尖閣~「日中間で善処してくれ」「米兵の命にかかわるような巻き込まれ方はしたくない」

2013-02-22 | 国際

日米トップ会談の成功はオバマ大統領2期目の課題への協力次第
Diamond online2013年2月22日「シリコンバレーで考える」安藤茂彌[トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
 オバマ大統領が2月12日に上下両院議員を前に一般教書演説を行った。一般教書演説は2期目の4年間の包括的な施政方針演説でもある。やや長くなるが、まずはその内容をご紹介したい。
 大統領はまず成果の報告から始めた。アフガニスタンから毎年3万人規模で米兵を帰還させる。大統領に就任して以降600万人の雇用を創出した。景気は回復基調に入っており、住宅市場も住宅価格が上昇に転ずるなど、回復してきている。それでも失業率の水準はまだまだ高いし、賃金の上昇も見られない。アメリカ経済は所得中間層を強くしないと本当の回復はできない。
 今年初めに富裕層のトップ1%への減税措置を撤廃し、歳出削減も超党派で協議して実現した。さらなる歳出の削減については、これから下院で過半数の議席を有する共和党と協議をしていかなければならないが、大統領と上下両院が合意できない場合には自動的に1兆ドルの歳出を削減することになる。だがこれは悪い考え方である、特に教育、医療分野の歳出削減を安易に進めるとアメリカの将来の繁栄がなくなる。
 10年間で4兆ドルの財政赤字を削減しなければならないが、それよりも税法を改正し、脱税の抜け道をふさぐことで財源を捻出すべきだ。新たな財源をアメリカの未来を担う子どもたちに投資する。そうすれば雇用が海外に流出することを防げる。共和党の協力を得て実現していきたい。私は決して「大きな政府」を作りたいのではなく「スマートな政府」を作りたいのだ。
 海外に出ていたアメリカの製造業が続々と国内に戻ってきた。キャタピラーは日本の製造拠点をたたんで米国に移したし、フォードはメキシコから、アップルは中国から、それぞれ米国内に戻している。製造業革命は再びアメリカから始まろうとしている。昨年3Dプリンティングの訓練センターを作った。こうしたセンターをこれからさらに15ヵ所作る。
 ゲノムへの投資も重要である。ゲノムへの1ドルの投資は140ドルになって返ってきた。脳の遺伝子解析からアルツハイマーへの対応もできるようになるし、再生医療にももっと投資が必要だ。天然ガスの国内採掘にも努力し、クリーンエネルギーへの転換も進めてきた。他国からの化石燃料輸入に依存せずに自立できるようになった。地球温暖化と戦う準備もできた。これでクリーンエネルギーの主導権を中国から米国へ取り戻せる。
 ハリケーン・サンディーのような大型災害の発生頻度が上がっている。災害復旧に迅速に対応するために行政手続きの簡素化を図る必要がある。米国には補修を要する古い道路や橋が7万ヵ所以上ある。こうした補修を行うための財源を天然ガスの収入の一部でエネルギー・セキュリティー・トラストを作り、その資金を使おう。エネルギーの無駄が生じるような家も建て替えよう。こうした努力を積み上げれば、エネルギーの浪費を20年間で半減できる。そうすれば米国を製造基地として魅力的な国にできる。
 製造業、エネルギー、住宅、インフラのそれぞれの分野で、アメリカが主導権を握ろう。それすれば、雇用の創出がもっとできるようになる。こうした需要に応えていくには、スキルを持った質の高い労働力が必要で、それには教育制度の充実が必要になる。小学校に入学する前の幼児の教育に力を入れると将来伸びる人材に成長することがわかっている。こうした幼児への教育投資は効率が高く1ドルの投資が7ドルになって返ってくる。
 高校しか出ていなくてもコンピュータのスキルを身に着ければ職にありつけるようになる。サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学が特に重要だ。高等教育を受ければ受けるほど良い職にありつけるのはわかっているが、大学の授業料が高すぎる。いくら税制支援をしても追いつけない。大学が授業料を下げる努力が必要だ。質を下げないで授業料を下げられる大学には連邦政府から支援を受けられるような仕組みを作っていく。
 総合的な移民制度改革も必要だ。不法移民を取り締まって正規の手続きで移民できるようにする。そのためにはバックグラウンドチェック、英語力の訓練強化を行い、スキルのある外国人に移民の機会を増やそう。下院で法案を作り数ヵ月以内にもってきてほしい。すぐに署名する。
