競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改5

2014年06月19日 | 千可ちゃん改
 その後浜崎さんの豪邸でビデオカメラとスティルカメラをチェックしましたが、幽霊は一切写ってませんでした。ま、千可ちゃんが霊を感じてなかったんだから、写るはずがないのですが。ただ、千可ちゃんはあの呪いの絵馬に何かよからぬものを感じてたことは確かなようです。
 幽霊をチェックしてるとき、森口くんが千可ちゃんに話しかけました。
「羽月さん、呪われたくないよね」
「うん。呪いたくもないけど」
「え?」
「人を呪うなんて、人として最低の行為だもん」
 千可ちゃんはたいていの呪いははね退けることができます。が、千可ちゃんが呪ったら大変です。でも、千可ちゃんはお母さんの躾が行き届いてるので、人を呪ったことはほとんどありません。

 部活はお開きとなりました。福永さん・城島さん・森口くん、そして千可ちゃんが帰るところです。浜崎さんがみんなを送り迎えしてます。
「それじゃあ、みんな!」
「はい!」
 4人がそれぞれ自転車で漕ぎ出しました。最初4人は1つでしたが、途中福永さんが抜け、城島さんが抜け、千可ちゃんと森口さんだけになりました。
 森口くんは何かを気にしてます。
「あの~、羽月さんてキスしたことあります?」
 この森口くんからの質問に千可ちゃんは、
「あるよ」
 そのあっけらかんとした返答に森口くんはびっくりしました。
「幼いときにお母さんとしたよ。でも、ここ10年はしてないかな?」
「あは、そうですか」
 森口くんは安堵の表情を浮かべました。一方千可ちゃんはそんな森口君の企みに気付いてますが、あえて無視することにしました。ちなみに,千可ちゃんはすでに初体験を済ませており,そのときの男の子と何度もキスをしてます。つまり,さっきののセリフは真っ赤なウソです。

 2人の自転車が暗い個所にさしかかりました。と、千可ちゃんの斜め後ろを走ってた森口くんの姿が、悲鳴とともに消えました。
「うぐぁっ!」
 千可ちゃんははっとして急ブレーキ。振り向くと森口くんは倒れており、その前に1人の男が立ってます。
「戸村!?」
 そうです。森口くんは戸村に襲われたのです。戸村に憑りついてる悪霊どもが不気味に笑ってます。
「えへへ…」
 千可ちゃんは反射的に左足を軸にさっとターンすると、全速力で自転車をスタートさせました。急な出来事のせいか、千可ちゃんはちょっと我を忘れてるようです。
「このーっ!!」
 千可ちゃんは戸村に体当たりする気です。が、戸村は寸前にさっと横に避け、千可ちゃんの顔面に強烈なストレートパンチ。千可ちゃんの身体は無残に吹き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられました。
「ああ…」
 千可ちゃんはなんとか動こうとしますが、身体がまったくいうことをききません。と、その千可ちゃんの前に戸村が立ちはだかりました。
「おい、金出せよ」
「くっ…」
 千可ちゃんは戸村を睨みました。
「なんだよ、その目は!?」
 戸村は右足を思いっきり上げました。千可ちゃんの顔面を踏みつけるつもりです。
「死ぬや、このブスやろーっ!!」
 千可ちゃん、危ない。が、
「やめてーっ!!」
 ドックン。戸村の心臓に衝撃が走りました。
「うっ!?」
 戸村は心臓を押さえ、うずくまりました。
「な、なんだ?…」
 千可ちゃんは失神寸前です。その千可ちゃんの目の前に、おぼろげに何かの光景が現れました。絵馬です。そうです、あの呪いの絵馬です。千可ちゃんはその絵馬に書かれた文字を読みました。
「1年3組戸村死ね…」
 と、戸村の胸に再び衝撃が走りました。今度はさらに強烈です。戸村は胸を押さえたまま、逆エビ反り状態に。
「うぐぁ~!!」
 戸村は口から泡を吹き、そのまま倒れました。一方千可ちゃんもすでに気を失った状態です。

