有本香
以読制毒
2024/7/20 09:30
米東部ペンシルベニア州バトラーで13日(同14日)に起きたトランプ氏の暗殺未遂事件から2日がたった。トランプ氏は右耳を負傷したものの、命に別条はなかった。ただ、集会参加者の1人が死亡、2人が重傷を負う惨事となった。
容疑者は、同州在住のトーマス・クルックスという20歳の男。狙撃直後に、大統領警護隊(シークレットサービス)が射殺した。共和党員だったと報じられているが、国際政治学者の島田洋一氏(福井県立大学名誉教授)が、筆者の主宰するネット番組「ニュース生放送 あさ8時!」で語ったところによると、送り込まれた「党員」である可能性もあるという。
容疑者については、車から2つの爆発物が見つかり、自宅からも別の爆発物のようなものが発見され、単独犯だと発表された。容疑者死亡のため、動機や計画の解明は困難だろう。
世界に衝撃を与えたこの事件、日本では特有の反応が見られた。
一報の直後、日本のネット上では、2年前の7月に起きた、安倍元首相の暗殺事件を連想した人が多かったようだ。かく言う私も、聞いた直後、安倍氏の事件が頭に浮かんだ。
「安倍さんのことを思い出して辛いから、今日はトランプさんの事件の続報を追わないことにする」というSNS投稿もあった。
トランプ氏の暗殺未遂から安倍氏を思う日本人の心理に付け込んだ、偽情報も拡散された。撃たれた瞬間、トランプ氏が「旧友である安倍氏の声が聞こえた気がした」と話したというウソ話だ。捏造(ねつぞう)した者の性根の悪さに吐き気を催す。
他方、事件時のシークレットサービスの対応について、「さすが、奈良県警とは違うな」と褒める声が日本のネット上に少なくなかった。だが、これは米国での評価とは雲泥の差がある。
特に、フル装備のライフル銃を持った男が、トランプ氏から至近の屋根にやすやすと上がったこと、男の存在を目視できたはずのスタッフがそれをステージ付近のスタッフに知らせなかったことなどについて、米国内では非難轟々(ごうごう)である。
実業家でX(旧ツイッター)の執行会長兼最高技術責任者(CTO)でもあるイーロン・マスク氏は、他人の非難投稿を引用しつつ、「極度の無能か、あるいは意図的か。いずれにせよ、シークレットサービスの責任者は辞任すべきだ」と投稿した。
マスク氏は事件直後、「私はトランプ氏を全面的に支持し、早期回復を祈る」とも投稿していた。
昭恵夫人にはどれほどの心痛か
すぐに連邦議会でシークレットサービス上層部への追及・糾弾が始まるだろう。そして、気の早い話だが、トランプ氏が大統領に復活すれば、今回の事件の全容は遠慮なく白日のもとにさらされるにちがいない。そうなれば米国のシークレットサービスの評価は、2年前の奈良県警どころではなくなる。
トランプ氏の暗殺未遂について、TBS系報道番組の女性キャスターが不穏当な発言をしたことも話題になったが、もはやこれに触れるのはよそう。思い出すだけでもバカバカしい。
代わりと言っては何だが、安倍昭恵夫人が14日、Xに投稿した写真に触れておこう。
第2次安倍政権の頃、国会議事堂の土産品として売られていた「晋ちゃんまんじゅう」などのパッケージが並んだ写真。「懐かしいものが色々出てくる…」という、昭恵さんの言葉が添えられている。
蜜月と言われた安倍、トランプ両氏の会談に常に付き添っていた昭恵さんにとって、トランプ氏狙撃の報がどれほどの心痛を伴うか。察するに余りある。
日米の偉大なリーダーを狙い、民主主義を脅かす卑劣な犯罪の全容が、両国で完全に暴かれることを改めて強く希望する。特に「安倍氏暗殺の闇」は徹底的に解明されねばならない。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です