東金女児殺害:勝木諒被告に懲役15年判決…千葉地裁 2011/3/4

2011-03-04 | 死刑/重刑/生命犯

東金女児殺害:勝木被告に懲役15年判決…千葉地裁
毎日新聞2011年3月4日10時9分 更新:3月4日12時52分
 千葉県東金市で08年9月、保育園女児(当時5歳)が殺害された事件で、殺人罪などに問われた同市の無職、勝木諒被告(24)に対し、千葉地裁は4日、懲役15年(求刑・懲役20年)を言い渡した。軽度の知的障害がある勝木被告の訴訟能力や責任能力を弁護側は争ったが、栃木力裁判長はいずれも問題ないと判断しつつ「障害の影響が一定程度あり、一般人と比べれば刑事責任の度合いには限りがある」と述べた。
 事実関係に争いはなく、公判は(1)裁判手続きの意味を理解して被告が自分の権利を守る「訴訟能力」(2)殺人罪について責任能力--の有無が争点だった。
 判決は
 (1)に関し「被告人質問の受け答えなどを見ても弁護人らとのコミュニケーションに支障はない。公判の進行状況に応じた対応を取ろうとしている」と指摘。「手続きの理解力もコミュニケーション能力も不十分」として公判停止を求めた弁護側主張を退けた。
 (2)で弁護側は「パニック状態になり衝動的に殺害した」と心神耗弱を主張。だが判決は「判断能力が一部損なわれていたが、著しく低下している状況ではなかった」と完全責任能力を認めた。その上で「殺害方法が残忍で、隠蔽(いんぺい)工作をした点も悪質」と非難した。【中川聡子、駒木智一】
 ◇判決の認定内容◇
 勝木被告は08年9月21日昼、自宅近くの路上で見かけた面識のない保育園児の成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)をマンション自室に連れ込み=未成年者略取罪▽「帰りたい」「ばか」などと言われて腹を立て、浴槽に沈めて水死させ=殺人罪▽衣服を脱がせた遺体を、自宅近くの資材置き場前の路上に放置した=死体遺棄罪。
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東金女児殺害:勝木諒被告に20年求刑 弁護側は公判停止要求 2011-01-20 
  東金女児殺害:被告に20年求刑 弁護側は公判停止要求 
 千葉県東金市で08年に起きた保育園女児殺害事件で、殺人など3罪に問われた同市の無職、勝木諒被告(23)の公判が20日、千葉地裁(栃木力裁判長)で結審した。軽度の知的障害がある勝木被告の責任能力が最大の争点で、検察側は完全責任能力を主張し懲役20年を求刑、弁護側は心神耗弱を理由に「適切な刑を望む」と訴えつつ「訴訟能力がない」として公判停止を求めた。判決は3月4日。
 刑事裁判で利害を認識し自分の権利を守る「訴訟能力」も争点だったが、栃木裁判長は公判を停止せず審理を終えた。検察側は論告で「不利な事実関係の質問では、黙ったり供述を変える場面が多かった。自分の立場はわきまえていた」と指摘。弁護側は最終弁論で「法律の理解力、弁護人に助けを求めるコミュニケーション能力も不十分」と反論した。
 論告によると勝木被告は08年9月、「友達になりたい」と考えて保育園児の成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)を路上から自宅に連れ去り、「ばか」と言われて腹を立て殺害、遺体を路上に放置したとされる。
 検察側は「短絡的な動機は障害の影響だが、過度に考慮すべきではない」と指摘。「通り魔と同じ防ぎようのない被害。残虐で悪質な犯行」と訴えた。弁護側は「女児に泣かれて対応できず『暴走モード』になった」と殺人罪に関し心神耗弱を主張し「社会的支援もなかった」と訴えた。
 遺族側は「責任能力を理由に刑を軽くするのは許されない」と無期懲役を求めた。【中川聡子、駒木智一】
毎日新聞 2011年1月20日 21時22分
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東金女児殺害事件:勝木諒被告--千葉拘置所、責任能力について弁護側精神科医らの調査を認める 2009-09-28 
  東金東金女児殺害:勝木被告 弁護側の医師らが面会調査の方針
