米側、「辺野古」にこだわり譲らず
読売新聞2010年5月23日(日)18:18
沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題で、日米両政府が22日、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画に沿った案で大筋合意したのは、米側が「辺野古」を譲る気配を見せず、日本側が壁を崩せなかったためだ。
政府は月末に大筋合意の内容を盛り込んだ対処方針を閣議了解などの形でまとめたい考えだが、沖縄県や社民党はすでに強く反発しており、調整のメドは立っていない。
政府関係者は22日、日米外務・防衛当局の実務者協議を受け、「うまく行った。あとは連立与党、移設先地元との交渉を鳩山首相がどう判断するかだ」と語った。
米側が現行計画にこだわるのは、2006年に日米で合意に達したものが部隊運用上も政治的にも「唯一実現可能」だとみなしているためだ。加えて、現行計画を変える場合は、環境影響評価のやり直しなどで工期が遅れ、14年を目標とした米軍再編全体の 進捗 ( しんちょく ) がずれ込む可能性があるためだ。
日本側が現行計画から離れようと提起した様々な案を、米側は次々と拒否した。さらに、代替滑走路の建設工法についても、日本側が示した「 杭 ( くい ) 打ち桟橋」方式はテロ攻撃に弱いことなどから強い難色を示した。
日本側は「辺野古」を受け入れる代わりに、工法など具体的な内容については、オバマ米大統領が再来日する予定の今年11月ごろにしてほしいと求め、米側も受け入れることにした。
また、日本側のほぼ全面譲歩の状況を受け、米側は沖縄県の負担軽減策として、県内の米軍基地機能や訓練の県外への分散移転の「検討」には応じる姿勢を示し、日本の顔を立てる形にしたものと見られる。
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鳩山首相と仲井真知事の会談要旨
鳩山首相と沖縄県の仲井真弘多知事との23日の会談の要旨は次の通り。
首相 普天間の返還を含んで沖縄の皆様の負担をできる限り軽減したい、危険を早く除去したいという思いで模索してきた。
政府の取り組みの目的は、沖縄の皆様の負担軽減と危険性の除去。最も確実な方法は、普天間の県外移設だと考えて、その可能性を真剣に探ってきたところだ。
ただ、国内、日米間で協議を重ねた結果、代替地そのものはやはり沖縄県内に、より具体的に申し上げれば辺野古の付近にお願いせざるを得ないという結論に至った。代替施設の詳細を決める際には、住民の暮らしや環境への影響に最大限配慮することは当然で、地元としっかり協議しながら進める。
この方針は、人口密集地にある普天間の返還を実施するため、どうしても代替施設を探さないといけないという現実を踏まえ、断腸の思いで下した結論だ。これに伴い、普天間の返還や海兵隊員8000人のグアムへの移転など、従来の日米合意を確実に実施するよう、日米で再確認することは言うまでもない。
私はこれまでぜひ県外にと考え、追求してきたが、「なぜ県内なのだ」という(県民の)怒りはもっともだと思っている。昨今の朝鮮半島情勢からお分かりだと思うが、東アジアの安全保障環境に不確実性が残っている中で、在日米軍全体の抑止力を現時点で低下させてはならないことは、一国の首相として、安全保障上の観点から申し上げなければならない。
普天間の海兵隊ヘリ部隊を他の海兵隊部隊から切り離して、国外・県外に移設すると、海兵隊の持つ機能を大幅に損なってしまう懸念があり、代替地は県内にお願いせざるを得ないという結論になった。
私自身の言葉、「できる限り県外だ」という言葉を守れなかったこと、結論に至る過程で県民に混乱を招いてしまったことに、心からおわび申し上げたい。
首相 ただ、政府の今回の決定は現状を放置することではない。沖縄で行われている米軍訓練をできるだけ県外に移していくことにより、沖縄の皆様の負担と危険性の除去の実を挙げていくことは大変大事なことだ。
訓練移転を万能視するつもりはないが、危険性除去とか騒音軽減に一定の効果はある。県外の訓練移転を促進するには、一時的でも他の自治体が米軍などの訓練を受け入れてくれることが必要だ。27日の全国知事会で、沖縄の負担を全国で受け止めていただけるよう協力を申し上げたい。
新たな日米合意で政府が目指しているのは、普天間の返還や訓練移転の促進だけではない。従来の日米合意を広げた負担軽減のパッケージを合意するため懸命に協議している。沖縄県の皆様から提起していただいた項目を実現したい。
