泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

きょうの猫村さん3

2008-03-28 12:27:04 | 読書
 あっという間に読んでしまいました。そしてもう一度最初から味わい直しました。純粋におもしろい! と感じさせてくれる本は、そうないのですが、猫村さんシリーズは、そんな稀な本の一つです。
 ご存知ない方のために、少し説明を。猫村さんは、本名を猫村ネコといい、猫なのですがわけあって家政婦をしています。そのわけとは、子猫時代、親とはぐれてしまったところをぼっちゃんに拾ってもらい、今は海外に行ってしまった彼に会うことです。淡い恋心を保ちながら、その目標のために、しっかり働き、語学の勉強にも励んでいる。
 仕事先は犬神家なのですが、だんなと奥さんはすれ違ってばかりで、中学生の娘、尾仁子は反抗期で「さみれん」というチーマーに属しており、両親と一切食事をともにせず、父の母の作る古風な料理だけを食べている。嫁と姑の関係は最悪で、そのことで夫婦仲も冷えている。
 お世話好きな猫村さんは、働きながらも首を突っ込まないわけにはいかない。尾仁子が集会をすると言えば、猫もやっていたからと気になり、奥さんが愛されたいのに愛されず、認められずに悔しくて泣いていると、マッサージをしながらなぐさめる。猫村さんは敵意や憎しみを持っていない。誰にでも平等に、人の作る境界を乗り越えていく。もともとそんなのはなかったんだよと、気づかせる。
 猫村さん自身も、人間と関わるなかで大切なことを学んでいく。大事なもの(ぼっちゃんからもらったエプロン)は手元に置いて、常に手入れしておくこと。夫婦というのはそばにいて、安心したりほっとするためにあるということ。中途半端な干渉はしないで、自分で乗り越えなくてはならない時があること。自分の目標のために努力するということ。ときにはストレス発散(ダンボールを爪でばりばりする)も必要なこと。
 一度猫村さんを見てしまったら、もう後には退けません。手書きの雑な絵や言葉がまた斬新で、ストーリーにも引きつけられ、自然に猫村さんや村田家政婦の奥さんや尾仁子のお友達(すごい髪型をしている)を受け入れてしまう。ここにいるんだと感じる。今生きているんだと。
 もともとこの本は、ネットで一日一コマ公開していたものです。今日も展開されているんだろう。NECOという刺繍の入ったエプロンを、きりりと縦に蝶結びして、嫌味ばかりのおばさんにもめげず、家政婦仲間と協力しながら、犬神家にはらはらしながら、台所に立っている猫村さん。
 ああ、僕もがんばろうと思う。仲間と親しみ協力しながら、怒りを忘れず、優しさを失わず、目標に向けて。
 猫ならではの視点、語りは、普段に身につけてしまった僕らの常識や思い込みに、新鮮な風を送ってくれます。
 こんなにも愛される猫村さん。作者も、読者も、社会も幸せですね。すばらしい発明であり、商品であり、創造です。
 僕らは、今生きているだけで、ラッキーなのです。皆さんのお陰なのです。猫村さんの実感から、僕も学びました。
 猫村さん、ありがとう! 互いにがんばろう! あきらめず、健康で、努力を続けてさえいれば、きっとぼっちゃんに会えるよ。

ほしよりこ著/マガジンハウス/2008

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