お気づきのように、「エンジェルC」は≪そのひと≫を指し、仲間内では『姉御(あねご)』と呼ばれている。「アラフォー世代」を代表する “才色兼備” であることは、誰もが認めるところだ。
しかし、彼女よりグンと年長の筆者は、愛と親しみを込めて『U子さん』と呼ぶ。
さて第三の句はどう返したものだろうか……。
反射的に、『……もちろん、エンジェルC嬢をお願いします』と浮かんだ。だが “もちろん” はまずい。いかにもC嬢に迎合したという響きだ。
ここは抑えて、『では……エンジェルC嬢でもお願いしましょうか』と言うのは……。しかし、“変に持って回った” この言い方はさらにまずい。単に “さりげなさを装っている” だけではないか。
さりとて、『貴社お奨めのエンジェルであればどなたでも……』などは “敵前逃亡” とみなされるだろう。こういう「アルコール・ゼロパーセントビール」のようなことを “返そう” ものなら、『姉御』は「下足番」の「佐助」にこう命じるに違いない――。
『ほら、佐助。秀理師匠はお帰りだとさ。草履を出しておやり。
……なにぐずぐずしてんだよ。さっさとおしよ! 早く帰りたいとおっしゃってるんだから……』
てな具合に、とっとと “一座” から放り出されるだろう。
いっそのこと、ここは “沈黙” を保って相手の出方を見ると言うのは……。
だが……と不安が募った。いきなり『エンジェルC嬢』いや「姉御」が派遣されて来ないとも限らないのだ。
『お客様からのお返事はありませんでしたが、日ごろのご愛顧にお応えし、特別感謝サービスとしてまいりました』
……とか何とか言いながら、ドアの前に立っていたりして……。
美女の来訪は大歓迎だが、それでは “こちらから首を差し出す” ようなもの。“発句” の作者として、それだけは意地でも避けねばなるまい。
とはいえ――、
『エンジェルC嬢にお伝えください。ご厚意は心より感謝申し上げます。しかしながら、貴方様のそのお心遣いの愛の魔法により、奇跡的に片付きましたので……』
などは「最悪コース」となりかねない。下手をしたら『姉御』は、“落胆” と “憐み” を込めながら「下足番」にこう漏らすだろう――。
『佐助、聞いたかい? 秀理師匠は、“引退” なさるんだと。
……もうちょっとやれるかと思ったんだけどねえ……』
勝手に引退させられてはかなわない。師匠いや筆者は、強引に脳味噌をかきまわしながら悶々と悩み続けた。だが『第三の句』の何と遠いことか。
気がつけば、『脇句』をつけられて以来 “小一時間”、こちらからは “一文字” たりとも返信していないことに気付いた。
これが焦らずにいられようか。もう『第三の句』などと気取っている場合ではなかった。ぐずぐずできない。いつなんどき次の “一撃” が飛んでくるかもしれないのだ。そうなれば、「ハードル」はさらに上がるに決まっている。
だが焦れば焦るほど、事態はよからぬ方向へと傾く。何と! 携帯電話のバッテリーが切れたのだ! 慌てて充電器を差し込みながらも、その一秒、二秒を惜しまなければならなかった。
そして、やっと言葉がまとまりかけ、当座の充電が出来たと思ったまさにその時、着信のメロディが元気よく鳴った。
『本日の業務はすべて終了いたしました。明日の業務は、午前9時より午後5時までとなっております。お急ぎのお客様は……』
“やられた!” と思っているところへ、絶妙なタイミングで “追加の一撃” を食らった。
『今後、弊社はどのようなお客様のご要望にもお応えできるエンジェルの採用と教育に努めたいと存じます。ことにひときわニーズの高い “美人でグラマーでタフなエンジェル” につきましては……。今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。 ――エンジェル・ワークス』
これは “とどめの一撃” となった。筆者は “ようやく”……というか “かろうじて” 次の一行を打った。
As time goes by.
そして、その1分後、次の「一節」を『挙句』とする腹を決めた。
BIG WHITE FLAG! (了)