 千葉県東金市で08年9月、保育園児の成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)が殺害された事件で、殺人などの罪で起訴された勝木諒(りょう)被告(22)の弁護側の精神科医らが拘置中の勝木被告と面会し、責任能力について独自に調査をする方針を決めたことが分かった。
 事件関係者によると、勝木被告が拘置されている千葉拘置所が弁護団の面会時間の枠内での調査を認めた。勝木被告は知的障害があり、弁護側は「刑事手続きや裁判の意味が理解できているか疑わしい」として裁判を受ける能力の有無や起訴内容通りの行動が可能か確認するとみられる。
 既に検察側が実施した精神鑑定では勝木被告の責任能力を認める結果が出ているが、弁護団は今月14日に千葉地裁で開かれた公判前整理手続きで無罪を主張し、全面的に争う姿勢を示している。【中川聡子】毎日新聞2009年9月28日2時
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東金園児殺害:勝木被告の弁護団 無罪主張の方針
 千葉県東金市で昨年9月、保育園児の成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)が殺害された事件で、殺人罪などで起訴された勝木諒被告(22)の弁護団が、千葉地裁での14日の公判前整理手続きで無罪を主張し、全面的に争う方針であることが、弁護団への取材で分かった。
 無罪を訴える理由について、弁護団メンバーの一人は「物的証拠もなく、連れ去った時の状況も本人の供述のみに基づき、目撃者もいないなど不自然な点が多い」と話している。また、知的障害のある勝木被告に刑事責任が問えるとした千葉地裁の鑑定結果に疑問があるとして、弁護団として改めて精神鑑定をする方針。
 起訴状によると、勝木被告は08年9月21日午前11時40分ごろ、自宅近くの路上で幸満ちゃんを抱きかかえて自宅に連れ込み、水の入った浴槽につけて殺害。午後0時20分ごろ、遺体を自宅そばの資材置き場の路上に置いたとされる。【中川聡子】毎日新聞2009年9月14日11時00分
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特集:「開かれた新聞」委員会 千葉・東金事件、検証続け真実へ
2009年3月15日 1時30分
 毎日新聞の「開かれた新聞」委員会は、昨年9月に千葉県東金市で起きた女児死体遺棄事件の本紙報道について議論しました。容疑者の弁護人から委員会に対し、報道は「倫理違反、人権侵害ではないか」との申し立てがあったためです。委員会の議論を紹介します。【司会は冠木雅夫「開かれた新聞」委員会事務局長、写真は平田明浩】=委員会は3月9日に開催しました。紙面は東京本社発行の最終版を基にしています。
 ◆千葉・東金事件
 ◇知的障害のある容疑者取材をめぐって
 <申し立ての内容と対応>
 08年9月、千葉県東金市の路上で、保育所園児、成田幸満ちゃん(当時5歳)の遺体が見つかりました。死体遺棄と殺人容疑で逮捕された勝木諒容疑者の弁護人からの申し立ては「(勝木容疑者を)犯人視して密着取材し、知的障害者と知りながら友だちのような関係と思わせて取材した。倫理違反、人権侵害だ」などというものでした。広田勝己東京本社地方部長から「通常取材の範囲の接触で、犯人視した密着取材はしていない」などと返信しています。
 ◇記者の疑問も生かせ--玉木委員
 ◇捜査監視の仕組みを--田島委員
 ◇記事化はより慎重に--吉永委員
 ◇もう一度「全体像」を--柳田委員
 司会 今回は事件の容疑者に知的障害がある場合の取材と報道の問題です。
 吉永みち子委員 取材者は、容疑者が知的障害者だとどの時点で認識したのか。
 地方部長 逮捕前の取材は、あくまで現場周辺の聞き込み取材の一環であり、容疑者視した密着取材ではありませんでした。記者としては変わったところがある人だなという印象は持ったものの、受け答えはスムーズで「当然に知的障害者だ」とまでの認識は持ちませんでした。逮捕段階の取材でも捜査当局は「刑事責任は問える」としていました。
