中国が崩す地域バランス、戦争を防ぐ集団的自衛権 憲法の前に国民あり国あり、守るべきは憲法か国か~平沢勝栄氏
JBpress「ずばり勝負」2014.05.23(金)
マット安川 安倍首相による憲法解釈の会見翌日、ゲストに平沢勝栄さんを迎え集団的自衛権の解説を伺いました。
*集団的自衛権の行使容認の是非、新聞各紙の読み比べを
平沢 安倍(晋三)総理が目指す集団的自衛権の行使容認について、新聞報道はさまざまです。一番極端なのは東京新聞で、いまにでも戦争が始まるんじゃないかという書き方をしている。朝日と毎日も極めて批判的です。 一方、これは当然だというのは産経と読売。日経はやや中立です。ですから新聞を1紙だけ読んでいると、みなさん分からないんじゃないですかね。特に東京新聞は赤旗を読んでいるのと変わりません。
新聞にどんな意見があってもいいんです。ただ、1紙だけ読んでいたら間違います。比べたほうがいい。どっちが正しいのか、まったく逆のことが書いてありますから。産経と東京新聞、読売と朝日というように両方読まないと。
ただ、これだけははっきりと言わせていただきますが、東京新聞の報道は極端。昨年の特定秘密保護法案の時もそうでした。この法律が通ったら、明日にでもものが言えない、治安維持法の復活のような社会が出てくるというようなことをずっと書き続けた。
それで今年1月、衆議院から共産党も含めた調査団が、特定秘密保護法案の海外での運用の実態を知るために、ドイツ、英国、米国に派遣されました。私もその一員として参加しました。
これにずっと朝日新聞の記者が同行したんです。すべての日程が終わり、ワシントンで記者に聞きました。朝日新聞はずっとこの法案はけしからんと報道していたけど、あなたはどう思うかと。彼は何と言ったかというと、やっと目が覚めましたと。
私はこのことを書いてもいいかと確認した上で、夕刊フジの私の欄で書かせてもらった。この記者は良心的だと思いますよ。
*集団的自衛権は、戦争に巻き込まれないためのもの
集団的自衛権というのは、戦争ができる国になるのではなく、戦争をしないために、その抑止力を強化するものです。
この点は本当に誤解されています。逆なんです。できるだけ戦争に巻き込まれないためには抑止力を持つ必要があるということで、集団的自衛権を最小限の範囲内で認めようという方向でいま動いているわけです。
例えば、米国がイラクで戦争をやるとしても、日本は行きません。これは安倍さんも言っていますし、私たちも絶対に認めません。どういう時に自衛隊は出ていくのかということをきちんと歯止めをかけなければいけませんから、これから法律を改正する中でしっかりと書き込む予定です。
日本の安全には直接的には関係ないような海外での紛争や戦争には絶対に出さないということを明文化しておかなければいけないと私は思います。
それと、これも誤解されているんですが、集団的自衛権で自衛隊が動くためには、法律を改正しなければならないんです。全部で10本を超える法律、自衛隊法や周辺事態法、PKO協力法などを改正しなければならないわけで、安倍さんが1人で決められるものではない。
新聞報道を見ていると、内閣の独断ですぐにできると、そしてすぐにでも自衛隊を海外に派遣できるというようなことが書いてありますが、そうではありまません。
*中国の台頭で変化した地域バランスにどう対応するか
確かに憲法の解釈は何十年も続いてきました。集団的自衛権はできないと。しかし、その間に国際情勢、とりわけ近年この地域の国際情勢は大きく変わりました。
特に中国は経済的に世界第2位になり、この10年間で軍事費を4倍に増やしている。中国の軍事費は表向き10兆円ですが、中国の数字はインチキですから実際にはもっと多い額です。それに対して、日本の軍事費は5兆円以下です。
中国はそれで自信をつけたもんですから、尖閣だけではなく、南シナ海などにちょこちょこ仕掛けているわけです。そういう覇権主義的な体質を極めて帯びた国です。また、北朝鮮も核ミサイルの開発に余念がありません。
一方で、この地域で圧倒的な力を持っていた米国はどんどん軍事費を減らしています。いままで日本が平和だったのは、力のバランスがあったからです。憲法9条があったから平和だったわけではない。この地域は力のバランスがあったから争いに巻き込まれずに済んだわけです。
ですから、いままでのように米国にすべて依存して解決できるという形ではなく、各国がある程度自分の応分の負担をしながら、この地域の平和と安定を守ろう、国民の生命と財産を守ろうという形に持っていかないと、この地域はいままでのような平和を保つことができなくなるということです。
集団的自衛権について、安倍さんが急いでいることは事実です。しかし、安倍さんは政権を取って急に言い出したわけではなく、以前からずっと言っておられた。第1次安倍内閣の時にも、憲法改正手続き法案を改正して、憲法を改正しようとしたけれども、結局できなかった。
今回の動きは、地域の緊張が急速に高まってきたということもあって、とりわけ尖閣の問題で中国が領空侵犯、領海侵犯を繰り返して、南シナ海でも急速に緊張が高まっているという情勢を受けたものです。
加えて、日本の政権は何年という保障がありません。韓国なら5年間、米国なら4年間、政権が保障されています。ですから安倍さんには、自分の政権でぜひやりたいという思いがおありだと思います。そもそも憲法改正については、昭和30年に自民党ができた時から改正すると言い続けている。昨日今日言い出したことではないんです。
*憲法を守って国が滅んでは本末転倒である
憲法について憲法学者の方がいろいろ言われますし、マスコミも言いますが、憲法は何のためにあるかというと、国を守るため、国民を守るためです。
私は小林節先生に限らず、憲法学者の方とはなかなか意見が一致しないんですが、なぜかというと、憲法は国の最高法規であり、憲法はもちろん大事ですが、だけど憲法があって、あとはどうなってもいいということにはならないからです。
憲法の前に国民があり、国がある。憲法を守っていて、国が滅んだらどうなるのか。小林節先生が1992年に『憲法守って国滅ぶ』というタイトルの本を出されました。まさにその通りで、憲法を守るのが大事なのではなく、国を守ることが大事なんです。その国を守る手段として憲法があるわけです。
憲法ができた1947年から70年近くの間に、日本を取り巻く国際情勢は大きく変わりました。もし憲法で安全を守れないということになれば、憲法を変えなければなりません。
ところが、憲法学者は、マスコミもそうですけど、何しろ憲法さえ守っていれば、あとはどうなってもいいというところが多分にあるので、それはおかしいじゃないですかということを私はずっと思っています。
「マット安川のずばり勝負」2014年5月16日放送
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◇ 中国の野心 集団的自衛権の行使容認を「戦争に巻き込まれる」と反対している場合ではない 長谷川幸洋 2014-05-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
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