「維新の会」公開討論会に参加した政治家たちは勉強不足。「竹島共同管理」発言の裏側にある橋下徹大阪市長の「徹底した現実主義」
現代ビジネス2012年09月24日(月)高橋洋一「ニュースの深層」
民主党代表選はひっそり終わった。再選した野田総理の街頭演説は帰れコールがおきて酷かった( http://www.youtube.com/watch?v=ig6i1BVF06Q&feature=youtu.be )。
一方、期待の大きい「日本維新の会」は、9月23日、2回目となる公開討論会を開いた。場所は大阪アカデミア。湾岸の埋め立て地で、大阪の中でもかなり辺鄙なところだろう。周辺には人気も少なく、大阪経済の地盤沈下を垣間見た気がする。
ただ、公開討論会は熱かった。詳しくはネット上の動画をみたほうがいい。今回は、ジャーナリストの田原総一郎が有識者として参加した。国会議員は、松野頼久、松浪健太、桜内文城(以上は前回も参加)にくわえて、今井雅人、谷畑孝の両名が初参加。首長経験者は、大村秀章、斎藤宏、中田宏、山田宏(以上は前回も参加)と、松田直久は初参加した。有識者として田原の他に、上山信一と私。弁護士の野村修也も来ていたが、有識者として議論に参加せず、フロアからみるとのことだった。
■「経済力で世界貢献できるのはすばらしい」
討論の中心は前回持ち越しとなった外交・安全保障問題。これはそれぞれの価値観が表に出やすい。のっけから、橋下徹大阪市長が、具体論でいこうと話したので、もし今、日本維新の会が政権にいたらどういう行動をとるかという、実践論で議論が行われた。
田原さんは人を挑発するのがうまい。橋下さんもそれにのせられていた。新聞報道では、島根県・竹島を巡る日本と韓国の対立について「どうやったら(日韓の)共同管理に持ち込むかという路線にかじをきるべきだ」と述べ、韓国との共同管理を目指すべきだとの認識を示したとされている。しかし、その発言の背景には、徹底した現実主義がある。
その議論の前、日本の学校では近代史が教えられず、竹島を巡る歴史について十分な知識がなく、国民的な動きがでてこないという問題が何人もから指摘されていた。たしかに、歴史の授業では、縄文・弥生時代から始まるが、明治に入るころで授業が終わってしまう。いっそのこと、現代から遡って歴史を教えたほうがいいのではないかとさえ思える。
海外にいると、日本の歴史話をせざるを得なくなる。そのたびに、我が身の知識不足を悲しんだものだ。プリンストン大留学時代、国際関係論の習得がその目的だったがかなり苦しんだ。バーナンキ現FRB議長やノーベル経済学賞受賞のクルーグマンらと、経済学を通じて個人的に知り合いになれたのは幸運だった。しかし一番世話になったのは、国連で活躍した国際政治学者のマイケル・ドイルだった。
私が所属していたプリンストン大国際問題研究センター長のトップで、よく彼の家のパーティに呼ばれた。彼は、民主主義国同士は、情報公開や交渉能力など多くの要因が重なって、戦争をしないという「民主的平和論」の世界的な大家だ。日本の憲法第9条もよく知っていて、日本が(軍事力でなく)経済力で世界貢献できることはすばらしいことだ、いつも言っていた。
■橋下市長の世界観に感じる「民主平和論」
なぜ、私が今回、「民主的平和論」の話をするかというと、橋下市長の世界観の背景にあるのではないかと思うからだ。今回の討論会は政治家の人になるべく多く語らせて、それを記録し、その後の政治活動をチェックするのが、趣旨だ。だから、本来であれば部内会議のものをあえて公開している。そんな場で、橋下市長の背景説明として国際政治理論を講釈しても意味ないので黙っていた。しかし、韓国との共同管理発言を、国際関係論の中で理解するためには、「民主的平和論」が欠かせない。
言うまでもなく日韓はともに民主主義国だ。だから、日本はどのような主張があっても竹島に対する韓国の実効支配を武力で変えることはできない。だから、それを踏まえれば、国際司法裁判所で他国から訴えられた場合に応じる義務が生じる「義務的管轄権」の受諾について外交的に圧力をかけながら決着させ、共同管理に持っていくのが現実的だ。
国会議員はわが国固有の領土と連呼だけするだけではダメで、もっと具体的な動きが必要だと、橋下市長は批判している。今回参加した国会議員の外交感覚はもっと磨かねばならない。
つけ加えれば、共同管理の話を具体的にするのは、日本の経済力が韓国をかなり上回っているときのほうがやりやすい。韓国経済が苦境に陥るのを待つのではなく、日韓で日本が圧倒的な経済力差をつけおくべきだ。そのためには、日韓の為替レートで日本のハンディを何とかしなければいけない(8月20日付け「竹島問題の背景にある日本の「経済力」の衰退。日韓企業の競争力の差を生む「円高」「ウォン安」の構造を変えよ」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33308 )
■「警察官を常駐させればよかった」
