日本政治史に残る小沢一郎氏疑獄事件 不可解な形で無罪放免

2013-04-30 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

日本政治史に残る小沢一郎氏疑獄事件 不可解な形で無罪放免
マイナビニュース [2013/04/30]
 政権党の実力者を標的にした「日本政治史に残る疑獄事件」は、やがて「特捜検察史上最大の失態」であることが明らかになった。国政を左右するほどの影響を与えた以上、この「冤罪事件」の総括はきちんとなされなくてはならない。ところがその当事者は、実に不可解な形で“無罪放免”となった。
 「不起訴不当」──文字の意味と実態が、これほど真逆な言葉は珍しい。
 「不起訴が不当」ならば、誰もが「不起訴を撤回して起訴する」と解釈するだろう。しかし、実際には「不起訴処分が確定する」という意味になるのである。
  4月22日、東京第1検察審査会(検審)は、虚偽有印公文書作成などの容疑で刑事告発された田代政弘・元検事(懲戒処分後、辞職)について「不起訴不当」とする議決書を公表した。
  田代氏の容疑は、小沢一郎・生活の党代表の資金疑惑捜査の際、小沢氏の元秘書だった石川知裕・代議士の取り調べに関して「虚偽の報告書」を作成したというものだ(※注1)。
  虚偽報告は捜査への信頼を揺るがす大問題だが、それ以上に大きいのは、この報告書が国政さえも左右する材料となったことだ。
  2010年2月、東京地検特捜部が不起訴とした小沢事件は、市民団体の申し立てによって検審(東京第5検審)で審査され、同年4月と9月に「起訴相当」議決が下った。「起訴相当」と「不起訴不当」は同じような意味に聞こえるが、全く違う。前述のとおり「不起訴不当」は不起訴が確定するのに対し、「(2度の)起訴相当」は自動的に強制起訴となり、容疑者は刑事被告人となる。
  民主党は小沢氏が2011年1月に強制起訴されたことを受けて、同氏の党員資格を停止し、小沢氏は昨年11月まで約2年間にわたって政治活動を制約された。小沢氏を排除した民主党は、党内対立を激化させた末に先の総選挙で敗れ、自民党に政権を明け渡した。小沢検審の「起訴相当」議決は、政治家・小沢一郎のみならず、国の行方までも変えたといえる。
  田代氏を「不起訴」にした理由は何なのか。もちろん田代氏が、虚偽報告書という“重要資料”を作成し、小沢氏の強制起訴を実現させた“功労者”だという要素はあるだろう。だが、それよりも大きな理由があるという。
 「田代が刑事被告人として法廷に立った時、何を喋るかわからない。前田の件は検察に大打撃となった。万一、同じことが起きれば検察は二度と立ち直れない」
  ある検察OBはそう口にした。「前田」とは、村木事件(※注2)の際に証拠改竄を行なったとして起訴された前田恒彦・元検事(実刑を経て満期出所)のことである。小沢捜査にも関わっていた前田氏は、小沢裁判の際に「特捜部は妄想を抱いて夢を語っていた」と、小沢事件が特捜部の暴走であったことを証言した。
  仮に被告人となった田代氏が、前田氏と同様の暴露をする事態となれば、もはや小沢事件が司法・検察の「小沢抹殺」であることが誰の目にもわかってしまう。
  田代氏の取り調べテープを録音し、虚偽報告書であることを証明した石川知裕・代議士が語る。
 「田代さんの審査では、検察側が強制起訴にならないような証拠だけを提出していたと思います。そうして彼の不起訴不当が決まった。
  法廷で明らかにする機会は失われましたが、それでも田代さんが真実を話すことが大切です。虚偽報告書の作成は、田代さんの独断ではないでしょう。“検審に小沢一郎を強制起訴させるためには、小沢の印象を悪くする操作が必要だ”と考えた検察組織の中で、たまたま田代さんが私の取り調べを担当した。
  そして、録音テープによって田代さんは検事の職を失うことになった。彼は私のことを恨んでいるかもしれませんが、私自身は田代さんに同情的です。彼が自ら真実を話すために協力したい」
 【※注1】2010年5月、田代検事が石川氏を聴取した捜査報告書には「『選挙民を裏切ることになる』と検事にいわれ、(小沢氏の関与を認める)供述を維持した」と記され、その報告書は小沢事件を審査する検審に提出された。だが、この取り調べ時に石川氏が録音していた記録にそうしたやり取りがなかったことが、後に小沢氏の公判中に明らかにされた。田代氏は刑事告訴されたが「記憶が混同した」と説明し、検察は不起訴とした。
