★☆第82回「自信回復7つの習慣~うつ解消・ヘルスマネジメント(心とからだ)技術(その3)」★☆
自信回復7つの習慣のうち、
「第1の習慣●ものごとを分けて、心配ごとを減らす」では、ACTなどの新世代認知行動療法を、「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」では、レジリエンス・トレーニングのお話しをしました。
さて第3の習慣では、「気分をよくする食事をとる」です。
これまでは、からだやこころをコントロールするのは、脳だという時代がありましたが、近年、腸(gut)の研究が進展したおかげで、人のからだやこころは、腸と脳という軸*で理解する考え方の時代に入っています。
つまり、恐れや不安などの情動(emotion)や気分(mood)は、腸の中にある微生物(ビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌)の影響が強く、その腸内細菌**が脳にも一定の強い影響を与えている、ということです。
言い換えると、からだに良い影響を与える腸内の善玉菌が増え、腸内の環境が良くなると、脳に良い影響を与え、うつ病などのこころの不調が改善して、ハッピーな気分になる、ということです。
さて、腸内環境を良くするには、5大栄養素***だけでなく、食物繊維やファイトケミカル(7大栄養素)などを摂ることで、「善玉菌」が活動しやすい腸内環境になることが科学的に証明されています。
具体的な食事療法****を行って、こころの不調が改善した例をご紹介します。
豪州メルボルンでなされたSMILES実験での食事療法は、中等症から重症のうつ病患者を対象に、修正版地中海料理を使ったものです。世界初のランダム化比較試験(RCT、質が高く根拠ある科学的研究手法)で、食事療法グループの32%は、うつ病の寛解が見られました。つまり、うつ病が完全に消失したのです!(詳細は、最後の注および文献を参照してください)
さて、実験で使われた地中海料理とは?具体的な食べものはどうなっているのでしょうか。
一つずつ、図の下の食べものから、説明しましょう。
【全粒穀物(全粒パン、玄米、シリアル】
食事の基本です。必要に応じて、一日5-8回。一回分は、たとえば、全粒パン一切れ、あるいは、調理済みの穀粒1/2カップ(玄米、オーツ麦、全粒パン、全粒パスタなど)、あるいは、オーツ麦1/4カップ、あるいは、ライ麦または小麦で作った薄いかりかりのクリスプ・クラッカービスケット3枚
【野菜と果物】
野菜は、一日6回自由に。一回分は、調理済みの野菜1/2カップ。たとえば、スイートポテト、キャベツ、ニンジン、山の芋、セロリ、玉ねぎ、あるいは、葉の多い緑色野菜1カップ、あるいは、トマト1個(75g-100g)
フレッシュな果物一日3回、。一回分は、150g、リンゴ・西洋梨・オレンジ・バナナ・メロンの中型一個。キューウィーフルーツとぶどうなど小型の果物2つ、あるいは、30gのドライフルーツ。
【乳製品】
一日2-3回で低脂肪のもの。一回分は、ミルク1カップ、あるいは、200gのヨーグルト、あるいは、40gのチーズ、あるいは、120gのリコッタ(イタリア産の柔らかい無塩の白チーズ)
【オリーブ油】
エクストラバージンオリーブオイル(オリーブの実をしぼっただけの精製されていないオイル)一日一回、テーブルスプーン(大さじ)3杯、あるいは、60ml
【ナッツ類】
未加工で、塩なし味付けなしを一日一回。一にぎり、あるいは、30gのナッツ(アーモンドとクルミ)、あるいは、30gの種、あるいは、30gのナッツバター(大さじ2杯)
【マメ科植物】
一週間に3-4回。一回分は、マメ科植物1/2カップ(ひら豆、ひよこ豆、いんげん豆)、あるいは、75gのホムス(ヒヨコマメを裏ごししてペースト状にした中東料理)、あるいは、100gの豆腐
【赤身の肉】
赤身のあるいは見た目で脂肪をなしの肉を一週間に3-4回。一回分は、手のひらサイズの赤身の肉、あるいは、65-100gの肉、あるいは、1/2カップのひき肉、あるいは、2つの小さなチョップ(骨付き切り身)
【魚】
脂っこい魚(イワシ、ニシン、サーモン、マス、サバなど)を少なくとも一週間に2回。一回分は、100gの調理ずみの魚、あるいは、95gの缶詰