 吉永委員 テレビで逮捕前の容疑者の映像をいくつか見ただけだが、知的障害を思わせるものが感じられた。「当然に知的障害だという認識はなかった」というが、納得しにくい。ある程度知的障害を認識した時、どう取材をしたらいいのかと考えたのか、逆に取材しやすく、取りあえず話や映像を取っておくと考えたのか。
 地方部長 「この人は普通とは違うな」と思っても、周辺に確認取材するのはなかなか難しい。確認できない以上、通常と同様に取材するしかない。逮捕時に千葉県警が精神発達遅滞と発表した後は「知的障害者は証言を誘導されやすい」という認識のもと、警察に対する供述内容を報道する際には弁護側の意見もできるだけ掲載するなど配慮してきました。
 柳田邦男委員 弁護人は母子手帳の記録や専門医の診断など詳細なデータを添えて、取材過程や逮捕以降の記事の違法性を問うている。しかし弁護士という、データをそろえて法的に違法性の線引きをする立場と、その時点時点で、凶悪犯罪や悲惨な事件を伝えていかなければならないメディアとは目指すものが違う。
 この事件は、幼子が無残に殺害され、放置された重大事件で、すべてを調査し終えてから初めて記事を書くなどということはありえない。資料として提出された療育手帳判定結果を見れば、知的障害の内容は実によく分かるが、取材の初期段階ではまず入手できない資料だ。今後も、特に軽度の知的障害者の場合、取材者が最初から全部データを持ちうることは不可能だ。事件とのかかわりや障害の程度を可能な限り検証しようとすれば、どうしても当事者取材が必要になる。それは、全否定されるものではないと思う。報道の任務としての徹底取材と、法的に厳しく縛ろうとする立場の接点をどうするか。これから議論を成熟させなければいけない。
 玉木明委員 問題がありそうな記事は、逮捕翌日の「女性つけ回しも 部屋一面少女漫画」(7日朝刊社会面)ではないか。これだと読者は、事件は性的な変質者の犯行という印象を持つだろう。警察は、過去の犯罪の類型に合わせて捜査し、パターン化されたわかりやすい物語を描こうとする。逆に弁護人は、事件の個別性や特殊性に固執することでその類型化された物語を突き崩そうとする。7日の記事は、性的変質者の犯行という警察の物語を裏打ちするような記事になっていないか。これは個別の記者の問題ではなく、犯罪報道の手法そのものがパターン化しているせいだと思う。
 地方部長 容疑者の部屋に幼児向けアニメのポスターが張られていたり、少女漫画が並んでいたというのは、確かに警察からの情報です。でも同じマンションの女性のつけ回しは、独自の聞き込み取材で明らかになった。取材した事実を積み上げて容疑者像に迫ろうとしたもので、警察の手中にはまったとは考えていません。本紙女性記者が何度も無言電話を受けたり後を付けられたことも記事にしました。容疑者に関する事実の記録の一つとして必要だと判断したからです。
 田島泰彦委員 それ自体は事実でも、その事実をこの記事の文脈の中で出すと「変な人」という印象を助長する。独自取材をいくら重ねても、捜査側の情報を強化する材料を提供するだけなら、本来の独自の意味はあまりない。容疑者像に迫るのは大事だが、一方で今後どういう事実が明らかになるか分からないのだから、あえて違う見方や別の可能性も同時に提示しておくべきではないか。弁護人は雑誌などで「(知的障害者のつきまといは)一般の性的不審者とか性的行為とは違う」と主張されている。ほかの専門家の意見もいろいろあり得るだろう。これらも受け止めつつメディアは警察とも、弁護人とも違う、主体的に事実を伝えていくべきだ。
 特に、犯罪報道では捜査機関の権力行使のチェック、監視がジャーナリズムの最大の使命だ。知的障害などハンディキャップがある事件関係者への格別の配慮は欠かせない。捜査情報依存から脱却するためには、捜査情報の公開とともに、ビデオ撮影による取り調べの全面可視化や、取り調べ時の弁護士の立ち会いなど、捜査をチェックする仕組みの導入を求めていくこともメディアの重要な役割だと思う。
 吉永委員 記者は「通常取材と同じ範囲の接触しかしていない」と言うが、通常の取材がこの人(容疑者)には誘導的に働いていなかったか。取材者と取材対象者という関係が認識されていたのかどうか。理解力が低いという障害を持つ人が話したことを、全部そのまま書いていいのかということになると思う。活字にする時、つまり取材で得た情報をどう整理して表に出すかをきちっと判断できていたのか。申し立てとは別に、私たちが考え、検証しなければいけない問題だ。ここがあいまいだと、類似の事件が起きた時、逆に取材現場がフリーズしてしまう恐れがある。
