はじめに
万17~19番歌は、近江遷都時の三輪山の歌として知られている。原文ならびに新編全集本萬葉集による訓、現代語訳を記す。
額田王下近江國時作歌井戸王即和歌
味酒三輪乃山青丹吉奈良能山乃山際伊隠萬代道隈伊積流萬代介委曲毛見管行武雄數毛見放武八萬雄情無雲乃隱障倍之也
反歌
三輪山乎然毛隠賀雲谷裳情有南畝可苦佐布倍思哉
右二首歌山上憶良大夫類聚歌林曰遷都近江國時御覧三輪山御歌焉日本書紀曰六年丙寅春三月辛酉朔己卯遷都于近江
綜麻形乃林始乃狭野榛能衣尓著成目尓都久和我勢
右一首歌今案不似和歌但舊本載于此次故以猶載焉
額田王、
近江国に
下る時に作る歌、
井戸王の
即ち
和ふる歌
味酒 三輪の山 あをによし
奈良の山の 山の
際に い
隠るまで 道の
隈 い
積もるまでに つばらにも 見つつ
行かむを しばしばも
見放けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや(万17)
反歌
三輪山を
然も隠すか 雲だにも 心あらなも 隠さふべしや(万18)
右の二首の歌は、
山上憶良大夫の
類聚歌林に
曰く、「都を近江国に
遷す時に、三輪山を
御覧す
御歌なり」といふ。
日本書紀に
曰く、「六年
丙寅の春三月、
辛酉の
朔の
己卯に、都を
近江に
遷す」といふ。
綜麻かたの 林の
前の さ
野榛の
衣に付くなす 目に付く
我が
背(万19)
(訳)
額田王が
近江国に下った時に作った歌、そして
井戸王がすぐ唱和した歌
(うまさけ)