オランダ安楽死~ある家族の決断 2018/6/6

2019-03-18 | Life 死と隣合わせ

2018年6月6日(水)BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING
オランダ 安楽死~ある家族の決断
 末期のがんに侵された、20代の男性です。彼は今年(2018年)、あることを決意しました。
 「自分が決める瞬間に死ねたらいい。それが僕の信念だ。そうしたいんだ。」
 「安楽死」を選択したのです。
 今、世界で、安楽死をめぐる議論が起きています。容認する意見がある一方で…。
  「安楽死にNOを!生きるにYESを!」「命の尊厳が損なわれる」と、根強い反対もあります。
■「命の選別が起きてしまう!」
 なぜ今、人々は安楽死を希望し、そこでは何が議論になっているのか。安楽死が最も多いオランダで、ある家族の選択を取材しました。
■議論高まる 安楽死
花澤「今、『安楽死』をめぐる議論が欧米を中心に起きています。」
酒井「その背景には、医療技術が進歩し、延命期間が長くなる一方、耐えがたい痛みや苦しみから解放されたいと望む人が増えていることがあるとみられています。」
松岡「安楽死には、大きく分けて『積極的安楽死』と『消極的安楽死』の2つがあります。いずれも、病が進行し、治療が困難と医師から判断された人が対象となります。

  