 田島委員 「レジ袋に容疑者毛髪」(08年12月8日)の記事では、警察への独自取材を根拠に、被害者の衣服が入っていたレジ袋にあった毛髪は容疑者のものだと書いている。しかし、その後の取材で、実は容疑者の母親の毛髪と判明した。返信では、13日夕刊の記事「絵描かせ慎重捜査」で、そのことを書き、事実上訂正したとしているが、分かりにくいと思う。証拠と思われるかなり大事な部分についての間違いなのに「容疑者の毛髪と書いたのは間違いで」と、明確に書かれていないからだ。なぜ間違ったか、説明もほしい。
 地方部長 継続的な事件報道では、一度書いた内容を修正すべきだと判断した場合、記事で「実はこうだった」と書くことはよくあります。訂正より、むしろ読者に分かりやすいからです。しかしこの場合は、最初の記事で「容疑者毛髪」と見出しにあり、修正記事でも見出しにすべきでした。書き方ももっと丁寧にすべきだったと反省します。
 玉木委員 現場の記者が弁護人に「容疑者は人の死というものを認識できているのか」と質問した、と報告があった。この疑問は重要だ。この記者の思いを率直に語る署名記事があってもよかったのではないか。事件報道では、記者が捜査の方向などに疑問を持っても、紙面には出てこない。だから警察の情報も相対化されない。警察に依存した報道と批判されることにもなる。
 吉永委員 申し立ても指摘しているが、朝日と読売新聞は「容疑者が職場で暴力を受けた」ことを報道しているが、毎日にはない。これは取材不足だったということではないのか。
 社会部長 二十数年前、授産施設を取材したことがあります。そこに一人の知的障害の方がいて、女性と会うと必ず胸を触る。外形的には強制わいせつですが、職員の女性たちは来訪者に「この人はゴメン、胸触りに行くからねえ」と笑いながら説明し、彼をケアしていました。
 もし何か事件があって、この知的障害の方が容疑者になったらどう報じられるか。記者が生活実態を知っているかいないかで大きく違うでしょう。知らなければ「強制わいせつ常習者」かもしれないが、時間をかけ取材すれば違う人物像になる。神ならざる身としては、最初から完ぺきな記事は書けず、時間をかけ書き足すしかない、と思っています。
 柳田委員 何カ月か後に、より真実に近いものが分かってくることがある。今回の事件でも今後精神鑑定が出るだろうし、そうした段階で記事を書いたらどうなるか、直後の記事と並べて比較し、検証してはどうか。「○日にこう書いたが、こういう事実の意味づけが違った」とか、訂正も必要に応じてきちんと入れる。それができたら、報道のあり方の画期的な財産になりうる。細かい事実の間違いだけを断片的に訂正されても、読者は事件像や容疑者像を再構築できない。全体をもう一度書き直す検証記事が求められている時代だ。
 地方部長 どこか節目でまとめてみたい。
 地方部デスク 事件取材の指揮を担当しました。千葉県警は、容疑者は精神発達遅滞として匿名にしましたが、事案の重大性を考慮するとして口頭で実名を発表しました。異例の対応で、きちんと説明しなければと思い、翌7日朝刊に精神科医の談話も入れました。談話前半の「10代で軽度の精神発達遅滞と診断されても、社会適応でき、成人後に障害が残ることは少ない」との部分について、知的障害は治ることはなく偏見だと、弁護人から指摘されました。私たちとしては、後半の「通常は刑事責任能力もあるが、一部には特殊な思考を持つケースもあり、善悪の判断ができていたかは一概には言えない」で、この事案で責任能力が問えるかはまだ分からないと示したかった。まとめ方が行き届きませんでした。
 柳田委員 今回、容疑者の弁護人から、法律上、報道が人権侵害などに抵触するのではないかと申し立てがあった。だが、報道をめぐる違法性の判断は法律家の仕事であって、我々は新聞メディアのあり方、取材と報道のあり方の中で、果たして妥当性があったのかを議論するためにここにいる。