前回の訪問で知事から5つの要望をいただいた。4つは米国との協力が必要で、協議のテーブルに載せた。航空機の騒音軽減策、グアム移転と(米軍)嘉手納(基地)以南の米軍施設区域の返還促進、米軍基地関連の環境面での協力、(沖縄本島東側海域の)ホテル・ホテル訓練区域の一部解除で、今それなりの感触をちょうだいしている。
もう一つの与那国島にかかる防空識別圏の問題については、県民、与那国町民が安心して生活していただけるよう、早急に見直すことにしたところだ。知事から確認と対応を求められた二十数項目の諸課題も対応を指示し、精査をして今月末までに回答させる。
政府のこれまでの対応により、県民に大変なご迷惑をおかけしているところも痛いほどよく分かっているつもりだ。批判から逃げるつもりもない。ただ、これまで(前政権が)本当に交渉してきたのだろうかという点も含めて、沖縄の負担軽減と危険性の除去を前進させる要素が含まれていることも認めていただければありがたい。
知事 辺野古に移設する趣旨については、これはもう、極めて大変遺憾で極めて厳しいということだ。恐縮だが、そうお伝えするしかないというのが現状だ。
(県内移設反対の)県民大会が開かれ、(衆院)選挙の時以来の民主党の公約に近い表現、総理の発言を踏まえて、県外・国外という県民の熱い思いが非常に高まっていた。この落差が非常に大きく、ぜひきちっと時間をかけて、説明と納得のいく解決策というのを出していただくしかない。
端的に申し上げれば大変遺憾で、極めてこの案は厳しいと申し上げるしかない。ただ、基地負担の軽減というところで、ぜひもっともっと力を入れていただくようお願いしたい。
首相 厳しいことは十分に理解している。県民の理解が少しでも深まるように最善を尽くしたい。「県外」という思い、できる限り訓練など(の移転)も県外に負担を求めるように積極的に行動してまいりたい。
知事 そうすると、「県外」というのは終わったのではなく、続けているのか。
首相 今、訓練の話などを中心に話したが、普天間に集中している負担が軽減されるよう最善の努力をしてまいりたい。米国との交渉ごとでこれから求めていく部分も多々出てくるが、努力してまいりたい。
知事 まだ全部終わりではないということか。
首相 これが終わりとは思っていない。(2010年5月23日19時58分 読売新聞)
読売新聞2010年5月23日(日)18:18
沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題で、日米両政府が22日、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画に沿った案で大筋合意したのは、米側が「辺野古」を譲る気配を見せず、日本側が壁を崩せなかったためだ。
政府は月末に大筋合意の内容を盛り込んだ対処方針を閣議了解などの形でまとめたい考えだが、沖縄県や社民党はすでに強く反発しており、調整のメドは立っていない。
政府関係者は22日、日米外務・防衛当局の実務者協議を受け、「うまく行った。あとは連立与党、移設先地元との交渉を鳩山首相がどう判断するかだ」と語った。
米側が現行計画にこだわるのは、2006年に日米で合意に達したものが部隊運用上も政治的にも「唯一実現可能」だとみなしているためだ。加えて、現行計画を変える場合は、環境影響評価のやり直しなどで工期が遅れ、14年を目標とした米軍再編全体の 進捗 ( しんちょく ) がずれ込む可能性があるためだ。
日本側が現行計画から離れようと提起した様々な案を、米側は次々と拒否した。さらに、代替滑走路の建設工法についても、日本側が示した「 杭 ( くい ) 打ち桟橋」方式はテロ攻撃に弱いことなどから強い難色を示した。
日本側は「辺野古」を受け入れる代わりに、工法など具体的な内容については、オバマ米大統領が再来日する予定の今年11月ごろにしてほしいと求め、米側も受け入れることにした。
また、日本側のほぼ全面譲歩の状況を受け、米側は沖縄県の負担軽減策として、県内の米軍基地機能や訓練の県外への分散移転の「検討」には応じる姿勢を示し、日本の顔を立てる形にしたものと見られる。
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鳩山首相と仲井真知事の会談要旨
鳩山首相と沖縄県の仲井真弘多知事との23日の会談の要旨は次の通り。
首相 普天間の返還を含んで沖縄の皆様の負担をできる限り軽減したい、危険を早く除去したいという思いで模索してきた。
政府の取り組みの目的は、沖縄の皆様の負担軽減と危険性の除去。最も確実な方法は、普天間の県外移設だと考えて、その可能性を真剣に探ってきたところだ。
