前々回(本シリーズ:下-1)、「マイルス」と「コルトレーン」との関係を、『両雄並び立たず』と表現したところ、「セラビ―」氏から次のような「コメント」が入りました(原文のまま)。
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マイルスとコルトレーンの関係。言い得て妙ですね。
でも心のどこかで相通じていたように思います。互いの音楽をずっと聴いていたような感じです。手法は違っても同じくJAZZの可能性を追い求めた同志のような活躍が同時期の互いの録音を聴き比べると分かります。聴き比べって本当にいいですねっ。 ※下線は筆者によるもの。
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人生を賭けたスピリチュアルなインタープレイ
わが友「セラビ―氏」にしてできるコメントといえるでしょう。筆者の舌足らずな部分を的確な言葉でフォローしてくれたのです。ありがたい、そして心強いサポートです。
まさにそうですね。「両雄並び立たず」といっても、無論、相互に否定し合うというものではありません。セラビ―氏の言葉通り、『ジャズの可能性を追い求めた同志』であり、「天才プレーヤー相互」の、「音楽人・演奏者」として、人生という「永い時間」をかけての《スピリチュアルなインタープレイ》と言えるでしょう。
おそらくマイルスは、《優れたプレーヤーを自分の手元に置かないようにしていた》のではないでしょうか。そのことこそが、マイルスにとっても相手にとっても、そして何よりも《Jazzという歴史》にとっても、必要不可欠であるとの確たる信念があったのでしょう。そのことは、マイルスがとった次の「2つのスタイル」からうかがい知ることができます。
「★第1」のスタイルは、マイルスのバンド構成がほぼ常に「クインテット(5人編成)」以上、多くは「セクステット(6人)」や「セプテット(7人)」編成であったということ。それはつまりは、「ピアノ(p)」「ベース(b)」「ドラムス(ds)」というジャズことに「モダン・ジャズ」の、いわば絶対的ともいえる「トリオ」をベースに、残りを「トランペット(tp)」や「サックス(s)」など「複数の管楽器」を加えることにあったようです。
tpやsによる複数管楽器の重層的なハーモニーが、どれほど音色や音域を広げ、また深めることか。管楽器相互のソロやインタープレイが、どれほどプレーヤ―を昂揚させ、また昇華させていくことか。至高のsoundを求めてやまないマイルス・デイビスと、コルトレーンをはじめとするプレーイング・パートナーたち。
マイルスの mute sound
マイルスは、それら管楽器奏者たちとのプレーイング・パートナーシップをより昂揚・昇華させるため、スタイルの「★第2」を深化させていきます。それは、「ミュート」に重点を置くということでしょう。
「ミュート(mute)」とは、「弱音器」や「消音器」と呼ばれる物。「本来の音」を半ば殺しながら(=抑制)、“内に籠った感じの音色”に変える働きを」もっています。この「内に籠った感じの音色」を、筆者は「マイルスsound」最大の魅力であり、絶対ともいえる本質ではないかと思います。何よりも、筆者がマイルスに敬意と愛着を感じる最大のポイントです。
「ミュート」がかかったマイルスのトランペットsound……。それがどれだけコルトレーンやキャノンボールのサックスを際立たせてきたでしょうか。マイルス自身を象徴する「内に籠った感じの音色」……。人間の内面すなわち「深層心理やそれに裏付けられた意識」を、これほど「的確かつ象徴的に表現」したsoundがあるでしょうか。エゴイスティックな人間の渇望……懊悩……逡巡……諦念……。と同時に、幽かに息づく内省や自制……そして、救いや希望……。
マイルスの「ミュートsound」はそう語りかけてくるようです。その最たる演奏こそ今回の「TOP:1」に輝いたサックス奏者キャノンボールとの『Autumn Leaves(枯葉)』であり、即興演奏と言われた「死刑台のエレベーター」(ソロ)のテーマ曲ではないでしょうか。個人的には次のように感じます。
《マイルスなくしてミュートなく、ミュートなくしてマイルスなし》
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マイルスは、「トランペット奏者」また「バンドリーダー」として、「同じバンドメンバー」のコルトレーンやキャノンボール等「サックス奏者」と「協演」しながら「競演」そして「響演」し合い、やがて彼等の「演奏者としての才能」や「バンドリーダーとなるべき能力」の開花をサポートしたのではないでしょうか。もちろんその対象者の中に、筆者の大好きなピアニストそしてそのトリオのリーダー「ビル・エヴァンス」がいました。(了)
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私も秀理さんの説明に新しい発見がありました。今回の「マイルスの mute sound」にしてもそうです。
やはりマイルスこそがジャズの帝王です。ジャズの歴史はマイルスとマイルス・スクールの卒業生が作ったと言い切っても間違いありません。
ただし卒業ではなく退学させられた人もいるから話はややこしくなるのですが…。
今回の「下-3」の続きはまた天ぷら・ひらおで語ることにしましょう。語り合っていたら「下ー4」が番外編で完成するかもしれませんよっ。
小生もマイルスについて何かちゃんとしたものを読んでみたくなりました。これまでは、それらの「本」に引き摺られないよう、あえて目にしないできたのですが。
マイルスの mute sound は、何か独特の響きと音色があるように思います。「人間の内面を深く静かに抉(えぐ)りながらも、いつしか慈愛で満たそうとするような……」不思議な優しさが息づいているようです。