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日本経済新聞「SDGs経営と17の目標(戦略フォーサイト)」連載より出典(2022.5.27~6.22)

2022-06-26 11:29:46 | 経営関連情報
 SDGs(持続可能な開発目標)が2015年に採択されて6年以上経つが、企業の対応は既存活動への「ラベル貼り」にとどまり、SDGs実現に向けた新たな価値を生み出せていないのが現状だろう。本格的に取り組むには、異なるレンズが必要になる。
〔出典〕日本経済新聞「SDGs経営と17の目標(戦略フォーサイト)」連載より(2022.5.27~6.22)


SDGs経営と17の目標(1)「貧困撲滅」経済発展に貢献を
 目標1「貧困をなくそう」は、採択文書前文で「最大の地球規模の課題」とし、具体的には30年までに1日1.9ドル未満(15年の採択時は1.25ドル)で暮らす極度の貧困を終わらせることなどを掲げる。
 企業が本質的に対応すべきは経済発展の促進だ。これこそが貧困問題解決のカギとなる。
 中心的ターゲットとなるのは、極度の貧困層の85%が暮らす南アジア、サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカ地域だ。
 具体的には、自社の強みを生かして、地域の経済発展に貢献できる製品・サービスをいかに展開できるかを考えることになる。その際には消費者の購買力不足、流通網の未整備といった途上国市場特有の課題を考慮する必要がある。
 人口が減少する成熟した国内市場を抱える日本企業は、人口増加、経済発展の余地のある途上国市場に目を向けることで成長の可能性が広がる。その際には、自社の強みを生かしつつ、途上国特有の課題を解決するビジネスモデルを構築することが必要となる。
 新たな市場やビジネスモデルにチャレンジすることで、組織が活性化し、新たな知見も得られ、次の成長につながる。それが目標1「貧困」への対応の王道だ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標2は「飢餓をゼロに」だ。
「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」とし、2030年までの飢餓の撲滅、栄養不良の解消、小規模農家の生産性・所得倍増、持続可能な食料生産システム構築などのターゲットを含む。
 目標2には世界の食料バリューチェーンを大きく変えようとする「持続可能な食料生産システム構築」も含まれており、多くの企業にとって事業機会となるだろう。
 注目されているのが、ICT(情報通信技術)などのテクノロジーを活用して、効率的な農業を実現しようとするアグテックだ。センサーやドローンによる水利用や農薬散布の効率化、衛星画像やIoTデバイスが収集するデータを利用した生産性向上、収穫ロボットなどの導入が進む。高層建築物などのタテの空間を使った「垂直農業」や植物工場など、広い土地を使わない農業の開発も進められている。
 日本も農家の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など農業の持続性で課題を抱えており、日本企業が国内農業の課題解決に取り組むケースもある。ただ取り組みはやや小粒なものが多い印象だ。課題が大きいほど、解決策の汎用性が高いほど、ビジネスとしてスケールできる可能性が高まる。
 日本には素材や機械など独自技術に強みのある企業が多く存在する。変革する農業バリューチェーンで求められる機能に対し、自社のユニークな技術が機能を提供できないか、柔軟に考えることで事業機会が得られる可能性がある。
 「飢餓をゼロに」には、多様なテクノロジーへのニーズがあり、食品メーカーだけでなく、幅広い企業にとっての機会が広がっていることを理解すべきだ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標3は「すべての人に健康と福祉を」だ。
「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」とし、妊産婦・幼児の死亡率低減、感染症・非感染症への対応、薬物・アルコールの乱用防止、交通事故死傷者半減、汚染による死亡・疾病の大幅削減などのターゲットがある。ヘルスケア企業だけでなく、酒類メーカー、自動車メーカー、有害化学物質排出や大気・水質・土壌汚染に関わる幅広い業種の企業に関連する内容だ。
 途上国の医療ニーズに既存ビジネスが対応できていないのは、(1)医療サービスに対する人々の支払い能力の不足(そのために途上国特有の感染症等に開発費が投入されない)(2)医療や疾病に関する人々や医療従事者の知識不足(3)医療サービスを提供するためのインフラ未整備――などの課題があるためだ。
 支払い能力不足に対する取り組みとしては、医療機器の簡素化やオペレーションの効率化、現地企業へのライセンス生産によるコスト削減、特許で保護された医薬品の価格を途上国では先進国より大幅に引き下げる対応がある。
 医療や疾病の知識不足に対しては、啓発活動などを通じて時間をかけて医療ニーズ・市場を創造するやり方がある。糖尿病などでは啓発活動を通じて新たな市場が生まれている。ヘルスケア企業がトレーニングを実施して医療従事者を育成することも有効だろう。
 インフラ未整備に関しては、途上国でのチャネル構築のため、途上国の地方で販売員を採用・育成している例がある。ドローンで血液や医薬品を届けるなどテクノロジーを利用して新たなインフラを整備するやり方もある。制度面のインフラについては、政府と協働して医療方法のガイドラインを整備している例もある。
 途上国の課題に取り組むことの価値を考えることで、日本企業にも発想や取り組みに広がりが出てくることになる。
 また、薬物・アルコール、交通事故、大気・水質・土壌汚染といった、その他のターゲットについても、自社で何ができるかを検討することでビジネス機会の広がりをもたらすだろう。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標4は「質の高い教育をみんなに」だ。
「すべての人々に包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」には、すべての子供への男女の区別ない就学前・初等・中等教育、すべての人々への男女の区別ない技術・職業・高等教育、起業家の増加、教育へのユニバーサルアクセス、サステナビリティー促進に必要な知識・技能の習得などのターゲットがある。
 企業が対応する際のキーワードは、(1)市場創造(2)バリューチェーン(3)教育とテクノロジーを融合させる「エドテック」(4)サステナビリティー教育――の4つだ。
 (1)市場創造は、自社ビジネスに関する知識などを教育を通じて普及させることで市場・顧客を創造することだ。
 (2)バリューチェーンは、自社のバリューチェーンに関わる人材に教育を提供することで、その生産性を向上させるものだ。特に途上国に生産拠点を構える企業では現地人材の能力や意識の向上が課題となっている。
 (3)エドテックは、ICTを活用した教育サービスのことだ。幅広い人々が世界中の優れた教育にアクセスできるようになるため、ICT企業などが新たな成長市場として参入している。
 (4)サステナビリティー教育に関しては、多くの企業で環境、人権、ダイバーシティー(多様性)などの教育が進められている。
 そうした教育をサプライチェーン(供給網)などに広げれば、さらにサステナビリティーにプラスの影響が広がるだろう。
 このように目標4に関して、企業が取り組むべきことは数多くある。人的資本が注目される中、自社のバリューチェーンに関わる人材の教育を通じて人的資本を強化することは、今後の日本企業の競争力、企業価値の向上にとっても重要な意味をもつだろう。
 日本企業の経営者の多くが語っているが、「人材こそが真の資源」だ。将来の市場創造やバリューチェーン強化による長期的な競争力向上のためにも、質の高い教育の対象となる人材の範囲を、企業内の社員という枠組みを超えて捉えるべきだ。教育が人的資本の強化のカギを握っている。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標5は、「ジェンダー平等を実現しよう」だ。
「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」とし、女性・女児に対するすべての差別の撤廃、暴力の排除、強制結婚などの有害な慣行の撤廃、育児・介護・家事労働の認識・評価、女性参画・平等なリーダーシップの機会確保などのターゲットがある。
 目標5はSDGsの各国の達成度を示す「持続可能な開発報告書」で日本が低い項目として毎年挙げられており、世界経済フォーラムが発表する各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数で156カ国中120位(2021年)など、日本の取り組みが遅れている課題だ。
 だが、ジェンダー平等には日本企業の競争力を高めるポテンシャルもある。知識労働における男女格差は、女性が能力を発揮できる環境が十分ではない証左だ。