 現在の最低賃金は7.25ドルで、1年間正規職員として働いても年間1万4500ドルにしかならない。これでは貧困ライン以下の水準である。そこで最低賃金を9ドルへ引き上げることを提案する。最低賃金の物価との連動も考えていく。貧困層の住む地域は荒廃している。どんな貧困層でも共働きをすれば子どもを作れるようにしよう。そのためには中間層が厚くならなければならない。中間層が厚くならなければ国は強くならない。
 アフガニスタンでのテロとの戦いは目的を達成したので、米国軍兵士を今年3万3000人帰国させ、来年3万4000人帰国させる。それを可能にするためにアフガニスタンの兵士を訓練していく。テロリストとの戦いは、現地政府がテロリストと戦えるように支援していく。米国自身も引き続き個別にテロリストを排除する計画を進めていくが、これを組織的に公明正大に透明にやる。
 「核」技術がテロリストに渡らないようにする。北朝鮮は米国を威嚇しているが、威嚇は北朝鮮自身を更に孤立させる。同盟国と協力してブロックする。北朝鮮が繁栄する道は国連の決議に従うことだ。イランも国連の決議に従うべきだ。米国はイランが「核」を入手することにはトコトン抵抗する。ロシアとも協力して「核弾頭」の拡散を防いでいく。サイバー攻撃は、個人情報を盗み、行政システム、交通システムを麻痺させる。あとで後悔しない様に事前に法律を作って対応する。行政システムを攻撃から守る法律を作ることに下院はもっと積極的であるべきだ。
 成長を続けるアジアの国々と競争の土俵を一緒にするためにTPP(環太平洋経済連携協定)を推進していく。これがアメリカの輸出拡大と雇用創出に結び付く。アメリカはアジア地域の導き手(Beacon)になる。ミャンマーのスーチー女史を訪ねたときに、ミャンマー国民はアメリカの国旗を振って迎えてくれた。「アメリカには法治と正義がある」、「ミャンマーもそういう国になりたい」と素直に語ってくれた。アメリカはこうした国々が安定的に民主国家に移行できるように支援していく。欧州連合(EU)との貿易・投資協定の締結も行いたい。
 シリアの国民に自由を与え、イスラエルにセキュリティーを保証し、海外で公務に従事するアメリカ人にセキュリティーを与えるようにしていく。それには軍事力を強くしなければならない。
 このところ銃の乱射事件で命を落とす子どもが増えている。下院では銃の購入者のバックグラウンドチェックを強化する法律を迅速に審議すべきだ。併せて投票所での待ち時間を短縮する法律を超党派で検討すべきだ。次の世代により良いアメリカを引き継ぐために重要なことである。皆で協力して偉大なアメリカを作って行こう。

 演説は約1時間続いた。リーマンショック後の混乱した経済状況の真っただ中で大統領に就任し、経済が上向いてきたことに自信をみなぎらせていた。これからの経済成長を、製造業、エネルギー、住宅、インフラの4本の柱で進めていくのも、納得のいく選択である。
 気になったのは、演説の中で提案のあった諸施策は、いずれも財政赤字を拡大するものばかりのことだ。10年間で4兆ドルを削減しなければならないなかで、諸施策をどのように実現していくのだろうか。いずれの政策も共和党の根強い反発を招くのは必至である。
 もうひとつ、経済・内政重視の提案が多い反面、外交・国際紛争の解決に関する提案が皆無であったのも気になった。日中間の緊張に関する言及は全くなかった。演説の中でChinaは2回出てきてJapanは1回出てきたが、経済の文脈での言及であり、紛争に関する文脈ではなかった。「アメリカはアジア地域での導き手になる」といった表現は、暗に「アジア地域では中国に好き勝手をさせない」といった意味を込めていると考えられるが、かなり婉曲な表現である。
 海外の紛争についてアメリカは不干渉主義に徹しているように見える。シリアが内戦で多くの犠牲者を出しても何もしなかった。アルカイダの一派がアフリカ北部で活動を活発化させても、見て見ぬふりをした。さすがにアメリカ本土への核攻撃を公言した北朝鮮については言及があったものの、「国連の決議に従うべきだ」と平凡な締めくくり方をした。
 安倍首相は政権発足後すぐのオバマ大統領との会談を希望していたが、アポが取れなかったという。オバマ大統領の1期目の4年間に、日本では5回の首相交代があった。麻生首相、鳩山首相、菅首相、野田首相、そして安倍首相である。とくに鳩山首相は、「日中関係が日米関係より重要だ」といった内容の記事がニューヨークタイムズに掲載されたことで、すっかり嫌われてしまい、首脳会談を断られ続けた。その上、沖縄の基地問題も解決せずに、いとも簡単に辞任してしまった。これでオバマ大統領の不信が深まったように思う。