 【※2】大阪地検特捜部は2009年、広告会社が郵便割引制度を悪用して多額の郵送料を免れたとする郵便不正事件に、厚労省局長の村木厚子氏が関与していたとして逮捕。だが、後に担当検事だった前田恒彦氏が証拠のフロッピーディスクを改竄していたことが発覚。前田氏は証拠隠滅罪で逮捕され、村木氏は無罪となった。
 ※週刊ポスト2013年5月17日号


『田代元検事他の議決を受けて』 衆議院議員 小沢一郎 2013-04-23 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
 『田代元検事他の議決を受けて』
 今回の件では、本来人権の守護者たるべき検察が、自らの意志において特定の存在を追い落とすシナリオを作り上げ、そのシナリオに沿った証拠を捏造したという事実が明らかとなりました。これは、法治国家では絶対にあってはならない深刻な人権侵害といえます。
また、政治的には、政権交代を阻止すべく、検察がその権力を濫用し、総選挙直前に野党第一党の党首を何の証拠もなく強制捜査するという、民主主義を否定する行為であり、先進民主主義国家では決して起こり得ない暴挙であります。
今後、わが国が民主主義国家であるということをしっかりと証明し、二度とこのようなことが行われないようにすることが重要です。
そのためにも、今回の検察審査会の決定も含めて、検察組織全体として一体どのような意志が働き、このような事態となったのか等、一日も早く事件の全容が解明されることを心より願っております。
  衆議院議員 小沢一郎
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【陸山会虚偽報告書】「証拠捏造、深刻な人権侵害だ」 不起訴不当議決で小沢氏が談話
産経新聞2013.4.22 23:53
 陸山会事件の虚偽捜査報告書問題で田代政弘元検事の不起訴を不当とした東京第1検察審査会の議決について、生活の党の小沢一郎代表は22日、「検察が特定の存在を追い落とすシナリオを作り、そのシナリオに沿った証拠を捏造(ねつぞう)した。法治国家では絶対にあってはならない深刻な人権侵害だ」などとする談話を発表した。
 小沢代表は「政権交代を阻止すべく、権力を乱用して強制捜査した」と、捜査の着手を改めて批判。今後の検察については「一体どんな意志が働いてこのような事態となったのか。事件の全容が解明されることを願っている」とした。
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検察審議決 手抜き再捜査では困る
中日新聞2013年4月23日
 陸山会事件で、架空の捜査報告書を作成した元検事を「不起訴不当」と検察審査会は議決した。市民の検察不信は消えてはいない。手抜きと言われぬよう、最高検は徹底した再捜査を尽くすべきだ。
 「検事から『議員なのにうそをついたら選挙民を裏切ることになる』と言われたのが効いた」
 問題の捜査報告書には、そう書かれている。二〇一〇年に検察審査会が生活の党の小沢一郎代表を起訴相当と議決した後、小沢氏の元秘書だった石川知裕議員が再聴取で東京地検の検事に話したとされる発言だ。
 石川議員はICレコーダーで録音したため、架空のやりとりが明らかになった。このくだりだけではなくて、報告書の大半が、検事の“作文”だった。
 だが、最高検は昨年六月、この検事を不起訴とした。「故意は認められなかった」という理由だった。この処分を不服として、市民でつくる検察審に判断が回されたのは当然の成り行きといえる。
 「検事の弁解をうのみにしていないかとの疑念は払いがたい」「一般常識に照らしても、記憶の混同を基礎付けるものとは言い難い」-。検察審の議決書には検察に厳しい言葉が並んだ。
 「ベテラン検事が簡単に勘違いすることがあるか」との市民の質問に、別の検事は「検事も人の子だから間違いはあると思う」と答えたという。議決書には「答えになっておらず、むしろ答えに窮して、ごまかしていると評せざるを得ない」とまで書かれた。
 「不起訴不当」とした結論は、「捜査が不十分であるか、ことさら不起訴にするために故意がないとしているとさえ、みられる」と、明言している。これが市民の常識的判断なのだ。最高検は再捜査することになるが、「故意がない」程度の言い訳はもはや通用しないと考えるべきである。
