〈来栖の独白 2015/11/5 Thu.〉
本日は名古屋能楽堂。前から楽しみにしていた能『俊寛』。『日本古典文学全集 謡曲集(2)』(小学館)から、最も心に響く部分を少しだけ転写。
シテ 玉兎昼眠(ぎょくとひるねむ)る雲母(うんぽ)の地、金鶏夜宿(きんけいよるしゅく)す不萌(ふばう)の枝(し)、寒蝉枯木(かんせんこぼく)を抱(いだ)きて、鳴き尽して頭(かうべ)を回(めぐ)らさず。俊寛が身の上に知られて候。
地謡 五衰滅色(ごすいめっしき)の秋なれや、落つる木(こ)の葉の盃(さかづき)、飲む酒は谷水(たにみず)の、流るるもまた涙川(なみだがわ)、水上(みなかみ)はわれなるものを、物思ふ時しもは、今こそ限りなりけれ。
地謡 〈*〉時を感じては、花も涙を灌ぎ濺(そそ)ぎ、別れを恨みては、鳥も心を動かせり。もとよりもこの島は、鬼界が島と聞くなれば、鬼ある所にて、今生(こんじやう)よりの冥途なり。たとひいかなる鬼なりと、このあわれなどか知らざらん。天地を動かし、鬼神も感をなすなるも、人のあわれなるものを。この島の鳥獣(とりけだもの)も、鳴くはわれを訪(と)ふやらん。
〈*〉「国破山河在、城春草木深、感時花濺涙、恨別鳥驚心」
地謡 五衰滅色(ごすいめっしき)の秋なれや、落つる木(こ)の葉の盃(さかづき)、飲む酒は谷水(たにみず)の、流るるもまた涙川(なみだがわ)、水上(みなかみ)はわれなるものを、物思ふ時しもは、今こそ限りなりけれ。
地謡 〈*〉時を感じては、花も涙を灌ぎ濺(そそ)ぎ、別れを恨みては、鳥も心を動かせり。もとよりもこの島は、鬼界が島と聞くなれば、鬼ある所にて、今生(こんじやう)よりの冥途なり。たとひいかなる鬼なりと、このあわれなどか知らざらん。天地を動かし、鬼神も感をなすなるも、人のあわれなるものを。この島の鳥獣(とりけだもの)も、鳴くはわれを訪(と)ふやらん。
〈*〉「国破山河在、城春草木深、感時花濺涙、恨別鳥驚心」
本日の着物は、薄黄色の紬に千代田(衿)のコート(晩秋の紅葉色)。
いつも地下鉄市役所駅から能楽堂(中区三の丸)へ向かうが、15年前までは、正反対(東区白壁)へ向かっていた。あの頃に対する今の私の隔絶感は、とても15年という歳月どころではない。半世紀、五十年ほども経たような気がする。
能楽堂へ向かって歩きながら、必ず一度は振り返る私だが、途方もなく広い川を挟んで「白壁」を望み見るような心地・・・。15年の歳月が、遠い遠い過去のようだ。
本日の『俊寛』。囚われて、鬼界が島に独り残された悲嘆、絶望。「白壁」も云ってみれば「鬼界が島」かも知れぬ。
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◇ 能「俊寛」 シテ:久田勘鷗 / 狂言「入間川」 シテ:井上松次郎
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