5時半起床。
身支度を整えて、6時にロビーへ。
2人のアドバイスでビーサンを所持(ビニール袋に入れ、カーゴのポケットに)。
5分ほど遅れてヤマモトさんがロビーへ。
レセプション(別人)に昨夜得た情報を再確認のためにぶつけると、フェリーはさらに奥のPortoから出るので、歩いていくのは無理だ、バスに乗れ、と言われる。
15分まで待つが、タイヨウくんはやってこない。
おろらく私の足なら、さらに奥のPortoでも、1時間歩けば余裕で着くだろうが……女性の足ではどうか。
ここでヤマモトさんにバスで行くことも提案してみるが、歩ける、というので予定通り歩きで行くことにする。
また、タイヨウくんは仕方ないが置いていく。
(私もヤマモトさんも乗り物のチケットは買ってある。タイヨウくんだけ未購入だったのだが……)
YHの朝食は7時からなので、何も食べずに出発。
メルジェッリーナの早朝の海岸は、とてもさわやか。
ヤマモトさんと旅行術の情報交換や、互いの旅の思い出などを話してのんびり歩く。
私はトレッキングシューズだが、ヤマモトさんは足元ビーサン。
島に行くのだから適切な装備だが、少々ペースがゆっくりだ。
それでも1時間ほど歩くと、港が見えてきた。
船が停泊しており、チケット売り場もある。
「No.18 Nave Capri」の文字。
よし、到着、と思ったら、乗り場はこの1km先だという。
どういうことなんだ……
時刻は7:25。
フェリーの出発は10分後だ。
「走りましょう!」のヤマモトさんの声で走りだす。
いきなり汗だく。
どれくらいで1キロなのか……ともかく走る。
「絶対間に合う!」とスポーツ経験者なのか、非常に強いメンタルを発揮するヤマモトさん。
そろそろかな、と港の様子が変わりはじめたところで立ち止まる。
手分けして聞き込み。
警備員らしき若者に、イタリア語で「カプリ島行きの船のチケット売り場はどこ?」と聞いたら、イタリア語で返答されわかりません。
「English?」と反問され、うなずくと「緑のライトが見える? あの奥だ」と教えてくれた。
「薬局?(イタリアでは緑十字が薬局のサイン)」
「そう、薬局」
「グラッツィエ ミーレ!」
後方で同じくイタリア人に話しかけているヤマモトさんに、わかったことを大声で伝え、再び走りだす。
200mほど先にある建物までダッシュ。
この時点で7時半を回っている。
次のフェリーは12:50だ。
1階の奥がチケット売り場になっていた。
窓口に駆けつけ、「カプリ行き7時35分!」とイタリア語で怒鳴ると、閉まっていた受付が開いて、切符を売ってくれた。
(男女だったせいか、私にいきなり2枚分請求がきた。)
ともかく買って、すでに出港準備を終えている船に飛び乗り、甲板へ。
乗船した時点で、すでに7時35分を過ぎている。
イタリアのルーズさにまた助けられた。
「この甲板に出たかったんですよ!」
ヤマモトさんはおおはしゃぎ。
加えて達成感にひたっているようだ。
(全力疾走した暑さでそれどころではない私……)
なんでも高速艇は、外に出られない構造らしい。
甲板でしばらくすごしたあと、前のほうに移動してみることに。
海風が気持ちいい。
午前中のおだやかな日差しの下、フェリーは順調にカプリ島へ。
マリーナ・グランデ (Marina Grande) 、9時着。
ここからはヤマモトさんが収集したweb情報を元に、どんどん進んでいった。
まずマリーナ・グランデにあるアナカプリ(Anacapli)行きのバス乗り場へ。
通常よりずいぶん小型のバス(料金は1.6ユーロ)。
島の狭い道路に合わせた仕様のようだ。
すし詰め状態で発車。
車内は冷房がないのか、効かないのか、ものすごく暑い。
汗が止まらない。
アナカプリに着いたら、今度は青の洞窟 (Grotta Azzurra) 行きのバスに乗り換え。
(表示を頼りに進むが、わからなくなってあたりの人に尋ねた。)
アナカプリから、同じような小型のバス(同じく1.6ユーロ)に乗り、青の洞窟へ。
バスは約20分間隔で運行していた。
青の洞窟着。
マリーナ・グランデからモーターボートでやってきた人たちが、海上で順番待ちをしているのが見える。
ビーチサンダルに履き替え、トレッキングシューズをビニール袋に入れる(これが重い上にかさばった……)。
階段を降り、洞窟前へ。
手漕ぎボートの空きを待つ。