 確かに強制起訴に至る一ステップの「起訴相当」議決ではなかった。だが、市民が議決書の言葉で突きつけたのは、検察への不信そのものだ。再捜査次第では既に辞職した元検事を起訴することもできる。もし「ごまかし」で、不起訴とし、幕引きするなら、再び検察不信が高まるのは必然だろう。
 陸山会事件は検察が暴走したら、どう止めるかという問いも投げかけた。法相の指揮権と検察審査会、検察内部の監察指導体制の三つしかない検察のチェックシステムも再考すべきではないか。
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東京第一検察審査会、最高検が不起訴とした田代政弘・元検事を「不起訴不当」と議決 2013-04-22 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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陸山会事件 小沢一郎裁判 『指揮権発動 検察の正義は失われた』元法相小川 敏夫が検察の「虚偽」を暴く  2013-04-21 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

     
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「検察の失墜」田原総一郎×郷原信郎 2010-10-09 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
田原: ぼくが違和感を覚えることがあるんです。新聞が民主党の代表選挙の前にやった世論調査では菅さんがだいたい7割で、小沢さんが2割に達しなかった。ところが、告示以後の演説は、小沢さんのほうが面白いんですよ、率直に言って。中身もあるし夢もある。だから小沢さんの支持率は上がるんじゃないかと思ったら、結局、小沢さんの支持率は上がらなかった。何だろうと。国民の多くには、小沢は汚い、あいつは悪いヤツだという認識が相当浸透しているんじゃないかと。
郷原: それは間違いないでしょうね。昨年の西松建設事件が何だったのか、大久保秘書が捕まった事実が何だったのか、小沢さんにどういう疑いがあったのか、そして世田谷の不動産の事件っていうのがいったいどういう事件で、石川さんはなんで捕まったのか、そして小沢さんはどういう疑いで調べを受けたのか、こんなこと正確に言える人は世論調査を受けている人の100人のうち1人もいないですよ。
田原: いないですよ。分かんないでしょう。
郷原: 要するに、何か金の問題がある、政治と金の問題だ、そして世田谷の不動産に関しては4億円。これだけでイメージが出来上がってしまっているんです。
田原: 検察がリークしたかどうか分かりませんが、とにかくマスコミで、新聞やテレビで、小沢汚い、悪いと相当そういう情報を氾濫させましたね。
郷原: ツイッターでこういうことを書いている人がいました。一連の小沢さんに対する捜査の中で多くの市井の「おばちゃんたち」は、小沢さんは西松建設から4億円貰って、その4億円で世田谷の不動産を買ったと、そう思ってますよって言ってる人がいたんです。そうか、確かにそう言われてみると、みんな、そういうふうに思ってるのかなと思いましたね。
田原: そこでひとつお伺いしたい。大新聞の世論調査は、もちろんテレビもそうですが、みんな小沢さんの支持率は非常に低い。ところがネットの世界・・・。
郷原: 全然、違いますね。
田原: 逆転なんですよ。代表選中にニコニコ動画でやった調査だと、小沢さん支持が78、菅さん支持が20あるかないか。なんでこんなネットは小沢さんが高くて、大マスコミは小沢さんが低いんでしょうね。
郷原: ニコニコ動画もそうですけども、ネットというのは、まさにその素材を直接見て誰が何を言っているのかということを、まず分かってますよね。その意味じゃ、ちゃんと考えて見ているわけですよ。何となく訳分かんないけど、イメージだけで良い悪いを判断してるんじゃない。しかもネットには一般のテレビと新聞とは違う情報が流れているんですよ。ツイッターの世界もそうですし、ブログの世界もそうです。そこを見ればいろんな意見があって、こういう見方がある、どの見方が正しいのかっていうことだって自分で判断できるんですよ。
田原: なるほど。これを流しているのはネットの世界だね、今?
