鉢木(はちのき)四番目物 / 「葛城(かづらき)」鬘物 / 木六駄(きろくだ)

2017-11-26 | 本/演劇…など

鉢木(はちのき)
【分類】四番目物(雑能)
【作者】 不詳
【主人公】 シテ:佐野源左衛門常世
【あらすじ】(薪ノ段の部分は下線部です。)
 信濃から鎌倉へ上ろうとする一人の旅の僧が、途中、上野国(群馬県)佐野のあたりで雪の降り込められてしまいます。通りかかった一軒家に宿を借りようとすると、その家の妻は主人が留守だから待つように言います。やがて、雪の中を帰ってきた主人は、夫婦二人すら暮らしかねている有様の見苦しい家ですからと断り、十八町先の宿場を教えます。しかし、大雪の中を立ち去る旅の僧の後姿を見て、気の毒に思い、呼び戻します。そして、貧しい粟飯を出してもてなし、秘蔵の鉢木を火にくべて暖をとらせます。僧がその人となりに感じ、名を尋ねると、佐野源左衛門常世のなれの果てですと名乗り、領地を一族のものに横領され、零落しているが、今でも鎌倉に一大事が起これば、一番に馳せ参ずる覚悟だと、その意気を洩らします。翌朝、旅の僧は、鎌倉へ来られることがあったら訪ねて下さい、幕府へもお手引きしましょうと慰めて、立ち去ります。
 <中入>
それからまもなく、鎌倉で兵を集めるというので、常世も痩馬に打ち乗って駆けつけます。北条時頼は、二階堂と太刀持に命じて集まった軍勢の中から常世を探させ、御前に召された常世に、過日の旅の僧は自分であった明かし、彼の忠誠を賞して、旧領を返させた上、梅桜松に縁のある三か所の荘園を与えます。常世は一陽来復の喜びを得て、勇んで郷里へ帰ってゆきます。
【詞章】(薪ノ段の部分の抜粋です。)
 仙人に仕えし雪山の薪。かくこそあらめ。我も身を。捨人の為の鉢の木。切るとてもよしや惜からじと。雪打ち払いて見れば面白や.いかにせん。まづ冬木より咲きそむる。窓の梅の北面は。雪封じて寒きにも。異木よりまづ先立てば。梅を切りやそむべき。見じという人こそ憂けれ山里の。折りかけ垣の梅をだに。情なしと惜しみしに。今さら薪になすべしとかねて.思ひきや。櫻を見れば春ごとに。花少し遅ければ。この木や侘ぶると。心を尽し育てしに。今はわれのみ侘びて住む。家櫻切りくべて.火櫻になすぞ悲しき。さて松はさしもげに。枝をため葉をすかして。かかりあれと植え置きし。そのかい今は嵐吹く。松はもとより煙にて。薪となるも理や.切りくべて今ぞみ垣守。衛士の焚く火はおためなり.よく寄りてあたり.給えや。

 ◎上記事は[名古屋春栄会]からの転載・引用です 
――――――――――――――――
葛城(かづらき)
*あらすじ
 ある冬のこと。出羽国羽黒山(今の山形県)の山伏の一行が、大和国葛城山(今の奈良県)へ入りました。ところが一行は山中で吹雪に見舞われ、木陰に避難します。そこに近くに住む女が通りがかります。途方に暮れていた彼らを気の毒に思い、女は一夜の宿を申し出て、一行を自分の庵に案内します。
 庵で女は、「標(しもと)」と呼ぶ薪を焚いて山伏をもてなし、古い歌を引きながら、葛城山と「標」にまつわる話を語ります。話のうちに夜も更け、山伏は夜の勤行(ごんぎょう)を始めることにします。すると女は、自分の苦しみを取り去るお祈りをしてほしいと、言い出しました。山伏は、女の苦しみが人間のものでないことに気づき、問いただします。女は、自分は葛城の神であり、昔、修験道の開祖、役(えん)の行者の依頼を受けて、修行者のための岩橋を架けようとしたが、架けられなかった、そのため、役の行者の法力により蔦葛で縛られ、苦しんでいると明かし、消え去ります。
 山伏たちが、葛城の神を慰めようと祈っていると、女体の葛城の神が、蔦葛に縛られた姿を見せました。葛城の神は、山伏たちにしっかり祈祷するよう頼み、大和舞を舞うと、夜明けの光で醜い顔があらわになる前にと、磐戸のなかへ入っていきました。
*みどころ
 冬になれば深い雪に閉ざされる葛城山を舞台にした、幻想的な雪の能です。山伏が山へ入れば、もうそこは一面の銀世界。演出上、作り物などで雪を現実的に見せる多少の仕掛けを除いて、舞台にはほとんど何もありません。そこで演じられる静かな所作と、弱吟主体の穏やかで流麗な謡とが、さまざまな雪景色の移ろいを、観客の目の前に呼び起します。
 物語自体は、古い葛城山の伝説・神話を伝えるような内容で、神秘的で詩情が感じられます。
 清らかな月明かりに照らされ、白く輝く雪のなか、女体の神が舞う……。この世のものではない神話の情景を、お楽しみいただけるでしょう。

 ◎上記事は[the 能 com.]からの転載・引用です
..................
鬘物 かずらもの 
 能の曲の分類の一つ。シテが女性でかつらをつけるところからの称で,女物ともいい,また正式五番立では3番目に演じられたところから三番目物ともいわれる。このうち特に3番目だけに限られて上演されるものを本三番目物という。幽玄優美の曲趣で,『東北』『井筒』『江口』『野宮』『定家』『松風』『源氏供養』『楊貴妃』『熊野』『千手』『杜若』『芭蕉』『胡蝶』『雪』などがある。物でも『関寺小町』『姨捨』『檜垣』は特に老女物といわれる。『雲林院』『小塩』『西行桜』『遊行柳』は,四番目物としても演じられるので準鬘物としての扱いを受ける。なお,狂女物は四番目物であり,かつらをつけても鬘物としては扱わない。
....................
第94回 粟谷能の会「葛城」プロモーション映像 
―――――――――――――――
木六駄(きろくだ)
 主人は、都の伯父に木六駄と炭六駄と酒樽を贈ることにし太郎冠者に届けさせます。太郎冠者は大雪のなか、十二頭の牛を追って峠の茶屋にたどりつき酒を注文しますが、茶屋が酒を切らしていたので、届けるはずの酒樽に手をつけてしまいます。
 太郎冠者は茶屋にも酒をすすめ、酒盛りになります。酔った太郎冠者は木六駄を茶屋にやってしまい、炭六駄の牛を追って伯父のもとへいきます。主人からの「木六駄に炭六駄もたせ進じ候」とある手紙を読んだ伯父に、木六駄はどうしたのかと尋ねられ、冠者は木六駄とは自分の名前のことだと言い訳をするのでした。舞台に登場しない十二頭の牛をみえるように演じるのは至難の技であり、降りしきる雪のなかで勝手に動く牛を束ね追っていく奮闘ぶりが見どころです。  

 ◎上記事は[お豆腐狂言 茂山千五郎家]からの転載・引用です
...................................


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。