競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改6

2014年06月20日 | 千可ちゃん改
 再び病室です。自信をなくしてしまった千可ちゃんがぽつりと言いました。
「あのときお母さんは、私の顔を見るなり、いきなり私を引っぱたいた。私、なんで引っぱたかれたのかわからなかったけど、こんなことがあったんだ…。
 お母さん、私どうしたらいいの?」
「わかんない。私、生き霊を暴走させたことないから。でも、このままだとあなたはずーっと無意識のうちに人を殺し続けることになる。なんとかしないと…」
 千可ちゃんはいろいろと考えました。ちなみに、千可ちゃんは今鎮痛剤を飲んでるので眠気がありましたが、身体に気合を入れ、生き霊が飛び出すのを徹夜で我慢することにしました。

 翌朝担当の医師の先生が来て、千可ちゃんの右頬のガーゼを貼り替えました。
「よーし、午後には退院できそうだな」
「先生、外に出ていいですか?」
「ああ、病院の中だけならいいよ」
「ありがとうございます」
 千可ちゃんはさっそく廊下を歩き始めました。で、森口と書かれた表札の前で立ち止まりました。
「ここだ」
 千可ちゃんはさっそくそのドアを開けました。
「森口くん」
 森口くんはベッドのリクライニング機能を使って上半身を起こし、読書をしてました。
「あ、羽月さん」
「いいかな?」
「も、もちろん」
 千可ちゃんはベッドの脇にあった椅子に座りました。
「私、今日退院できるみたい。森口くんは?」
「それが…、あばら骨が3本折れてて、ちょっとムリみたい。ったく、ひどいことするよ」
「そっか…。
 ねぇ、森口くんは戸村が憎い?」
「も、もちろんだよ!」
「殺したいほど憎いの?」
「え?。でも、あいつ、死んだんでしょ?」
「あは、もし生きていればの話よ」
「そっか…。
 殺すまではなあ…。でも、ぼくに謝んなきゃ、絶対許さないよ!」
 千可ちゃんは明るい顔を森口くんに見せました。
「あは、そっか」
 千可ちゃんは立ち上がりました。
「森口くん、またカラオケ行こっね」
「うん」
 再び千可ちゃんの病室です。ドアが開き、千可ちゃんが現れました。
「ホテルみたいにDon't disturbて札があるといいんだけど…」
 千可ちゃんはピシッとドアを閉めました。そして、ベッドに横たわりました。
「だれも起こさないでね」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。

 ここは別の病院の病室です。戸村の母親が眠らされてます。その手には点滴の針があります。ベッドの脇にはパイプ椅子があり、そこには半透明な戸村の姿があります。その目はかなり厳しく光ってます。実は戸村は、寝ずの番で母親を守ってました。ま、幽霊だから眠る必要はないのですが。
「くそーっ、早く来いよ!。ぶっ潰してやる!」
 と、壁の一角にふわ~っと人影が現われました。
「来た!!」
 その影が千可ちゃんの生き霊となりました。相変わらず目が不気味に光ってます。
「クククク」
 戸村は千可ちゃんに殴りかかりました。
「好きにさせるかーっ!!」
 と、またもや千可ちゃんが白い光りを放ちました。白い光りが戸村に当たる寸前、戸村の姿は消え、次の瞬間、千可ちゃんの真後ろに現われました。
「バカめ、オレだって幽霊なんだよーっ!」
 戸村の両手が千可ちゃんの首に。が、戸村の両手は、なんと素通りしてしまいました。
「へっ!?」
 千可ちゃんが笑いながら振り返りました。
「ケケケケ」
 千可ちゃんがショートレンジで白い光りを発射しました。
「うぎゃーっ!!」
 戸村は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられました。すると壁から手が2本すーっと現われ,戸村の両脇を掴みました。
「な、なんだ!?」
 戸村は2本の手で壁に縛り付けられてしまいました。
「くそーっ!!」
 千可ちゃんはどこからか短刀を取り出しました。そして戸村の母親の上で短刀を大きく振り上げました。
「やめろーっ!!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
 ついに千可ちゃんが短刀を振りおろしました。が、
「やめてっ!」
 千可ちゃんはその声で手を止めました。そして振り返ると、そこにはあらぬことか、もう1人の千可ちゃんがいます。これには戸村もびっくりです。
「な、なんじゃこりゃあ,こりゃあ!?」
 もう1人の千可ちゃんは目も正常だし、右頬にガーゼが貼りつけてあります。そうです。これは千可ちゃんのコントロール下にあるもう1人の千可ちゃんの生き霊、正確には幽体離脱した千可ちゃんです。
「ふぎゃーっ!!」
 目が光る千可ちゃんの生き霊が真実の千可ちゃんの生き霊に刃物を振りかざし、襲いかかりました。が、刃物が刺さる寸前、真実の千可ちゃんはすーっと横に避けました。それを見た戸村は、自転車で襲ってくる千可ちゃんを間一髪で避けた自分を思い浮かべました。
「こ、これはあのときの…」
 真実の千可ちゃんが目が光る千可ちゃんの顔面をストレートパンチで殴りました。
「このーっ!!」
 目が光る千可ちゃんは大きく弾き飛ばされ、壁に激突。と、真実の千可ちゃんは瞬間移動し、目が光る千可ちゃんの胸元を掴み上げました。
「あなたは私!。私なら私のいうことを聞いて!!」
 次の瞬間、目が光る千可ちゃんの身体がぱーっと霧散してしまいました。真実の千可ちゃんの勝利です。
 千可ちゃんは戸村を見ました。戸村はまだ壁に縛り付けられたままです。
「お、おい、これ取ってくれよ!」
「あなた、私に何か言うことあるでしょ?」
「えっ?」
 千可ちゃんは自分の右頬のガーゼを指さしました。
「これ、だれのせいなの?」
「あ…。ごめん」
「あ~、聞こえない」
「ご、ごめんなさい!」
 千可ちゃんはニヤッと笑いました。しかし、まだ許さないようです。
「ねぇ、私って、ブス?」
「ブ、ブスじゃないです」
「ほんと?」
「美人です!。かわいいです!。とってもかわいいです!」
 千可ちゃんは下向きになってクスクスと笑いました。そして右手の人差指と親指をパッチンと鳴らしました。すると、戸村を縛りつけていた手が消滅。戸村の身体はフロアに転がりました。
「うわっ」
 千可ちゃんはしゃがんでその戸村を見ました。
「今度は私が謝る番ね。ねぇ、生き返ろうと思わない?」
「ええっ?」
 千可ちゃんは戸村の右手を握りました。
「飛ぶよ!」
「えっ?」
 千可ちゃんと千可ちゃんに強引に引っ張られた戸村が、ものすごい勢いで飛びました。戸村にはこれはきつかったようです。
「うわーっ!」
 が、すぐに2人は目的地に到着しました。ここは解剖室。真ん中に戸村の死体が乗った台があります。
「オ、オレの死体…」
「よかった。まだ解剖されてなくって。
 さあ、中に入って!」
「ええっ?。だって、心臓が止まってもう12時間以上経ってるんだぞ」
「24時間までならなんとかなるって。さあ、早く!」
「わ,わかった。わかったよ」
 戸村は自分の身体の中に入ることを決意しました。戸村の死体は仰向けですが、戸村の霊もその状態で身体に入りました。次に千可ちゃんは戸村の死体に両手をかざしました。すると両の掌から淡い光りが発生しました。しばらくその光りを浴びてると、戸村のまぶたがふいに動きました。
「う、うう…」
 ついに戸村のまぶたが開きました。
「よかった」
 戸村は千可ちゃんを見ました。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 と、千可ちゃんは大事なことに気づきました。
「あれ、私が見えるの?」
「あ、はい…」
 どうやら蘇った戸村は、幽霊が見える体質になってしまったようです。ちなみに,戸村は一度死んだせいか,彼に憑りついていた悪霊はすべて消えてました。

