★この「記事」は、1月20日に一度アップしたものに改稿・追加したため、あらためて本日アップしなおしたものです。
「秀島・半次郎」の圧倒的な存在感
「役者」について――。「男優」としては、やはり〈中村半次郎〉役の「秀島雅也」氏を第一に挙げなければならない。彼の持ち前の声といい、台詞回しそして演技の所作といい、“人斬り半次郎” として怖れられた〈半次郎〉の雰囲気を見事に出しており、またそれを難なく演じ切っていた。「殺陣」の指導をするだけあって、時代劇にも向いている……というより、こちらの方が向いているのかも。いやいや、どのような役でもこなせるということだろう。
秀島氏に関しては、現代劇『decoretto』において、今回の演出を担当した「宮地桃子」嬢との卓越した “掛け合いの演技” に注目していた。同作品の鑑賞でも述べたように、その優れた演技による「独特のキャラクター」によって、筆者は抱腹絶倒させられたのだった。
今回も同じように、実に巧みな “役作り” であり、深い味わいを秘めていた。それはもう、“演技が上手い” とか “役になりきっている” といった次元を超えている。もう少し踏み込んで言えば、“演じる” こと、すなわち “舞台演劇” についての “秀島ワールド” をしっかり創りあげている。彼の「舞台演劇人」としての確信に満ちた “哲学” を感じた。
筆者がそう感じるのは、優れた「プロの役者」に対してだけのものだ。それだけのものを、彼は確実に持っている。筆者の足かけ15年に及ぶ「学生演劇」の「観劇歴」の中でも、5本の指に数えるほどの「男優」と言える。
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この「秀島・半次郎」によって、「瀬川聖」氏の〈坂本龍馬〉をはじめ、「尾野上峻」氏の〈西郷隆盛〉、「吉田瞭太」氏の〈桂小五郎〉そして「山口大輔」氏の〈中岡慎太郎〉といった志士達、それに「眞鍋練平」氏の〈出雲〉、「高倉輝」氏の〈土方歳三〉、さらには「鼻本光展」「井口敬太」両氏の〈薩長藩士〉といった「キャスティング」の “収まり” がついたように思う。
つまりは、それぞれの “人物像” にメリハリが付き、まさしく “魂を吹き込まれた” と言えるだろう。そのことはおそらく、共演者達が筆者以上に感じたはずだ。それほどの “存在感” があったように思う。
なお「眞鍋」氏は、『decoretto』において優れた「演出」をしており、その手腕は高く評価される。今回の〈出雲〉役も、繊細さがひときわ目立つ演技であり、ことに「女優陣」を惹きたてる役として貢献した。
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おりょうと遊女の好演
「女優」陣では、やはりまずは〈おりょう〉役の「松嶋小百合」嬢ということになろうか。嫌みのないコミカルなキャラクターを好演していた。筆者の座席は舞台から距離があり、眼や細かな顔の表情はよく判らなかったが、“龍馬の妻としての雰囲気” をよく表現していたようだ。「男優」陣における「秀島・半次郎」同様、この「松嶋・おりょう」によって、「女優」陣の「キャスト」にメリハリが付いたことは間違いない。
〈禿〉の「高木理咲子」嬢に「平川明日香」嬢。〈秋雪〉の「藤野和佳奈」嬢、〈水狼花太夫〉の「松本花穂」嬢、〈香梅太夫〉の「渡邊桜美子」嬢、そして「古賀麻友香」「加藤希」の両嬢がそうだった。
正直言って、「女子大生」に「遊女」という役は、おそらく「学生演劇」としては、もっとも “その役になりきることが難しい” と言える。もっとも今回は、〈太夫〉や〈禿〉という役回りのため、遊女本来の “どろどろした女” を追究することはなかったわけだが、無論、“その分” の「踊り」や「剣舞」はそれを補って余りあるものだった。「西南学院大学演劇部」ならではの、品位あるセンスのよい「舞台構成」であり、優れた演出・演技といえる。
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徹底した“部員一丸”が生み出す“完成度の高さ”
「西南学院大学演劇部」の特性については、これまでにも本ブログにおいて論じて来た。ことに昨年4月の舞台公演『decoretto』の「鑑賞」については、「上・中・下1・下2」と4回連載した中、特に「上」において明らかにしている。一度ご覧になった方も、もう一度眼を通していただきたい。
筆者が感心するのは、「同部」が常に「舞台創り」において、“部員一丸” を徹底的に貫いていることにある。それに加え、とにかく丁寧に “時間と手間” をかけて創り上げる姿勢だろうか。