 また、ジェンダー平等は組織のイノベーション創出力を高める。組織に多様性をもたらし多様な感性や考え方が交わることでイノベーションが生み出される。イノベーションの源泉となるアイデアは、「既存の要素の新しい組み合わせ」で「新たに結合する要素が互いに遠いものであればあるほど、そのプロセスや結果はより創造的なものになる」とされる。すなわち、革新的アイデアは違いから生み出されるということだ。
 ジェンダー平等は新市場も生み出す。女性の悩みを技術で解決する「フェムテック」が注目されており、25年までに世界市場が5兆円規模になるとの予測もある。
 農業や建設の分野でも女性の参画を進める例がある。ジェンダーバイアス(性差に対する偏見)をなくすための商品開発もある。
 ジェンダー平等が日本再生のカギを握るという意見もある。日本にとって特に重要な課題であり、日本企業はジェンダー平等をより大胆に進めるべきだ。そのためには、数値目標を掲げることも有効だ。明確なコミットメントのもと、実現に向けて取り組むべきだ。ただし男性も含めた働き方の改革や意識変革がなければ、本質的なジェンダー平等は進まない。目標5は、日本企業の組織文化の全体的改革を迫るものでもある。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標6は、「安全な水とトイレを世界中に」だ。
「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」として、安全で安価な飲料水や下水施設・衛生施設へのアクセス、水質改善、水利用の効率改善による水不足への対処、水に関連する生態系の保護・回復などのターゲットがある。
 人口が増加する中、水の供給は大きな問題となっている。ユニセフによると、安全に管理された飲み水が入手できない人々は世界で20億人、安全に管理されたトイレを使えない人々は36億人にのぼる。
 こうした問題を解決しようとする目標6は、企業活動との関わりも強く様々な取り組みが考えられる。企業が社会課題に取り組む場合、(1)製品・サービス(2)オペレーション(3)社会貢献活動――を通じたやり方がある。
 (1)製品・サービスでは、「水ビジネス」として水源開発、水の供給、インフラ維持、下水処理、水の再利用などにビジネス機会がある。日本企業には海水淡水化用の逆浸透膜をはじめ世界で優位性をもつ技術が数多くある。しかし、部品や装置などの提供が中心で、統合的な水ビジネスは水メジャーなど海外企業が展開している。日本企業がより能動的に貢献していくため、全体最適の統合されたソリューションでの競争力の発揮が期待される。また、水が少なくて済む洗濯機の開発など製品使用時の水利用を削減する方法もある。
 (2)オペレーションでは、製品の生産過程で大量の水を使うメーカーを中心に水の効率的な利用や再利用、浄化などが進められている。世界の水の大部分は農業(約70%)および工業(約20%)で使われている。農業では農地に張り巡らせたチューブの穴から給水する点滴灌漑(かんがい)、工業では水利用の削減、再利用のほか、原材料からの水抽出などの取り組みが進められ、取水量ゼロの工場なども登場している。
 (3)社会貢献活動としては、飲料メーカーが森林を整備する水源涵養活動を実施している。水資源を涵養しておいしい水を育む取り組みは、商品の差別化やブランティングにも貢献する。
 製品・サービスと社会貢献のハイブリッドもある。途上国に簡易な水浄化装置や簡易トイレを展開する例などだ。先進国での売り上げの一部を寄付する「コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)」という方法もある。
 水問題には地域差があり、日本では比較的意識されにくい。しかし、企業活動や人々の生活は世界の水利用とつながっている。安全で衛生的な水が得られない人々に思いをはせることも重要だ。そうした想像力がSDGsに関するビジネスを創出する力になる。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標7は、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」だ。
「すべての人々に安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」は、エネルギーサービスへの普遍的アクセス確保、再生可能エネルギーの大幅拡大といったターゲットを含む。これらは途上国のエネルギーアクセス、クリーンエネルギーの普及の2つに大別できる。
 途上国のエネルギーアクセスは、いかに電気を普及できるかだ。途上国では約8億人が電力を利用できていない。木炭・薪などに依存し煙による健康被害などが問題となっている。
 途上国で巨大な発電所を建設して送電線を敷設するのは現実的ではなく、太陽光などの再生可能エネルギーによる分散型の電力供給を目指すのが基本となる。しかし、分散する市場をつなげてビジネスとして成り立つスケールをどう確保するか、どう料金を回収するかなどが課題となる。
 最近は、こうした課題をICT(情報通信技術)で解決するケースも出てきている。携帯電話で電力を使用した分だけの支払いを可能とし、IoTやリアルタイム遠隔管理システムで効率的に電力供給網をメンテナンスしている例がある。ICTなどを活用して途上国特有の課題を解決するビジネスモデルを構築することが必要だ。
 クリーンエネルギーの普及については、日本企業も再エネビジネスの拡大を目指しているが、現状では欧米や中国企業にかなり後れをとっている。欧米企業では事業ポートフォリオを、化石燃料ビジネスから再エネビジネスに大胆に転換し、再エネ市場で大きなシェアを占める企業も出てきている。
 化石エネルギーからクリーンエネルギーへのシフトといった大きな変革を実現するには、大胆な意思決定とともにイノベーションが不可欠だ。そしてイノベーションを生み出す優れた人材を引きつけることがカギとなる。もう一つがコラボレーションだ。様々なテクノロジーの組み合わせが必要となるイノベーション創出では様々なプレーヤーと協働するオープンイノベーションも求められる。
 クリーンエネルギーへのシフトについては、大きな方向性は定まっている。日本企業は足元のビジネスを着実に進めるのは得意だが、長期的なビジョンへのコミットメントや大胆な投資は弱い印象だ。しかし、長期的な視点でこうした世界を創っていく、ビジネスを実現するといった信頼性のあるコミットメントを示し、他者を巻き込みながら着実に実践していかなければ、クリーンエネルギー領域での長期的なビジネスの成功も、SDGs目標7への本質的な貢献もないだろう。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標8は、「働きがいも経済成長も」だ。
「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」は、経済成長、生産性向上、起業促進、若者・障がい者を含むすべての男女の雇用・働きがいのある人間らしい仕事・同一労働同一賃金、ニートの削減、強制労働・児童労働撲滅、労働者の権利保護など、幅広いターゲットがある。
 企業が成長や競争力向上を追求することで貢献できるものもあるが、企業が意識的に取り組む必要があるものもある。
 日本政府が進める働き方改革は、企業にとっても生産性の向上や人材確保につながる。長時間労働が常態化していたあるシステム開発企業では、残業時間削減の達成度に応じて残業代を社員に還元するなどの対策に取り組んだところ、社員の集中力が高まるなどの効果をあげ、離職率も下がり、子供を授かる社員が増えたという。
 十分に活躍の機会が得られていない人材の力を生かすことも重要だ。あるIT(情報技術)企業では障がいをもつ研究者を積極採用し、その独自の感性や視点をもとに世界で7.5億~10億人と言われる障がいをもつ人のための製品・サービス開発、世界の人口の3分の1を占めるといわれる高齢者や非識字者が情報を得るための技術開発に生かしている。
 強制労働・児童労働などでは、人権問題が懸念される地域に関わる製品に対する消費者の不買運動など企業活動にも影響を及ぼすようになっている。
 日本企業もいかに人権問題に効果的に対応するかを真剣に考える時期に来ている。
 働き方改革や人権問題では日本企業の多くが義務的対応に終始している印象が拭えない。しかしSDGs時代には社会の要請を自社の競争力強化の機会として見るレンズをもつ必要がある。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標9は、「産業と技術革新の基盤をつくろう」だ。
「強靱(きょうじん)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」には、経済発展と人間福祉を支援するインフラ開発、イノベーション促進などのターゲットがある。主に発展途上国の産業と技術革新の基盤構築を促すものだ。
 途上国でのイノベーション促進の重要コンセプトに、新興国から世界的な製品などを生み出す「リバース・イノベーション」がある。低価格・低性能の製品・サービスは、急成長して破壊的イノベーションになる可能性もある。
 途上国市場での製品開発では、「性能」「インフラ」「規制」「好み」の4つのニーズのギャップに注目する必要がある。
 「性能」では、低価格で一定の性能をもつ画期的な新製品を提供する。15%の価格で50%の性能を発揮する製品のイメージだ。