ほとんど波もないせいか、優先されるモーターボートの観光客もどんどんはけて、すぐにバス停からの観光客がボートに乗り込むことに。
一艘に4~5人というのが普通のようだが、前後がグループだったらしく、ヤマモトさんと2人で乗り込む。
(そのままボートは回旋し、料金所で12.5ユーロを支払った。)
洞窟の入口は狭いので、乗客は密着し、頭を舳先より低くしなければならない。
仰向けになるのだが、ここでヤマモトさんの手を潰してしまうなど、体勢づくりに困惑する。
船頭の合図で一気に中へ。
すると暗闇の中に青い水面が広がっている……
これが青の洞窟か……
船頭が漕ぎながら歌(カンツォーネ?)を歌う。
先に入ったもう一艘とユニゾン。
歌の合間に「アモーレ、アモーレ! キッス! キッス!」と訴える。
だからカップルじゃないんだよ。
洞窟内を一周し、再び外へ。
入り口をくぐるときはスリリングだし、中は美しくキッスして「アモーレ」と囁くには適している。
なんというか……“アミューズメント”?
古代から続く観光名所である理由がわかった気がした。
船頭が「ナイスチップ10ユーロプリーズ!」と言ってきたので、ヤマモトさんに相談したら「いいとこ1ユーロじゃないですか?」と冷静な対応。
私はこういうとき弱気なので、心強い。
1ユーロずつ渡して下船。
バス停に戻ると10:20発のバスが停車中だったので、そのまま乗り込みアナカプリへ。
復路のバスは空いていて、余裕で座ることができた。
帰りのフェリーがなくなるまでには、かなりの時間がある。
私はカプリ島で時間が余ったら、ティベリウス帝の別荘跡「ヴィラ・ヨヴィス(Villa Jovis)」が観たいと考えていた。
ヤマモトさんに伝えたところ、予定はないので一緒に行くとのこと。
行き方がわからないので、いったんマリーナ・グランデまで引き返して、ツーリスト・インフォメーションで情報収集しなくてはならない。
マリーナ・グランデ行きのバスに乗り換えようとバス停に並ぶ。
するとヤマモトさんが、すぐ近くにいる東洋人の女性をじっと見つめ始めた。
服装から日本人だと推測したようだ。
ヤマモトさんが日本語で話しかけると、彼女はやはり日本人。
カプリ島だけで5日間滞在しているのだという。
なんでも今日アマルフィに移動するのだが、最後にどうしてももう一度飲みたいレモネードがあり、これから飲みに行くそうだ。
そんなにおいしいならついていくことにし、マリーナ・グランデではなくカプリ行きのバスに一緒に乗る。
女性たちは話がなにやら盛り上がっていたが、私は車内の暑さに再びやられ、朦朧としていた。
カプリに着く。
カプリ島にはカプリとアナカプリとう2つの町があり、このカプリは島の中心街のようだ。
フニコラーレ(ケーブルカー)の駅もあり、店も人も多い。
行列のできているジェラテリアの横を抜け、アウグストゥス公園のほうへ。
彼女はアウグストゥス公園を目指して歩いていたとき、途中で諦めて、この屋台に立ち寄ったのだという。
味はレモンなのに甘く、とても飲みやすい。
レモンが日本とは違うのか。
ともあれ、朝から動きっぱなしの身体を癒すのには、格好の一杯だった。
ヤマモトさんいわく、同じ場所に長く滞在している人はいい情報を持っている。
こういうのを味わわなきゃダメですよ、と旅行中ロクなものを食べていない私に言うのであった。
ホテルに戻る女性と別れ(そういや名前も聞かなかった)、偶然見つけたカプリのツーリスト・インフォメーションへ。
すると「ここからまっすぐ30分歩いたところにある」という。
現在11時。
余裕のスケジュール。
食事はまだ平気だとヤマモトさんが言うので、そのままヴィラ・ヨヴィスを目指すことにする。
30分なら楽勝のはずが……
30分の平坦な道と、30分の上り坂ではしんどさが違う。
いくら上ってもたどりつかない。
ましてや、炎天下だ。
途中で道を間違ったり、標識を見失ったりし、本当にこの先にあるのか、不安になる。
「12時まで進んで、何もなければ引き返しましょう」
とヤマモトさん。
限界時間の設定は私もよくやるが、妥当な設定と同意。
こういうとき同行者の存在は本当にありがたい。
予想外の長い道のりについて詫びると、「勝手についてきてるんですから気にしないでください」と大人の返答。
とうに30分は過ぎたころ……高台にそれらしき銅像が……
もしかしてあれか?
