『片袖の魚』勇気づける受賞 大 波 小 波
中日新聞 夕刊 2022.07.01 Fri.
トランスジェンダー(以下、T)であることを公表している俳優のイシヅカユウが、南アジア最大のクィア映画祭で(インド・ムンバイ)で最優秀主演俳優賞を受賞した。上映作品は東海林毅監督の『片袖の魚』。
詩人・文月悠光(ふづきゆみ)の詩を原案とするこの34分の短編映画は、「T役はT当事者の俳優に」という近年の映像業界の動きに連動し、T女性を対象にオーディションを開催。日本初の試みであり、話題を呼んだ。
本来、俳優の属性による配役の制限は好ましくない。生まれた時の性別で違和感なく暮らすシスジェンダー(以下、C)の俳優もT役を演じていいはずだし、その逆も然り。しかし、「T役もC役もCの俳優が演じ、Tの俳優は役を得て、生計を立てること自体が難しい」というのが現状だ。「T役はT当事者の俳優に」との動きは、属性による役の制限ではなく、就労機会の不均衡是正が目的。Cの俳優が演じるT役はしばしばステレオタイプ的になるため、表現の多様化を図る意味合いもある。
近年、Tへの差別がいよいよ苛烈ななものになり、イシヅカもネット上で度重なる誹謗中傷を受けた。今回の受賞は本人を含め、Tの人たちを勇気づける結果となっただろう。(キイロハギ)
2022.07.01
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し