 「規制」では、途上国では規制が厳しくない分、新技術が展開しやすい面もある。低コストな切手サイズの診断用検査紙は途上国で先に普及している。「好み」も異なる。
 途上国向けに開発した製品は、先進国の製品がオーバースペック(過剰品質)となっている場合、先進国で新しい市場を切り開く可能性もある。途上国向けに開発された、安価で携帯性に優れ、特別なノウハウを必要としない小型超音波診断装置は、先進国で救急車内、遠隔地の事故現場、救急救命室など従来製品では対応できていなかった市場を開拓している。
 リバース・イノベーションを進めるには、専門組織「ローカル・グロース・チーム(LGT)」をつくることが有効だ。
 インフラ整備は企業1社では限界がある。社会課題の解決という目的を共有するプレーヤーが共同して取り組む「コレクティブ・インパクト」がカギを握る。
 あるグローバル農業関連企業がアフリカで食糧の生産性向上に貢献しようとした際、インフラの未整備、汚職、農家の知識不足などの障壁が立ちはだかった。他のグローバル企業、非政府組織(NGO)、国際機関、現地政府など数十の組織を巻き込み、インフラを整備する団体を立ち上げて、港湾・道路・鉄道・電力を整備、農業協同組合を組織、関係業者や金融機関を誘致して、現地の農業を発展させ企業の利益にもつなげた。
 SDGs実現に向けた新たな価値創造には新しいレンズを持つことが必要だ。リバース・イノベーション、コレクティブ・インパクトのレンズを通じてイノベーションなどを捉え直すことが有効だ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標10「各国内及び各国間の不平等を是正する」
 所得格差是正、ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂)などのターゲットがある。
 格差是正が社会課題として認識される中、企業としても格差を含む不平等是正への貢献が求められる。しかし受け身で対応するのではなく、自社にとっての意味合いを考え、可能であれば企業価値の向上につなげることが重要だ。
 ダイバーシティーの推進は、イノベーションの源泉となるとともに、新たな市場も生み出す。性別に関しては、LGBTQ(性的少数者)が注目されている。
 LGBTQ市場は世界で100兆円を超えるとされ、市場を広げている例もある。
 宗教に関しては、ハラル市場なども注目される。イスラム教徒には、ハラル認証を取得した商品を提供することが必要だ。イスラム教徒の人口は、2030年には約22億人になると予測されており、同市場は200兆円とも300兆円になるとも言われている。
 ダイバーシティーに関連して、弱者を支援する、能力を補強する市場もある。高齢者や障がい者が使いやすい電子機器や情報サービスは、大きな市場となっている。
 その他、弱者を支援し不平等を是正する製品・サービスとして、途上国でブロックチェーン(分散型台帳)を用いた土地のデジタル取引のプラットフォームを提供している例がある。
 目標10はビジネスの観点からはあまり注目されていないが、AIやブロックチェーンなどのテクノロジーと組み合わせて新たなソリューションを提供することで、これまで見逃されていた多様性の市場をつかめる可能性がある。
 一見ビジネス化が難しそうだからこそ、先行して市場を創造できるポテンシャルがあると言える。ビジネスは「誰一人取り残さない」世界を実現できる力がある。そういう視点を持つことが、SDGsビジネスを考える上では重要だろう。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標11「包摂的で安全かつ強靱(きょうじん)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」
 すべての人々への住宅の提供、都市の環境改善などのターゲットがある。
 SDGsとビジネスに関する報告書「より良きビジネス、より良き世界」(ビジネスと持続可能な開発委員会)では、SDGs実現に向けた動きが2030年までに年間12兆ドルの市場機会を生み出すとし、なかでも「手ごろな価格の住宅」には大きな潜在市場があるとする。30年には世界人口の60%が都市に住むと予測される中、都市住民に「手ごろな価格の住宅」を提供するイノベーションが求められている。
 貧困層向けに4000ドル、24時間で建てられる3Dプリントの住宅が開発されている。米国の企業がNPOと開発したもので、持ち運びが可能な建築用3Dプリンターを使い、快適で耐久性も高い住宅を建てられる。都市住民向けにも応用が可能だろう。
 難民向けに1000ドル程度でできるシェルターを開発した企業もある。この企業は国連の難民支援機関と協働して、太陽光発電、断熱材を用いた難民用シェルターを開発した。
 「社会課題に対応した都市づくり」に関しては、デジタルテクノロジーで都市のインフラなどを最適化し、企業や生活者の利便性・快適性を向上させるスマートシティーが世界的に注目されているが、SDGsに貢献するようなサステナブルな都市づくりの観点が必要だろう。
 スマートシティーの先進都市では至るところにセンサーを設置してそこから得られたデータをもとに、水道システムの自動運転などで水資源を節約している。街路灯ごとに明るさや点灯・消灯時間を制御してエネルギー利用も効率化している。信号機の最適化による交通渋滞の緩和なども進められているが、車の自動運転の普及でさらに進化する。将来は物流の一部はドローンで代替されるだろう。
 スマートシティーは巨大市場に成長するとみられており、センサーなど日本企業が強みを持つIoT関連のハードウエア市場も拡大する見込みだ。日本企業は統合ソリューションを提供する企業の下請けとして製品・技術を提供するだけではなく、社会の動向を先読みし社会課題の解決に必要な技術を能動的に開発して広げていくビジネスモデルの構築が求められる。SDGsビジネスには、先読み、能動的な対応が重要だ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」
 2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で採択された「持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)」の実行、天然資源の効率的利用、食料廃棄の削減、化学物質・廃棄物の削減などのターゲットがある。
 企業が目標12に取り組むことは、サーキュラーエコノミー(循環経済)の推進にほかならない。経済活動に組み込んだ資源を徹底的に使い、廃棄物の排出と新しい資源の投入を最少化し、生産から消費までの流れを循環させる。
 これは従来の「生産―消費―廃棄」の直線的なモデルを根本から変えるものだ。リサイクルにとどまらず、使用後の製品や部品の使い道の可能性などを考えて、製品のライフサイクル全体で多角的に資源を使い、ビジネスモデルとして実現しようとするものだ。
 サーキュラーエコノミーは、企業にとってコスト削減となるうえ、これまで廃棄物と考えられたものから価値を生み出すこともできる。原材料調達の安定化にもつながる。長く使い続けてもらう製品を提供することにより顧客と長期的な関係をもつことにもなる。
 サーキュラーエコノミーは、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)を超えて、新たなビジネスモデルを構築する。
 循環経済への移行を支援する英エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーを実現する上で、「廃棄と汚染を出さない設計」「製品と原材料を使い続ける」「自然のシステムを再生する」という3原則を定めている。
 PwCではこの3原則を7つの取り組みに分類、整理している。「循環型設計」では多様なビジネスパートナーとの連携による商品開発が進んでいる。
 「再製造・リサイクル(協働)」では業界を超えた連携も進む。
 サーキュラーエコノミーは、バリューチェーンの構造的変革を求める。日本企業は既存のバリューチェーンでの3Rの取り組みにとどまらず、デジタルテクノロジーの活用、他業種などとの新たなコラボレーションなどで、サーキュラーエコノミーに向けて変革する意識を持つ必要がある。そうすれば、新たなビジネス機会をつかめる可能性があるだろう。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標13は「気候変動に具体的な対策を」だ。
 「2030年までに温暖化ガス排出を半減させる」といった直接的なターゲットはないが、これは気候変動対策は気候変動枠組み条約に基づく締約国会議(COP)による対応が中心との認識に基づいている。
 企業にはパリ協定も含めた気候変動への対応が求められる。基本は温暖化ガス(GHG)排出量の可視化、削減、そして気候変動への適応だ。
 排出量の可視化では、自社の排出「スコープ1」、電力などエネルギー調達先での排出「スコープ2」に加えて、サプライチェーン全体の「スコープ3」の見える化が求められており、いかに効率よく正確に把握するかが課題だ。
 現在、多くのデジタル関連企業などがGHG排出量可視化・管理のクラウドサービスなどを開発しており、人工知能(AI)などを用いた高度化が進んでいる。