 精神障害者など個別に直接取材ができない、表現に気を付けなければいけないという条件がつくと、途端に事件自体が報道の中で縮小してしまう。歴史的には少年事件がそうだったし、精神障害者の事件もそうだった。加害者の人権が尊重されるかたわらで、被害者側の報道までが消え、被害者は孤立し二重の苦しみを味わう。被害者の視点もしっかりと視野に入れて報道のあり方を考えるべきだ。
 メディアスクラムやプライバシー侵害は避けるべきだが、安易に報道が萎縮(いしゅく)してはならない。100日夜討ち朝駆けして真実の窓を開けられることがある。積極的に取材をしなければ、法的責任を問われることもないが、それは報道の自殺行為だ。あえて指摘しておきたい。
 司会 ありがとうございました。本日の議論を取材や報道に生かしていきたいと思います。
    ◇
 委員会には毎日新聞社側として山田道子サンデー毎日編集長もオブザーバーで参加しました。「開かれた新聞」委員会は毎日新聞の報道が対象ですが、同じ事件の報道について「サンデー毎日」にも申し立てがあったためです。今回の意見は今後の同誌の報道でも参考にしていきます。
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 ◆編集局長から
 ◇知的障害への理解を深めます
 委員の皆さんから重要な問題提起を受けました。事件現場の周辺で話を聞いて回る「地取り」取材は、捜査当局の情報をチェックする意味でも、とても大事だと考えています。特に被害者の女児がいなくなってから見つかるまで非常に近接しているこの事件では、その地域に手掛かりがある可能性が強く、私たちもこの取材を重視していました。しかし、その内容をどう報じるかという問題は別にあると思います。
 今回は、容疑者が逮捕された時点で知的障害があることが明確になったわけですから、その後の報じ方では、もっと多面的な視点が必要だったかもしれません。ただ、他の事件を見ても、知的障害の特徴はさまざまで、一定の報道ルールのようなものを作るのは簡単ではないでしょう。
 毎日新聞はこれまで知的障害者が被害に遭ったり、事件に巻き込まれたケースを積極的に報道してきました。専門の知識を持った記者もいます。今回の議論を受け、知的障害についての知識、理解を現場の記者が共有して今後の取材・報道に生かす態勢をさらに整えようと思います。
 事件報道には刑事司法手続きとは別の社会的役割、使命があります。しかし、事件発生直後の情報は混乱していることが少なくありません。誤った報道を明確に訂正するのは当然ですが、今回、問題提起があったように、時間がたってから記事を検証することも有効な方法だと考えます。容疑者が起訴されることになれば、公判取材を通じて事件の真相に迫るのは私たちの当然の責務だと思います。
 5月からの裁判員制度導入を前に、毎日新聞は事件・事故報道の新たなガイドラインをまとめました。容疑者を犯人と決めつけるような報道を避けるため、供述やプロフィルをめぐる取材・報道には特に慎重を期すよう定めています。知的障害のようなケースでは、とりわけこの原則が重要になると思います。
 今回の議論を踏まえ、より適切な報道を心掛けていきます。
 ■「委員会」の役割
 毎日新聞の第三者機関「開かれた新聞」委員会は(1)人権侵害の苦情対応のチェック=当事者から本紙記事による人権侵害の苦情や意見が寄せられた際、社の対応についての見解を示し公表する(2)紙面への提言=報道に問題があると考えた場合、意見を表明する(3)メディアの在り方への提言=よりよい報道を目指すための課題について提言する--の三つの役割を担っています。記事による人権侵害の苦情やご意見は各部のほか、委員会事務局(ファクス03・3212・0825)でも受け付けています。
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 ■ことば
 ◇東金女児死体遺棄事件
 08年9月21日、千葉県東金市の路上で、保育所園児、成田幸満(ゆきまろ)ちゃん=当時5歳=の遺体が見つかった。千葉県警東金署は12月6日、遺体発見現場近くに住む無職、勝木諒(かつき・りょう)容疑者(22)を死体遺棄容疑で逮捕、同26日に殺人容疑で再逮捕した。勝木容疑者には知的障害があり、刑事責任能力を判断するため、現在精神鑑定が行われている。
