法制審議会 18、19歳の少年犯罪の厳罰化に道を開く案を上川陽子法相に答申する見通し 2020/10/22

2020-10-22 | 少年 社会

 2020年10月22日(木曜日)中日新聞 特報 

 少年法のあり方などを議論してきた法相諮問機関の法制審議会が今月末、18、19歳の少年犯罪の厳罰化に道を開く案を上川陽子法相に答申する見通しだ。議論の焦点だった少年法の適用年齢引き下げは判断せず、今後の国会議論に委ねられる。子どもの立ち直りという少年法の理念を置き去りにしないために、立ち止まって考えるべきことは何か。専門家らの声を聞いて考えた。 (中山岳)

刑事裁判の対象犯罪拡大答申へ

18、19歳 危うい厳罰化

 子の立ち直り 少年法の理念どこに?   

 「少年法を変えようとする法制審の議論は、家庭裁判所や少年院の実情を踏まえずに進んでしまった」
 元家裁調査官の伊藤由紀夫さん(65)は、こう嘆く。家裁調査官は、事件を起こした子どもやその保護者を面接したり、学校や勤め先に書面で尋ねたりする仕事だ。調査を通じて子どもが抱える問題、再犯の可能性、どんな処分がふさわしいかを家裁の裁判官に報告。家裁は審判を経て、少年院送致を含めた保護処分などを決める。
 伊藤さんは三千五百件余の少年事件に向き合った。そのうち不処分や児童相談所送致などの処分を除き、二百件弱の子どもたちが少年院送致になった。少年院では生活指導や職業訓練、教科指導などを受ける。刑務所で多くの受刑者が工場作業などを強制されるのとは違い、教育を重視するからだ。伊藤さんは、少年院で多くの子が立ち直るきっかけをつかむとし「今の少年法のもと、少年院などで立ち直りや更生につなげる仕組みは機能している」と語る。
 それなのに、法制審が九月にまとめた答申案は凶悪事件を起こした一部の18、19歳をこうした処遇から外し、厳罰化に道を開いた。少年法の適用年齢は20歳未満としたままで全ての少年事件をまず家裁に送致する仕組みを維持したものの、18、19歳は「18歳未満とも20歳以上とも異なる扱い」を打ち出した。家裁が検察官へ送致(逆送)し、刑事裁判になる対象犯罪を拡大。「法定刑の下限が懲役か禁錮1年以上」として強盗や強制性交、放火罪などを含めた。
 現在でも殺人など一部の凶悪事件は逆送され、刑事裁判が開かれている。警察白書によると、殺人や強盗など凶悪事件の刑法犯少年の検挙数は、2009年の949人から19年の457人と減少傾向でもある。
 伊藤さんは「厳罰化しても、少年犯罪の抑止にはつながらない」と唱える。多くの子どもたちを見てきた経験から、17、18歳ごろが一つの分岐点という。「例えば暴走族にも18歳で『卒業』はある。荒れている子も『自立しなきゃ』という思いが芽生える」。実際、19年の刑法犯少年全体の検挙数をみると、最も多いのは16歳で4422人。17〜19歳は3200〜3800人ほどに減る。
 伊藤さんは2年前から、NPO法人「非行克服支援センター」の相談員を務め、非行少年らの立ち直りを支援し続けている。家裁での経験から「居場所があり、大人が手をかければ非行は止まる」と語る。逆に言えば、家や学校に居場所がなく生活に行き詰まれば、再び犯罪に手を染めやすくなってしまう。「立ち直ろうとしてつまずき、すぐにはうまくいかない子どもも少なくない。それは18歳でも19歳でも変わらない。だからこそ厳罰化の流れに危うさを感じる」
 17年3月に始まった法制審の少年法を巡る議論の焦点は、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうかだった。選挙権年齢の18歳への引き下げがきっかけだが、議論では賛否がまとまらなかった。今年7月、自民・公明の与党間で適用年齢を引き下げない方針で合意したこともあり、法制審の答申案は「今後の立法プロセスの検討に委ねる」と政治に丸投げする形に。今月中にも上川法相に答申され、政府は早くて来年の通常国会に法案を提出する。
 答申案について、村井敏邦・一橋大名誉教授(刑事法)は「そもそも18、19歳の犯罪が増えていないのに、なぜ法を変えなければならないのか説明できていない」と批判する。
 少年法の歴史をたどれば、戦前の旧少年法での適用年齢は18歳未満だった。当時は家裁がなく、少年事件は検察がまず調べ、一部の凶悪事件を少年審判所に送致する仕組みだった。それが1948年に現行法が制定され、20歳未満に引き上げられた。18、19歳が心身の発達が十分でないとの考えから立ち直りのための教育を重視したからだ。

  検察の権限拡大狙いか / 支援者「教育こそ必要」

 村井氏は、法務省は現行法の制定当初から18、19歳を少年と区別して「大人」と扱うよう主張してきたと指摘。「罪を犯した少年の処遇について、検察官が判断できるように権限を握りたい思惑が一貫してあったからだ」と説く。
 実際、同省は60年代後半〜70年ごろ、少年事件への検察関与を拡大する法改正を目指していた。70年の少年法改正要綱では、18〜20歳を「青年層」として18歳未満と区分し、検察の関与を認めて刑事裁判にかけ、刑罰のほか保護処分も選択できる構想だった。日弁連などの反対により実現しなかったが、村井氏は「今回の答申案は50年前の青年層構想と重なる部分がある。少年事件の実態や更生保護のあり方を置き去りにしている。今は少年法を変えるべき理由はない」と強調する。
 18、19歳が刑事裁判を受ける対象犯罪が広がれば、社会復帰後に働きにくくなる問題もある。例えば禁錮以上の前科があると、教職免許は取得できないといった資格制限がそうだ。法制審は制限を見直す方針だが、具体的には決まっていない。
 傷害事件を起こして18歳から約一年間、少年院で過ごした埼玉県の竹中ゆきはるさん(49)=仮名=は「少年院ではいろいろな教官に巡り合え、電気工事士の資格の勉強もできた。将来に希望が持てた」と振り返る。「資格の勉強も含めて、将来に希望が持てないと人はがんばれない。事件を起こした少年は、立ち直る機会や関わる人が多いほど更生につながりやすい。少年法を変える動きは、そうした方向とは逆行するようで反対だ」
 非行や少年事件を起こした子どもの家族らでつくる自助グループ「『非行』と向き合う親たちの会(あめあがりの会)」の春野すみれ代表(69)は「少年院で学んで出た後でも、就職できなかったり経歴を隠して働いたりせざるを得ない人がいる。こうした現実を見ると、18、19歳にこそ今よりさらに教育的な支援が必要と感じる」と話す。
 春野さんは、少年事件の被害者や遺族らが厳罰化を求める声について、「被害者支援はもちろん最大限に充実させるべきだ」と話す。その上で被害者とは別に、世間で事件を起こした子どもやその家族の自己責任を問う風潮を危ぶむ。「凶悪な少年事件の加害者やその家族を糾弾する声が強まるあまり、家族が追い詰められて自殺するなどのケースもある。子どもの立ち直りを目指すという少年法の理念を踏まえて、もっと議論してほしい」

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


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