 排出量の削減では、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの調達やヒートポンプ導入などが進められている。
 排出削減に関わる製品・サービスは、再エネ、蓄電池、二酸化炭素回収・貯留に加え、ゼロカーボン素材、代替肉など多岐にわたる。排出削減は成長市場として注目され、競争も激化している。
 自社の強みを生かして差異化することが重要だ。競争を避けてGHG削減のメイン機能に必要なサブ機能を狙うこともできる。
 GHG排出削減が生み出す新たな課題に先んじて対応する考え方もある。
 気候変動への適応では、洪水などの急性リスクへの対策は進んでいるが、今後は海面上昇や農作物の適地変化など慢性リスクへの対策も求められるだろう。
 企業にとって新たなビジネスの機会にもなる。代表例が北極海の氷が解けることを見越した海運会社の新たな航路開設だ。高温や干ばつに強い農作物、気候変動の影響の監視・早期警戒システム、水不足を見越した水浄化システムの開発が進められている。
 気候変動はすべての企業が取り組まなければならない課題だ。大きな市場が生まれる。多様な視点で考え尽くす価値がある。日本企業の技術的強み、災害の多い国で培ったノウハウなど価値の源泉はたくさんあるはずだ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標14は、「海の豊かさを守ろう」だ。
 企業活動に関係が深いものとしては、海洋汚染防止、水産資源の回復がある。
 海洋汚染防止では近年、特に海洋プラスチックが問題になっている。過去50年で生産量が20倍に増大したプラスチック。8割近くが廃棄され、一部が海洋に流れ込んでいる。ウミガメの50%以上、海鳥の90%以上がプラスチックごみを摂取するなど、海洋生態系に大きな影響を及ぼしている。
 プラスチックは細かくはなっても自然に分解することはなく、マイクロプラスチックとして数百年以上漂い続けるとされ、長期にわたる影響も懸念されている。
 2050年には「海洋プラスチックごみの総量が海にいる魚の重量を上回る」と予測されており、抜本的対策が必要だ。
 世界的に使い捨てプラスチックを禁止しようとする動きがあるが、海洋プラスチックを回収・再利用する取り組みも進んでいる。
 廃棄された漁網を再利用したカーペット、海洋プラスチックから作ったアパレル製品などだ。ある企業が環境保護団体と開発した海洋プラスチック製シューズは、ブランドイメージを向上させ、優れたデザイン性もあって数百万足売れるヒット商品となっている。海洋プラスチックを素材とする動きは、電気製品、自動車部品などにも広がっている。
 海洋プラスチックの回収で途上国で雇用を生み出している例もある。海洋プラスチック問題を解決しつつ途上国の貧困問題にも対応する優れた取り組みだ。
 水産資源の回復で期待されているのがマグロなどの養殖だ。しかし、養殖にもエサのやり過ぎや排せつ物による海洋汚染をどう防ぐかなどの課題がある。
 養殖魚のエサになるカタクチイワシなどの乱獲を防ぐため、成長が早くタンパク質を多く含む昆虫をエサにしようとする動きがある。また、センサーを活用して給餌量などを最適化するスマート養殖の取り組みも進められている。
 絶滅危惧種のマグロやウナギは、そもそも食べないようにしようという動きもある。ウナギについては「ウナギ風味のナマズ」の開発が進められている。
 海に囲まれ水産資源の消費量の多い日本にとって、目標14は重要だ。海洋プラスチックを原材料にできる素材開発や養殖技術などでも日本は優れたものを多く持っている。海の生態系や食文化を維持するためにも積極的に取り組む必要がある。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標15は、「陸の豊かさも守ろう」だ。
 生態系の保護、森林の持続可能な利用、砂漠化への対処などのターゲットを含む。
 企業が取り組む場合、基本は生物多様性への対応だ。自社のバリューチェーンの生物多様性への影響と依存の評価から始まる。
 「影響」では、農業などによる土地利用の影響が最も大きい。生物多様性に影響を与えているパーム油を例に考えてみよう。アブラヤシから採れるパーム油は食用油、せっけんなどの原料として幅広く使われ、世界で最も生産されている植物油だが、インドネシア、マレーシアなどの熱帯雨林を破壊しているとして非政府組織(NGO)などの批判の的となっている。
 認証の信頼性を高めるためブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用してサプライチェーンの透明性を確保するほか、人工衛星を使って農園における森林破壊の監視もしている。人工パーム油を作る技術開発も進んでいる。これらの取り組みはパーム油以外にも応用できるだろう。
 「依存」では、飲料メーカーが水資源を育む森林生態系に依存している例が分かりやすい。飲料メーカーにとって水資源の保全は極めて重要だ。天然の水は雨が長年かけて豊かな森と土壌に育まれて作られることを理解する飲料メーカーでは豊かな森や土壌を保全する活動を進めている。
 目標15には「世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる」というターゲットもある。地域の自然環境に配慮した植林は生態系回復にとって重要だ。植林は社会貢献活動のイメージが強いかもしれないが、企業にとってビジネスの機会も生み出している。
 自社で排出する二酸化炭素(CO2)を森林整備などで相殺するカーボンオフセットのニーズもあって、企業による大規模な植林が世界で広がっており、遠隔地で植林するドローンや、乾燥した土地でも木を育成するテクノロジーなどが実用化されている。未利用の農地を活用して植林し、その木材資源を加工して販売し対価を農家に還元するビジネスや、成長が早い竹のプランテーションを整備して活用している例もある。
 その他、植林で再生された熱帯雨林の原材料で生産した商品が売れるたびに植林する「コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)」、大規模植林のプロジェクトマネジメントなど、関連する様々なビジネスが生まれている。
 この流れに先んじて対応するために、日本企業もまず自社のバリューチェーンと生物多様性の影響・依存関係を把握することが必要だ。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標16は「平和と公正をすべての人に」だ。
 暴力撲滅、司法アクセス、汚職・贈収賄減少、身分証明の提供などのターゲットがある。
 昨今、地政学リスクが高まっているが、ここでは汚職・贈賄問題など、多くの企業にとって取り組みやすい点に触れる。
 汚職・贈賄がまん延する途上国では柔軟な対応をしなければビジネスが円滑に展開できない、と考える企業やビジネスパーソンもいるかもしれないが、考えを改めるべきだ。
 あるIT(情報技術)企業は「尊敬される企業になる」ことを企業理念に掲げ「良心に背くことは行わない」などの原則を策定し社員に徹底している。こうした取り組みをサプライチェーン全体に広げれば、さらに汚職・贈賄を減少させる効果が高まるだろう。
 汚職・贈賄の問題をテクノロジーで解決しようとする動きもある。途上国では土地を売買する際に賄賂が求められ、国の健全な発展を阻害している場合がある。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用することで、第三者による改ざんを防ぐ信頼性の高い土地登記を実現させ、腐敗を減らす取り組みが進んでいる。
 自社のサプライチェーンが結果的に戦争や紛争に加担することになる場合もある。よく知られているのが「紛争鉱物」だ。コンゴ民主共和国など紛争の絶えない地域で、すず、タンタル、タングステン、金などの鉱物資源が武装勢力の資金源となっている。これらの鉱物は電子部品などに広く使われているが、紛争を助長しているなどとして紛争鉱物と呼ばれる。
 紛争鉱物は欧米では法令で対応が求められ、電機、自動車など電子部品を使う業界では対応が進んでいるが、紛争鉱物に限らず、自社のサプライチェーンが戦争や紛争に加担していないかには感度を高くして対応する必要がある。そのためにはサプライチェーンのトレーサビリティー(生産履歴の追跡)が重要だ。ここでもブロックチェーンなどのテクノロジーの活用が進められている。
 テクノロジーの活用は、司法アクセス、身分証明の提供でも期待が集まる。法律(リーガル)とテクノロジーを組み合わせた「リーガルテック」という言葉がある。オンラインでの弁護士相談なども含まれるが、日本でもサービスが普及しつつあり、利便性が向上すれば弁護士のいない地域でも司法アクセスの提供が容易となる。
 身分証明では、中東の難民などに網膜認証などの生体認証とブロックチェーンを使ったシステムで本人認証をする電子身分証明書を発行している例がある。こうしたシステムでホームレスなど身分証明を持たない社会的弱者を広く支援できる可能性がある。
 自社およびサプライチェーンで、暴力、犯罪、汚職・贈収賄に加担せず、テクノロジーを使って、汚職・贈収賄を減らし司法アクセスや身分証明に貢献する。それが企業が目標16に取り組む基本であり、こうした取り組みを進めることで企業の信頼性も高まる。



