競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改10

2014年06月30日 | 千可ちゃん改
 ここは病院の廊下、手術室の前です。オカルト研究部の5人が落ち込んでいます。千可ちゃんは昨日自分が言ったセリフを思い出しました。
「大丈夫。どんな呪いでも私がみんなを助けるから。
 何が大丈夫よ。私は何もできなかった…」
 浜崎さんもふさぎ込んでいます。
「私のせいだ。あの時タクシーの運転手の忠告を聞いてれば…」
 ふいに中年の男性と女性が駆けてきました。城島さんのお父さんとお母さんのようです。お父さんが叫ぶように言いました。
「娘は、娘は今どこにいるんだ?」
 浜崎さんは立ち上がり、2人の前に立ちはだかりました。
「今手術中です。私はオカルト研究部の部長、浜崎です」
 城島さんのお母さんは、いきなり浜崎さんに張り手を食らわしました。
「あなた、いったいうちの娘に何やったのよ!」
 お父さんがそのお母さんの身体を止めました。
「バカ!、やめんか!」
 浜崎さんは立ったまま、うつむいてしまいました。
 結局この場はお父さんとお母さんに任せることにし、オカルト研究部の5人は帰ることにしました。

 その日の夜の羽月邸です。千可ちゃんがお母さんと食事してますが、千可ちゃんは冴えない顔をしてます。お母さんは心配しました。
「千可、なにかあったの?」
「うん…」
 でも、それ以上の答がありません。
「以前あなたのクラスメートを助けたことがあったわね。城島さんだっけ?。その娘にまた何かあったようね」
 どうやらお母さんは何があったのか、ある程度把握してるようです。
「眼にガラスの破片が刺さったんだ。左眼は眼球摘出。右眼も危ないみたい…」
「そうなんだ。不幸ね」
「ねぇ、お母さん。山上静可って、知ってる?」
「さあ、知らないねぇ」
「城島さんをやった悪霊だよ」
 お母さんのそれに対する答えは無言でした。
「私、あいつに勝てるかなあ?…」
「その悪霊と戦う気なの?」
 今度は千可ちゃんが無言です。
「私は反対だね。まあ、あんたのことだ、何言っても行くんだろうけど」
「ごめんなさい、お母さん」

 次の日の朝、千可ちゃんは昨日と同じ電車に乗り、皆川市に向かいました。千可ちゃんは皆川駅に着くと、今度はバスで病院に行きました。城島さんのお見舞いです。が、入院患者のお見舞いは原則午後2時からです。それを教えられた千可ちゃんはお見舞いを一時諦め、昨日の豪邸跡にタクシーを走らせました。
 タクシーの車中、タクシーの運転手は千可ちゃんにいろいろと忠告しました。しかし、千可ちゃんは聞く耳をまったく持ってません。ついにタクシーが昨日の豪邸の門の前に到着しました。千可ちゃんがタクシーを降りると、そこには昨日の3体の幽霊が待ってました。
「何しに来た?」
 これはパイロットの幽霊の発言です。この男がリーダーのようです。
「あなたたちが守ってる人に会わせてください」
 それを聞いて学生服の幽霊が怒りました。
「何言ってるんだ?。おまえ、あいつの…」
「やめろ!」
 パイロットの幽霊がそのセリフを制止しました。
「どうやらこの娘は、事情をまったく知らないようだ。ついて来い」
 千可ちゃんは3人の幽霊に導かれ、この土地の中に入りました。千可ちゃんと3体の幽霊の先に昨日の平家が見えてきました。

