少年死刑判決 二審の役割果たしたか(2月1日)
北海道新聞 社説 2014/02/01Sat.
死刑は、犯罪の性質や動機、結果の重大性、犯人の年齢、前科などを総合的に検討し、やむを得ない場合に選択する究極の刑罰だ。
しかも、被告は犯行時、更生可能性が十分考慮されるべき未成年だった。一審判決をチェックする役割を控訴審は果たしたのか。疑問がどうにも拭えない。
宮城県石巻市の3人殺傷事件で殺人罪などに問われた元少年(22)の控訴審で仙台高裁は少年事件の裁判員裁判で初めて死刑とした一審判決を支持、弁護側の控訴を棄却した。
被告は2010年2月、元交際相手の少女宅で少女の姉と友人女性を刺殺し、少女を連れ去った。居合わせた男性にも重傷を負わせた。
判決は、犯行が周到とはいえないものの、刺殺時の強固な殺意を認定し、18歳7カ月の年齢などを考慮しても死刑回避の余地はないとした。
被害者の遺族らの悲しみや無念を思うと心が痛む。一方で死刑以外の選択肢は本当にないのか、遺族らは癒やされるのかと割り切れない。
少年犯罪の多くは心の未熟さや成育環境などが影響し、適切な矯正で立ち直れる。今回の判決も、被告に前科がなく、更生の可能性もないとはいえないことや反省や悔悟の念を表していることを認めている。
更生を主眼とする少年法の理念が尊重されたとは到底言い難い。
過去の事例とのバランスを保てるのかとの疑念もわく。
これまでの死刑求刑事件で犠牲者2人の殺人事件(強盗殺人を除く)の一審判決は死刑と無期懲役が半々で、無期の多くは、犯行が周到ではないか、計画性が低いケースだ。
看過できないのは山口県光市の母子殺害事件に関する06年の最高裁判決の影響だ。元少年の被告=死刑確定=を無期懲役とした二審広島高裁判決を破棄し、審理を差し戻した。
殺害が計画的でなかったことや犯行時18歳1カ月の年齢など被告に有利に働く要素を軽視し、従来の死刑判断の枠組みから逸脱したとの批判が法律学者や弁護士から出ている。
最高裁は1983年の判決で死刑判断の「永山基準」を示した。この判例は変更されておらず、06年最高裁判決は一般化すべきではない。
少年事件を中心に厳罰を求める声は根強い。だが、死刑は他の刑罰とは質的に異なる。その判断基準を変容させる流れに危惧の念を抱く。
死刑をめぐる国際潮流は廃止や執行停止で、日本は国連機関から廃止検討を求められている。なのに制度を維持するなら適用は例外中の例外とする考え方を変えてはならない。
有権者の誰もが裁判員として重い判断を迫られる可能性がある。死刑の在り方について論議を深めたい。
◎上記事の著作権は[北海道新聞]に帰属します
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石巻・3人殺傷控訴審 あす判決 「少年死刑」どう評価
河北新報 2014年01月30日木曜日
宮城県石巻市の3人殺傷事件で殺人などの罪に問われ、一審仙台地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けた元解体工の男の被告(22)=事件当時(18)=の控訴審で、仙台高裁は31日、判決を言い渡す。少年事件の裁判員裁判で全国初の死刑を選択した一審を高裁がどう評価するのか、注目される。
2010年11月の一審判決によると、10年2月10日朝、共犯の男(21)=事件当時(17)、殺人・殺人未遂のほう助罪で不定期刑=と石巻市の民家で、交際女性(22)の姉南部美沙さん=同(20)=と友人大森実可子さん=同(18)=の2人を刺殺。南部さんの知人男性(24)に大けがをさせ、交際女性を連れ去るなどした。
控訴審の主な争点は表の通り。弁護側は共犯の男から殺害の計画性を否定する証言を得て、精神鑑定に基づき「意識障害を起こすほどの衝動的な犯行だった」と主張した。検察側は「交際女性を被告から引き離そうとする人を全員殺害しようとした計画的な犯行だ」などと反論した。
控訴審による一審の事実誤認の審査について、最高裁は12年2月、「一審を見直すには論理的な整合性や一般常識に照らして不合理な点を具体的に挙げる必要がある」との趣旨の見解を示した。裁判員裁判を含む一審の事実認定を原則尊重するよう求めた。
仙台高裁は、家裁調査官が被告の生育歴などを調べた少年調査票を証拠採用しなかった。殺意に関する供述の変遷を分析した専門家の意見書も採用せず、最高裁の見解にのっとったとみられる。
裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄されたのは13年6、10月の東京高裁の2件。ともに死亡被害者は1人で、先例と比較して死刑を回避した。
一橋大大学院法学研究科の葛野尋之教授(刑事法)は「誤った死刑は最大の人権侵害。裁判員裁判の判決でも誤りがあれば、司法はためらいなく破棄すべきだ」と語る。