 それ以来、オバマ大統領の日本の歴代首相に対する対応は冷淡である。沖縄の基地問題、TPPと懸案事項が進捗していないからである。まもなく安倍首相とオバマ大統領との会談が実現する。日中間の領土紛争が議題になるだろう。だが、どこまで大統領が日本の肩を持ってくれるのかには、あまり期待が持てない。「日中間で善処してくれ」、「そのために米兵の命にかかわるような巻き込まれ方はしたくない」がオバマ氏の本音ではないだろうか。
 オバマ大統領の2期目は、「黒人として初めての大統領になり、米国経済がどん底の中からアメリカを復権させた偉大な大統領」として、歴史に名前を刻むことを意識していると言われている。米国の真摯な協力を仰ぐには、一般教書演説の中で大統領が述べている優先課題に日本が協力できる具体策を持っていく必要があろう。それはTPP早期締結か、米国の輸出拡大への協力のいずれかではないだろうか。安倍・オバマ会談の成功の可否はこの点にかかっているように思われる。
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「北朝鮮の核実験にピント外れの号外 目を向けるべきなのは600基の戦域弾道ミサイル」北村 淳 2013-02-22 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
 北朝鮮の核実験にピント外れの号外 目を向けるべきなのは600基の戦域弾道ミサイル
 JBpress2013.02.22(金)北村 淳
 日本のマスコミの多くは、中国や北朝鮮による軍事関連事件が生ずると、まずはアメリカの動向、すなわちアメリカ大統領はじめ政府高官の公式声明から、知日派と称される“お決まりの”アメリカ人の論評などまでを、あたかもアメリカ全体の意見であるかのごとく紹介するのが常態化している。その姿はまるで日本の軍事的対米従属を強化する尖兵となっているようである。
■またもや米国の反応を“我田引水”
 今回の北朝鮮核実験に関しても、ちょうど翌日にオバマ大統領の2013年度一般教書演説が行われたため、アメリカ政府がどのような反応をしたかを“お決まりの通り”に報道した。そして、その報道内容は誇張あるいは牽強付会とまでは言えないまでも「アメリカは北朝鮮に対して強硬な態度を示すことによって、日本を核兵器の脅威から護ってほしい」といった願望を裏付けするような論調で、さもオバマ大統領が一般教書演説において、北朝鮮の核実験を極めて深刻な脅威と受け止めて強烈な警告を発したかのような報道が目についた。
 確かに一般教書演説では、北朝鮮の核実験実施を名指しで非難し「国際社会による制裁を覚悟せよ」といった警告を発している。しかし、核実験の前日には核実験実施の通告を受けたアメリカ政府にとっては、寝耳に水の実施というわけではなく、一般教書演説における核不拡散の文脈にバランスよく引用された具体的事件といった取り扱いであった。
 ちなみに、「オバマ大統領が一般教書演説で具体的に北朝鮮の核実験を取り上げ強く非難した」といった報道からは、あたかも一般教書演説で相当この問題が重要視された問題であったかのようなニュアンスで受け止められかねない。
 しかし実際には、オバマ大統領の演説のうちで外交軍事問題が占めた割合は2割程度であり、健康保険制度、移民法改正、産業・経済再生それに銃規制といった国内問題が中心であった。そのようにかなり分量が少ないと言える外交安全保障分野の、そのまた一部(2割以下)が、核不拡散に関する言明に割り当てられていた。
 それは以下の通りである。
 「米国は世界で最も危険な兵器の拡散を防止する努力を主導していく。北朝鮮政権は、彼らが国際的責務を果たすことによってのみ安全保障と繁栄を勝ち取ることができる、ということを心得ねばならない。われわれが昨夜目にしたような挑発行為は、われわれ(米国)が同盟諸国の力になり、われわれ自身のミサイル防衛を強化し、このような脅威に対抗する強固な行動を国際社会に取らせるように仕向けることにより、彼ら(北朝鮮政権)をさらに孤立させるだけである。
 同様に、イラン指導者たちは、わが多国籍軍側が彼らが義務を履行するよう要求するために団結しており、われわれが彼らが核兵器を手にすることを妨げるために必要な手段を実施するゆえ、今こそ外交的解決の時期であるということを肝に銘じなければならない。
 それと同時に、われわれ(米国)はロシアにわれわれ(米国・ロシア)の核兵器保有量のさらなる縮減を進展させるための約束をさせるとともに、誤った者たちの手に入りかねない核物質の安全を確保する世界的努力を主導し続けるであろう。他者に影響を及ぼすわれわれの能力は、われわれが主導しようとする意欲に依存するのである」
■直面している危険には騒がないマスコミ