編集部: はい、そうです(この対談はUstで生中継しました)。
田原: これを聞いている人、見ている人の中では、小沢さんの支持率が高いのかな?
郷原: その可能性、高いですね。
編集部: 今、ツイッターへの書き込みをみても、相当、検察批判をされている方がおられるので。
田原: ツイッターに何か質問は来てない?
編集部: たとえば村木さんの郵政不正問題で民主党の政治家を狙ったというのは、政治家の力で検察がそう動いているのか、それとも検察独自の「検察の正義」というのがあって勝手に動いているのか、どちらでしょうか。つまり政権与党が野党の民主党政治家をやろうと思ってやらしているのか、それとも検察が独自の判断でやっているのか、という質問です。
田原: 郵政不正のときは、民主党は野党だったんだよね。
郷原: 私の経験からすると、政治家の側に、これをやれと圧力をかけられて検察が動くという可能性はあまりないと思います。そうじゃなくて、検察の側がそれなりにこういうふうにやった方がいいんじゃないかという判断をして動く場合が大部分だと思うんですよ。ただ、私の特捜検察での直接的経験というのはかなり前です。2000年以降の検察でどういうことが起きているのか、ちょっと分からない面はあるんですよ。例えば、三井環さんのように、例の裏金問題で、検察は小泉政権に、自民党サイドにずいぶん世話になってしまって、それから自民党とベッタリになったという見方をしている人がいますよね。
田原: 三井環さん、もちろん知ってる方が多いと思います。すこし解説を加えると、三井さんは検察の幹部のときに、逮捕されたんですね?
郷原: 大阪高検の公安部長です。
田原: その公安部長が、検察の告発をしたんですね。
郷原: 裏金問題を告発しようとした。
田原: その日は、夕方、テレビ朝日の番組に出ることになっていた。そしたらその直前に逮捕された。
郷原: 三井さんのお話によると、人事問題などを巡って時の政権に検察がお世話になって、そして最終的には裏金問題も目を瞑ってもらって、そこで自民党政権にお世話になったんだと言うのです。そこでいってみれば毒饅頭を食うような形になって、それから自民党政権には頭が上がらなくなった、と。それ以来、政治と検察の関係が変わったんだという見方をする人がいます。そこは私は検察にいなかったので分からないですよ。しかし私の経験から言うと、検察の中にはやはり検察の内部でのモチベーションの維持とか、組織としてみんながある程度一体として纏まっていくために、あまり無茶な政治との結託をやると却っておかしなことになるということは、ずっとみんな考えてきたと思うんですよ。ですから・・・。
田原: 現に、小沢さんの世田谷の深沢の土地の問題を検察がドンと言い出したのは、民主党が政権をとって以後ですよね。
郷原: そうです。これはどう考えたって、政治と結託するなんていう話じゃないんですよ。むしろ、小沢さんを何とかして叩き潰したいという、いってみれば遺恨試合ですね。
田原: そこを聞きたい。なんで検察が、小沢一郎を叩き潰したいと、こう思い込んでるんですかね。
郷原: まず一つは、西松建設事件で失敗してしまった。いってみれば一旦拳を振り上げてやっつけようとした人間を潰せなかった。その潰せなかった人間が大きな力を持つようになったら、それは報復されるんじゃないかっていう思いがありますね。
田原: あ、報復か。
郷原: そういう思いがあったり、そもそもやはりもともと田中派の重鎮だった小沢さんとの昔からの確執みたいなものがあるかも知れないです。何とかして小沢氏を政治的に力を弱めようという意図が働いていた可能性もありますね。
田原: なるほど。田中派のいわば中枢にいて、田中派のやり方を今もやってると、検察はこう思い込んでいるんですね。
郷原: まあ、少なくとも検察との関係は良くない人間で、もし彼が政治的に権力を握ると検察にとって大変なことになるという危惧感はあったかも知れないですね。
田原: ちょっと聞きたいんですが、検察は少なくとも小沢さんの問題で、深沢の土地の問題では結局起訴できなかった。そういう意味じゃ、検察にしちゃ失敗です。ところが、その後の小沢さんの支持率の低さ、代表選挙の結果を見ると世論操作では成功してるんじゃないですか?
