犬は普段とても怖がりです。
家族以外の人には滅多に近寄らないのですが。
ときどき、つぅーぃ~っと、まるで吸い寄せられるようにして、誰かに近寄ることがあります。
そうすると、近寄られた相手はたいてい、とってもうれしそうにし、犬の頭をなでてくださいますのです。
そして話を伺うと、(今日もそうだったのですが)、犬が近寄る方は、ほぼ全員、以前に犬を飼っていた人なんでした。
今日のとってもやさしそうなおばさんは、5年前まで犬と暮らしていて、最期をみとったのだそうです。
今は犬はいないのだけれど、とさびしそうに笑いましたが、オレコの顔を見て、
まあなんてやさしそうな子なんでしょう、あなたはどうしてそんな目をしているの?
と、オレコと二人きりの世界に入ってしまいました。
オレコはおばさんの目をじっと見つめて、手をぺろぺろとなめていました。
数日前に出会ったおじさんも同じでした。
「15歳でみとったんだよ~。もうつらくってねえ、だからもう絶対飼わないけど、やっぱり好きでねえ」
そんな風に話しを聞いている間、ずっと、犬は頭をなでてもらったり、首をさすってもらったりします。
そしてとっても気持ちよさそうにしています。
何度もいいますが、家族以外の人には基本的には近寄らない犬なのです。
過去に虐待を受けていましたので、とても慎重だし、むしろ初めての人にはおびえてしまいます。
(私の父と母はいまだにほえられますし。甥っ子姪っ子もほえられてしまいます)
初めてうちに来た日、むやみにでかい夫(無類の犬好きにもかかわらず)には、怖くて近づきもしませんでした。
というより、おびえて、ものかげに隠れてしまいました。夫になれるのに、数日かかりました。
(とはいえ今では誰より夫のことが好きなのですが)
だけどなぜだか、犬にはそれがわかるのか、犬をなくした人たちに、
自分から近寄って行って、手のにおいをかいだり、なでてもらったり、ぺろってなめたりします。
なんでだろうなんでだろう、って、不思議だったのですが、オレコにはもしかしたら、
その人たちの飼っていた、大事な犬たちのたましいが、見えているのかもしれません。
犬たちの声を聞いて、そのことばをかつての飼い主たちに、伝えようとしているのかもしれません。
そうとしか思えないことばかりです。
だって犬が近づいて行く時、結構不自然なんですよ。
今にももれそうなくらい、うんやしーの用事を済ませたいはずなのに、それを我慢したり、
どんなことがあってもチェックする、大好きなわんこ友達のおうち、前を通りたいはずなのに、逆方向へ行こうとしたり。
どうしたの?と声をかけたその先に、必ず誰かがいるんです。
犬は静かに立ち止まり、その人をずーっとみつめて、何かを悟ったように、すたすたすたと、近寄って行くんです。
最初は、犬を好きでない人もいるかもしれないから、いけません、て止めていたんですが、もうやめました。
だって百発百中で、犬好きだし、犬を飼っていたことがある人だし、犬を失った人なんですものね。
そういう事情を、相手の人に伝えられたらいいな~と思うけど、出会いがしらの1~2分でできる話ではないので、
いつもこらえていますが、少しばかり、胸が熱くなっているのです。
多分、あの人たちには、あの人たちを愛した犬が、ついていて、オレコにはそれが見えるに違いなくて、
でもって、わんこ達に頼まれて、多分、何かを伝えようとしているのだろう、飼い主はそんな風に感じています。
散歩のたびにそういう機会にめぐりあうんです。そのことをとても幸せに思います。
飼い主はずっと、愛されているんだなあ、と感じるからです。
生きて、思って、考えて、行動することひとつひとつに、無意味なことなんて、ほんとないですね。