産経WEST 2015.9.21 07:00更新
【漂流の果て-大阪・中1殺害事件(上)】裏切った再出発の誓い 「13年前と何一つ変わってない」
「人生をやり直したいんです」。男は今年1月、初対面の50代女性の顔をじっと見つめ、そう懇願した。女性の目には、ひたむきで実直そうに映った。だが今にして思えば、男の本心はどこか別の場所を漂っていたのかもしれない。
女性が大阪刑務所(堺市)に服役している知人男性から「俺の弟分が真面目に働くと誓っている。面倒を見てやってほしい」と頼まれたのは昨年の秋。この男性は、連続監禁事件で受刑していた1歳年下の男と知り合い、養子縁組までした。それが山田浩二容疑者(45)だった。
昨年10月に出所し、姓を変えて再出発した山田容疑者。東京電力福島第1原発事故が起きた福島県内で、放射性物質の除染作業に真摯(しんし)に取り組んでいたはずだった。女性は「助けになってあげたい」と、山田容疑者が帰阪すれば自宅に招いて食事を振る舞った。
だが、期待は最悪の形で「裏切られた」。今年8月、山田容疑者が大阪府寝屋川市立中学1年の少女の遺体を遺棄した容疑で逮捕されたからだ。出所からわずか10カ月だった。
目の前で見せた殊勝な態度とは裏腹の卑劣な犯罪に、女性は言葉を選びつつ、こう言った。
「人間として、最低だ」
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黒いハット帽を目深にかぶってうつむいたまま。姓こそ違っていたが、カメラのフラッシュを浴びて浮かんだ山田容疑者の横顔は、まぎれもなく当時中学生だった息子を襲った男の顔だった。連行される山田容疑者の姿をニュースで見た瞬間、寝屋川市に住む男性の脳裏には13年前の忌まわしい記憶がよみがえった。
「車に入れ」。平成14年3月、山田容疑者は寝屋川市内の路上で中学2年の男子生徒にナイフを突きつけて脅した。車内で手足を縛り、目や口も粘着テープでふさぎ、数時間にわたって監禁した。男子生徒は事件後しばらく、夜中に突然、大声を上げて泣き出すなど心的外傷後ストレス障害(PTSD)と似た症状を発症した。
結局、中高生の少年7人が同様の被害に遭い、山田容疑者が逮捕された。後に山田容疑者の親から手紙が届いたが、読み終えた瞬間、破り捨てた。「謝罪の文言はなく、減刑を求める内容ばかり」だったからだ。追い打ちをかけるように、山田容疑者の弁護人からも慰謝料5万円で減刑を求めるよう依頼された。
「なんで、全く反省もしていなかったこんなやつをまた世に出したんだ」。男性の怒りは収まらない。
* *
山田容疑者は寝屋川市に隣接する枚方市の府営住宅で育った。少年時代にはすでに“漂流”が始まっていたのか、同級生らは「1人でいることが多かった」と口をそろえる。
「これ、盗(と)ってきてん」。山田容疑者は近所の駄菓子屋で万引した商品を見せびらかしたり、自宅から1万円単位で親の金をくすねたりしては、「みんなに食べ物をおごってやる」と自慢げに語った。
急にハサミを振り回すこともあった。小中学校の同級生だった会社役員の男性(44)は「彼は金で人を釣る。危ないタイプ」と語り、別の同級生の男性(44)は「ひとりぼっちだった」と振り返る。
30年を経てもなお取調室で自分の殻に閉じこもる。逮捕当初は「同乗者の男が女の子を殴り死なせた」と供述していたが、弁護士が接見した直後に一変。雑談にも応じず、捜査員と目を合わすこともない。手を膝に置いて下を向き「貝」になったままだという。
13年前の事件で10年以上も獄中で過ごし、一度は人生の「再出発」を誓った山田容疑者だが、捜査幹部は率直にこう語った。
「刑務所で何を学び、反省したのか。犯行の手口だけではない。彼は13年前と何一つ変わっていない」
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中学1年の男女が殺害・遺棄された事件で、山田容疑者が死体遺棄容疑で最初に逮捕されて21日で1カ月。事件の背景を探る。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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2015.9.22 16:00更新
【漂流の果て-大阪・中1殺害事件(中)】解明進まぬ男子生徒の「死」 同級生「なぜ殺されたか知りたい…」
星野凌斗さんの遺体が見つかった現場付近=8月27日午前10時7分(本社ヘリから、寺口純平撮影)
《天国でも元気でね》
メッセージが添えられた千羽鶴が静かに揺らめいていた。21日、大阪府柏原市の山中にある人目に付かない竹林。ちょうど1カ月前、寝屋川市立中1年の星野凌斗(りょうと)さん(12)の遺体が見つかった場所だ。
中学ではテニス部に所属し「楽しみながらテニスをやろう」が口癖。いつも笑顔で人気者だった。
そんな星野さんの死について、まだ誰も刑事責任を追及されていない。大阪府警高槻署捜査本部が逮捕している男の容疑はあくまで、殺害され遺体で見つかった同級生の平田奈津美(なつみ)さん(13)の事件についてのみなのだ。
現場近くの寺で副住職を務める男性(32)は1カ月間、遺棄現場を毎日訪れて読経を続けてきた。この日も静かに手を合わせて冥福を祈り、こう語った。
「真相が解明されなければ星野さんも浮かばれないし、近隣住民の不安も消えることはない」
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8月21日昼ごろ、車を降りた男が、手ぶらでこの竹林に入った。少し離れた場所から捜査員が見つめる。竹林の陰に隠れ、何をしているかは分からない。だが「何か、ある」。