 アメリカの軍事力にすがりつこうという日本政府や、そのような態度に疑問を発していない多くのマスコミが、上記のようなアメリカ政府の声明に対する我田引水的な報道をなすのはこれまでもままある話であり、驚くには値しない。
 もちろん、そのような政府の方針とマスコミの姿勢は、今後ますます軍事力削減に向かっているアメリカの現実を考えるならば、日本の国防にとっては極めて深刻であり、決して容認してはならない。
 このような体たらくの日本の新聞各社であるが、北朝鮮による核実験実施に関して号外を発行したのにはさらなる驚きを禁じ得ない。CNNをはじめとする米国の報道でも、街角で新聞の号外を手にして不安げな表情をする日本の人々の姿が紹介されていた。ロイターの報道では、「日本の人々からは『怖い、本当に怖い』といった声も聞かれた」というコメントも伝えていた。
 新聞の号外を見た人々が、本当に「怖い」と思ったのか、また何に対して恐怖心を抱いたのか、は知る由もない。だが、日本社会では、正確な核兵器に関する知識が普及していないところに福島第一原発事故による深刻な放射能汚染も目にしているために、ますます核兵器や核実験という言葉に対する恐怖心が蔓延している。その中で「北朝鮮が核実験を実施」との号外を発行すれば、いやが上でも人々の恐怖心を煽り立てることは、いかなる新聞社といえども承知しているはずである。実際にニュースでは「戦争が起きそうで怖い」と言っている人まで映し出されていた。
 もちろん、すでに日本全土を射程圏に収めている弾道ミサイルを多数保有している北朝鮮が核実験を重ねていき、核爆弾の小型化や多弾頭核ミサイルの開発に成功した場合には、日本に対する強力な核攻撃能力を北朝鮮が手にすることを意味し、もはや日本はこれまで以上にアメリカにすがりつかなければ北朝鮮に対しても手も足も出ない立場に追い込まれてしまう。
 このような意味では、北朝鮮の核実験は確かに日本にとって深刻な問題ではある。だが号外をばらまいて、あたかも日本が今にも核攻撃を受けるようなニュアンスを人々に与えてしまうほど差し迫った脅威の段階にはほど遠い。
 もし、軍事に疎い多くの人々に北朝鮮の軍事的脅威を伝達するのならば、今回の核実験とは比較にならないほど深刻かつ現実的な軍事的脅威に日本が直面していることを、なぜ日本のマスコミは取り上げないのであろうか?
■日本を攻撃するための600基の戦域弾道ミサイルを保有
 北朝鮮が中国の反対を押し切ってまでも推し進めている核実験は、弾道ミサイルの弾頭に搭載可能な小型核爆弾の開発である。そして、小型化・多弾頭化に成功した場合に搭載するのは、やはり現在開発が急ピッチで進んでいるアメリカ攻撃用大陸間弾道ミサイルということになる。
 大陸間弾道ミサイルの実験の際には、日本領土上空を通過するために、何らかの不具合により落下物がないものか日本では大騒ぎをして、弾道ミサイル迎撃システムまで展開させている。しかし、北朝鮮が日本を攻撃する場合には大陸間弾道ミサイルではなく、すでに実戦配備されている多数の戦域弾道ミサイルが用いられる。
 北朝鮮の保有する弾道ミサイルのうち、最大射程距離800キロメートルと言われている「スカッド-ER」短距離弾道ミサイルを用いると、長崎の五島列島から敦賀湾岸地域までが射程圏に収まり、大阪や瀬戸内沿岸諸都市そして北九州から長崎にかけての諸都市が全て含まれる。
 また、「ノドン-A」中距離弾道ミサイルの最大射程は1300キロメートルと言われており、発射位置を移動させることにより、沖縄本島から北海道までの日本列島がすっぽりと射程圏に収まっている。
 そして、新型の「ノドン-B」あるいは「ムスダン」中距離弾道ミサイルの最大射程距離は3000キロメートルとも4000キロメートルとも言われており、いずれにしても日本領域全体を完全に射程圏に収めていることは間違いがない。
 最新鋭のノドン-B/ムスダンはいまだに数十基しか配備されていないと見なされているが、スカッド-ERは350基程度、ノドン-Aは200基以上が配備されていると米・英をはじめとする情報筋は分析している。つまり、朝鮮人民軍は日本を攻撃するためのおよそ600基の戦域弾道ミサイルを、現時点において、保有しているのである。
 それらの戦域弾道ミサイルには高性能爆薬弾頭が搭載されており、将来的には、つまり核実験が重ねられて小型核弾頭の開発に成功したならば、核弾頭も搭載可能となる。しかしながら、非核保有国である日本を、何らかの理由によって攻撃する場合には、非核の高性能爆薬弾頭が使用されることになる。