 さて、千可ちゃんはこのまま自分の身体に戻ったかと言えば、実は別のところに飛んでました。みみずく神社の絵馬掛け。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんは今回の事件の原因のすべてが、この絵馬にあると判断したのです。
 千可ちゃんはその絵馬を右手で持つと、その手を水平に伸ばしました。次の瞬間、絵馬がぱっと燃えました。千可ちゃんはその燃えた絵馬を地面に落とすと、ご満悦な笑みを浮かべました。
「あとはこれを書いた人か…」

 それから数日後、いつもの千可ちゃんの教室です。千可ちゃんは自分の机に座ってのんびりしてます。もう右頬のガーゼはありません。
 急にあたりがざわめきました。突如戸村くんが教室に入ってきたのです。それを見た千可ちゃんは緊張しました。戸村くんが千可ちゃんの前に立ちました。千可ちゃんの目が険しくなってます。と、戸村くんは右手を出しました。千可ちゃんはちょっと拍子抜けになりました。
「ありがと」
 と、戸村くんの一言。
「いいえ、どういたしまして」
 千可ちゃんは戸村くんの右手を握りました。握手、和解です。

 ここはどこなのでしょうか?。ある意味真っ白い、ある意味灰色な、ある意味ドス黒い空間です。その中に1人、女の子がいます。女の子は座ってます。ただ、何に座ってるのかわかりません。見えない何かに座ってます。女の子は泣いてました。
「なんで泣いてるの?」
 女の子がはっとして振り返ると、そこには千可ちゃんがいました。
「あ、あなたは確か、4組の羽月さん」
「はい、羽月です。よくわかりましたねぇ。あまりにも目立たないから、喪女て言われたこともあるんですよ」
 千可ちゃんは女の子の横に座りました。
「あなたが泣いてたから、気になって来ました。高校に行ってないみたいだけど、どうして?」
「怖いから…」
 千可ちゃんはちょっと考え、そして再び質問しました。
「戸村くんがいるから?」
 女の子は何も反応しません。
「私もあいつに殴られたんだ」
「え?」
 千可ちゃんは自分の右頬を触りました。
「ここを殴られた。おかげで顔が2倍に膨れたよ。おまけに、私の顔を踏み潰そうとした。頭に来たから、呪い殺してやったよ」
 女の子はちょっと驚いてます。
「でも、ちょっとやり過ぎたかなあて感じだったから、生き返ってもらった」
「い、生き返らせたの?」
「うん。で、謝ってもらった」
 女の子は言葉を亡くしました。
「ここに戸村くんを連れてきて、謝ってもらおうか?」
「いやっ!!」
 女の子はここで大きな声を出しました。
「ん~、そっか…」
 と言うと、千可ちゃんは立ち上がりました。
「ありがとうね」
 女の子はびっくりしました。
「え?」
「気が向いたらまた来るよ。そんときはよろしくね」
 千可ちゃんは歩き出しました。それを見て、女の子は慌てました。
「ちょ、ちょっと待って!」
 と、千可ちゃんの姿はふっと消えました。女の子はとても残念そうです。