【鳥類の家畜(鶏肉、鴨肉、七面鳥の肉)】
皮なしで一週間に2-3回。一回分は、手のひらサイズ、あるいは、80-100gの鶏肉、七面鳥か鴨肉
【卵】
一週間に6回まで。一回分は、60gの卵(卵1個分)。
【エクストラ(追加のなにか)】
一週間に3回まで。一回分は、デザート1個、あるいは、砂糖入りの飲み物で小瓶・小サイズの缶1本、あるいは、ポテトチップス小袋一個。
SMILESの食事療法は、栄養学の専門家とソーシャルサポート(Befriending protocol:ビフレンディング治療プログラム=食事療法と同じ訪問時間と長さで専門のビフレンダーによって実施。スポーツやニュース、音楽などのトピックを話し合ったり、カードやボードゲームを一緒にしたりと、通常の精神/心理療法ではない方法を採用)でなされたものです。このようなサポート環境にないとしても、食事療法の効果は筆者も立証ずみですので、チャレンジしてみることは大事だ、と思います。
なお、納豆や漬物、ヨーグルト、味噌、醤油といった発酵食品は、腸内環境を整える作用があります。腸内の善玉菌の増加と、悪玉菌を抑制する働きを持っています。
最後に、参考までに、うつの人だけでなく、万人に勧められる「健康的な食事プレート」を載せておきます。
「健康的な食事プレート」はハーバード公衆衛生大学院の栄養学専門家とハーバードヘルス出版の編集者たちによって作られたもので、健康的でバランスのとれた食事をするための手引となっています。
地中海料理との共通点も多くあります。
次回は、食事とともに、とっても大事な「第4の習慣●身体を大事に運動を習慣にする」のお話しです。
*腸脳軸(gut-brain axis)あるいは、腸脳連繋(gut-brain connection; 腸脳相関、脳腸相関)と呼ばれている。
**腸内細菌には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3種類があり、
善玉菌は消化吸収の補助や免疫刺激など、健康維持や老化防止などへ影響がある菌で、代表的な菌にはビフィズス菌や乳酸菌がある。反対に、悪玉菌はからだに悪い影響を及ぼすとされ、代表的な菌にはウェルシュ菌・ブドウ球菌・大腸菌の有毒株があり、また日和見菌は健康なときはおとなしくしているが、からだが弱ったりすると腸内で悪い働きをする(日和見菌感染症の発症)菌のこと。
***栄養素とは、人などが栄養のために身体の外から取り入れる食品などの物質のこと。炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの5つが5大栄養素、植物繊維を入れて6大栄養素、ファイトケミカルを入れて7大栄養素と言われている。
第6の栄養素「食物繊維」は主に穀物(玄米、胚芽米など)、芋(さつまいも、里いも、こんにゃく)、豆(大豆、うずら豆、あずき、納豆、おから)、野菜(ごぼう、ふき、セロリ、アスパラガス、キャベツ、白菜など)、果物(みかん、グレープフルーツ、バナナなど)、きのこ(しいたけ、しめじ、えのき)、海藻(わかめ、寒天、ところ天)に含まれている。
第7の栄養素「ファイトケミカル」は、ブルーベリー、ぶどう、大豆、セロリ、パセリ、ピーマン、緑茶、果実類、カカオ、ブロッコリーやタマネギに含まれている。[ポリフェノール]。
また、ニンジン、カボチャ、トマト、ミカン、ホウレンソウ、スイカ、ブロッコリー、カボチャ、トウモロコシ、モモなど に含まれている。[カロテノイド]
****SMILES実験は、2012年10月-2015年7月に豪州メルボルンで実施された、世界初のランダム化比較試験(RCT、質が高く根拠ある科学的研究手法)である。参加者67人のうつ病(大うつ病性障害)患者を、食事療法グループ33名と非食事療法グループ34名に分けた。介入実験の12週間後、食事療法グループは、非食事療法グループに比べて、うつ病の改善が見られた。食事療法グループの32%は、うつ病の寛解が見られた。つまり、うつ病が完全に消失した。
Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より