 基本的には、相互確証破壊(敵の核先制攻撃に対して、被攻撃側が核報復攻撃を実施し、双方ともに核攻撃により破壊される、という原則を前提として核兵器保有国は核兵器の使用を躊躇する、という伝統的核抑止理論)に基づく核抑止状態が存在している(もちろん、テロリストが何らかの核兵器を手にした場合にはその限りではないかもしれないが)。そのため、日本に対してあえて核攻撃を実施して、アメリカにより日本の代理核報復攻撃(これは、ほぼ間違いなく実施される)をこうむって北朝鮮支配体制が崩壊してしまっては元も子もない。そこで、対日攻撃には現在のままの非核弾道ミサイルが用いられるのである。
 つまり、現在推し進められている核実験が成功しようが失敗しようが、日本の国防にとっては現在北朝鮮が保有しているスカッド-ER、ノドン-A、ノドン-B/ムスダンといった戦域弾道ミサイルは十二分以上に深刻な軍事的脅威と言うことができる。
■自衛隊は最大36地点しか「PAC-3」を配備できない
 一方、いま現在もそれらの戦域弾道ミサイルの脅威に対峙している自衛隊は、それらのミサイル攻撃を撃破することができるのであろうか?
 確かに朝鮮人民軍の弾道ミサイルは、中国人民解放軍が保有する様々な対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルと比較すると、性能的には時代遅れと言えるかもしれない。しかしながらなんといっても600基の弾道ミサイルを手にしているということは、自衛隊が有する弾道ミサイル防衛システムにとって、手強い脅威と言うことができる。
 朝鮮人民軍が弾道ミサイルを発射した場合、まずそれらのミサイルを迎撃する任務にあたるのは海上自衛隊のイージス駆逐艦に搭載されているイージスBMDである。
 もちろん、イージス駆逐艦が日本海で弾道ミサイル警戒任務についていなければ、イージスBMDによる迎撃が作動しないのは当然である。そして、北朝鮮から日本列島に向かって飛翔する弾道ミサイルを捕捉し撃破するためには少なくとも2隻の、理想的には3隻のイージスBMD搭載駆逐艦が日本海上をパトロールしていなければならない。さらに、現状では、たとえ北朝鮮の弾道ミサイルを捕捉するのに成功したとしても、100%近い高確率でミサイルを撃墜するだけの完成度までは達成していない。
 イージスBMDで撃ち漏らした弾道ミサイルは、地上に配備されている航空自衛隊が運用する「PAC-3」で迎撃することになる。PAC-3の撃墜成功率はかなり高いため、PAC-3を配備した地点には、弾道ミサイル攻撃はなされない公算が大きい。したがって、PAC-3には敵の弾道ミサイルを迎撃する以上に攻撃を回避させる抑止力が備わっている(もちろん、高い確率で撃墜されるのを承知で攻撃が敢行されることが皆無とは言えない)。しかしながら、航空自衛隊は36セットのPAC-3しか保有していないため、通常で18カ所、最大でも36地点しかPAC-3を配備することはできない。
 北朝鮮からスカッド-ER、ノドン-A、ノドン-B/ムスダンといった戦域弾道ミサイルが発射されてから、日本各地の攻撃目標(各種発電施設、変電所、石油・液化天然ガス貯蔵施設、石油精製施設、警察官公庁、放送局など)にミサイル弾頭が着弾するまでに5~7分程度しかかからない。いつどこから攻撃してくるか不明である実戦において、どれだけ弾道ミサイル防衛システムが機能するかは未知数ではあるが、現状ではそれほど高い信頼を置くわけにはいかないというのが軍事常識である。
 もっとも、このような受け身のミサイル防衛でははなはだ心もとないため、有事の際には北朝鮮のミサイル発射装置を先制的に破壊してしまえば対日弾道ミサイル攻撃は不可能になる、という敵基地攻撃論のようなものが一部では浮上しているようである。
 しかしながら、朝鮮人民軍の対日攻撃用弾道ミサイルはいずれも地上移動式発射装置(TELと呼ばれる大型トレーラーのような発射装置)から発射される。「テポドン」や「銀河3号」を打ち上げる際に目にする巨大なロケット発射台とは違って、TELを発見・捕捉して先制攻撃を加えて破壊するのは至難の業であり、ましてそのTELが数百輌も動き回っているとなると、先制攻撃によって朝鮮人民軍の対日弾道ミサイル攻撃能力を撃破することは不可能と考えざるを得ない。
 このように、自衛隊が擁する弾道ミサイル防衛システムは、現状では国民の生命財産の保護をそれだけに頼って安心できるレベルにはほど遠い状態である。そして、敵基地攻撃論は朝鮮人民軍の対日攻撃用弾道ミサイルには通用しない。
 (このような状況は、中国人民解放軍の各種対日攻撃用長射程ミサイルに対しても同様である。中国に関しては拙著『尖閣を守れない自衛隊』を参照していただきたい)
 それでは、どうすべきなのか? 北朝鮮の軍事的脅威を排除してもらうために現在以上にアメリカに擦り寄って頼り切らねばならないのか?