 先生の処置が終わったようです。千可ちゃんの右頬に大きなガーゼが貼られました。千可ちゃんはベッドに腰かけてます。ここは病室です。
 先生に2人の男が語りかけました。1人は初老で、もう1人は若いようです。実は2人とも少年課の刑事さんです。
「先生、もう話しても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
 と言うと、先生は看護師を連れ、病室を出て行きました。初老の刑事さんは、今度は千可ちゃんに語りかけました。
「え~と、羽月千可さんだっけ?」
「はい」
「あ~、何があったか、覚えてる?」
 千可ちゃんは戸村に殴られた瞬間を思い浮かべました。
「戸村に殴られた」
「あ~、そこまではわかってるんですよ。問題はそのあと。なんで戸村は死んだのか、わかりますか?」
 その瞬間、千可ちゃんの身体に衝撃が走りました。
「えっ、死んだ!?」
 千可ちゃんは思い出しました。あのとき、薄れる意識の中で千可ちゃんが発した言葉、戸村死ね。そうです。あの瞬間、千可ちゃんは戸村を呪ったのです。
 千可ちゃんの目から一筋の涙が流れました。それを見た初老の刑事さんが、
「あ~、羽月さん、大丈夫ですか?」
「す、すみません…、ちょっと1人にさせてください…」
 初老の刑事さんと若い刑事さんが顔を見合わせ、お互い顔を横に振りました。2人はドアを開けました。
「わかりました、羽月さん。明日また来ますからね」
 ドアが閉まりました。次の瞬間、千可ちゃんの目からどっと涙があふれ出てきました。
「うわーっ!!」
 ついに千可ちゃんが大声で泣き出してしまいました。たとえ自分を傷つけた悪党とはいえ、呪い殺してしまったことに深い心の傷を追ってしまったのです。

 ここは霊安室。中央に戸村が寝かされてます。もちろんこれは死体です。今この死体を見下ろしている男がいます。宙に浮いてる戸村です。こっちは幽霊です。
「オ、オレ、死んじまったのかよ…」
 と、ドアが開き、3人が入ってきました。まず入ってきたのは、さっき千可ちゃんの病室にいた2人の刑事さんです。
「奥さん、こちらです」
 この声を発した若い刑事さんに初老の刑事さんが耳元で、
「おい、シングルマザーだぞ」
「あは、そうでしたね」
 続けて女性が入ってきました。この人は戸村の母親です。戸村の母親は戸村の死体の前で佇みました。
「なんでこんなことに?」
「お子さんが自転車に乗ってたアベックを襲ったんですよ」
 戸村の母親はかなり厳しい目で初老の刑事さんの顔を見ました。
「だから、なんでうちの息子は死んだのよ!」
「さあ、皆目見当がつかないところでして…。明日司法解剖するので、それまで待ってほしいんですが…」
 戸村の母親は目を逸らしました。
「くっ!。
 なんか、ちっちゃい娘がいたそうね。そいつが殺したんでしょ!。たくさん賠償金を獲ってやる!」
 それに若い刑事さんがプツンときました。
「奥さん、それはいくらなんでも言い過ぎですよ!!」
 それを抑える初老の刑事さんが小声で、
「おい、やめろ!」
 その一部始終を戸村の幽霊が見てます。
「なんだよ。またこれかよ…。こいつのせいで、オレの人生はむちゃくちゃになっちまったんだ…」
 次の瞬間、戸村は母親の背後に何か得体の知れない影を見つけました。それは少女の霊です。白目の部分が異様に光っており、黒目がまったく見えてません。しかし、その顔は戸村の記憶にははっきりと残ってます。そうです、これはさっき襲った女の子、千可ちゃんの生き霊です。
「あ、あのときの女?」
 と、いきなり戸村の母親が胸を押さえ、へたり込みました。
「うぅ、心臓が…」
 2人の刑事さんは慌てました。
「お、おい?」
「どうなってるんだ?、親子ともども心臓麻痺か?」
 戸村は千可ちゃんの霊に殴りかかりました。
「くそーっ!、オレのお袋になんてことしやがるんだーっ!!」
 が、突然千可ちゃんの身体から白い光が放たれ、戸村は弾き飛ばされてしまいました。
「うぐぁーっ!!。
 くそーっ!!」
 戸村が立ち上がろうとすると、彼の母親は床に大の字になっており、千可ちゃんが馬乗りになってその首を絞めてます。と、千可ちゃんはあらぬセリフを口にしました。
「死ね!、死ね!、死ねーっ!!」
 母親はまたもや悲鳴を上げました。
「うぎゃ~!!」
 慌てふためく2人の刑事さん。
「おい、救急車だ!、早くしろ!、早く!」
「は、はい!」
 戸村は再び千可ちゃんに殴りかかろうとします。
「このやろーっ!!」
 と、ここで千可ちゃんは突如消えました。
「き、消えた?…」
 千可ちゃんの生き霊は、どこかに行ってしまったようです。
「くそーっ、恨むのはオレだけで十分だろ!。なんでお袋まで恨むんだよ!」
 戸村は成仏の時までは、自分の母親を護ることを決意しました。

