永友浄さん(65)方は感染を免れているが、全頭殺処分には賛成という。「感染していなくても、町全体にこれだけ広がれば競りもできない。自分だけ感染しないのは逆に負い目を感じるくらい。全頭処分してゼロからスタートした方がいい」と語った。
 一方、感染確認が最も多い川南町で、牛76頭に感染の疑いが出た江藤民子さん(65)は反対の立場。「これ以上殺処分の頭数が増えると、埋却処分の遅れに拍車がかかる。牛は出荷までに年月がかかるので、感染していない農家は簡単には受け入れられないだろう」と他の農家を気遣った。
 川南町の蓑原敏朗副町長は「現時点で国からの連絡はない」とした上で、「ワクチン投与が決まれば、農家の方々に粛々と説明するしかない。ただ、殺処分される牛や豚の補償など具体的な経済支援策がない限り、説得は難しいと感じる」と話した。
 県内最大の畜産地で、感染が確認されていない都城市。牛20頭を飼育する別府俊利さん(80)は「これ以上、対策に手が回らないなら全頭処分も仕方がない。でも、農家にとって牛は生活の手段であって生きがい。大切にかわいがってきた牛を処分される人の顔を思い浮かべるといたたまれない」と声を落とした。【小原擁、澤本麻里子、川上珠実】 

「うし/しんでくれた ぼくのために/そいではんばーぐになった/ありがとう うし…」
宮崎牛、口蹄疫 「人間は、地上における最も兇暴な食欲をもつ生物だ」


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