 長引く対テロ戦争で軍事的にも財政的にも疲弊しているアメリカにとって、日本が現在以上に自主防衛努力を欠いたまま頼り切ろうとすれば、それこそ「いい加減に目を覚まし、自分の国はまず自分で護る努力をしたらどうなのか」と現在も口に出して言いたい本音がついに噴出することになるであろう。
 日本は、何とかして自主防衛能力を高めることによって、その不足を補うために日米同盟を使うという真の意味での日米同盟の深化(国際的センスでの正常化)を計らなければならない。このあたりの事情、そしてその具体的方策は別の機会に述べさせていただく。
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北朝鮮の核ミサイルが飛来する日 『週刊朝日』2013年03月01日号 2013-02-21 | 国際/中国/アジア
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日高義樹・ワシントン情報 「アメリカは尖閣で戦う!」 2013-02-19 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉

       

日高義樹・ワシントン情報 「アメリカは尖閣で戦う!」
PHP Biz Online 2013年02月19日 日高義樹(ハドソン研究所主席研究員)
『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』より》
■アメリカ国防総省には尖閣防衛の秘密計画がある
 2012年大統領選挙の直前、共和党のロムニー候補が当選した時には国防長官になると見られていた前国防次官のエリック・イーデルマン博士に、ハドソン研究所で会った。
 イーデルマン前国防次官はフィンランド大使やトルコ大使などを歴任したあと、2005年から2009年1月まで、ブッシュ政権のもとで対中国戦略とアジア戦略の政策決定に携わってきた。
 共和党のロムニー候補にきわめて近く、ロムニー陣営の安全保障政策についての重要なアドバイザーを務め、共和党と民主党が協力してつくっているアメリカ議会の「ディフェンス・カウンシル」と呼ばれる重要な防衛政策決定機関の責任者の1人でもある。ディフェンス・カウンシルの最高責任者は共和党がシュレジンジャー元国防長官、民主党がパネッタ前国防長官で、アメリカの防衛政策の最高決定機関である。
 アメリカの防衛政策で最も重要な問題は、いまや「アメリカの国益のために、どこまで戦争を遂行するべきか」である。これまでのような、アメリカの力に任せてどこまでも、といったような無制限な軍事戦略に歯止めをかけようというものである。
 シュレジンジャー元国防長官やキッシンジャー博士なども私に、「アメリカの若者の血を流す価値のある戦いであるかを見極め、決定する必要がある」と、くり返し述べている。このため日本では、「尖閣列島という小さな島をめぐるいざこざに、アメリカは介入できないのではないか」という考え方が強くなっている。
 日本の評論家たちのなかには、どのような根拠からか、「アメリカは尖閣列島を守らない」と断言する者までいるが、尖閣列島をめぐる紛争を、東シナ海の自由航行と安全を阻害すると考えれば、アメリカは自国の国益を守るために必ず介入してくる。だが日本もまた、日本の担うべき、つまり、分担すべき軍事的責任があることを認識し、戦いを起こさないための努力が必要になる。
 アメリカは日本のために尖閣列島問題に介入しない、尖閣列島防衛を助けないという考え方は、はっきり言って間違っている。最も重要なのは、中国に侵略的な戦争を起こさせないために努力するとともに、戦端が開かれた場合の日本のとるべき軍事行動について、アメリカ側と十分話し合うことである。
 重ねて強調したいが、アメリカが尖閣列島を守らないというのはきわめて無責任な発言である。その発言の前に、日本がどのような責任をとるかを問わねばならない。
 「日本が果たすべき責任の分担を話し合うことが最も大切だ」
 イーデルマン前国防次官はこう述べたうえで、私にこう言った。
 「アメリカ国防総省には、尖閣列島有事の際の緊急計画がすでにある」
 東シナ海の小さな島々、尖閣列島はまざれもなく日本の実効支配が行われている日本の領土である。日本政府が管理監督し、海上保安庁の艦艇が警戒している。そこに中国が領土権を主張して攻めかけてくれば、不法行為であることは明白だ。もっともアメリカは、領土権については問わない姿勢をとっている。