公開討論会の議論は、竹島から尖閣諸島へ移った。ここでも、田原さんがいろいろと煽って議論が盛り上がった。尖閣諸島の国有化について、今はそのタイミングかと、橋下市長にぶつけた。9月18日の柳条湖事件の直前にぶつける日本政府の対応はおかしいと橋下市長は答えた。石原東京都知事を悪者にして外交するという老獪さはないのかとも主張した。
私もタイミングは同感だった。民主主義国は国内制度を方便としてよく使い、いい意味での「二枚舌」というのも外交ではよくあるという話をした。「二枚舌」というのは国際的に認められている範囲の話であったが、田原さんは「二枚舌」という言葉に過剰に反応したようだ。
ただし、地方分権を内外に明らかにしている国が、国内取引として私人と地方公共団体が取引しても、国として今の制度ではそれを止める手立てはない。むしろそれを活用したほうがよかったのではないか。国としては、中国に対して仕方ないといいつつ、国内では東京都と内々に手をにぎるわけだ。中国のように、中央の指令が地方までしっかり伝わる国に対してはかなり有効な手段だ。
それなのに、報道によれば、国有化は東京都が購入するのを阻止する唯一の手段だと、日本政府が中国に伝えたというから、あきれてしまう。中国そっちのけで、政府と東京都が競ってしまっては、相手にスキをみせてしまうだけだ。
公開討論会では指摘しなかったが、国が尖閣諸島の地権者と貸借契約を結んだ後に、その延長線上で地権者の相続税物納予約契約でも結んでおけばよかった。そうであれば、自然と国有化が達成できたはずだ。日本政府がアクションを起こすより、いずれ自動的にそうなるとしておいたほうがいい。中国から何か言われても、日本政府としてはあくまで契約を履行するだけだと主張できる。
これと似たような話を橋下市長が言っていた。香港活動家が尖閣諸島に上陸した時、警察が逮捕した。逮捕のために上陸した警察官がそのまま尖閣諸島に居座ればいい。折角公務員が常駐する口実を作ってくれたのだから、うまく活用したらいい。実効支配とはこうした事実の積み重ねが重要だ。ーーこう主張したのである。
橋下市長はなかなかのリアリストであることが今回の討論会ではわかる。残念なのは、参加していた国会議員たちだった。田原さんと橋下市長のやりとりばかりが目立ってしまった。
田原さんの参加でおおきな収穫もあった。私も含めて専門家では当たり前の言葉も一般にはまったく理解されていなかった。維新の八策では、消費税の地方税化や地方交付税の廃止を掲げているが、そこに「地方間財政調整制度」と書いている。
田原さんは、貧しい地方はどうするのかと何回も聞いてきた。私は田原さんのとなりなので、「ここに地方間財政調整制度と書いてある」と耳打ちしたが、それでもしつこく聞いていた。そこで、橋下市長が、「東京、大阪、愛知から地方へカネが流れるとはっきり書く」と言い切った。これで田原さんも納得だ。
私は、財務省らによる消費税の地方税化への反論に対応するに慣れすぎていて、用語を説明なしでいうクセが付いてしまった。反省である。ついでに、よくあるマニアックな反論とそれに対する回答を紹介しておこう。
「消費税を地方税化すると、地方と地方の間にヨーロッパの「国境措置」のような関所をつくらないとダメだ。国の中に関所を作るのか」という批判がよくある。
答えは、そんなもの不要だ。カナダでは州ごとに消費税税率が異なっているが、各州への消費税の配分は各州の経済統計などから計算している。これは同じ国の中なので几帳面にやる必要がないからだ。消費税の地方税化・地方交付税の廃止は、税の地産地消にすぎない。権限を失う財務省や総務省は猛反対だ。彼らが地方分権の抵抗勢力なのである。
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橋下市長:「竹島、共同管理に」
毎日新聞 2012年09月23日 21時38分(最終更新 09月23日 22時55分)
新党「日本維新の会」の代表に就任する橋下徹大阪市長は23日に同市内で開かれた公開討論会で、韓国との対立が深まっている島根県・竹島の領有権問題について、「武力ではひっくり返すわけにいかない。(日韓の)共同管理に持っていくしかない」と発言した。「固有の領土」とする日本政府の主張とは隔たりがあるが、韓国が実効支配している現状を踏まえ、「国際司法裁判所で決着をつける」と主張した。
外交・安保問題をテーマにしたこの日の討論会では、沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題について「(沖縄県名護市辺野古以外の)代替案が僕にはない。(県内移設の場合には)維新の会として県民にお願いに行く」と述べ、日米両政府の現行案を容認する意向を表明した。
また、尖閣諸島への自衛隊常駐について問われ、「反対だ。いきなり常駐すると、現状から飛躍する。静かに対抗措置をとるべきだ」と述べた。【平野光芳】
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