12年ぶり復活勝利の中日・松坂大輔が貫いた「美学と流儀」
2018/5/1(火) 5:00配信 THE PAGE
12年ぶりに復活勝利を手にした松坂が貫いたものとは?(写真資料・黒田史夫)
中日の松坂大輔(37)が4241日ぶりとなる「特別なウイニングボール」を手にした。今季3度目の先発となった30日の横浜DeNA戦で6回を投げ8四死球と制球が乱れたものの3安打1失点と粘り、チームの連敗を4でストップ、NPBでは2006年9月19日のソフトバンク戦以来となる勝利を挙げた。NPBで109勝目、日米通算で165勝目となる復活の白星だった。
GWにレジェンド。ナゴヤドームは今季最高の3万6606人のファンで膨れあがった。1球、1球のボルテージが上がったのが、3-0のリードで迎えた5回だった。松坂に12年ぶりの勝利投手の権利が入る大事なイニングであることを場内の誰もがわかっていた。
だが、そうや簡単に、その権利を与えてはくれない。
絶対絶命のピンチ。
5回。3つの四球で一死満塁として、セの現在、最多本塁打のロペスを迎えた。外のカットで誘い、ロペスはバットの先。三塁へのゴロは福田永将から本塁へと渡り封殺した。続く打席には、ここまで2安打されている昨年の首位打者の宮崎敏郎である。
松坂は厳しいコースをつきストレートで押し出しの四球を与えてしまう。2点差……。 だが、これは計算づくの四球だった。
松坂の回想。
「ランナーを貯めて宮崎。最悪、ああいう形(押し出し四球)でも仕方がない。ああいう形の方が最小失点に終わるんじゃないか」
ヒット、長打での大量失点よりも押し出し四球での1失点。松坂のキャリアが導いた究極の選択だった。
続く梶谷隆幸には、外へチェンジアップを落とした。打ち気にはやる梶谷は、それをひっかけてファーストゴロ。1失点でピンチをしのぐ。
そのコメントを試合後に聞いた森監督さえが「フォアボールの押し出しの1点より、打たれての2、3点(を避ける)。そういうのを考えられるのが他にいるか? 奴らしい」と感心した。
松坂の勝てる投手の流儀だった。NPBで、数々のタイトルを獲得、メジャーでも世界一になった日米の20年に及ぶキャリアはダテじゃなかった。
球数は100球に達していた。ベンチに帰ってきた松坂のところへ森監督がやってくる。 「もういいだろう?代わろう」
過去2度の登板で好投しながら勝てなかったことへの森監督の「勝利投手の権利をもったまま代えたい」という温情采配だったが、松坂は続投を志願した。
「まだ投げたい気持ちありましたし、投げることしか考えてなかったんです」
森監督は5回裏に松坂の打席で代打を送らなかった。
6回、また四球と振り逃げで走者を背負う。だが、二死一、二塁から大和をライトへの飛球。初めてライトの守備に入ったモヤの足がおぼつかず、ヒヤヒヤとさせたが、下がりながらキャッチ。その瞬間、松坂は天を仰ぎ、そして笑った。
ベンチに帰ってきた松坂に再び森監督が、「もう一回いけ!」と声をかけると、今度は「もういいです」との返事が返ってきたという。
「行けと言えば逆を言う。そのへんが奴らしい。先発は5回でなく、120球近く投げねば、という考えが奴にはあるんだろうね。リリーフも使いたくないかも」
森監督が松坂が持つ先発の美学を明らかにした。
この日の114球の内訳を見るとストレートが29パーセント、カットが43パーセント、スライダーが11パーセント、チェンジアップが10パーセント、カーブ、シュート、フォークが数球という割合だった。
「連敗を止めるために飛ばしていった」と松坂が言うように、スタートから打者一回りちょっとは、ストレートを中心に組み立てて力で押していった。1回のストレートの割合は63パーセント、2回は40パーセント、3回は48パーセントもあった。3回、戸柱恭孝のバットを折ってショートフライに打ち取ったストレートは今季最速の147キロを示した。だが、5回、6回は、それぞれストレートはたったの1球ずつしか投げていない。
序盤にストレートを意識させる布石を打っておいた。その上で6種類の変化球を使い、打者に何がくるかを絞らせない。
