バンサンゲー写真館
マンモスを見た
娘が10歳頃の話だ。女の子は、夕飯の時など実によくしゃべる。これがお兄ちゃんなら全然話さない。その日は遠足か何かで行った動物園の話をしていた。横浜市の郊外にあるその動物園は広い。コアラの飼育と、自然環境に近い動物の見せ方がウリだ。娘はそこでマンモスを見たんだよ、と言っている。化石ではない。生きたマンモスがいたと言うんだ。
象舎にいた3頭の内、2頭は象だが1頭がマンモスだったと。「夢を壊すようで悪いけど、生きたマンモスはいないよ。」「いや、あれは間違いなくマンモスだった。象とマンモスの違いは分かるよ。嘘だと思うんだったら、今度の休みに一緒に見に行こう。」
その後、その動物園に行って夢を壊したのかどうか、覚えていない。
うん、似たような話をもう一つ。同じ頃の話だ。自分は浅草にある、ゆうえんち花やしきを経営する会社に勤めていた。後に花やしきの販売促進係長になるが、その当時は本社にいて海外部門、アトラクションやゲーム機等の輸出入をやっていた。
花やしきの園長は、浅草の夜が寂れているのを憂いて、お盆のころ2週間ほどホラーイベントの夜間営業を開催した。劇団員のゾンビや死霊が園内を徘徊して客に絡む。夜間照明のギンギラの電飾の中で、ジェットコースターやスリルライドが走って悲鳴があがる。豆電車やメリーゴーランドが廻る。園内の小池には得体の知れない半魚人が2-3匹蠢き、泥饅頭を当てると景品がもらえる。
ダークライドの乗り場前の一画ではベベン、ベンベン、白塗りの顔中、頭と手にまでお経が書き込んである芳一(まだ耳がある)が琵琶を奏でる。異様な活気と熱気がコンパクトな園内に充満していた。この夜間ホラーショーは10年とは続かなかった。興行的にはとても成功とはいえない。赤字か、赤字すれすれのイベントだったが、熱烈なファンがいて、後々まで語り継がれたもんだ。
だけど企画する方とアトラクションのオペレーターは、昼夜兼行で暑い中ヘトヘトになった。或る年、伸び悩んだ集客に活を入れるため、社員とその家族が招集された。自分は浅草で家族と落ち合い、夜の花やしきに入園した。
うちのお兄ちゃんは、異常なほどの恐がりで、商売柄ただで入れる遊園地のスリルライドが大の苦手。娘はお兄ちゃんの後について同じ反応をする。兄貴が恐がれば彼女も恐がる。本当に恐いのか。兄貴ほどじゃあ無いんじゃないかな。お兄ちゃんは着ぐるみのウサギでも警戒して遠くから睨み付けるから、この日は近づく妖怪や死霊を思い切り遠まわりして避けていた。でもお兄ちゃんは分かっていたと思う。このゾンビは作り物だ。
その日、娘が帰りの電車で言った。「あのゾンビは本物だった。近くでよーく見たけど、本物の指と爪だった。」ヒェー、本物だと思っていたのか。なら怖いよなー。マンモスやゾンビが当たり前に生息している彼女の世界が、ちょっと羨ましかった。
娘が10歳頃の話だ。女の子は、夕飯の時など実によくしゃべる。これがお兄ちゃんなら全然話さない。その日は遠足か何かで行った動物園の話をしていた。横浜市の郊外にあるその動物園は広い。コアラの飼育と、自然環境に近い動物の見せ方がウリだ。娘はそこでマンモスを見たんだよ、と言っている。化石ではない。生きたマンモスがいたと言うんだ。
象舎にいた3頭の内、2頭は象だが1頭がマンモスだったと。「夢を壊すようで悪いけど、生きたマンモスはいないよ。」「いや、あれは間違いなくマンモスだった。象とマンモスの違いは分かるよ。嘘だと思うんだったら、今度の休みに一緒に見に行こう。」
その後、その動物園に行って夢を壊したのかどうか、覚えていない。
うん、似たような話をもう一つ。同じ頃の話だ。自分は浅草にある、ゆうえんち花やしきを経営する会社に勤めていた。後に花やしきの販売促進係長になるが、その当時は本社にいて海外部門、アトラクションやゲーム機等の輸出入をやっていた。
花やしきの園長は、浅草の夜が寂れているのを憂いて、お盆のころ2週間ほどホラーイベントの夜間営業を開催した。劇団員のゾンビや死霊が園内を徘徊して客に絡む。夜間照明のギンギラの電飾の中で、ジェットコースターやスリルライドが走って悲鳴があがる。豆電車やメリーゴーランドが廻る。園内の小池には得体の知れない半魚人が2-3匹蠢き、泥饅頭を当てると景品がもらえる。
ダークライドの乗り場前の一画ではベベン、ベンベン、白塗りの顔中、頭と手にまでお経が書き込んである芳一(まだ耳がある)が琵琶を奏でる。異様な活気と熱気がコンパクトな園内に充満していた。この夜間ホラーショーは10年とは続かなかった。興行的にはとても成功とはいえない。赤字か、赤字すれすれのイベントだったが、熱烈なファンがいて、後々まで語り継がれたもんだ。
だけど企画する方とアトラクションのオペレーターは、昼夜兼行で暑い中ヘトヘトになった。或る年、伸び悩んだ集客に活を入れるため、社員とその家族が招集された。自分は浅草で家族と落ち合い、夜の花やしきに入園した。
うちのお兄ちゃんは、異常なほどの恐がりで、商売柄ただで入れる遊園地のスリルライドが大の苦手。娘はお兄ちゃんの後について同じ反応をする。兄貴が恐がれば彼女も恐がる。本当に恐いのか。兄貴ほどじゃあ無いんじゃないかな。お兄ちゃんは着ぐるみのウサギでも警戒して遠くから睨み付けるから、この日は近づく妖怪や死霊を思い切り遠まわりして避けていた。でもお兄ちゃんは分かっていたと思う。このゾンビは作り物だ。
その日、娘が帰りの電車で言った。「あのゾンビは本物だった。近くでよーく見たけど、本物の指と爪だった。」ヒェー、本物だと思っていたのか。なら怖いよなー。マンモスやゾンビが当たり前に生息している彼女の世界が、ちょっと羨ましかった。