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この本は、出版社の営業の方が勧めてくれて、かつ私にも、主人公が務める会社「全日本音楽著作権連盟」のモデルとなっているJASRAC =日本音楽著作権協会でバイトしていたことがあり、読んでみる気になったものです。
「JASRACで働いていた人と初めて会いました!」とか言われて少し盛り上がったりして。私も、まさかそこで人知れずのバイト経験が呼び起こされるとは思わず。
あれは大学2年生のときでしょうか。ちょうどやさぐれて、背伸びしたかったとき。慣れないスーツを着て外回りする仕事になぜか憧れがあった。
その日訪問する場所の地図のコピーから仕事は始まった。カラオケを置いている飲み屋を訪ね、パンフレットを渡しつつ著作権利用料の徴収をやんわりと催促する。
仙台支部でしたが、山形や福島まで出張にも行きました。時給もよかった。でも、楽しい仕事ではなく、友達もできなかった。1年ほどで辞めていました。
小説の主人公、橘は、街の音楽教室に潜入調査を命じられる。音楽教室での演奏からも、著作権利用料の徴収を開始するための証拠集めとして。要するにスパイ。
橘には、幼少期からチェロを習っていた経験がった。そのために、止めてしまったチェロをもう一度大人になって弾き始めたい社会人を演じる役に選ばれた。
橘には、チェロにまつわる過去があった。誰にも言えていない忌まわしい黒歴史。その癒えていない傷によって不眠症を抱えてもいた。
会社の上司と密会を重ね、命じられるままにスパイとしてチェロを再び習い始める橘。スパイなのに、講師の浅葉と、音楽を通じて人間関係を築いていく。
スパイ期間は2年。1年もすると、チェロを習っている仲間とも食事をし、連絡先を交換するまでになっていた。
仲良くなるほどに罪悪感も覚えていく。スーツの胸ポケットには、盗聴用のボールペンがいつも入っていた。
ただ、チェロを弾いているときだけは、深い満足を覚えた。浅葉の演奏によって寝落ちしてしまうことすらあった。
自宅にチェロを借り、カラオケボックスに一人こもっては弾いたりもした。橘の不眠症も改善されてきていた。
しかし、もちろんこのままではありません。全日本著作権連盟と音楽教室との裁判が行われることになり、橘以外にも存在していたスパイのことを週刊誌にバラされてしまう。この辺りからは話が急展開。橘は、チェロの講師を守ろうとする。自分の正体も明かされてしまう。チェロ仲間とも縁を切らなければならなくなった。会社での立場も失っていく。不眠症も再発。
その後、どうなっていくのか。
読んで、確かめてください。
人は誰しも傷を持っているものだと思います。その傷と、音楽と、人と、会社の命令と。すべて有機的に関連して、人が傷を乗り越えていくとはどういうことなのか、豊かに物語られています。傷を持っていたのは橘だけでなく浅葉もそうだったと、読み終えた今だと思えます。そして読んでいた私も。だから、ぐいぐい引き込まれた。
そして、「死ぬときに絶対後悔する」ことをしないこと。
ちなみのこの本は、次回の本屋大賞の候補作の一つになっています。
安檀美緒 著/集英社/2022
「JASRACで働いていた人と初めて会いました!」とか言われて少し盛り上がったりして。私も、まさかそこで人知れずのバイト経験が呼び起こされるとは思わず。
あれは大学2年生のときでしょうか。ちょうどやさぐれて、背伸びしたかったとき。慣れないスーツを着て外回りする仕事になぜか憧れがあった。
その日訪問する場所の地図のコピーから仕事は始まった。カラオケを置いている飲み屋を訪ね、パンフレットを渡しつつ著作権利用料の徴収をやんわりと催促する。
仙台支部でしたが、山形や福島まで出張にも行きました。時給もよかった。でも、楽しい仕事ではなく、友達もできなかった。1年ほどで辞めていました。
小説の主人公、橘は、街の音楽教室に潜入調査を命じられる。音楽教室での演奏からも、著作権利用料の徴収を開始するための証拠集めとして。要するにスパイ。
橘には、幼少期からチェロを習っていた経験がった。そのために、止めてしまったチェロをもう一度大人になって弾き始めたい社会人を演じる役に選ばれた。
橘には、チェロにまつわる過去があった。誰にも言えていない忌まわしい黒歴史。その癒えていない傷によって不眠症を抱えてもいた。
会社の上司と密会を重ね、命じられるままにスパイとしてチェロを再び習い始める橘。スパイなのに、講師の浅葉と、音楽を通じて人間関係を築いていく。
スパイ期間は2年。1年もすると、チェロを習っている仲間とも食事をし、連絡先を交換するまでになっていた。
仲良くなるほどに罪悪感も覚えていく。スーツの胸ポケットには、盗聴用のボールペンがいつも入っていた。
ただ、チェロを弾いているときだけは、深い満足を覚えた。浅葉の演奏によって寝落ちしてしまうことすらあった。
自宅にチェロを借り、カラオケボックスに一人こもっては弾いたりもした。橘の不眠症も改善されてきていた。
しかし、もちろんこのままではありません。全日本著作権連盟と音楽教室との裁判が行われることになり、橘以外にも存在していたスパイのことを週刊誌にバラされてしまう。この辺りからは話が急展開。橘は、チェロの講師を守ろうとする。自分の正体も明かされてしまう。チェロ仲間とも縁を切らなければならなくなった。会社での立場も失っていく。不眠症も再発。
その後、どうなっていくのか。
読んで、確かめてください。
人は誰しも傷を持っているものだと思います。その傷と、音楽と、人と、会社の命令と。すべて有機的に関連して、人が傷を乗り越えていくとはどういうことなのか、豊かに物語られています。傷を持っていたのは橘だけでなく浅葉もそうだったと、読み終えた今だと思えます。そして読んでいた私も。だから、ぐいぐい引き込まれた。
そして、「死ぬときに絶対後悔する」ことをしないこと。
ちなみのこの本は、次回の本屋大賞の候補作の一つになっています。
安檀美緒 著/集英社/2022
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