「人工透析を続けるか? 中止するか?」「抗がん剤をするか? しないか?」など、直近の治療方針を問われることが多いが 2019/6/24

2019-06-25 | Life 死と隣合わせ

「人工透析中止を望み、死亡」 波紋大きく 福生病院の事例、 医学会は判断支持

2019/6/24 11:00  西日本新聞  医療面

 今年3月、東京都の公立福生病院で女性患者=当時(44)=が人工透析を取りやめて死亡していたことが明らかになり「透析中止は適切だったか」と議論が起こった。日本透析医学会は5月末、透析をやめるとした女性の意思は固く「その意思が尊重されて良い事案」と病院側の判断を支持する調査結果を公表した。一連の議論は、現場の医師や患者にどう受け止められ、透析の在り方にどう影響していくのか。

●複数の選択肢と丁寧な説明を 人工透析を23年間受けた 森田満希子さん
----福生病院の透析中止を巡る一連の報道や今回の日本透析医学会の声明をどう受け止めたか。
 「私も透析をやめたいと思ったことが何度もあるので、人ごとだとは思えなかった。声明を読む限り、患者の家族の聞き取り調査などはされていないようだ。病院側の情報のみに基づいて“患者不在”の状況で調査し、議論することにどんな意義があるのか疑問を感じる」
 「声明で分かることは限られているが、この透析を中止した44歳の女性は、冷静に判断できる精神状態だったのだろうか。精神的に追い詰められた上での申し出ならば、そう発言するに至った背景にこそ、目を向けてほしい。初めから透析を導入しないという選択は余命がわずかながんなどの終末期のケースに限るべきだと考える」
----どんなときに透析をやめたいと思ったのか。
 「透析が壁となって仕事が見つからず、経済的な自立が難しかった。これからも家族や医療関係者の世話になると思うと苦しく、やめたいという考えにつながった。医療費削減の文脈で語られる“透析バッシング”も、世間から『生きるな』と言われているように感じてつらかった」
----今回の声明では「医療者側の理解と、患者さん側の理解にはまだまだ大きな隔たりがある」と指摘されている。
 「透析の中止も含めた治療の方針については、信頼できる医師から複数の選択肢やそれぞれのメリット、デメリットについて丁寧に説明してもらうことが一番大事だと考える」
 「私も経験したことがあるが医師に冷たい言い方をされると、患者は二度と心を開けなくなってしまう。医師の一言は患者にとって影響力の大きいものだということを理解してほしい」
----医師との信頼関係。これがなかなか難しい。
 「現在の病院の体制にも問題があると思う。医師は忙しすぎて、1人の患者としっかり向き合う余裕がない。看護師の裁量でできることを増やし、医師の負担軽減を考えてもいいのではないか」
  腎不全で21歳の時に人工透析を始め、44歳で腎移植を受けるまで続けた。現在も定期的に通院中。九州大大学院で「環境と医療政策」を研究。57歳。

●判断材料あれば医療の負担減 長崎腎病院理事長 船越 哲さん
----長崎腎病院では2008年以降、透析中止が10例、そもそも透析を開始しない非導入が6例あった。
 「本人や家族の要望を受けて、主治医や精神科医でつくる倫理委員会で議論している。『意思は明確か』『抑うつ状態ではないか』『主治医以外の医師の賛同を得たか』など、10項目の独自のチェックリストを満たしているか、慎重に見極めている」
----日本透析医学会は本年度中に透析中止などに関する新たな提言をまとめる。求めることは。
 「意思疎通ができなくなったときに備えて治療の方針を記しておく事前指示書については『原則として取得しておくこと』といった強い表現で言及してもらいたい。そうすればもっと普及するはずだ」
 「実際に中止や非導入を考える場合、患者や家族の精神状態や病状などの検討すべき項目が具体的に示してあれば、難しい決断を迫られる現場の負担は少し軽減されるのではないか」
----事前指示書の取得に力を入れている。
 「当院では入院患者の95%以上から取得している。そのうち、終末期に透析の継続を望まないという人は6~7割に上る。ただ、中止を望む意思をどう実現するのか、難しい面もある」
----どう難しいのか。
 「本人と意思疎通ができなければ、家族に『その時が来た』ということを伝え、本人の意思を踏まえた上で、決断してもらわないといけない。家族も冷静沈着ではいられずに『病院にお任せします』と言うことが多いが、私たちが決めるわけにはいかない。日頃から家族とも信頼関係を築いておくことの重要性を感じる」
----透析中止や非導入は死に直結する。関わる医療者は精神的につらいのでは。
 「透析中止の判断を議論する会議には僧侶も加わっている。看護師が『死ぬのは怖いことでしょうか』と尋ねると、僧侶は『死ぬことは悪いことばかりではない。苦しみから逃れられる救いもある』と答えた。その言葉をずっと胸に留めている。責任の重い仕事だが、その人らしい最期を迎える手伝いをしていきたい」
 東京慈恵会医科大卒。東長野病院内科医長、米国立衛生研究所研究員などを経て、2011年から現職。日本透析医学会指導医。66歳。