 明治政府は発足後まもなく尖閣列島の存在に気づき、現地調査を行って無人島であること、中国の支配が及んでいないことを確かめたうえ、日清戦争に勝ったあとの1895年、下関条約で正式に日本のものとした。この歴史的事実から見ても、尖閣列島はまぎれもなく日本のものである。
 ところが中国は東シナ海にある資源が注目されるようになると、突如として尖閣列島、中国名の釣魚島は中国のものだと言い始めただけでなく、中世の頃から中国の領土だったと主張するようになった。日本政府が尖閣列島を買い取り、国有地にする方針を打ち出してからは、軍事行動も辞さないという構えを見せている。
 すでに述べたように、日本では「尖閣列島をめぐって紛争が起きてもアメリカは助けてくれない」という説が流布されているが、つい先頃まで同問題の責任者であったイーデルマン前国防次官とのインタビューの模様をお伝えしたい。
 2012年10月25日、約束時間の午前11時ちょうどに、イーデルマン前国防次官は、私が首席研究員を務めるハドソン研究所の会議室に姿を現した。イエール大学で外交史の博士号を取得したイーデルマン前国防次官は61歳、地味な風貌の落ち着いた人物だった。
 私はまず、「中国が海軍力を著しく強化しているため、日本にとって大きな脅威になっているだけでなく、尖閣列島を中国が攻撃するのではないかと日本人の多くが考えている」と述べた。そして、中国の軍人たちがこれまでも中央政府に連絡しないまま危険な行動に出たことが何度もあると指摘したうえで、中国が尖閣列島に対して戦闘行動を行った場合、対応するための緊急計画がアメリカにあるかどうかを尋ねた。
 私がとくにイーデルマン前国防次官の注意を喚起したのは、選挙戦を見るかぎりアメリカ国民が内向きになっており、外国の領土問題などに関与したくないと思っている点だった。イーデルマン前国防次官は私の質問に対して、こう答えた。
 「西太平洋から東シナ海、日本海にかけての安全を維持し、自由な航行を維持することはアメリカ経済にとって、きわめて重要です。それが妨害されるような事態になれば、アメリカは国益を守るために、同盟国と協力して軍事的に対応する必要がある」
 私が尖閣列島有事に備えた緊急計画があるのか教えてほしいと言うと、彼はこう言った。
 「我々はあらゆる事態を想定し、それに備えるための軍事的な緊急計画をつくりあげています。朝鮮半島有事に対する長期計画をはじめ、実際に軍事行動が起こされた場合に同盟国を支援する計画を立てて備えている。だが、計画の内容は公にしたくない。全て軍事機密に属するからです」
 私がさらに念を押すと、彼はこう言った。
 「我々は普通、こういった場所では軍事緊急計画を話さないことにしています」
■エア・シー・バトルが緊急事態に備えた計画を持っている
日高: 確かに朝鮮だけでなく、台湾についても有事の緊急プランがあるはずですね。
イーデルマン: その通り、台湾についての有事計画があります。
日高: 東シナ海や南シナ海で軍事的な緊急事態が起きた場合の対応策について話してもらうわけにはいきませんか。
イーデルマン: 緊急計画については話したくない。私はすでに国防総省を辞めた身で、実際の計画には関わり合っていない。何が起きるかという仮定の質問に答えるわけにはいきません。それに緊急計画の内容をしゃべれば、そのまま敵である相手側に筒抜けになり、我々がどのような軍事行動を準備しているのかを知らせてしまうことになる。実際に戦闘が始まった時に不利になってしまう。
日高: しかしながら、緊急事態に備えた軍事対応策はきちんとつくってあるのですね。
イーデルマン: きっちりした緊急計画を持っていますよ。現在、国防総省にはエア・シー・バトル(空と海の闘い)という部局があり、我々が話し合っている戦争を担当している。このエア・シー・バトルの担当者は計画書をつくっているだけでなく、戦闘が起きた時の当事者になります。
 エア・シー・バトルの担当者たちは、中国がいま進めているAAやADといわれるアメリカに対抗するための戦術にどう対処するか、実際の戦い方を検討しています。
 中国はいま、艦艇を攻撃するクルージングミサイルや弾道弾を開発しており、アメリカにとって軍事的脅威になっている。中国の軍事力増強に対処する準備と行動がすでにとられているのです。
日高: 分かりました。緊急事態の内容をしゃべりたくない理由は了解します。しかしながら、尖閣列島で軍事行動が始まった場合、アメリカは日米安保条約に基づいて日本を助けることになるのでしょうね。
イーデルマン: これまでも言ってきたように、日米安保条約はアジアの安全保障の基礎になっています。日米安保条約によって我々は日本を守る。日本の人は、この点について疑いを持つ必要は全くありません。アメリカは必要とあらば日本を防衛します。
