ガハハのSAX
2011年3月に、初めて楽器に触れてみようという気になりました。
それは、友人の大正琴の演奏会を聴いたり、先輩のご夫婦がピアノを始められたことで、カルチャーショックを受けたからです。
【教室】
楽器というと、小学校の音楽室で触れたカスタネットが最後でした。
まずは、楽器屋さんへ飛び込み、フルートとSAXの体験教室を受けました。
前からの憧れもあって、迷わずSAX。すぐに音楽教室の門戸を叩きました。
そこではパーツの組み立て方、持ち方、マウスピースのくわえ方などの基本操作を教わりました。
【挫折】
基本操作のレッスンは、あっという間に終わり、いきなり楽譜のレッスンに入ります。
先生は真剣に教えてくれるのですが、強い苦手意識もあって、♯ や♭の理論?はチンプンカンプン。
30分の短いレッスンの中で、楽譜の勉強に費やす時間が多くて、閉口しました。
結局、延べ2時間ちょっとを受講しただけで、教室へは行かなくなりました。
基礎知識が大事だとは分かっていたつもりでしたが。
もちろん、チィチィパッパ的な練習曲も、まともに吹けない状態で。
このあたりで、足を突っ込んだことが、身の程知らずだったと気付いたのですが、時すでに遅し。
高い楽器を抱え込んだものの、周辺にSAXをやる人は誰一人としていないため、焦りの日々でした。
【真っ暗闇】
ワラにもすがる思いで、SAXの「やさしい」と名の付く専門書を探しますが、譜面を読める人しか使えない本ばかり。
教室で聞いたとおり、ピアノやギターの楽譜はそのままでは使えない、という壁にもブチ当たりました。
書店にある譜面はピアノ用、ギター用がほとんどで、そのままでも吹けるナツメロ演歌なんかは見当たりません。
やむなく買ったのが「ナツメロ歌謡全集」。いわゆる楽譜と歌詞の入った、普通のカラオケ用の本でした。
当然ですが、SAXでその音符を追って吹こうとしても、9割?以上の曲が別な音に。
石にかじりついても何とかしなくては、と焦りますが “八方塞がり” とはこれのこと。
先の見えない長いトンネルの中で藻掻くばかりで、焦りの色が日増しに濃くなりました。
【音符と格闘】
結局、その歌謡全集の中から吹きたい曲を選択して、SAXのキーに合わせて楽譜を書き換えるしかありません。
ということで、まずは未体験の “移調作業” から始めました。
最初は、パソコンの作曲ソフトに、まるごと音符を入力して、セーノで移調処理をして譜面を作ってみました。
それでも、入力に結構な手間が掛かるので、間もなくして五線紙に手書きをする方式に変更です。
聴き慣れた曲しか吹かないし、正しい音階で五線上に音符を並べるだけなのですが、それでも1曲書き換えるのに1時間近くは掛りました。
いよいよ楽譜が入手できないときは、その曲を耳で聴きながらSAXで音探しをして、五線紙に音符を一個ずつ並べて行きます。
いわゆる、“耳コピ” とかの方法ですが、これで1枚の譜面が完成すると、一人で小躍り気分に浸っていました。
【楽器と格闘】
ここまでは、楽譜との格闘バナシでしたが、これと平行して大変なのが楽器の操作。
どのキー(ボタン)を押すとどんな音が出るのかが、なかなか解らないのです。特に半音の出し方が。
壁に貼ったキー・パターンの絵を見ながら、キー操作をひたすら指で覚えさせ、♪ を見た瞬間に、正しくキーを押さなくてはなりません。
大変なことはまだありました。マウスピースの使い方と息遣いです。
楽器全体は、アナログの代名詞みたいなものですが、このマウスピースはアナログ過ぎて、かなりのクセ物でした。
天然葦(アシ)の茎を、カミソリのように薄く加工した振動板(リード)を、マウスピースに固定して吹く息わけですが、
音が出ない、割れる・・・なんてのは、日常茶飯事。
バラツキを避けるため、10本入りの箱(ブランド品)で買いますが、素材が天然なので、10枚全部の吹き勝手が違います。
吹くときは適度に湿らせますが、マウスピースへの取り付け方によっても、音色が変わります。
譜面を作るのは一時的な通過点ですが、楽器との格闘(もがき苦しみながら振り回される)は、永遠に続くようです。
【私の発表会】
冒頭に書いた先輩方は、「人前で演奏するのが上達の早道」 と、アドバイスしてくれました。
