ロ朝首脳会談 友好の裏 互いに利用 / 北朝鮮=パイプラインで実利 / ロシア=存在感示し中国牽制

2011-08-25 | 国際

友好の裏 互いに利用 ロ朝首脳会談
中日新聞核心2011/08/25Thu.
 ロシア東部ウランウデ郊外で24日、北朝鮮の金正日総書記とロシアのメドベージェフ大統領が経済協力や北朝鮮の核問題を話し合ったロ朝会談。友好ムードを演出しつつ、自国の国際社会における存在感を高め、国内経済の立て直しを図るため、互いに相手方を利用とする思惑がみてとれた。(ウランウデで、城内康伸、原誠司)
■ 謝 辞
 「私と会うため、こんな所まで来てくれて大変感謝する」
 林に囲まれた軍施設での会談冒頭、金書書記が礼を述べた。メドベージェフ大統領が同日早朝、滞在先のロシア南部ソチから空路、約6500キロ離れた東シベリアのウランウデに到着したからだ。
 大統領は「隣国のパートナーとの会談なら、大した距離ではない」と応じ、両首脳の会談はなごやかな雰囲気で幕を開けた。
 北朝鮮は2012年に「強盛大国入り」の目標を抱え、総書記の訪露は経済再建への道筋をつけたい意向の表れだ。朝鮮労働党機関紙、労働新聞は23日、「社会主義強盛国家建設を目指す闘いを力づよく促す歴史的な契機だ〉とその意義を強調した。
 ロシアが北朝鮮経由で韓国へ延ばす天然ガスパイプライン敷設計画が実現すれば、北朝鮮は通過料として年1億㌦(約77億円)以上を稼げるといわれ、会談で総書記は前向きな姿勢を示した。
■ 孤 立
 核問題で国際的に孤立する北朝鮮は、中国への経済依存を深めてきた。だが、中国の政治的影響力は小さくしたい。ロシアへの接近は、中国一辺倒を避け、協力相手の幅を広げる狙いがあった。
 米国の自由アジア放送は「金総書記は、後継者正恩氏が今後数十年にわたり北朝鮮を率いていくのに必要な支援と物資を確保するため、中国に続きロシアを訪問した」との専門家の見方を伝えている。
 ただ、首脳会談で議題となった旧ソ連からの巨額債務問題は、北朝鮮が減免を求め、ロシア側は難色を示した可能性が強く、会談が金総書記の期待通りの成果をもたらしたかどうかは疑わしい面もある。
■ 警 戒
 ロシアもまた、極東地域で影響力を高める中国への牽制を強く意識した。
 中国は、自ら主導する上海協力機構の加盟国であるカザフスタンなど「ロシアの裏庭」の中央アジアで、低利の巨額融資の見返りに豊富な地下資源を買いあさっている。シベリア各都市の市場では、中国から物と人との流入が続く。ソ連崩壊で超大国から滑り落ちたロシアは、世界第2位の経済大国となった中国に羨望を抱きつつ、警戒感を深めている。
 ロシアは5月、対外情報局のフラトコフ長官を平壌に派遣。食料5万トンの無償支援を約束した。情報機関幹部の訪問は異例で、狙いは対中情報の交換だったとされる。
 今月22日には、総書記訪露に合わせ、ロシアの東部軍管区司令官が訪朝。海軍の軍事協力復活などを26日まで協議中だ。軍事関係でも、このままでは北朝鮮が中国の掌中に収まってしまうとの懸念があり、歯止めをかけようとする思惑がのぞく。
 首脳会談は当初、6月末の予定だったが、延期となった。ロシアは核問題をめぐる6か国協議を、北朝鮮は経済支援を議題とするよう主張し、かみ合わなかったとされる。しかし今回、素早く立て直して会談を実現させたことは、ロ朝緊密化に神経をとがらせる中国への一層の牽制となったはずだ。
 ウラジオストクで来年9月開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に、ロシアは極東での存在感を高めるため次々と矢を放っている。 *強調(太字・着色)は来栖
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クローズアップ2011:金総書記、9年ぶり訪露 北朝鮮、バランス模索
 ◇対中依存、低減狙う
 ロシア大統領府と北朝鮮の朝鮮中央通信は20日、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記がメドベージェフ大統領の招請を受けてロシアの非公式訪問を開始したと発表した。東シベリアのウランウデで23日前後に開かれる見通しの首脳会談では、核問題をめぐる6カ国協議の再開問題などが話し合われるとみられる。南北、米朝の対話が進む中、ロシアと北朝鮮が急接近した形で、朝鮮半島を取り巻く構図に変化が生じる可能性が出てきた。【モスクワ田中洋之、北京・米村耕一】
 20日午前、金総書記を乗せた特別列車が国境の豆満江(トゥマンガン)を越え、ロシア側に入った。現地メディアによると、特別列車は17両編成で、うち3両は総書記専用の執務室と寝室、通信室、残りは随行員が使っているという。ハサン駅では歓迎式典が開かれ、イシャエフ極東連邦管区大統領全権代表やダリキン沿海地方知事ら政府要人が出迎えた。特別列車にロシア側の用意した4車両が連結され、イシャエフ全権代表も同乗。約3700キロ先のウランウデに向けシベリア鉄道を走り始めた。
 金総書記が9年ぶりのロシア訪問に踏み切った背景には、対中依存度が極端に高まる対外関係を多様化させたいとの狙いがあるようだ。こうした「バランス外交」は北朝鮮が伝統的に取ってきた手法でもあり、6カ国協議再開に向けて交渉を有利に進めるための戦略のようだ。
 北朝鮮とロシアの経済関係強化は徐々に進められてきた。
 北朝鮮が「経済特区」として力を入れている羅先(ラソン)特別市を8月中旬に訪問した中朝貿易関係者は、ロシアからのトラックが資材を積んで市内を多数行き来しているのを目撃した。鉄橋補修工事などもロシア企業が請け負っていたという。
 貿易や経済協力の規模は対中関係が圧倒的だ。ただ、中国には明確に北朝鮮を改革・開放に誘導する狙いがあり、インフラ投資などの経済協力もそれが前提だ。これに対しロシアは、中国のような意図は強くなく、北朝鮮側に一定の便宜を図ることが少なくないという。「重油なども中国は安くしないが、ロシアは特別価格で売ってくれる」(北朝鮮当局者)という例もある。