少年犯罪被害当事者の会の武るり子代表は「遺族は一つでも新たな事実を知りたい。裁判員裁判に配慮して証拠を調べないのでは真相が分からず、予防策は生まれない」と高裁の対応を疑問視する。
◎「審理十分か」議論続く
石巻市の3人殺傷事件で、一審仙台地裁の裁判員裁判判決には「市民感覚が反映された」との意見がある一方、「少年法の理念が置き去りにされる」との指摘がある。少年への死刑適用の可否や審理の進め方をめぐって議論が続いている。
少年の死刑適用が争われた主な事件は表(略=来栖)の通り。最高裁司法研修所の報告書によると、石巻の事件と同じく死亡被害者が2人の殺人事件では1980~2009年度、死刑31件、無期懲役34件と判断が分かれる。
一審判決は最高裁が83年に示した永山基準に沿って死刑を検討。光市母子殺害事件の第1次上告審判決に基づき、事件当時18歳7カ月という年齢は「犯行の残虐さや結果の重大性に照らし、死刑を回避すべき決定的事情とはいえない」と結論付けた。
永山基準について、司法研修所の報告書は「死刑判断で考慮すべき要素を指摘しているだけで、基準とは言い難い」と解説している。
一審判決における光市事件判決の位置付けに関しても「死刑を言い渡しやすくした新しい判例であるかのように扱ったのは誤りだ」との異論が法曹関係者から出ている。
少年法は少年の更生に重点を置く。刑事事件でも医学や心理学などの知見に基づき、時間をかけて背景を解明する「科学主義」をとる。家裁が取り扱った少年調査票などの「社会記録」を積極的に取り調べることが求められる。
一審の裁判員裁判は、少年調査票と少年鑑別所の鑑別結果通知書のごく一部だけを証拠として採用し、「被告の更生可能性は著しく低い」と認定した。裁判員経験者は「命を奪った重い罪は年齢を問わず、大人と同じ形で判断すべきだ」と発言し、波紋を呼んだ。
一審後、全国の少年事件の裁判員裁判では社会記録の全てを証拠採用する動きがみられる。
永山則夫元死刑囚に関する著書があるジャーナリスト堀川恵子氏は「永山基準は一般事件の死刑の基準として使われてきたが、少年事件にはより慎重な適用がなされるべきだった」と強調。「あらためて少年法の精神に基づき、更生可能性を徹底して探る審理が必要だ」と高裁判決を注視する。
[永山基準] 連続4人射殺事件で犯行時19歳だった永山則夫元死刑囚の第1次上告審判決(1983年)で最高裁が示した死刑適用基準。(1)犯罪の性質(2)動機(3)殺害方法の残虐性(4)結果の重大性、特に殺害された被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯行時の年齢(8)前科(9)犯行後の情状-を考慮、責任が極めて重大で極刑がやむを得ないと認められる場合は死刑選択が許されるとした。
[光市母子殺害事件] 1999年、当時18歳1カ月の少年が山口県光市の男性宅に乱暴目的で押し入り、妻と長女を殺害するなどした。少年法は18歳未満の犯行に死刑を科さないと定めているが、最高裁は第1次上告審判決(2006年)で「18歳になって間もないことは死刑回避の決定的事情とはいえない」と二審の無期懲役判決を破棄。差し戻し上告審判決(12年)で死刑が確定した。現在、再審請求中。
◎上記事の著作権は[河北新報]に帰属します )
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◇ 裁判員裁判で死刑判決を受けた少年事件「石巻3人殺傷事件」仙台高裁 控訴棄却 死刑言渡し 2014/1/31
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◇ 裁判員裁判で少年事件初の死刑判決「石巻3人殺傷事件」~控訴審初公判 仙台高裁(飯渕進裁判長) 2011-11-01
◇ 石巻3人殺傷事件 検察側、少年(事件当時18歳)に死刑求刑 (⇒2010年11月25日、判決言渡し) 仙台地裁
◇ 石巻3人殺傷 少年事件「死刑判決」 賛否/短い評議、制度に課題/処罰感情/裁判員の負担/更生 2010-11-27
◇ 石巻3人殺傷(事件当時18歳被告の裁判員裁判)死刑判決…「理解まるでなく、心底がっかり」井垣康弘弁護士 2010-11-26
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◇ 光市事件 平成24年2月20日 最高裁 判決全文/毎日新聞・中日新聞 匿名報道/森達也「リアル共同幻想論」 2012-02-20
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◇ 永山則夫事件 判決文抜粋
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