男が車に戻って立ち去ると周辺の捜索を始め、夜になって星野さんの遺体が見つかった。男は山田浩二容疑者(45)。「事件との関与を決定づける行動」(捜査幹部)だった。
半日前の同日午前1時過ぎ、大阪市北区堂山町の駐車場に軽ワゴン車がとまっていた。平田さんの遺棄現場(高槻市)付近の防犯カメラ映像から浮上した山田容疑者の車だった。捜査員はそこから尾行を開始、竹林にたどり着いた。
その後の捜査で、山田容疑者の堂山町での動きも防犯カメラ映像から確認できた。府警が今回の事件で解析した防犯カメラは少なくとも数百台に上る。直接証拠に乏しく、容疑者が黙秘する中、事件の立証には足取りを固めるしかない。
捜査幹部はため息交じりに言う。「空白の時間をなくし、第三者が関与した可能性を排除する。ただ、容疑者が口を開かない限り、真相は分からない」
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「なぜ2人は殺されたのか。答えが知りたい」。平田さんと星野さんの同級生という女子生徒(13)は、黙秘を続ける山田容疑者に怒りをにじませる。
新学期が始まった8月24日、2人の机の上には花瓶が置かれていた。同級生らは2人に語りかけるように水を注ぐ。真相がもやに包まれた状態に、誰もが2人の死を受け止めきれない。
平田さんと親友だった女子生徒(12)は事件後も、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で、毎日メッセージを送っている。
《今何してるー?》
相手が確認したことを示す「既読」の文字が表示されることはない。「既読にならないかな」。女子生徒はスマートフォンを見つめる。
先日、同級生が集まって折り紙に1枚ずつメッセージを書きながら千羽鶴を折った。女子生徒は今の思いを9文字に込めた。
《戻ってきてほしいな》
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2015.9.23 07:00更新
【漂流の果て-大阪・中1殺害事件(下)】深夜徘徊に近づく悪意 「いつでも連絡」薄れる警戒心
「平田さんと遊びに行ってくる」。大阪府寝屋川市立中1年の星野凌斗(りょうと)さん(12)は8月12日午後9時ごろ、家族にそう言い残して家を出た。中1が出歩くにしては時間が遅い。友人らによると、同級生の平田奈津美(なつみ)さん(13)とともに「よく深夜に外をぶらぶらしていた」という。
この深夜、近くのコンビニ前で2人が話し込んでいる姿を40代男性が目撃した。「あの時、警察に連絡していれば事件は起きなかったかもしれない」。男性はため息交じりに話す。
翌13日午前1時過ぎと午前5時過ぎ、2人が京阪寝屋川市駅周辺の商店街を歩く姿が防犯カメラに残っていた。2人は夜通し外で過ごしたことになる。
午前5時8分。商店街の防犯カメラに写った2人は突然立ち止まり、来た道を戻った。「誰かに呼び止められた」(捜査関係者)ようにフレームから消えた。生前の姿はこの映像が最後だった。
* *
警察白書によると、平成26年中に補導された19歳以下の少年は約73万人。うち6割近い約43万人が深夜徘徊(はいかい)で補導されている。
大阪府は、深夜徘徊の割合がさらに高くなる。大阪府警の統計では、今年1~6月には補導全体のおよそ7割にあたる約2万8800人が深夜徘徊で補導され、昨年同期より約3300人も増加した。
「オールナイト徘徊」。教育評論家の尾木直樹氏は、少年少女らが深夜に外出し、街中で一晩中過ごす行為をそう呼ぶ。
なぜ深夜に出歩くのか。「今は24時間営業の店が多く、何より携帯電話で友達とつながっている。その安心感がハードルを下げている」と尾木氏は指摘する。
そして、親の問題もある。「『いつでも連絡がとれる』という考えは親にも蔓延(まんえん)している。メールや(無料通信アプリの)LINEはバーチャルなつながり。過信すると足をすくわれかねない」と警告する。
2人は事件当日も未明まで友人とLINEでやり取りしていた。いつでも、誰とでも、つながっていたはず。だが、事件を避けることはできなかった。
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思春期特有の冒険心、家庭内のトラブル…。深夜徘徊の理由はさまざまだ。
「子供が何を考えているのか、大人は常に注視しないといけない。真剣に向き合えば子供も応えてくれる」。同府警の元少年補導員で、今も夜の繁華街で少年少女らに声をかけ続ける野沢征子さん(73)はそう訴える。
同府北部のある公共施設では、2年前から夜間に中高生の受け入れを始めた。多い日には10人ほどが集まる。中学2年の男子生徒(14)は深夜に何度か大人に声をかけられ、逃げた経験がある。「ここなら安心できる」。そう言って職員らと鍋料理を囲んでいた。
「子供を危険から守るだけではない。人とのつながり、居場所を提供する役割もある」。施設の職員(25)はそう信じる。
犠牲になった2人は、何を求めて街を夜通し“漂流”したのか。2人を見つけたのは「悪意」だった。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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◇ 【高槻 殺害】平田奈津美さん・星野凌斗くん、 外泊重ねた事情…
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