あそこまで上るのか?
ヴィラ・ヨヴィスからの復路を歩く人達は、すれ違うとき、なんとも優しげな微笑を浮かべている。
精も根も尽き果てて、ようやくヴィラ・ヨヴィスにたどり着く。
入場料を払い、足を踏み入れた瞬間、ヤマモトさんが歓声をあげて駆け出した。
海が青い。
一層涼しく感じる海風にあたりながら休息したあと、別荘跡を見て回る。
反対側の海も、銅像がある教会前のスペースから眺望できた。
ただひたすらに青い。
この青だけが孤独な皇帝の慰めだったのか。
ヤマモトさんもこの海の青さには感動したようだ。
「ついてきてラッキーでした。でも、もう1回やれと言われたら絶対やらない」とのことだった。
ヴィラ・ヨヴィスでビーチサンダルをトレッキングシューズに履き替えてから、坂道を下る。
下りのほうがシューズのせいもあるが、精神的に楽だった。
またしても道を間違えそうになるが、ヤマモトさんが正確に記憶しており、無事カプリに帰還。
先ほど見かけた行列のできるジェラテリアに寄り、エネルギー補給。
次のフェリーの時間までは随分あったが、フニコラーレを使い、マリーナ・グランデまで下りておくことにする。
何かアクシデントがあるかもしれないので。
マリーナ・グランデに並ぶ商店で土産物を物色。
リモンチェッロの小瓶がいいかな、と目をつけていたのだが、アナカプリではもっと安かったような……
ここでは1つ5ユーロだが、半額くらいだった気がする……記憶違いかもしれないが、なんとなく買う気がなくなった。
(ちなみに空港では6.5ユーロとさらに高くなっていた……)。
フェリーが入港してきたので、出港まで余裕があるが、乗り込んでおくことに。
チケットには往復と片道の2種類があるのだが、ヤマモトさんのweb情報によると、購入したのは価格的に往復券ということだった。
というわけで朝モギられたチケットの残りを保管していた。
ところが、取り出して船員に見せると、「チケットじゃないよ」と言われる。
どうやら勘違いして、片道切符の半券を後生大事に取っておいたらしい……
切符売り場で片道切符を購入。
また慌てるところでした。
冷房の効いた場所で休みたい私は船内へ(ヤマモトさんはまた景色を観たいと甲板へ)。
ソファに腰掛けた途端、眠気に襲われ、うたた寝するうちナポリ港は間近に。
甲板に出ると、ヤマモトさんも寝てしまったそうで、かなり日焼けが進んでいた。
このあと食事をどうするか、と相談したが、ヤマモトさんはお目当てのリストランテがあるそうで、魚介料理が評判だそうだ(私は貝が苦手なので、同行は遠慮した)。
私のほうはナポリピザを食べようと思っているのだが、彼女は昨日食べてしまったとのこと。
どうやらそこは私が行こうとしていた「ダ・ミケーレ(Da Michele)」のようだ。
彼女の目指す店はナポリ中央駅の反対側。
通り道なので、店の場所を教えてくれるという。
下船後、ナポリの中心街に向かって歩く。
ナポリの街はうさんくさい露天商が多く、不法投棄のゴミなども散らばっており、とても「ナポリを見て死ね」とまで言われた都には見えなかった。
ダ・ミケーレ前の路地で、ヤマモトさんと別れる。
*
「ダ・ミケーレ」はナポリピザの老舗。
それほど大きな店ではなく、20人も入れば一杯なのではないか。
いつも行列ということだったが、時間帯のせいか、相席ではあるがすぐにテーブルにつくことができた。
メニューは「マルゲリータ」と、「マルゲリータ(大)」のみ。
マルゲリータの普通サイズと、ナズーロ(イタリアのビール)を注文。
