長い旅を終えたばかりの29歳の作家、
ジャック・ケルアックはNYCのアパートにいた。
そして旅路で綴り続けた
手垢と土埃にまみれたメモとしばらく向き合った後、
凄まじい勢いでタイプしはじめた。
紙をいちいち取り替えるのが面倒なので、
テープでつないだ。
そうして3週間後にできあがったのは、
12万語にも及ぶ自分と友人たちの物語。
改行が一切なく、
まるで太いサラミのような巻物になった。
2012年5月。
ブラジル人映画監督、ウォルター・サレスは、
この『路上』を原作とする映画を発表した。
映画『ON THE ROAD』は後にWOWOWで放送され、
僕は自宅でこの映画をみた。
名作・・・
とりわけ自分が思い入れのある小説の映画化作品をみることは、
危険度が高いと思う。
ろくなことになってないのが通常だからだ。
この作品もその範疇のデキだったけど、
多感なころ僕が読んだときに感じた感想と
別趣の解釈が新鮮だった。
とはいえ、原作も真っ白な状態で読んだわけじゃない。
十代のころ、読む前に、僕はすでに
ディランにもアレン・ギンズバーグにもムーンライダーズにも
そして佐野元春にも触れていた。
いや、むしろ彼らのルーツを探し求めて、
後追いで遡上してこの本を読んだ。
そういう意味では、
ある程度ビートニクについて免疫ができていたし、
偏った色眼鏡で読んでいたかもしれない。
映画『ON THE ROAD』は、
頽廃のロードムービーともいえるし、
転がる石の映画ともいえる。
何にしろ、多感なころにこの小説に出逢えたことは、
大げさにいえば、
僕の人生における僥倖のひとつだと今さらながら再認識した。
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