8四死球に対して「フォアボールも非常に多くて、僕らしいといえば僕らしい」と、松坂は反省していたが、その荒れ球が逆に功を奏した。ラミレス監督が「ストライクゾーンは積極的に振って行こう」と指示していただけに、なおさら動くボールに手を出してくれた。配球を考え尽くした技巧派・松坂のニュースタイルは、ことごとく横浜DeNA打線のバットの芯を外していった。
森監督は「内容は、今回が一番悪い。中10日か、投げすぎかわからないが、いい状態ではなかった」という。4月19日の阪神戦で、今季最多の123球を投げ、中10日と間隔を詰めた影響があったのかもしれないが松坂は、経験と頭を使って、そこをカバーした。
横浜高校の後輩、筒香嘉智との対戦では、勝負師の一面も見せた。
第1打席は、144キロのストレートを見せておいてチェンジアップを外に落としてレフトフライ。3回二死一塁で迎えた第二打席では、徹底してストレートで押した。結果、カットボールが指にひっかかって四球を与え、この日は、3打席で2つの四球を与えることになったが、18.44メートル間の戦いで、後輩にメッセージを伝えた。それも松坂が37歳になっても貫き通す美学だろう。
「チームが(4連敗で)苦しいときに、これだけたくさんの人に入ってもらった中、久しぶりの勝利を味わうことができて最高です。ものへの執着心はあまりないんですが、今日のウイニングボールは特別なものになりました」
記念のボールは苦難の時代を支えてくれた妻へ贈るつもりだという。
強面の森監督も感激していた。
賛否がある中、「もう限界」「肩は壊れている」と噂のあった松坂の獲得を決断。故障していた右肩の状態に常に配慮しながら、その復活ロードを支えてきた。4連敗中で、先発ローテーの一人であるジーが血行障害の疑いで帰国するなどのチームの危機に、その松坂が価値ある勝利を挙げたのだ。ただの1勝ではない。
「やつにとって凄い勝利。うちにとってもね。連敗中だったし、2けた(今季10勝目)になった勝利。9連戦の中で松坂で勝てた。選手も松坂のためにという思いもあったのだろう」
復活の2文字を刻み、止まっていた松坂の時計の針が再び動き始めた。
「チームも僕もまだまだです。今日の日をきっかけにチームも僕ももっともっと上へ行けるように頑張っていきたいと思っています。今後? 間隔を詰めて投げていきたい。(登板は)監督が決めることだが、ひとつも負けたくない。理想としては、できるだけ多く勝ちたい」
松坂は、中13日、中10日と、少しずつ登板間隔を短縮してきたが、さらにスパンを短くすることを希望している。中6日のローテーで回るのが本人の理想だ。
だが、無理をして右肩痛を再発させたら元も子もない。
元巨人の評論家、鈴木尚広氏も、「ローテーに入ると、肉体への負担が増す。ほぼ3年間、何もやっていないことを考えると、調整を万全にスポットで回っていくほうがチームにプラスではないか。それで、5、6勝すれば、十分に1年目の役目は果すことになると思う」との意見。
まだ中6日でローテーに入れる決断は時期尚早かもしれない。
ただ松坂には、観客動員力やチームをひとつにまとめる特別な力があり、その存在感は数字だけで計り知れない。この日も、場内インタビューの最後で、「僕が投げるとき、たくさんの方に来てもらって感謝している、僕が投げる試合だけでなく、他のピッチャーが投げる試合にもたくさん来ていただければ」と、場内のファンに呼びかけた。これもまた松坂世代のリーダーの流儀である。
最終更新:5/1(火) 9:15 THE PAGE
◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です *強調(太字)は来栖
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〈来栖の独白 2018.5.1 Tue〉
やはり松坂大輔は、際だってすごい。おっとりした風貌からは窺い知れぬ、頭脳のピッチング。ピッチャーというのは、頭脳だ。そして
>僕が投げる試合だけでなく、他のピッチャーが投げる試合にもたくさん来ていただければ
心が深い。無駄に歳をとってはいない。
森監督、心からホッとしたことだろう。
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