日高: つまり、日米安保条約第4条、同盟国に対する攻撃は自分の国に対する攻撃と見なして反撃する、という条項を履行するわけですね。
イーデルマン: 当然、そうなります。
日高: 尖閣列島に対する攻撃をアメリカに対する攻撃と見なすのですね。
イーデルマン: その通りです。有事の際、アメリカはあくまで条約を履行し、条約に基づいて日本の安全を守るために戦います。最も重要な問題は、日本とアメリカがどのような軍事協力を行い、中国に対抗してどのような戦闘行動を分担するのかを話し合うことです。東シナ海、南シナ海においても共同責任と分担を決めることがきわめて重要です。
日高: しつこいようですが、この問題について、もう少しお聞きしたい。日本にとっては重大事で、国民の関心が高いのです。
イーデルマン: よく分かりますよ。どうぞ続けてください。できるだけのことをお話ししましょう。いつも私が主張しているのですが、同盟体制というのはどこの国とも同じです。
 日高さん、あなたは日米安保条約第4条に言及しましたが、同じ条項がNATO条約の第5条にもあります。それによると、どのNATO加盟国に対する攻撃もNATO全体に対する攻撃と見なすことになっています。
 ここ何年間もアメリカは、ヨーロッパの同盟国が攻撃された場合、あらゆる手段で対抗する準備を進めていると言い続けてきました。そして、それが条約を履行することを意味しているのだということを強調してきました。アメリカのこういった条約上の義務は、ヨーロッパ、アジアを問わず、同じです。
日高: それでは最後の質問をさせていただきます。あなたが言及したエア・シー・バトルの中身は、いったい何でしょうか。説明してくれますか。現在のアジアにおけるアメリカの戦闘計画とは全く違っているのですか。
イーデルマン: エア・シー・バトルの構想は、基本的にはヨーロッパにおける戦いと一緒です。しかしヨーロッパでは戦場が大陸であるため、空と陸、つまりエア・ランド・オペレーションでした。太平洋では、その地面が海と変わるのです。
 問題は、どのような強力で有効な軍事的な対応と打撃を相手側に与えるかです。ソビエトの場合は強力なタンク軍団を有しており、その強力なタンク軍団を打ち負かすために、空軍と地上部隊が協力することが必要でした。ソビエト帝国はこれに対して軍事力を増強して立ち向かってきましたが、アメリカと西側の有力な軍事力によって敗れ、ソビエト帝国は崩壊しました。そして危機はなくなったのでした。
 エア・シー・バトルというのはソビエトとの戦争とよく似ているものですが、全く同じというわけではありません。中国はいま、中国にアメリカ軍を近づけない、中国を攻撃する能力を与えない、という戦略目標を立て、艦船攻撃用のクルージングミサイルを開発強化していますが、これにどう対抗するか、アメリカと同盟国が共同してソビエトのタンク軍団を打ち負かしたような軍事力と技術力を開発し、中国の海軍力を打ち負かさねばなりません。このエア・シー・バトルというのは計画ではなく、実際の戦闘態勢です。つまり、緊急有事の対応策と言っていいでしょう。
<筆者プロフィール>
 日高義樹(ひだか・よしき)
ハドソン研究所首席研究員
1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学タウブマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米関係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。「ワシントンの日高義樹です」(テレビ東京系)でも活躍中。
主な著書に、『世界の変化を知らない日本人』『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』(以上、徳間書店)『私の第七艦隊』(集英社インターナショナル)『資源世界大戦が始まった』(ダイヤモンド社)『いまアメリカで起きている本当のこと』『帝国の終焉』『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか」(以上、PHP研究所)など。
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『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店
『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
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