……と言えば、「そんなことは、どの大学演劇部でもやっている」と反論されそうだ。確かにそうかもしれない。しかし、“その徹底ぶり” は、他とはかなり違うように思う。
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例えば、「プログラム」に記載された各「スタッフ」の紹介にしてもそうだ。今回の「舞台」をみても、各1人ずつの「演出」と「舞台監督」をはじめ、「助演」2人、「大道具」7人、「小道具」8人、「照明」7人、「音響」8人、「衣装メイク」8人、「制作」8人、「宣伝美術」3人となっている。
それに今回は「殺陣」と「剣舞」の指導が各1人、「舞指導」が2人。無論、どの「大学演劇部」においても、「スタッフ」はいくつも「仕事(作業)」や「オペレーション(操作)」を掛け持ちするのが通例だ。
しかし肝心なことは、は“舞台当日の進行” を担う……というより “舞台そのもの” の “出来不出来” を大きく左右する「照明」と「音響」についてだ。
今回、筆者が注目したのは、「照明」スタッフ「7人中4人」、また「音響」スタッフ「9人中6人」までを “女子が担当” したという事実だ。この事実は、筆者の舞台観劇経験として、2つの重要なことを教えてくれる。
その「一つ」は、「音響」や「照明」の「プラン(アイディアやイメージ)」や「オペレーション(操作担当)」については、“できるだけ多くのスタッフが関わる” こと。言い換えれば、“限定されたスタッフの好みや傾向” を避けること。つまりは、“普遍性を持たせる” ことが不可欠となる。
もう一つは、“音響や照明のプランやオペレーション(操作)” は、“男子より女子の方が適任である” こと。言い換えれば、“大雑把で荒っぽい傾向にある男子好み” を抑え、より多くの年代や性向の観客に即したものを求めること。そのためにも絶対に、 “女性的感性” を大切にすることが不可欠と言いたい。
「西南学院大学演劇部」が創り出す「舞台」ことに最重要の「照明」と「音響」が、いつも安定した “美的感性” に満ちているのは、おそらく「特定個人」ことに「男性オペレーター」の「音響操作」を極力排除しているからではないだろうか。
あまり “手の内” を明かしたくはないが、一部の学生諸君は気づいているので、この際、公言したい。筆者は「公演会場」に入った後、必ず「照明」や「音響」の操作ブースに眼を向ける(もちろん、観客席から見えないこともあるが)。
つまり、“誰がどのような表情や動作でオペレーションするか” を確認するためだ。もちろんそれ以前に、「キャスト」や「スタッフ」名、ことに「照明」と「音響」の「オペレーター」は、特に重点的に確認している。
その結果、一つの傾向として判ったことは、特に「音響効果」の「企画」や「オペレーター」に “男子が多い” のは “要注意” ということだ。中には、「DJ」感覚でオペレーションをしているのではと、驚いたことがある。それが結果として、“どのような音響をもたらしたか” 語るまでもない。
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「西南学院大学演劇部」は、いつも「音響」(効果音含め)における “選曲” や “音量(ボリューム)調整” に品位とセンスがあり、何とも心地よい。 つまりは、“騒々しい音楽や不快な音量” はないといえる。それはおそらく、“音”に対する “女性独特の柔らかい感性” を重視しているからではないだろうか。
そのためにも「同部」は、 “多くの部員の叡智を結集” し、“演劇的な効果の普遍化” を目指しているのだろう。その結果、「同部」本来の “繊細な感性” と “豊かな想像力” が遺憾なく発揮されたと言える。この件については、別の機会に詳しく述べてみたい。
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今回も素晴らしい「舞台」を楽しむことができた。正直言って、いくつか指摘したい点もないではないが、それは「キャスト」そして「スタッフ」自身が気づいていることと思うので、今回はそっと しておこう。
ともあれ、「西南学院大学・演劇部」の部員各位に敬意を表し、本稿を閉じることにしたい。このたびの優れた素晴らしい「舞台」に、「キャスト」そして「スタッフ」その他の人々に、心からの労いと深謝を表したい。(了)
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