 『積極的安楽死』は、致死量の薬物を、医師か患者自身が用いて行うものです。
 一方の『消極的安楽死』は、それまで続けていた延命措置をやめることです。
いずれもあくまで本人の意思が尊重されますが、現在の日本では認められていません。
 そして今、議論になっているのが『積極的安楽死』です。積極的安楽死は、戦後長らく、スイスでしか認められていませんでした。しかし、90年代にはアメリカ・オレゴン州で合法化。さらに2000年代に入ると、オランダ・ベルギー・ルクセンブルク、アメリカの5つの州でも合法化。最近では2年前にカナダが、そしてオーストラリアの一部の州でも、来年(2019年)から認められることになっています。
 その一方で、『命の尊厳が損なわれる』『適切な治療が行われなくなる』、さらに『安楽死の強要につながりかねない』などの反対意見も根強く、合法化に慎重な国も多く存在します。そうした中、2002年に合法化したオランダでは、年々、安楽死を選ぶ人が増えています。
 去年(2017年)の安楽死の件数は、6,306人。世界で最も多い数で、オランダ国内の死因の4.2%を占めます。
 なぜ、安楽死を選ぶのか。1人のオランダ人男性を取材しました。」
■オランダ 安楽死 ある家族の選択
リポート:酒井章行ディレクター(国際報道2018)オランダ・北ホラント州。ここに、1人のがん患者がいます。
「今日の調子はどうですか?」
「気分がいいです、今のところは。」
 シベ・ウィッテブロードさん・29歳。5年前、小腸にがんが見つかりました。がんはその後、全身に転移。医師から治癒の見込みはないと診断され、今は自宅で療養を続けています。そして今年3月、「安楽死」を申請。 認められました。
シベ・ウィッテブロードさん「私は死ぬ瞬間を恐れていません。 死に抵抗があるのは自然なことでしょうが。」
 この決断に至るまで、家族や医師たちと「命」をめぐる議論を重ねてきました。
 音楽好きの両親の元で育ったシベさん。10代のころは演奏家を目指すほど、音楽にのめり込みました。 音楽を通じて知り合ったエルスさんと、5年前に結婚。幸せな生活でした。
 ところがこの頃、すでに病はシベさんの体をむしばんでいました。がんが進行していると医師から宣告されたのです。
 「心の準備をしていなかったので、ぼんやりしながら宣告を聞いたと思います。エルスが悲しんでいたことを覚えています。」
 治療を続ける中、2年前、長男のティン君が産まれました。家族とともに病と闘おうと決めました。
妻 エルスさん「私たちは、病気のためにいろいろなことを諦めてしまうことを望んでいませんでした。だからやりたいことをしようと思ったんです。未来に向かって前向きに生きようと。」
 ところが、がんの進行は止まりませんでした。摘出手術を受けた後も、全身に転移。 抗がん剤も効果を上げず、苦痛で眠ることもできなくなりました。そして今年に入り、安楽死を真剣に考えるようになりました。
シベ・ウィッテブロードさん「家族が周りにいるのに、パニックとストレスの中、死を迎える。そんな最期は嫌だと思いました。運命が最期の瞬間を奪うのではなく、自分が適切だと思う瞬間に逝きたい。」
 安楽死の決断を、エルスさんに相談しました。エルスさんは激しく動揺しました。
妻 エルスさん「正直、現実感がありませんでした。まさか自分の周りで起こるなんて。でも、その時のシベはいつもの彼ではなく、『治療がつらすぎる』と私に言ったのです。」
 苦痛にさいなまれ、やつれていく夫の姿。エルスさんは、その意思を尊重せざるをえませんでした。そして今年3月、2人で「安楽死」を申請しました。
 オランダの安楽死の審査の仕組みです。
 誤った判断で安楽死が認められることがないよう、必ず2人の医師から判定を受けなくてはなりません。
 判断の基準となるのは、「患者が自主的に安楽死を望んでいるのか」「耐えられない苦痛があるか」「他に治療の方法がないことを医師と患者が確信しているか」などです。
 すべての要件が満たされると、安楽死が認められます。
 そして、いずれかの医師がそれを実行します。
 夫婦がまず判断を仰いだのが、地元の医師・パルスさんです。
 病気やケガをするたび、家族ぐるみで世話になってきた医師でした。パルスさんは、シベさんの安楽死の要件は満たされており、資格はあると判断しました。
 しかし、「自分には安楽死を実行できない」とシベさんに伝えました。耐えられないと感じたためです。
医師 アルベルティンヌ・パルスさん「彼はまだ若いですし、私にとって身近な存在です。その死の責任をとるのは、私には難しいと感じました。もし実行すれば、彼の死に手を貸したと後悔する可能性もあると思い、断ったのです。」
 もう1人、判断を仰いだのは、緩和ケアの専門医でした。この医師も、シベさんは安楽死の要件を満していると判断。
 もし最後までシベさんの気持ちが変わらなければ、安楽死を実行すると約束しました。ただし、自然に死を受け入れる選択肢も最後まで捨てないよう、アドバイスしたといいます。
医師 イヴォンヌ・ヴァン・インゲンさん「できれば自然死を選びたいというのが、彼の本当の思いなのです。安楽死ありきではなく、さまざまな手を尽くした末に患者を解放する。それが究極の緩和ケアなのだと私は考えています。」
 残された時間が少なくなる中、シベさんは家族と過ごす時を大切にしています。
そして次に激しい痛みが襲って来たとき、自ら決断を下す覚悟です。
シベ・ウィッテブロードさん「自分の人生の終末期を自分で管理できるのは、とても大切なことです。僕には今、家族や友人とお別れをするかけがいのない時間ができたんです。」
■議論高まる 安楽死
酒井 「取材にあたった酒井ディレクターです。
 安楽死に対して、シベさん自身は明確に自分の意思を示していましたが、周りにいる人たちも重い選択を迫られていましたね。」
酒井章行ディレクター(国際報道2018) 「もちろんシベさんも、初めは妻や子どもを残していくことに悩んだそうですが、今は気持ちに整理がついたと話していました。 一方で妻のエルスさんは、夫の考えを尊重しながらも、今でも安楽死の選択は本当に正しかったのか、心が揺れていると話していました。
 さらに、判定を下し安楽死を実行する医師も、責任の重さからそれを断るといったこともありました。
 本来、命を救うはずの医師が安楽死を実行するわけですから、医師によっては耐えられないという人がいることも理解できます。
 オランダでは、年間6,000件を超える安楽死が認められていますが、その一つ一つにこうしたたくさんの葛藤があるのだということを改めて感じました。
 合法化されたからといって、決して簡単に解決することができない、深く重い議論を要する課題だと思いました。」
■安楽死 各国の対応は?
花澤 「安楽死を合法化しようという流れは、今後、世界で広がりを見せるのでしょうか?」
酒井ディレクター「確かに合法化する国は現れていますが、根強い反対意見もあります。
 例えば、カトリック教徒が多いポルトガルでは『命が軽んじられる』と、先月(5月)、安楽死合法化の法案が僅差で否決されました。
 フランスでも議論は盛んですが、国として安楽死は認めていません。
 そしてドイツでは、かつてナチス時代に『優生思想』の下、障害者やマイノリティーが虐殺された経験から、安楽死を受け入れることに対しては非常に慎重です。
 また、すでに合法化を決めたオランダでも、議論となるケースが相次いで報告されています。
 例えば、実行の時に本人の意思の確認が難しい認知症の高齢者や、幼い子どもに安楽死が許可されたというケースもあります。」
■安楽死 日本での議論
酒井 「日本ではどこまで議論が進んでいるのでしょうか?」
酒井ディレクター「日本はまだ慎重な意見が多く、欧米ほど議論は進んでいません。
 ただ、延命治療の中断を認める仕組みについては、超党派の国会議員が検討を進めていますが、法案の提出にはまだ至っていません。
 しかし、いずれ日本も、この問題に真剣に向き合わざるを得ない時が来ることは間違いないと思います。
 そのためにも、すでに安楽死が認められている国々で、何が問題となり、どういったことが議論されているのか、今から注目しておく必要があるのではないでしょうか。」

 ◎上記事は[NHK - WORLD WATCHING-]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖
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