郷原: 検察が成功したというよりも、検察が小沢氏の事件に関しては力尽きたわけですね、不起訴で。その後今度は二段ロケットとして、検察審査会というロケットがボンと噴射したわけですよ。それを使ったメディアの反小沢キャンペーンが成功してるっていうことじゃないですかね。
田原: 検察審査会のことは郷原さん、どう見ます?
郷原: これはきちんと整理して考えないといけないんですよ。まず、検察はあれだけ執念深く小沢氏の刑事責任を追及しようとして、石川氏まで逮捕して、小沢氏を聴取して、それにも関わらず起訴できなかった。不起訴だったわけですよ。これが検察が組織として本来起訴できるものを、何か弱気になって、あるいは小沢氏の側に特別の計らいをして不起訴にしてやったということは通常は考えられない。ぎりぎりまで起訴できるものだったら起訴しようと思って捜査をした結果が不起訴に終わったわけです。あれは検察の敗北だったわけです。その検察の不起訴という処分を受けて検察審査会が、11人のいってみれば素人の人達の市民の集まりですね、この人たちが、起訴すべきだ、起訴相当だという判断を出した。前にも言ったように、犯罪とされるものの中身も単なる期ずれですよ。2カ月ちょっと不動産の取得時期がずれてるっていうだけですよ。そういう事実で起訴相当っていう判断を出した。その時に検察審査会の議決書のなかでは、市民の考え方からしてそうなんだ、こういう観点から起訴すべきなんだという、検察審査会の議決を受けて、検察は再捜査したわけです。それでも検察は、それを受けて再捜査しても、また不起訴ですよ。
田原: そうでしたね。
郷原: これだって、できるものだったらやりたいんだけども、やっぱり不起訴です。ということで、まさに国家機関である、訴追権を行使する国家機関である検察の判断は、不起訴っていうことで固まってるわけです。この不起訴は嫌疑不十分ではない。嫌疑なしじゃなくて嫌疑不十分だから嫌疑があるんだというふうなことを、訳の分かんないことを言う人がいるんですけども、そうじゃないですよ。裁判だって無罪判決っていうのが、疑いがあったって証拠で証明できなければ無罪です。それと同じですよ。嫌疑なしっていう裁定はあるけれども、それは人違いだったとか、別の犯人が見つかったとかそういう場合が嫌疑なしであって、とにかく犯罪事実が立証できないときには嫌疑不十分、不起訴なんです。そういう形で国家機関である検察の判断は、これでもう確定しているんですよ。これから先は、検察審査会法上は、その場合でも検察審査会にもう一回戻されて起訴相当の議決が出た場合には、もう一回審議をしなさい、その結果市民の審査員の中の11人中8人以上が起訴相当っていう議決をしたら起訴の手続きを指定の弁護士が取りなさい、そういうことなんです。しかしそこの部分は、もう国家機関たる検察の判断が出た後に、でも念のために裁判所で全部証拠をもう一回検証してみて、本当に不起訴でいいのかどうかをチェックしてみよう、確かめてみようと、こういう手続きなんですよ。それは何故かって言ったら、市民が、検察の処分だけでは終わらせるべきではない、まだちょっと納得できないところがあるから、念のために裁判所に判断してもらってくれと言ってるだけなんですよ。これはこういう例えで考えたら分かりやすいと思うんです。検察の不起訴までは、正式なコンサートの曲目です。プログラムに載ってる、一曲目はこれ、二曲目はこれっていう正式な曲目です。これは終わってるんですよ、検察の不起訴で。その後にアンコールといって、もう一曲、二曲演奏する場合があるじゃないですか。これなんですよ。拍手が鳴り止まないから指揮者がもう一回出てきて曲を演奏する。それなんですよ。
田原: ただね、郷原さん仰るけど、逆にいうと、例えば明石の橋で大勢が亡くなったあの事件、それからJR西日本のあの問題。あれは検察審査会が起訴相当とやって起訴された、ということがありますね。