SDGs(持続可能な開発目標)の目標17は、「パートナーシップで目標を達成しよう」だ。
 パートナーシップによる社会課題解決のコンセプトには「コレクティブ・インパクト」がある。政府、企業、市民、財団などが互いの強みを生かして取り組むことで社会課題を解決しようという考え方だ。グローバル企業、非政府組織(NGO)、国際機関、現地政府などが連携して、アフリカで農業発展のためにインフラを整備しているのは好例だ。
 また、ある海外の流通企業はプラスチックなどのリサイクルを進めるため、消費財企業などと組んでリサイクルインフラ投資のためのファンドを設立して、リサイクルの革新的技術を持つ企業などに投資している。政府が担ってきたインフラ整備だが、企業主導で進める事例も増えてきている。
 コレクティブ・インパクトの一形態として「ハイブリッド・バリューチェーン」もある。企業とNGOなどが相互補完的なバリューチェーンを構築し、途上国に適したビジネスモデルを確立する方法だ。低価格医薬品、栄養素を強化した低価格食品、分散型の再生可能エネルギーなど、成長が見込める市場で取り組みが進んでいる。
 社会課題解決のための資金調達で、まず公的資金を投入して民間資金の投入を促そうという「ブレンデッド・ファイナンス」も一形態と言えるだろう。これにより途上国のエネルギーインフラの構築など、民間だけでは難しい投資が多数実現している。
 社会課題解決に向けたパートナーシップとして、オープン・イノベーションも重要だ。社会課題解決に向けたアイデア創出やその実現は、自社だけで対応するには限界がある。社外のアイデアや技術・ノウハウをうまく取り入れることが効果的だ。
 社会課題解決は、単なる利益創出よりも幅広いパートナーの共感や協力を得られやすい。最近は、競合企業同士が社会課題解決のためにパートナーシップを組む例も増えている。
 競合同士、他業種、政府・国際機関、市民セクター、国内外など、SDGs実現に向けた様々なパートナーシップが生まれている。そうした連携はSDGsを実現しようと世界が動く中、新しいパラダイム(枠組み)における競争力を培うことにもなる。従来の競争環境やステークホルダー間の役割分担を柔軟に見直す思考が必要だ。




