映画のプロが選ぶ名作
さて今回の映画は、2007年の『米映画協会(AFI)が選んだアメリカ映画BEST100』(※註1)では「第8位」に、また米国の一般読者投票による『歴代映画ベスト100』(実施年不明)では、「第3位」にランクインしています。ちなみに「第1位」は「ゴッドファーザー」、「第2位」は「ショーシャンクの空に」です
なお後者は、「米国映画」だけでなく米国以外の作品も対象にしています。ちなみに「日本映画」は、「第7位」の「七人の侍」他4作品がランクインしています(※註2)。
“ドキュメンタリー・タッチ” による “哲学性と芸術性”
まずこの “ 映画の特徴 ” は、「実話(ノンフィクション)」に基づく “ ドキュメンタリー・タッチ” の作品ということです。
“ドキュメンタリー・タッチ” を貫くことによって、この映画の “哲学性と芸術性” がいっそう深まったと言えるでしょう。
次の「3点」が、その「重要なポイント」となっています。
(1) 基本的には、「映像」を「モノクロ」(白黒フィルム)としている。
いわば、第二次大戦前後の「ニュース映画」の「記録フィルム」のような雰囲気づくりに徹しています。
しかし、“一部のシーン” 又は “画面のごく一部分” だけは「カラー映像」としているようです。
この “繊細なカラーリング” によって映画の “哲学性と芸術性” が強調され、「第1の重要ポイント」となっています。
(2) “ドキュメンタリー・タッチ”を貫くため、映像上の “感情表現” を極力抑えている。
この「映画」は、「アドルフ・ヒットラー」の「ナチス・ドイツ」による “ホロコースト」(ジェノサイド)すなわち “大量殺戮” をテーマに、「オスカー・シンドラー」による1,100人ものユダヤ人の救済を描いています。“眼を背けたくなるような衝撃的なシーン” がいくつもあり、人によっては “直視しがたい光景” です。
しかし、スピルバーグ監督以下、「映画表現者(制作者)」は、「観客」に “怒り、憎しみ、哀しみ” といった “感情” を “圧しつけ” ようとはしていません。どこまでも “冷徹な第三者の眼” で “歴史的な事実” を見つめているかのようです。
映画の撮影においても、 “実際に起きた出来事” を伝えるように淡々としています。そのため、ときには当時の「ニュース映画」の「報道カメラマン」のように、あえて “手ぶれ” のおそれある「携帯用カメラ」を使用したシーンもあるほどです。事実を記録する “傍観者の視点” といえるでしょう。
それは、「観客」個々の “喜怒哀楽の感情” を尊重していることを意味しています。そのため観客には、 “本能的で冷静な感情” がかえって湧き起こり、それが結果として、この「映画」に対する観客自身の “主体的な想いや判断” を呼び覚ます効果をもたらしているのです。
巧みな戦略であり、戦術です。「ホロコースト」に対するスピルバーグ監督の揺るぎない哲学と深い洞察の賜物と言えるでしょう。ここに、この映画の持つ “哲学性と芸術性” の「第2の重要ポイント」があります。
(3) “ドキュメンタリー・タッチ” をより確実に表現するため、主人公の〈オスカーシンドラー〉以下、「中心的な俳優5人」は、総て「舞台俳優 」を起用している。
それによって、“ドキュメンタリー性” の “説得力” をさらに強化しています。観るたびに優れた俳優の卓越した演技に惹き込まれるばかりです。何度観ても飽きることがありません。
ここに、この映画の持つ “哲学性と芸術性” の「第3の重要ポイント」があります。
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以上のように、この映画を “ドキュメンタリー・タッチ” に仕上げたことによって、“ 映像の哲学性と芸術性 ”とがいっそう深みを増したと言えるでしょう。
そのことは、「優れた映画」と言われるものが “なぜ優れているか?”、また “どこがどのように優れているのか?” ということを語ることになります。次回より、「具体例」を示しながら、話を進めて行きましょう。
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なお「カーソル」を「画面」から外すと、いつでも上記の総ての「表示」が消えます。
※註1: 「米映画協会(AFI)」に所属する監督、脚本家、俳優、編集者、批評家ら1500人が、1997年以来10年ぶりに歴代のアメリカ映画のベスト100を選出したもの。「第1位:ゴッドファーザー」、「第2位:市民ケーン」、「第3位:カサブランカ」。
※註2: 「乱」(74位)、「用心棒」(95位)、「もののけ姫」(100位)。