SIDEWALK TALK

脱亜論

昨夕、「韓国における福澤諭吉」という小難しいタイトルの講演会に出かけた。

講演者は、林宗元(リム・ジョンウォン)氏という韓国の大学教授。
福澤が創設した慶應義塾大学の客員教授?でもあるようだ。
韓国における福澤諭吉研究の第一人者という存在らしい。


福澤諭吉は、韓国人が選ぶ大嫌い日本人の上位にランキングされていると思われる。
リム先生は、韓国人でありながらそんな福澤に心酔し、
たのまれもしないのに「学問のススメ」や「福翁自伝」を韓国語に翻訳して出版するという、
およそコマーシャリズムに合わない作業をしておられる。
僕ら日本人にとってはありがたいことながら、
韓国の日本学研究者としては、風変わりな人物とされてるのではないだろうか。


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 発売日:2003-10



なぜ、韓国人が福澤諭吉を嫌っているのか?

その理由は根深く、
儒教思想による両国の長幼意識や、遠くは秀吉による朝鮮出兵、
近代では日韓併合(韓国では「国権強奪」と呼ぶ)という不幸な歴史など、
複雑な要素が入り交じっている。
リム先生は、短い講演時間のせいもあって、
韓国人の反福澤感情は「脱亜論」にある
と、敢えて四捨五入して語っておられた。


さて、その悪名高き「脱亜論」について。

脱亜論とは、1885年3月16日、「時事新報」紙上に掲載された社説の通称である。
原文は無署名の社説で、執筆者は厳密には不明とされているが、
これは屁理屈で、福澤の著であることはほぼまちがいない。
歴史に if は禁句だけど、万一この脱亜論が発表されていなければ、
福澤の名声はより一層の世界的普遍性を勝ち得たかと思われる。


脱亜論が隣国(中国、韓国)から非難される理由は、
「アジア蔑視および侵略肯定論」という論旨を読んでとれるからだろう。
しかし脱亜論の一部だけを切り取って、福澤を侵略主義者と断定するのはあまりにも短絡過ぎるし、
心底アジアを憂えていた福澤に酷すぎる。
僕は福澤諭吉の郷土の後輩だから、ある程度 福澤贔屓にならざるをえず、
以下は色眼鏡的な所感ととられても仕方がないが、脱亜論について思うところを述べてみたい。


脱亜論を書いたころの福澤は、挫折感や憤りに溢れていたと想像される。
その傍証として、脱亜論を執筆する前年(明治17年)までの福澤の東アジア政策論には、
朝鮮国内における改革派の援助という点での一貫性があった。
福澤は、文明化を拒否し、旧態依然の体制にのみ汲々としている隣国を憂えていた。
福澤は、そのアジア的停滞を脱するために日本における和魂洋才を輸出しようと論説を展開したが、
その甲斐虚しく、甲申事変の頓挫などがあり、半ばヤケになって脱亜論を書いたにちがいない。


見通しが効かない隣人にサジを投げた、といってしまえば侵略容認ともとれなくはないが、
要するに脱亜論は、東京大学名誉教授の坂野潤治氏が指摘しているように、
福澤の敗北宣言だった。
僕は、脱亜論は隣国への愛深き故の叱咤激励だったと思う。
泥棒の論理といってしまえば、それまでだけど…。

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