2009/1/27 business-i.
上場企業の2008年10~12月期決算が今週ピークを迎えるが、09年3月期の東証1部上場主要企業の経常利益の減益幅が30%を超える見通しとなったことが、新光総合研究所の調べで26日、分かった。中間決算時点では減益幅を約24%と予想していたが、金融危機に伴う景気悪化で下振れが必至となっている。減益幅は同総研が統計を取り始めた1976年3月期以来、過去2番目の大きさで、企業業績の深刻さは増す一方だ。 ≪「底が見えない」≫
「底が見えない」。日本の製造業を牽引(けんいん)する自動車業界の盟主、トヨタ自動車の渡辺捷昭(かつあき)社長が天を仰ぐ。自動車各社では国内外で減産が加速し、今期の減産規模はトヨタが150万台、日産自動車も50万台に上る。操業の一時停止も相次ぎ、トヨタは1~3月中に計14日間稼働停止する予定が、需要の落ち込みが想定を超えたため一層の減産に踏み切る構え。
自動車主要12社の国内外の減産規模は、期初計画比で300万台を突破する見込みとされる。これは、国内3位の日産の年間世界生産台数に相当する。これに伴い、通期でトヨタが戦後初の営業赤字に転落するほか、日産も赤字転落が避けられない見通しだ。
一方、電機大手は昨秋までに全社が通期業績見通しを下方修正し、「全社が赤字転落してもおかしくない」(関係者)総崩れの様相だ。パナソニックは全投資計画を見直し、中核の薄型テレビはパネル新工場への投資額を当初計画から1350億円減らすが、大坪文雄社長は「簡単に底を打つと考えていない」と渋い顔。需要減で価格下落に苦しむ半導体関連でも、東芝が新工場の着工を先送りした。
≪素材業種にも波及≫
新光総研が金融を除く東証1部上場1226社の業績予想を集計したところ、09年3月期の経常利益は前期比33.0%減、最終利益は同35.5%減だった。経常利益の減益幅は02年3月期の37.4%に次ぐ大きさとなっている。
期初の段階では、経常利益の見通しが4.8%減と減益幅は小さかったが、中間期時点で24.5%減まで拡大。その後も減益幅が広がっていることで、景気後退局面での企業の厳しい経営環境が裏付けられた格好だ。
中間期時点の予想に比べて、企業の経常利益は総額で約3兆2000億円減少する見通しだが、このうち、自動車などの輸送用機器が1兆6000億円減、電機が1兆円減と、この2業種で2兆6000億円にものぼる。 日本を代表する輸出業種である自動車と電機の減産によって、その影響は「川上」の鉄鋼や化学など素材業種にも及ぶ。08年度の粗鋼生産について、新日本製鉄とJFEスチールは前年度比400万トン減産するほか、高炉も一部休止する方針だ。
昨年9月の米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)以降の株安局面で、企業の保有株の含み損も膨らむ。09年3月期の東証1部上場企業の有価証券評価損は1兆円規模に達するとの試算もあり、赤字企業も続出しそうだ。
第一生命経済研究所の嶌峰義清主席エコノミストは「各種の経済指標も戦後最悪のものがめじろ押しで、海外経済の停滞や円高もあり、年度内の企業の売り上げ回復の兆候はなさそう」と厳しい見方を示している。
“厳冬決算”を受けて、企業では減産が加速し、人員削減や賃金カットなどリストラの嵐が吹き荒れ、円高にも足を取られて“泥沼”から抜け出せない中「来期の見通しも立たない」という悲痛な声がこだまする。
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■勢い止まらぬ円高が「むち打つ」
生産縮小の一方でコスト削減努力も限界に近づき、背に腹は代えられぬと雇用の見直しに踏み込む企業も続出している。
22日に通期の赤字転落予想を発表したソニーは、世界で1万6000人を削減。国内でも希望退職を募り、管理職は年収が10~20%ダウンする。今春からパナソニックの子会社になる三洋電機や、NECエレクトロニクスも人員削減に踏み切る。自動車メーカー12社が今期中に削減する非正規従業員は約2万3000人に達し、ホンダなど6社が非正規従業員をゼロにする。
「川下」の流通業界も不況下の消費不振に苦しむ。大丸と松坂屋を傘下にもつJ・フロントリテイリングは10年度までに正社員の15%(1000人)をカットするほか、26日には浜松市への出店計画中止を発表。西友も約20の不採算店舗を閉鎖する。
体力が疲弊した企業をむち打つのが、1ドル=90円台を突破しても勢いが止まらない円高だ。北米依存度の高い自動車は深刻で、1円の円高でトヨタ自動車は400億円、ホンダは200億円営業利益がそれぞれ押し下げられる。海外売上高が8割に迫るソニーも円高で1900億円利益が目減りする。
燃料をドル建てで調達する航空業界(日本航空や全日本空輸)など円高や原油安が増益要因となる業種もあるが、ホンダの福井威夫社長は「現在の為替水準が続けば、輸出産業は滅びる」とまで言い切る。