4人掛けで相席し、正面はカップルだったのだが、2人ともかなり大きいピザを食べている。
周囲を見回しても、みんな大きいピザだ。
これが「マルゲリータ(大)」か、でかいなあ……と感心していたら、私の目の前にも同じサイズのマルゲリータがやってきた。
私の表情を見て、隣のテーブルの人が笑いかけてくる。
こういうのは勢いが肝心なので、一気に食す。
ふかふかの食感。
トマトソースの味がよい。
とてもおいしいピザだ。
ただ、周辺が焦げていて、硬い。
そこだけが難点。
釜のせいなのだろうから、仕方ないか。
満腹となり、膨れた腹を抱えて休憩していた私。
奥のテーブルに座っていた、10代後半のグループが会計をしようと立ち上がった。
そのうちの1人の男の子と、偶然目が合う。
空となっている私の皿を見て、拳の親指を立てる。
「Perfect!」
私も親指を立てて笑顔を返す。
こういうやりとり、海外ならではですな。
*
歩いて10分ほどのナポリ中央駅へ。
両替をして、明日のローマ行きの切符を購入。
時間は8:50。
11時にはローマに着く。
地下鉄でメルジェッリーナへ。
購入済の1日券を使用(24時間なので、明朝も使える)。
YHへ戻り、まずシャワー。
次にイタリアで最後になるであろう洗濯。
洗剤の自販機や洗濯乾燥機の使い方がミラノなどとは違っていたので、レセプションに相談するために何度も行き来し、意外と苦労した。
すると、ベンジャミンがレセプションの裏に入って行き、ワインを手にして戻ってくるところに出くわす。
どうやら冷蔵庫があるようだ。
使えるの? と聞いたら、もちろん、とのこと。
YH共用の冷蔵庫がこんなところにあったとは。
洗濯物を乾燥にかけ、ビールを買い出しに。
一応、ヤマモトさんとタイヨウくんが帰ってきたとき3人で飲む可能性も考慮し、ハイネケン500ml瓶2本を買っておくことに。
(サービスでカップもつけてくれた。)
YHに戻ると、入り口脇のテラスで席で、ヤマモトさんがタバコを吸いながらハイネケンをすでに飲んでいた。
このあと時間があるなら晩酌につきあってくれないか、と聞くと、構わないととこと。
冷蔵庫にビールを入れ、洗濯物を回収。
改めてロビーのソファで乾杯。
ヴィラ・ヨヴィスに付き合ってもらったお礼の気持ちもあり、どんどん飲んでもらうことに。
実はイタリアでは缶ビールがほとんど売っていなくて、いつも栓抜きで苦労していた。
買ったとき開けてもらうことが多かったのだが、このときは厨房に行って栓抜きを借りた。
瞬く間に1本目がなくなり、2本目というとき、栓抜きの話題になったのだが、「わたし栓抜き持ってますよ」とヤマモトさん。
99cent shop(日本の100円ショップ)で買ったというのだ。
こういう発想はなかった……
2人で1時間くらい飲んで様々な旅の話をした。
特に言われたのが「日本人を見かけたら話しかけたほうがいい」ということ。
今日のように情報を得られたり、一緒に行動すれば、共感して楽しむことができる。
なるほど、確かに青の洞窟、1人ではかなり虚しかったかもしれない……
そのうちタイヨウくんも帰ってきて、3人で談笑。
やはり寝坊したらしく、朝食をたっぷり食べた後二度寝し、午後はポンペイを見てきたそうだ。
偶然とポンペイを観に行く日本人と会い、一緒に行動したのだという。
「ポンペイいいですよ! 遺跡にまったく興味のない僕でもよかったくらいですから。ナポリ滞在延ばして見てきたらどうです?」とタイヨウくん。
10時となり、ヤマモトさんが明日の準備のため部屋へ行くというので、お開きとなった。