検証・裁判員制度:判決100件を超えて/2 審理尽くされたか

2009-12-18 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴
検証・裁判員制度:判決100件を超えて/2 審理尽くされたか
  ◇苦戦する弁護人「組織力の違い感じる」 迅速さと公正さ「両立難しく」
 「判決前夜は自分のうめき声で目が覚めた。迷いがあったんでしょうね」。11月、大阪地裁の覚せい剤密輸事件で裁判員を務めた一人が取材に答えた。被告が無罪主張した初のケース。被告の女性(53)はスーツケースに入れて密輸したとされるが「違法薬物が入っているとは認識していなかった」と否認した。
 初公判から3日後、有罪が言い渡された。元裁判員も結論には自信がある。それでも「評議の時間が足りなかった」と感じている。疑問が残ったのは検察官作成の被告の供述調書。「あんなに理路整然と話せるわけがない。取り調べの様子を録画映像で見たかった」
 被告が無罪主張する裁判はほかに千葉、さいたま両地裁で各1件審理され、いずれも有罪となった。さいたまの強盗傷害は休日を含む12日間で審理と評議に7日を費やし最も長い日数となった。男性裁判員は記者会見で「3日目まではほとんど意味が分からず、7日間は妥当。他の裁判が3日で終わるのが信じられない」と述べた。
 被告が起訴内容を認めた審理が先行した8~10月。裁判員経験者に対する最高裁のアンケートでは、評議の充実度について「十分に議論ができた」との回答が78・6%に達した。しかし、検察、被告双方が争う審理も始まり、裁判員の負担を減らすための迅速な審理と、公正な審理に必要な時間の確保という課題をどう両立させるのか、難しさが次第に浮かび上がる。
   ◇
 「当事者以外の証言が聞ければ良かったが……」。東日本の裁判所の評議室で、裁判員数人がうなった。金銭トラブルから被告が知人を刃物で刺した事件。焦点は執行猶予を付けるかどうかだった。法廷では借金返済を強く求められ「追い詰められた」という被告側と「追い詰めていない」との被害者側の証言が平行線をたどった。
 実は弁護人は、公判に先立ち、被告と被害者双方を知る立場の、被告の職場上司に証人出廷を求めていた。上司は「まじめで職場の評判も良い」と被告を評価していた。だが「会社の名前が出たら困る」と出廷を断られた。「裁判員裁判だと注目されるし、(地域の)市民も法廷にいる。(証言を)嫌がる人は増えると思う」と弁護人。判決は実刑だった。別のベテラン弁護士も「裁判所はとにかく迅速さを求める。警察、検察は組織で動けるが限られた時間で被告に有利な証拠や証人を探すのは難しい」とこぼし、苦戦する弁護人の姿が垣間見える。
   ◇
 法廷で、主張を分かりやすく立証する「プレゼンテーション」の力量も、全庁を挙げ研修、研究を重ねてきた検察側と比べ、弁護士の劣勢は否めない。最高裁のアンケートでは、検察側の説明について裁判員の82・5%が「分かりやすかった」と回答したのに対し、弁護側は58・4%にとどまっている。
 神戸地裁で裁判員を務めた会社役員の男性は判決後、疑問を口にした。「検察と弁護人で組織力の違いを感じた。否認事件だったら本当に公正に判断できるだろうか」=つづく
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 ◇裁判員81%「評議話しやすい」
 10月末までに全国で行われた被告47人の裁判員裁判について最高裁がまとめた統計によると、結審後に行われた評議時間の平均は6時間12分。起訴内容を全面的に認めた事件の平均は5時間51分、殺意や適用罪名など一部を争った事件の平均は9時間11分。評議が10時間を超えたのは4人。最高裁のアンケートでは、裁判員経験者の81.7%が「評議は話しやすい雰囲気だった」と回答。審理内容が理解しやすかったと答えたのは72.8%だった。
毎日新聞 2009年12月18日 東京朝刊

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