しかし、教室から逃げ出した私にとっては、夢のような話しに聞こえました。
そこで、苦肉の策として、YouTubeを使うことにしました。
演奏したものを YouTube に“限定公開”の条件で、アップロードをするのです。
繰り返し練習をして、曲らしくなったときにアップして、「聴いて下さい」と、友人知人にメールでお願いをする方法です。
何とも身の程知らずで人迷惑な話しですが、平身低頭で、ひたすらお願いをする作戦です。
人前での演奏でもないのですが、YouTube にアップする “コトの重大さ” に、始めてすぐに気付かされます。
普段でも、最初から最後までをノーミスで吹けない私が、カメラの録画ボタンを押すと同時に、口と指先が硬直するのです。
そんなときは酒の力も借りますが、その量のサジ加減が難しく、多すぎても少なすぎてもアウト。
【吹く?産物】
You-Tubeには、1、2回吹いてアツプできることもあれば、短い曲でも1時間以上を掛けてしまうこともザラです。
それでもうまくアップできたときは、一人で乾杯します。
難産の繰り返しで、アップできたのは、唱歌、ナツメロ演歌、フォーク、映画音楽までさまざま。
乗りに乗って、気が付くと400曲近くまで増えていました。
一旦アップした後に、第三者の視線(聴線?)に立って聴き返えせるのは、とても有意義です。
You-Tubeを選んだ私もエライですが、その場を提供してくれた、YouTubeには感謝しかないですねw
【楽器の魅力】
SAXにピッタリ合う70年代の歌謡曲なんかを、うまく吹けたときは嬉しいものです。
カラオケではとても唄えない高いキーの曲でも、平気で音が出るので感動します。
同じ曲を10回吹いたときよりも20回、20回よりも30回と吹くと、明らかに 運指 や 息遣い が楽に。
すると、もっと吹いてみようという気になるのも、楽器の魅力(魔力)なのでしょうか。
【モドキづくめで】
100曲くらいをアップしたそんなある日、とあるラーメン店で「ボランティア大募集(演奏、手品など)」のポスターが目に入りました。
「ボランティアならだれでも吹けるかも」と、恐る恐る、その施設へ電話を入れてみました。
ところが、あれよあれよという間に、デビューの施設と日時が決まってしまい、想定外の進展にビックリです。
申し込んだは良いけれど、本当に自分は人前で吹けるのかいな?と、後悔半分の毎日が始まります。
SAXを初めてから1年5ヶ月を経過したある日、とうとう大勢さんの前で、その日がやってきました。
演奏が始まると同時に、指が固まるわ、心臓が破裂しそうになるわ、胃は痛むわと、地獄の境地でした。
短いトークを混じえて全部で8曲。 いつもつまずく所はいつものように、いつもスンナリ行っていた所もゲツバタと。
でも、嬉しいことに、 ナツメロ歌謡曲は懐かしそうに、抒情歌はシンミリと聴いていただきました(多分、伴奏のおかげ)。
終わった後は、皆さんからそれなりの拍手が。 その拍手は、ボランティアをしてくれたことに対する、お礼の拍手なんですけどね。
さすが、「ふるさと」や「かあさんの歌」には、すごい説得力とパワーがありますね。
手を合わせて涙ぐんで聴いてくださる姿を見ると、ついつい「また寄せてね」なんて、一丁前なことを言う私がいました。
【これからは】
無謀にもデビューを果たしたものの、まだまだ、とても人様に聴いてもらえるシロモノではありません。
所詮、初心者の“モドキ・SAX” の “モドキ・ボランティア” でしかないけれど、 無謀の続きで、しばらくは続けたいと思います。
体験して分かったことですが、演奏そのものよりも、皆さんは “ふれあい” を一番望んでおられます。
その後、SAX演奏だけでなく、手品や新しい楽器(EWI)も披露して、延べ70回ほど、舞台に上がらせてもらいました。
しかし、 アップした曲を聴き直すと、身の毛がよ立つものばかり。増やすよりもアップのやり直しが大切なのですが、なかなかです。
【こんなモンでしょうか】
下の曲は、練習してきたSAX曲の一例です。
酒のせいにはしたくはありませんが、音程ズレ、タイミングズレ、録音の不具合など、見事なものばかり。
とても聴いてもらえるレベルではありませんが、ガハハと聴き流して下さい。