郷原: ですから、あれも議決書の中に書いてありますよ。起訴しても、有罪になるかどうか分からないっていうか、有罪の可能性は低いかも知れないけれども、裁判所で最終的に明らかにすべきだという理由で起訴相当の議決をしてるんですよ。明石だってそうだし、尼崎の事件だってそう。この二つも有罪になる可能性はきわめて低いっていうことは、刑事法関係者の中では常識なんですよ。
田原: そうか。あれは検察審査会で起訴されたわけで、有罪かどうかじゃないんですね。
郷原: 全然違いますよ。有罪になると考える人はきわめて極々少数ですよ。ただそれでも、ああいう事件を検察だけでは終わらせるべきでないという判断なんです。特に明石の歩道橋の事件っていうのは、警察幹部の事件なんですよ。警察幹部の事件っていうのは検察と警察の関係を考えたら・・・。
田原: 一種の馴れ合いがあるんじゃないかと。
郷原: ええ、そういう疑いがあるから検察限りで終わらせるべきではない、という議決なんです。ところがこの小沢さんの事件はまったく違うんですよ。検察はもう力の限りやって、2回力尽きてるんですよ。後、それでもアンコールって言ってるだけなんですよ。このアンコールを中心に考える人はいるのか、コンサートは正式曲目を前提にチケットを買うんじゃないのか、ということなんです、問題は。
田原: 一つお聞きしたい。もともと郷原さんは検事さんだった。その郷原さんが、今、懸命に検察批判をしている。何故なんですか。
郷原: 私は、特捜部のあり方っていうのは非常に問題があるっていうことは、検事をやってる頃からずっと思ってきましたし、ですから特捜検察とは平成5年のゼネコン汚職事件のときで決別したつもりです。まあ、関わらないといけなかった特別な事件もありましたけど。
田原: 特捜はどこが問題なんですか。
郷原: それは私の『検察が危ない』(ベスト新書)っていう本の中に書きましたが・・・。
田原: ええ、読みました。要するに、いまや特捜検察っていうものの権力を維持すること、特捜の看板を維持すること、それが自己目的化してるっていうことですね。
郷原: ええ。そしてそのために特捜検察に対する世の中の評判とか、権威っていうものを維持するために、ちょっと普通じゃ考えられないようなことが行われる世界、それがまさに今回の村木さんの事件で裁判所から断罪された取り調べのやり方です、ストーリーの組み方です。
田原: それはとんでもないと思う。ただね、もう一つ、宗像さんも言ってるけど、つまり、特に難しい事件のときに特捜部が出て来る。難しい事件だからもちろんいろんな問題があるけど、じゃ、難しい事件は扱わなくてもいいのかっていったら、そうじゃないと。宗像さんが言ってる、難しい事件の場合に特捜部が出るんだと、この点はどうなんですか。
郷原: 特捜部が想定している敵というのは、ちょうど日露戦争の日本海海戦におけるバルチック艦隊みたいなものなんですよ。要するに、大国ロシアの無敵艦隊、それに小国日本の連合艦隊が立ち向かう。これはもう普通じゃ勝てない、そこで日本の連合艦隊の幹部以下が心を一つにして、しかも大砲の性能をいかんなく発揮して、そしてT字ターンという本当に会心の戦法をとって、それで勝った日本海海戦、バルチック艦隊を撃破した。こういう戦争の勝ち方っていうのが特捜部の原体験であり、それがロッキード事件なんです。それを想定しているんですよ。本当に大変な巨悪っていう敵を叩き潰すために、こんな重装備でこれだけの大砲を持って、これだけの人間が集まって、これだけのことをやらないといけないということの想定で特捜部ってできているんです。でも、ひょっとすると今狙ってる相手は民間の商船かも知れない、漁船かも知れないんですよ。村木さんなんて、まさにそうじゃないですか。それに対しても同じようなやり方をして、同じように叩き潰す。