SDGs(持続可能な開発目標)は、既存の社会・経済システムで「未解決の問題の集合体」であり、それをビジネスで解決するには新たなレンズ(ものの見方、解決のフレームワーク)が必要だ。
 SDGs自体も世界が解決すべき問題を17のゴール、169のターゲットに整理したフレームワークであり、1つのレンズと言える。しかしSDGsの実現に貢献するには、課題にさらにズームインするレンズ(課題を良く理解するレンズ)、そして課題の解決策を考えるためのレンズが必要だ。
 今回の連載では課題にズームインするレンズを示し、解決策を考えるためのレンズとして「テクノロジー/イノベーション」「パートナーシップ」「市場創造」「長期視点」などを紹介してきた。
 解決すべき課題を特定した後は、解決策を考えるレンズを使う。例えば「テクノロジー/イノベーション」で考えることで、一人ひとりの購買力が小さく消費者が分散するという課題がある市場で、ICT(情報通信技術)を活用して、多数の消費者とつながり使用量に応じて少額課金するビジネスモデルが見えてくる。
 このレンズの先には、新興国から世界的な製品などを生み出す「リバース・イノベーション」という解決策も見えてくる。途上国向けの製品開発で性能やインフラなどの先進国とのギャップに注目し、低価格で一定の性能を持つ画期的な新製品や途上国でも普及するインフラ(モバイルネットワークなど)の利用を考えるなどだ。
 「パートナーシップ」では協働で解決できないかを、「市場創造」では啓発活動や人材育成、ルール整備を通じて市場を創造できないかを考える。「長期視点」では課題解決の結果生まれる次なる課題に先回りして対応する。
 SDGsビジネスに関連する様々なレンズを用いることで、課題を解決するビジネスのアイデアが広がる。そして自社のパーパスや強みに適合するビジネスアイデアを具体化していくことで、SDGsビジネスの実現可能性が高まる。
 SDGsの価値は、サステナビリティーへの関心を高めたことに加え、世界の共通目標を作ったことだ。SDGsで共有された目標、社会が目指す方向性は2030年の後も変わらず、次のゴールにも引き継がれるだろう。
 それならば新しいパラダイムに早く適応するほうが長期的な優位性を確保できる。企業は既存ビジネスでのSDGs貢献をアピールする“ラベル貼り”にとどめず、本質的な価値を生み出すよう取り組むべきだ。多様なレンズによるアプローチで、自社ならではのパーパスや強みを武器に、SDGsに本質的に貢献する企業が増えることを期待したい。