 ベッドの上で眠っていた千可ちゃんは、ふと何かの気配を感じ、目を覚ましました。それはお母さんの掌でした。ここは千可ちゃんの病室です。
「お母さん…」
「ごめんなさい、こんな時間になっちゃって…」
「お母さん、私、人を呪い殺しちゃった…」
 と、またもや千可ちゃんの目から涙が溢れ出てきました。
「泣かないで。たぶん私も殺してた。あれは正当防衛よ」
「で、でも…」
「それよりも、千可、あなた、今、生き霊を飛ばしてたわよ」
「ええ?」
「やっぱり自分じゃコントロールできない生き霊だったか…。止めておいて正解だったようね」
 どうやらお母さんは、千可ちゃんの生き霊を止めてくれたようです。
「ど、どこに行ってたか、わかる?」
「さあ、そこまでは…」
 でも、千可ちゃんはどこに行ってたのか、だいたいわかってるようです。
「あなたが生き霊を飛ばすのは2回目だけど、この調子だと1回目も覚えてないようね」
「えっ!?」
「城島さんが拉致られたとき、拉致した男は交通事故で死んだけど、あれ、あなたがやったのよ」
 千可ちゃんの身体に衝撃が走りました。私はすでに1人殺してる。その事実を聞いて千可ちゃんはパニックになりそうです。

 これはあの日の夜のことです。お母さんは千可ちゃの異変に気づいて、千可ちゃんの霊的エネルギーを頼りにクルマを走らせてました。と、ついに千可ちゃんがいるマンションを発見しました。お母さんはそのマンションとは反対側の車道の脇にクルマを駐めました。ちょうどその時、マンションのエントランスから拉致した男が出てきました。男は両ひざの上に手を置き、激しくなった息を整えてます。
「はぁはぁはぁ…。くそーっ、どうしてあんなところに幽霊がいるんだよ!」
「ククク…」
 その笑い声で男はびっくりしました。なんとエントランスの自動ドアの前に半透明の千可ちゃんがいるのです。その両目は異様に光ってます。そうです。これは千可ちゃんの生き霊です。男は後ずさりしました。
「くそーっ!!」
 が、すぐにガードレールに行く手を阻まれました。
「くっ!」
 男はガードレールを乗り越えようとしましたが、クラクション。見ると右側から1台のトラックが迫ってきてます。次の瞬間、千可ちゃんの生き霊が男の肩を押しました。
「うわーっ!!」
 この光景をずーっと見てた千可ちゃんのお母さんは、かなりの衝撃を受けました。悪党とはいえ、娘がたった今1人の命を奪ったのです。
 人が集まってきました。お母さんはここにいたらまずいと思い、クルマを発進させました。