 公立福生病院の人工透析治療を巡る問題では、中止の意思確認や医師の対応が適切だったかに注目が集まった。
 日本透析医学会が公表した声明では、福生病院への聞き取り調査などを行った結果、透析治療を中止した女性=当時(44)=について「患者さんが自ら透析終了の意思を表明している」「透析終了の真摯(しんし)な意思は明らか」と判断。病院の対応を支持した。
 女性には重い合併症があり、不具合が起きた透析用器具を付け直すことができなくなったという。死に至るまでに重い呼吸困難を伴っていることから、「緩和ケア体制の構築も重要な課題」と指摘した。
 この女性以外の透析を中止した4例、透析を初めから受けなかった19例についても「主治医から持ちかけられたものでなく、本人もしくは家族の意思であった」とした。
 一方で、患者と医療者の理解には隔たりがあることから、患者に分かりやすい言葉で繰り返し説明を行い、その内容をカルテに残しておくことの重要性を強調。意思の変更はいつでもできることを、きちんと説明するよう促した。
 声明では、透析中止の際の意思決定の在り方などを示した2014年公表の提言について「現在の医療状況にそぐわない点がある」と言及。19年度中に新たに作成するとした。終末期ではない患者の意思決定のプロセスなどがより具体的に盛り込まれるとみられる。

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●「患者の人生」あってこその治療方針 松田純 静岡大特任教授・名誉教授(生命倫理学)
 生死に関わる問題こそ、人の心は揺れ動く。いったん決めたことは変えられないとするのではなく、基本はころころと変わる心に寄り添うべきだ。
 事前指示書は書いた時点の意思であり、最優先すべきは目の前の本人の意思。意識がもうろうとしたり、認知機能が衰えていたりすれば、意思をくみ取るのは非常に難しいが、専門職にはその努力が欠かせない。
 そのために同意のプロセスが重要になる。インフォームドコンセント(十分な説明と同意)とは書類に署名させることとの誤解が広がっているが、入院していれば毎日、週1回の通院なら毎週、行うべきものだ。
 医療の目的は「病を完全に治す」から「治し、癒やし、支える」ものにすべきではないか。完治できない疾患も少なくない中、患者はどういう状態、どんな暮らしを望んでいるかを重視した方が良い。
 日本では「人工透析を続けるか? 中止するか?」「抗がん剤をするか? しないか?」など、直近の治療方針を問われることが多いが、本来はそれぞれの人生の物語に基づいた医療・ケアの“目標”を決めてから、治療方針が決まるのではないか。目標は患者本人が決めるしかないが、医療者は突き放すのではなく、基本的な知識と支援策を提供し、安心感を与え、決断を手助けする役割が求められている。
 終末期に限らず、絶えず話し合いを重ねることがますます必要とされる。今回の事案を教訓に、全ての医療・介護の現場に、同意のプロセスを重視する姿勢を浸透させてほしい。(談)

    ◎上記事は[西日本新聞]からの転載・引用です

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「透析中止の意思尊重」=福生病院側の対応に問題はなかった 日本透析医学会 2019/6/1


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