 ◇知的障害
 一般的に、知的機能の障害が発達期(18歳ぐらいまで)に表れ、日常生活に支障がある状態を指す。法律上の定義はない。厚生労働省知的障害児(者)基礎調査では「知能指数がおおむね70以下(注・平均値は100)」とされ、知能指数と日常生活能力を総合判断し、軽度、中度、重度、最重度に分けている。
 全国に約55万人(同調査)とされ、障害者手帳を持たない知的障害者は100万人以上と見られている。法務省によると、新規受刑者のうち「知能指数70未満」の知的障害者は2割以上。生活環境の厳しさのほか「反論する能力に欠け、有罪になりやすい」との指摘もある。
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 ◇委員会メンバー
柳田邦男委員(作家)
玉木明委員(フリージャーナリスト)
田島泰彦委員(上智大学教授)
吉永みち子委員(ノンフィクション作家)
 ◇毎日新聞社側の主な出席者
菊池哲郎・主筆▽伊藤芳明・東京本社編集局長▽河野俊史・同編集局総務▽斉藤善也・同編集局次長▽広田勝己・同地方部長▽小川一・同社会部長▽松藤幸之輔・同地方部デスク
毎日新聞2009年3月15日東京朝刊
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【逮捕の第一報】千葉・東金の
5歳園児変死:21歳男「遺体置いた」遺棄容疑で逮捕(08年12月7日)
 千葉県東金市の路上で9月、同市田間の看護師、成田多恵子さん(38)の次女幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)の遺体が見つかった事件で、県警東金署捜査本部は6日、同市東上宿(ひがしかみじゅく)、無職、勝木諒(りょう)容疑者(21)を死体遺棄容疑で逮捕した。「ぐったりした幸満ちゃんの遺体をプレハブ小屋前に置いた」と容疑を認めているという。幸満ちゃんの死亡についてはあいまいな供述をしており、捜査本部は死亡の経緯や動機を追及する。(28面に関連記事) 調べでは、勝木容疑者は9月21日午前11時すぎから午後0時26分ごろ、自宅マンションから南に約100メートル離れた市道脇の側溝ふたの上に、幸満ちゃんの遺体を遺棄した疑い。自宅マンション駐車場からは幸満ちゃんの衣服と靴が入った二つのレジ袋が見つかった。
 勝木容疑者は調べに対し、幸満ちゃんの死亡について「家の中に一緒にいたらぐったりしてしまった」と供述しているが、具体的に聴くと「分からない」と答えたり、黙り込んでしまうという。「衣類を袋に入れて捨てたのもぼくです」とも供述しているという。
 捜査本部は、レジ袋から採取された指紋が勝木容疑者の指紋と一致▽自宅と遺棄現場が極めて近く、周辺で女性に声をかけている勝木容疑者らしき不審人物の目撃情報があった--などから、6日朝から任意同行して事情聴取するとともに、自宅を死体遺棄容疑で捜索した。
 勝木容疑者は、事件当日の午前11時過ぎに近くの商業施設の防犯カメラの映像に映っていたほか、午前、午後とも現場周辺で目撃されていた。
 捜査本部などによると、勝木容疑者は母親と2人暮らし。01年に東金市内の病院で、「精神発達遅滞」と診断された。知的障害者に交付される療育手帳では5段階のうち最も軽度な「B2」で、地元の養護学校高等部を卒業後の05年4月、隣の山武市にある寝具会社に就職した。会社によると、今年8月28日から無断欠勤し、事件前日の9月20日退職した。
 幸満ちゃんの祖父で東金中央クリニック院長の岡本成通(しげみち)さん(71)によると、勝木容疑者は5年前と2年前に皮膚科で受診していたが、特にトラブルはなかったという。
 幸満ちゃんの死因は司法解剖で断定できなかったが、口や鼻をふさがれたことによる窒息死とみられる。【寺田剛、中川聡子、斎川瞳】
 ◇口頭で実名発表
 東金署捜査本部は、勝木容疑者が「精神発達遅滞」と診断された経緯をふまえ、記者発表資料では匿名とした。ただ、事案の重大性を考慮するとして、口頭で実名を明らかにした。刑事責任能力については「警察で判断することではない」と述べた。
 刑事責任能力の有無については通常、「精神鑑定」などを実施して検察庁が判断する。