 6カ国協議は7月に南北、米朝が対話し、韓国や中国が提案していた「3段階案」に沿った前進がみられている。北朝鮮は米韓が26日までの予定で実施している軍事演習に激しく反発しているものの、一方で朝鮮戦争時に行方不明となった米兵の遺骨発掘作業再開をめぐる米朝協議に前向きな姿勢を見せている。対話を断ち切る考えはないようだ。
 ◇ロシア「6カ国」へ存在誇示
 ロシアが金総書記を招請したのは、来秋に極東ウラジオストクでロシアが初めて主催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の成功に向け、北東アジアでの発言権を高めておきたいという思惑があるようだ。
 00~02年には当時のプーチン大統領(現首相)が金総書記と計3回会談するなど、ロシアは北朝鮮に対する一定の影響力を持っていた。だがその後、首脳の接触は途絶え、08年にメドベージェフ大統領が就任した後も事態打開は図られず、6カ国協議の枠組みでも中国や米国、韓国に比べ、ロシアの影響力は極端に低下していた。
 ロシアはAPECを極東発展につなげる一大事業と位置づけ、大統領が6月に現地を視察するなど国家を挙げて準備に取り組む。APEC成功には、朝鮮半島情勢の安定が不可欠であり、今回の金総書記招請を契機に緊張緩和の道筋をつけたいところだ。
 また、ロシアはサハリン産天然ガスを北朝鮮経由で韓国に送るパイプライン構想に意欲をみせる。ただ、北朝鮮経由は「政治的リスクが高い」との懸念が強く、ロシアの政府系天然ガス企業「ガスプロム」は、韓国に直結する海底パイプライン敷設▽液化天然ガス(LNG)に転換して韓国にタンカーで輸送する--という代替案を検討している。
 今回開催が見込まれる首脳会談では、このパイプライン構想も主要議題となりそうだ。北朝鮮にはパイプライン通過料として年間1億ドル以上の利益があるとの目算があり、首脳会談を通して一挙に具体化させたい考えと見られる。両国は既に実務接触を繰り返しており、首脳会談での一定合意を目指して、ぎりぎりの折衝が続けられている模様だ。
毎日新聞 2011年8月21日 東京朝刊
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〈来栖の独白2011-08-22
 金総書記の(主に経済問題について話し合う)ロシア訪問、そして米国バイデン副大統領の中国訪問という大きな動きを、日本のメディアは小さな報道にとどめている。相も変らぬ「なでしこ」のその後と川下りの船の転覆等々、3面記事ばかりが賑わう。菅政権居座り中は国際社会から相手にされないという事情はあるにせよ、メディアが国際社会の動向に目を向けなくなって久しい。いや、国際社会にばかりではない。国内の政治の深層や福島第1原発の事故・放射能を取り巻く状況についても報道しない。「我欲」と「エンタメ」の国になってしまったか。
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