ただ、国内、日米間で協議を重ねた結果、代替地そのものはやはり沖縄県内に、より具体的に申し上げれば辺野古の付近にお願いせざるを得ないという結論に至った。代替施設の詳細を決める際には、住民の暮らしや環境への影響に最大限配慮することは当然で、地元としっかり協議しながら進める。
この方針は、人口密集地にある普天間の返還を実施するため、どうしても代替施設を探さないといけないという現実を踏まえ、断腸の思いで下した結論だ。これに伴い、普天間の返還や海兵隊員8000人のグアムへの移転など、従来の日米合意を確実に実施するよう、日米で再確認することは言うまでもない。
私はこれまでぜひ県外にと考え、追求してきたが、「なぜ県内なのだ」という(県民の)怒りはもっともだと思っている。昨今の朝鮮半島情勢からお分かりだと思うが、東アジアの安全保障環境に不確実性が残っている中で、在日米軍全体の抑止力を現時点で低下させてはならないことは、一国の首相として、安全保障上の観点から申し上げなければならない。
普天間の海兵隊ヘリ部隊を他の海兵隊部隊から切り離して、国外・県外に移設すると、海兵隊の持つ機能を大幅に損なってしまう懸念があり、代替地は県内にお願いせざるを得ないという結論になった。
私自身の言葉、「できる限り県外だ」という言葉を守れなかったこと、結論に至る過程で県民に混乱を招いてしまったことに、心からおわび申し上げたい。
首相 ただ、政府の今回の決定は現状を放置することではない。沖縄で行われている米軍訓練をできるだけ県外に移していくことにより、沖縄の皆様の負担と危険性の除去の実を挙げていくことは大変大事なことだ。
訓練移転を万能視するつもりはないが、危険性除去とか騒音軽減に一定の効果はある。県外の訓練移転を促進するには、一時的でも他の自治体が米軍などの訓練を受け入れてくれることが必要だ。27日の全国知事会で、沖縄の負担を全国で受け止めていただけるよう協力を申し上げたい。
新たな日米合意で政府が目指しているのは、普天間の返還や訓練移転の促進だけではない。従来の日米合意を広げた負担軽減のパッケージを合意するため懸命に協議している。沖縄県の皆様から提起していただいた項目を実現したい。
前回の訪問で知事から5つの要望をいただいた。4つは米国との協力が必要で、協議のテーブルに載せた。航空機の騒音軽減策、グアム移転と(米軍)嘉手納(基地)以南の米軍施設区域の返還促進、米軍基地関連の環境面での協力、(沖縄本島東側海域の)ホテル・ホテル訓練区域の一部解除で、今それなりの感触をちょうだいしている。
もう一つの与那国島にかかる防空識別圏の問題については、県民、与那国町民が安心して生活していただけるよう、早急に見直すことにしたところだ。知事から確認と対応を求められた二十数項目の諸課題も対応を指示し、精査をして今月末までに回答させる。
政府のこれまでの対応により、県民に大変なご迷惑をおかけしているところも痛いほどよく分かっているつもりだ。批判から逃げるつもりもない。ただ、これまで(前政権が)本当に交渉してきたのだろうかという点も含めて、沖縄の負担軽減と危険性の除去を前進させる要素が含まれていることも認めていただければありがたい。
知事 辺野古に移設する趣旨については、これはもう、極めて大変遺憾で極めて厳しいということだ。恐縮だが、そうお伝えするしかないというのが現状だ。
(県内移設反対の)県民大会が開かれ、(衆院)選挙の時以来の民主党の公約に近い表現、総理の発言を踏まえて、県外・国外という県民の熱い思いが非常に高まっていた。この落差が非常に大きく、ぜひきちっと時間をかけて、説明と納得のいく解決策というのを出していただくしかない。
端的に申し上げれば大変遺憾で、極めてこの案は厳しいと申し上げるしかない。ただ、基地負担の軽減というところで、ぜひもっともっと力を入れていただくようお願いしたい。
首相 厳しいことは十分に理解している。県民の理解が少しでも深まるように最善を尽くしたい。「県外」という思い、できる限り訓練など(の移転)も県外に負担を求めるように積極的に行動してまいりたい。
知事 そうすると、「県外」というのは終わったのではなく、続けているのか。
首相 今、訓練の話などを中心に話したが、普天間に集中している負担が軽減されるよう最善の努力をしてまいりたい。米国との交渉ごとでこれから求めていく部分も多々出てくるが、努力してまいりたい。
知事 まだ全部終わりではないということか。
首相 これが終わりとは思っていない。(2010年5月23日19時58分 読売新聞)