「むしのこえをき~くたびに~おもいだすくじゅーくりぃはまぁ~」
歌舞伎町だったかどうかはしらないが、
おれこは新宿で保護されたそうだ。
「しわしわのそぼのてをはなれひとりでおとずれたかんらくが~い」
ことしの8月15日のこと。
その日わたしは何をしていたかな。
「じゅうごになったあ~たしをおいてじょおうはきえった~あ~~ん」
このとき(保護されたとき)のおれこの写真を見せてもらった。
赤いバンダナを首に巻いて、首輪をしていて、誰かに飼われていた様子だった。
「まいしゅうきんようびに~きてた~おれことくらすのだろう~」
お盆だから暑かったのだろう。
べー、っと舌を出しながらも、にっかにっかの笑顔。
「ああ、よかった~」
その顔はそういっていた。
今ならよくわかるが、おれこはこどもと喧噪が大嫌い。
交差点ですら苦手なのだ。
新宿の街をにげまわって、さまよって、心のやすまるときがなかったのだろう。
やさしい人にどうしたの?とつれてこられて、安心したに違いない。
おれこの隣の、ふくらはぎくらいから下しかうつっていないが、
青い作業着と黒いゴム長の足のだれかの隣で、おれこはうれしそうに、笑っているのだった。
カ~ッと胸が熱くなり、落ちてきそうになった涙を、ぐっ、と、こらえた。
「あ~それからどした」
さまようのがこわかったんだろうね、おれこ。
今はもう、さまよわなくていいのだからね。
もううちの子なんだからね。