著 PwCサステナビリティシニアマネージャー 水上武彦氏
 みずかみ・たけひこ 官公庁で主要政策の規制緩和や国際交渉などを担当した後、経営コンサルティング会社で製造業を中心に多様な戦略プロジェクトを実施。その後、サステナビリティーコンサルティングに従事。

〔出典〕日本経済新聞「SDGs経営と17の目標(戦略フォーサイト)」連載より(2022.5.27~6.22)

2022.6.5 河辺せせらぎウォーク(第24回秋田歩け歩け大会)

2022-06-06 06:03:46 | 日記
2022年6月5日(日)
河辺せせらぎウォーク(第24回秋田歩け歩け大会)に参加しました。


朝8時からスタートした「受付」には、既にもうたくさんの人が受付待ちの行列を作っていました。
駐車場は十分に広いので、まだまだ収容可能の余地大です。さすが、例年は600~800人の参加者のいるイベントです。
今回の参加者は300名程度らしく、主催者にすれば余裕の人数なのでしょう。
早く通常の600人超となるイベントに戻ることを期待します。


並ぶこと数分。ようやく「受付」のテントまできました。


ここで参加費(500円)を支払って受付完了です。


今日のプログラムをいただきました。


へそ公園→岨谷渓→鵜養町内(市指定天然記念物と堰のある風景)→鵜養緑地公園→伏伸の滝→殿渕→鵜養町内会館→へそ公園(ゴール)という行程です。
全8㎞コース。


第1回大会が平成9年に始まり、その後毎年回を重ねて開催され、第23回(令和元年)まで脈々と続いてきたイベントのようです。
令和2年、3年とコロナウイルス感染症の影響で中断されていましたが、今回3年ぶりに開催となりました。


開会式が行われるへそ公園駐車場。





ところで、駐車場内にあるこの標柱。「中心碑登口」とあります。
その階段を上った先にあるのが・・・


ここです。
石碑が物語っています。


ここ河辺は、秋田県の中心に位置する場所です。
だから、ここの公園は「へそ公園」。
まさにど真ん中です。




ここから眺めると、鵜養部落方面を広く見渡すことができます。


駐車場に受付を終えた参加者がどんどん集まってきます。


そして、開会式の始まりです。


主催者である秋田魁新報社部長のごあいさつ。


実行委員会の熊谷様の諸注意があり、その後ラジを体操をしていよいよスタート時間を待ちます。




スタート地点からは、約20名単位のグループで出発。
これもコロナ対策の一環ですね。




歩き始めると、林の向う側から川のせせらぎの音が聞こえてきます。
心地のいい音と空気がすがすがしい気持ちで、歩みも軽くなります。




やがて「岨谷渓」の看板が目に入りました。
一応、書いておこうかな。
河辺町史によると、岨谷渓は和同年間(708~715)に鵜養(うやしない)の沼が破れたときにできたといわれる。巨岩絶壁が、川沿いに約300メートル屏風のごとく続き、直下を岩見川の清流が駆けくだっており、四季折々の景色を楽しむことができる。
江戸時代の紀行家・菅江真澄は、日記「勝手の雄弓」に岨谷渓を描いた図絵を残しており、ここから中山峠を越えて鵜養や殿渕、伏伸の滝、舟作などの景勝地へ向かったことが知られている。


