『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

●演劇鑑賞:『八月のシャハラザード』(西南大学演劇部)

2015年07月05日 00時03分23秒 | ●演劇鑑賞

 

   退屈させなかった145分の舞台

   今回の舞台の「公演時間」は正味2時間25、6分だろうか。筆者にとっては久しぶりの「長編」となった。「2時間程度」はときどき体験するものの、「2時間30分前後」となると、プロ劇団の舞台を除けばあまり記憶にない。

   「2時間」を越える舞台ともなれば、プロ・アマのものを問わず、多少は退屈するものだ。しかし、今回の舞台に関しては、途中、一度も時計を見ることはなかった。

   それだけ「演出」や「役者の演技」が優れていることを意味するわけだが、最大の功績は、何といっても、「役者」の顔の表情や細やかなしぐさが、きちんと見えたことにある。もしも今回の舞台が、前回の『うちに来るって本気ですか?』(作:石原美か子/演出:田中里菜)同様、“観劇席の制限” が厳しいものであったなら、こうはいかなかっただろう。

   やはり、「演じる役者」と「観客」とは、基本的には、できるだけ近いにこしたことはない。まじかで見ることができるからこそ、役者の表情をしっかり把握することが可能となる。それに加え、手や指先の小さなしぐさも、筆者は結構こまかく観察している。筆者にとっての「魅力ある舞台」とは、繊細で丁寧な演出、そして演技となる。 

        ★

   今回の物語の「あらすじ」は、おおむねつぎのとおり――。

   貧乏役者の〈天宮亮太〉は、目ざめたとき、タグボートの上にいた。実は彼は海で死んでおり、「ガイド役」の〈夕凪〉により、間もなく「あの世」行きの船「シェハラザード号」に乗り込むところだった。しかし、彼は恋人の〈ひとみ〉に今一度会いたいと言って海に飛び込み、タグボートから脱走する。                          

   一方、根っからの犯罪者といえる〈川本五郎〉は、仲間の〈梶谷〉と現金輸送車を襲撃し、強奪に成功する。しかし、〈梶谷〉の裏切りによって現金を持ち逃げされ、警察へ密告される。〈川本〉は、警察との銃撃戦によって被弾し、瀕死の重傷を負う。だがなんとか逃げ延び、〈梶谷〉を見つけた〈川本〉は、奪った現金の在り処を吐かせようとするものの、〈梶谷〉の彼女の〈マキ〉の抵抗により手こずる。この〈マキ〉こそ、〈梶谷〉が〈川本〉を裏切るようそそのかした女だった。

   他方、海で死んだ〈天宮〉について語り合う劇団主宰者の〈木島〉や劇団員の〈あらた〉に〈武志〉、そこへ〈ひとみ〉がやって来る。

   既に肉体を持っていない〈天宮〉。死んではいても、かろうじて肉体を保っている〈川本〉。その二人が、〈夕凪〉によって “つながり” を持ち、“あの世と現世” との中間的な存在となって行動する。〈天宮〉と〈川本〉は互いに姿も確認でき、また言葉をかわすことができる。また〈川本〉は “現世の人間” にも姿が見え、言葉をかわすこともできる。しかし、〈天宮〉は自分の方からは見えても、“現世の人間” からは姿も見えず、言葉をかわすこともできない。

   自分を裏切った〈梶谷〉と〈マキ〉への復讐に燃える〈川本五郎〉に対し、最後に恋人の〈ひとみ〉に会って、ひとこと告げようとする〈天宮亮太〉。

 ――結果として、〈川本五郎〉は自らの復讐を止め、その「肉体」と「声」を通して、〈天宮亮太〉の “気持ちと言葉” を〈ひとみ〉に伝え、最後の別れの場面を用意してやる――。

        ★

   9人の役者の好演による舞台だった。その中でもまず目を惹いたのは、〈川本五郎〉役の「高倉輝」氏と〈マキ〉役の「岡澤百夏」嬢だった。なかなかのキャスティングといえる。両者によって、他の役者がいっそう活かされたのではないだろうか。

   高倉氏の声質や声量はもとより、非常に伸びのある台詞回しが印象的であり、一語一語が心地よく耳に残った。それにしても、堂々たる演技だった。「役作り」がうまいと言ってしまえばそれまでだが、当然、それなりの努力を重ねたに違いない。やはり、生まれ持った「役者としてのセンス」というものだろうか。

  岡澤嬢は、ダーティーな役どころを意欲的に、かつ的確にこなしたと言える。小ワルの〈梶谷〉を演じた「瀬川 」の手堅い演技もあって、岡澤嬢の堂々とした演技や台詞回しは、いっそうきわだった。ことに、〈川本五郎〉役の「高倉輝」氏との絡みは、この舞台最大の見どころといえる。

  ラストに、〈川本〉の身体を通して、肉体を持たない〈天宮〉に触れ、彼と言葉をかわす〈ひとみ〉役の「田中里菜」嬢の姿に、少しほろりとさせられた。筆者も歳を重ねて、いっそう涙腺が緩んできたようだ。劇団主宰者〈木島〉役の「尾野上峻」氏にも惹かれたし、〈夕凪〉の「和田遥風」嬢の、非常に通りのよいリズミカルな声は魅力的だった。「鼻本光展」および「西畑嵐」は、あまり目立たなかったかもしれないが、観客には解らない役作りに精進したという印象を受けた。

          ★

 演出 新ヶ江優哉

 キャストスタッフ】 森健一天宮亮太):制作高倉輝川本五郎):小道具・衣装メイク、和田遥風夕凪):大道具・照明、田中里菜ひとみ):衣装メイク・宣伝美術、瀬川 梶谷):助演・小道具、岡澤百夏マキ):衣装メイク・音響、西畑嵐武志):大道具・宣伝美術、尾野上崚木島さん):照明・大道具、鼻本光展あらた):制作・照明

 【スタッフ】 花浦 貴文:助演・照明、讃井基時:大道具・照明、岸川織江 :小道具・音響、藤野和佳奈:制作・照明・照明オペ、宮地桃子 :衣装メイク、井口敬太・音響・音響オペ、桝本大喜;舞台監督・大道具、加藤希:音響・照明、徳勝有香:大道具・制作、本田高太郎 :受付・衣装メイク、布住 :宣伝美術・音響・音響オペ、汐月優理恵:照明・音響・照明オペ、佐々木智代:小道具・制作、遠藤あかり:衣装メイク、多賀晶咲:音響・制作、白浜勇輔:大道具・小道具、池田果歩:小道具・照明、山口 明日香:小道具・衣装メイク、富岡ちなみ:音響・宣伝美術、高木はるか:音響・照明、松山和正:制作・衣装メイク、古賀麻友香:照明  以上の諸氏諸嬢。

 

  「音響」と「照明」も、「西南大学演劇部」の得意とする総合力が発揮されものであり、洗練されたものだった。

  このたびの「キャスト」及び「スタッフ」のみなさんをねぎらうとともに、讃嘆と感謝の意を表したい。

 

 

 



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。