田原: 非常によく分かる。問題はいっぱいあるんだけど、ただね、田中角栄さんがロッキード事件でやられたときに、割にマスコミの中で流行った言葉がある。「検察民主主義」だと。日本の政治は民主主義じゃない、やっぱり金と力で政治が進む。こういう政治の中で、検察が民主主義を維持していると、こういう言い方もありましたね。
郷原: うーん、異常な世界ですよね、異常な国ですよ。検察っていう捜査機関、検察っていう国家権力の一つ、しかも民主的な基盤って何一つ持たない、その検察っていう組織、これがすべて正義ですべて正しいことやって、悪い政治家はこいつがいい、こいつが悪いっていうことを全部・・・。
田原: 検察が決めていくと。
郷原: そういうことが許されている。先進国って言えるんですかね。
田原: なるほど。
編集部: ツイッターでは、検察批判が大マスコミには出てこないのは、検察と新聞、テレビが癒着構造にあって、このチェック機能が働いていないのが問題ではないか、という意見がかなりあります。
田原: いつもぼくはこの話をするんですが、例えば小沢さんの問題で、サンデープロジェクトという番組に郷原さんに出ていただいたのは、テレビ局はたくさんあるんだけどもサンデープロジェクトだけなんですよ。で、サンデープロジェクトに郷原さんに出てもらおうと思ったら、局が「反対、出すな」と言ってきた。
 なぜかっていったらね、サンデープロジェクトに郷原さんに出ていただくと、テレビ朝日の司法記者担当の記者が取材ができないと、検察が意地悪して。こういう問題があるんですね。
 さらに言うと、新聞が、明らかに検察の関係者がリークする、そういう記事を書くときに、「関係者によれば」とか「検察関係者」と必ず書かない。何故だってある新聞記者に聞いたら、検察関係者と書いたらその新聞の司法記者は出入り差し止めだと。
郷原: 今のメディアの構造、新聞とかテレビを巡る構造を考えると、そうなってしまうのもやむを得ないと思うんですね。要するに、メディアの構造自体が完全に単一化、単純化されているわけですよ。検察の問題を扱うんだったら、司法クラブと司法クラブ出身者の遊軍で検察幹部と親しい記者たち。この人たちが完全に新聞の紙面もテレビの画面も抑えてしまう、支配してしまうんです。ですから、その人たちっていうのは考えてることが検察と変わらないです。特捜検察と同じ方向を向いているんです。ですから・・・。
田原: 僕もマスコミは一員です。そうじゃない人間もたくさんいると思うけども・・・。
郷原: ですから、ごく例外的なんですよ、田原さんのような考え方の人は。一般的にそうです。司法クラブにいると、そういうようなスタンスでないと確かに・・・。
田原: 取材できない。
郷原: しかも、司法クラブだけじゃなくて出身者だってそうですよ。ただ問題なのは、そういう人はそういう人で、そういう仕事をすればいいじゃないですか。でも、そうじゃない人がいて、そういう人の情報もある程度選べて、批判的な見地からいろんな取材をしていく、いろんな批判もしていくということができれば、一つのメディアの中でバランスが取れると思うんですよ。
田原: 村木さんの問題に戻ると、村木さんもいろいろ新聞に訴えてらしたけど、やっぱり扱いは小さいですね。いや、この判決前ね。
郷原: 今日はどうだったんですかね(対談は村木さんの無罪判決当日の夜)。私、ニュースとかあんまり見てないんですけど。
田原: 今日の夕刊でしょう。
編集部: 特に面白いのは、今週になって急に言い訳のように、村木さんのインタビューなどの記事が出始めました。それまではそういう報道は全然なかったんですけど、急にこの辺で、要するに書いてもいいのかなっていう雰囲気が出てきて・・・。
田原: 勝ち馬に乗るってやつ?
編集部: そういう感じでしたね。
田原: 今日は有り難うございました。
郷原:有り難うございました。  (了)
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