ヤンゴン徒然 ⑦
ガキんちょ、ショーンとエリ
C Schoolは、場所が分かりずらい。最初に訪れた時は、タクシーのドライバーがスマホのGPSを使って、直ぐ隣まで来ていたのだがなかなか見つからなかった。メインとは言えない商店街の横丁で、看板のない白い一軒家なのだ。
看板を出すのには、政府の許可が必要で、申請はしているのだが認可がなかなか下りないそうだ。自分は、玄関の鉄枠や二階のベランダ、駐車禁止の置き棒などに、"いらっしゃいませ"Welcome"こんにちわ"C SCHOOL"等のラミネート加工した印刷を張り付け結び付けた。ラミネートは、近所のコピー屋(印刷所)で10円20円で出来る。
それから玄関前の粗大ごみを捨て床を磨き、鉄枠に小さな熊や馬のぬいぐるみをいくつも取り付けた。花の鉢を買い、壁に鯉のぼりのシールを貼った。屋内も日本語の本やDVDを並べて、貸出が出来るようにした。大した量はないのだが。またお客用のティーカップ、ミルクと砂糖を買い、切り花を飾った。見事な紫の蘭の切り花が70円で買える。
テーブルに置いて人気だったのは、万華鏡よりもけん玉 だった。やたらと上手い日本人の男の子がいた。先生たちも一時熱中した。ご自由にどうぞ、と水のペットボトルと紙コップを置いたが、これは誰も飲まなかった。皆さんご持参だったのだ。
もっと楽しく、もっと綺麗に。玄関をより装飾したくて、スーパーで探すと、折からXマスシーズンだったので、ヒイラギのリーフや色々な紙飾り、小さな金色のベルなどが安い値で売っていた。
ヤンゴンでXマスか。でもキリスト教っぽくないのを選べば使える。いくつか買って、ジョー先生に相談した。「ジョー先生、これで玄関を飾りたいのですがどうでしょう。キリスト教に見えちゃいますか?」「うーん、ちょっと-----」「じゃー、この小さなベルはどうです?ベルはベルでしょ。」「鐘はキリスト教の象徴です。」そうか。うーん、残念。でもジョーさんが気にするなら仕方がない。他の方法を考えよう。
自分は断念した。で、買ってきたこれはどうする?一人で住む寮を飾っても仕方がない。そーだ、エリザベスにあげちゃえ。ジングルベル、ジングルベール。Xマスに何らの抵抗がない、多分仏教徒の自分は、クリスチャンのエリに全部渡した。あっそー。事情を聞いたエリは、ニッコリしてあっさり受け取った。下宿を飾るなり、教会に持っていくなりするのだろう。
そして数日。半地下の事務所でパソコンに向かっていると、ショーンが後ろにエリを従えて自分の所にやってきた。スズキさんは日本出張で不在だ。ショーンがニコニコしながら言う。「キタさん、これで教室を飾りたいんだけどいい?子供たちが喜ぶと思うんだよね。」あっ、エリはまだ持っていたのか。「自分はいいけど、ジョー先生がキリスト教っぽいから気にする。ジョー先生に聞いてみて。先生が良いと言えばいいけど。」「うん、分かった。」
次の日、ショーンとエリがキャッキャッ言いながら、飾りつけを始めた。二人ともチビちゃんだから、よいしょと巻きスカートで椅子に乗り、動き回って実に楽しそうだ。あれっこの二人、こんなに仲が良かったっけ。自信満々で、誰に対してもハッキリ自己主張するお嬢のショーン。いつも自信無げで、言いたいことを飲み込む庶民派のエリザベス。でもエリは、ショーンには割と強気だ。でもこんな企てを考え付くのは、この二人を置いていない。
自分は確信した。こいつら絶対ジョー先生に聞いていない。ジョー先生は普段は全く何も言わないが、スズキさんがいない時にはたまに指示をだす。というか、みんなが頼りにする。ハッキリ言って、みんなはボスよりジョー先生の前で神妙だ。
それにしても手際が悪い。セロテープが見えているじゃないか。どうせ貼るなら、裏側に貼れよ。以前、占いのイベントをやった時、一緒に占い師を探しに行ったショーンに聞いたことがある。「ショーン、占いって信じる?」ショーンは前を向き、胸を張ってこう答えた。「私が信じるのは、ブッダだけ。」ショーン、かっけー。あの時は思った。
間違ったか。この娘はガキだ。子供だ。二人は子猫のようにコロコロ動き廻って、次々にXマスっぽい飾りつけを教室に受付に貼ってゆく。あんまりにも楽しそうで、口を出せない。これはマズい。
出勤したジョー先生に自分は謝った。「ジョーさん、ごめん。気になるなら、あれをはがさせます。」ジョー先生は状況を把握し、間をおいて言った。「何のことですか?」 かっけーのは、ジョーさんだった。