清冽な水の流れを見ることができます。










水の流れの音を聞きながら、心地よいウォーキングが続きます。


鵜養町内に入る手前にある秋田市文化財「塚ノ岱遺跡」。
遺跡とあるので、何らかの歴史的な背景があるのでしょうか。
ネットで調べてみましたが、見つけれません。


鵜養町内に入っていきます。


ここで「鵜養部落」について、明治の大実業家・あの渋澤栄一の曾孫にあたる澁澤寿一さんが鵜養部落に注目されているとの情報を友人から教えてもらいました。
https://watashinomori.jp/interview/image_itv_03.html
↑これがその記事です。
「江戸時代から一人も餓死者が出なかった、桃源郷のようなところがあるから見においでよ」と誘われ、秋田県河辺町(現、秋田市)の鵜養(うやしない)へ行きました。そこは、雄物川水系の岩見川のそのまた支流の上のほうにある、まさに山奥の孤立した集落なんですが、天保の飢饉のときも天明の飢饉のときも一人として餓死していないんです。
その集落は、主にミズナラの共有林を33箇所ぐらい持っているんですが、それを一年に一つずつまとめて伐採するんですね。最初、それを聞いた僕は、「山の斜面を全部伐採してしまったら土砂崩れを起こしませんか」と言うと、「何もわかってないねえ」と笑われるわけですよ。なぜかと言うと、僕達が見てきた山の多くは杉や桧の人工林で、そういう木は上を刈ってしまうと根っこも枯れますから、大体10年位で根が腐ってきて雨が降ると土砂崩れが起きる。ところが、ミズナラのような広葉樹の森の場合は、上を刈っても根っこは死ぬわけじゃないから、ちゃんと横から萌芽して枝が出てきて、34年目に順番が回って来る頃には元の太さに戻っている。そうやって彼らは、持続的に森を利用して来たんです。
さらに、森を刈った後には2年目からワラビが生えて、3年目には猛烈な量になり、塩漬けにして保存食にすることができます。また、7年位経つと元の切り株が腐って来て、今度はそこに生えたキノコが貴重な食料になる。そして、人々は森に入り、2時間で歩ける距離の範囲で薪を拾い、肩に担いで帰ってくる。牛や馬に食べさせる青草や田んぼの肥料なども、すべて森の産物でまかなっていたわけです。つまり、誰一人餓死しなかったのは、「森が食わせた」からでした。


町内に入ると、昔ながらの曲り家のお宅の多いこと。
その昔は、馬なども飼っていた農家なのだろうと想像できます。








堰が町内全域に流れています。岩見川の清流の流れが分かれてここを通っているのです。
生活を支える堰。その源流は岩見川。清流と生活が一体となっている鵜養地区です。


堰の流れをうちの方に引き込んでいたり、生活用の洗い場にしていたり、堰を流れる水は大事に使われていることが見てとれます。






鵜養町内の集落を抜けると田んぼが出てきました。
ここの田んぼが、秋田の酒蔵「新政」が酒米を植えている田んぼとのこと。
「新政」では、ここ鵜養地区で酒蔵なのに自ら米づくりから行い、酒を造ろうとしています。
そんな壮大なプロジェクトが進行中のここ鵜養なのです。




ちなみに、ここ鵜養地区では、日本酒だけでなく、ウィスキーの醸造所の建設構想もあります。
今後、着々と計画が進行し、日本酒と洋酒が作られる、県内でも稀な地域になるだろう鵜養地区です。
今後の動向に要注目です。


岩見神社


休憩場所の「鵜養緑地広場」。


ここ鵜養では、その昔魚の養殖がおこなわれていたようです。
これもその跡。産業遺産といえるのではないでしょうか。


ここにも「新政」の酒米づくりの田んぼがあります。


「伏伸の滝」方面へ進みます。


来ました。岩見川清流の中ではここが一番見応えがあるように思います。
「伏伸の滝」


轟音とともに、4段からなる滝から水が流れ落ちています。
きれいです。すごい迫力です。


そのまま流れは静かに進んでいきます。


「殿渕」
一応書いておきますか。
殿渕は両岸に岩石が連なり、つつじ、カエデなどが岩の間に繁茂し、澄んだ川面に写し出されるほか、イワナ、ヤマメなどの魚影も見ることができます。
名称の由来は諸説あり、河辺町史によると、昔、殿様がこの渕を遊覧した際に、誤って落馬したことから殿渕と名付けたと伝えられている。
また、秋田藩九代藩主佐竹義和公の紀行文「すなどりの記」によると、昔、二代藩主義隆公が、この地を訪れた際、金銀の銭を渕にまいて漁師たちに拾わせたことから殿渕と呼ばれるようになったとの記述がある。






各所に矢印で方向を教えてくれるので、安心です。
(このイベントの開催にあたり、草刈りや駐車場整備等々、たくさんのご尽力があったことを感じます。)


間もなくゴールに到着というところまできました。


へそ公園の沿道にあった標柱。
「グリーンルート」阿仁・河辺・雄和・岩城 四町観光ライン。
今は、ここから阿仁へ抜ける道が止められているようですが、数年前まで旧4町が連携し観光振興に取組んでいたとのこと。


へそ公園に戻ってきました。


ゴール!!!


皆さん、お疲れ様でした。とっても楽しいイベントでした。




河辺を盛り上げることイベントに続いて何かできないだろうか。
案1)駐車場で河辺地区の商品をお土産用にパッケージして、1000円から1500円程度でで売るのはどうか。
案2)へそ公園に来るまでの岩見地区に幟旗を立てるなど、賑わいの演出(歓迎せせらぎウォークなど)ができないだろうか。