 部屋の中です。一般の家庭のような装飾品が並んでいます。この部屋には1人女性がいます。30歳くらいの女性です。彼女は今、机のイスに座ってます。と、今何かに気づいたようです。
「どなた?」
 ドアが開き、千可ちゃんが入ってきました。
「初めまして」
 いきなり小さな女の子が入ってきたので、女性はびっくりです。千可ちゃんに続いて3体の幽霊が入ってきました。先頭のパイロットの男性の発言です。
「この娘、あなたと話がしたいようだ。自分たちは出ていくよ」
 3体の幽霊はドアから出て行きました。さっそく千可ちゃんの質問です。
「あの~、幽霊が見えるんですか?」
「ええ、そのお蔭で山上静可に呪われずにすんでます。あなたも幽霊が見えるようね」
「はい。あ、私、羽月千可と言います」
 と言うと、千可ちゃんは右手を差し出しました。
「私は野中圭子」
 2人は握手しました。野中さんは近くのイスを見ました。
「そこに座って。ああ、この部屋に生きた人間が来るなんて、何年ぶりのことか…」
 ちなみに、千可ちゃんはこの時点で高校1年生でしたが、あまりにもミニミニなので、野中さんは中学生かそれ以下だと思ってます。
 千可ちゃんはイスに座りました。
「昨日私の友人が山上静可に眼をやられました。この奥にある豪邸をのぞこうとしたら、いきなり窓ガラスが割れたんです。窓ガラスが眼に刺さって、左眼は眼球摘出。右眼も危ない状態です。
 山上静可があそこにいたんだと思います。山上静可ていったいなんなんですか?」
 野中さんはちょっと視線をずらし、ちょっと時間を空けてしゃべり始めました。
「実は私もよくわかんないんだ。私は事件があった時はかなり幼少だったし、生き証人もみんな死んじゃったし…。わかる範囲でお教えしましょう。
 今から22年前、私の兄が小学校でクラスメイトの女の子をイジメました。かなりひどくイジメたようで、女の子は入院したようです。そしたら、その子のお母さんがうちに怒鳴り込んできました」
「そのお母さんが山上静可?」
 野中さんは黙ってうなずきました。そして話を続けました。
「私の母もカチンときたらしく、山上静可の顔に植木鉢を投げつけました。山上静可は左眼の上を切りました。それは私も見てます。かなりひどい出血でした。山上静可はかなり悔しかったみたいで、そのまま首を吊りました」
「そして、呪いが始まったんですね」
「最初に殺されたのは、私の兄でした。工事現場の横を歩いていたら、いきなり鉄骨が崩れてきて、ぺちゃんこになったんです。かなり悲惨な死でした。
 それから兄のクラスメイトがたくさん殺されました。兄のクラスメイトだけじゃありません。他のクラスの子や先生も呪い殺されました。そのうち親や兄弟、取材に来た記者や小学校の近所に住む人までも、呪い殺されるようになったのです。
 私の父や母や祖父もあっという間に殺されてしまいました。私は霊と会話ができるから、たくさんの先祖霊に頼んで護ってもらうことにしました。
 この建物は結界が張ってあるのよ。山上静可でも絶対入って来られないはず。ま、そのせいで私もこの家から出られなくなっちゃったけど。
 でもねぇ、私を守護する先祖霊はどんどん減ってきてるの」
「どうして?」
「山上静可は妖刀キララを持ってるわ。あの妖刀で斬られると、霊は天国でも地獄でもない深淵に墜ちてくみたい。消えた守護霊は、きっとあの妖刀に斬られたんだと思う。
 私を守る結界は最低3人の守護霊が必要だから、今いる誰かが斬られたら、私は山上静可に呪い殺される…」
「大丈夫ですよ」
 その千可ちゃんの自信満々の発言に、野中さんはびっくりです。
「私は世界一呪う力があります。山上静可なんて逆に私が呪い殺しちゃいますよ」
 野中さんは思わず吹いてしまいました。
「ほ、ほんとなの?」
「ほんとうですよ。私の母が言ってますから!」
 しかし、野中さんは信じられないようで、笑いをこらえてます。まあ、これは信じる方がおかしいですね。と、千可ちゃんが急に慌てました。
「あ、今のは秘密ですよ。私が霊能力者だとわかると、いろいろと面倒だから」
「はい、わかりました。でも、残念だけど、山上静可は人間の幽霊じゃないのよ」
「え?」
 千可ちゃんはちょっと驚きました。
「山上静可は悪霊よりうーんと怖い呪い神になってると守護霊が言ってました。神様には勝てません。だから私のことはほっといてください」
 今度は千可ちゃんが笑いました。
「大丈夫ですよ。相手が神様でも私は勝てます」
「あ、そうだ。私を守護してくれるのなら、ショッピングセンターに行ってもらえませんか?」
 野中さんのその突飛な発言に千可ちゃんはきょとんとしてしまいました。
「私、この家から出ることができないから電話やスマホで買い物してるんだけど、今どうしても欲しい物があるから、買って来て欲しいんだ」
 千可ちゃんは心の中で嫌な顔をしましたが、表面上は笑顔で応対しました。
「ああ、いいですよ。でも、病院に友人をお見舞いに行かなくっちゃいけないから、ちょっと時間がかかるけど、いいですか?」
「もちろん」
 千可ちゃんはショッピングセンターの地図と、買ってきて欲しい品目が書かれた紙と、お金をもらいました。
「じゃ、お願い」
 千可ちゃんはタクシーを呼んでもらい、近くのショッピングセンターに出かけて行きました。

 ショッピングセンターです。千可ちゃんがいろいろと買い物してます。一通り買い終わったようで、千可ちゃんはショッピングセンターのコートに出てきました。
「ふぁ~、なんだ、あの人、私を便利屋だと思ってんの?」
 千可ちゃんがふとコートの真ん中にある時計を見ると、12時ジャストでした。
「まだ12時か…。病院の面会は2時からだから、まだ2時間もある…」
 千可ちゃんはすぐ横にあるレストランを見ました。千可ちゃんは1人でファミレスに入ったことはありません。でも、千可ちゃんは野中さんからもらったお金を持ってます。余ったお金で食事してもいいとも言われてます。思い切って入店することにしました。
 40分後、食事終了。と言っても、千可ちゃんはコーンポタージュと1人分のサラダしか食べてません。それでも食の細い千可ちゃんは満腹です。千可ちゃんはレストランの窓越しに、コートの真ん中の時計を見ました。0時40分です。
「まだこんな時間か。仕方ないなあ…」
 千可ちゃんはお見舞い用の花束を買い、バスに乗りました。わざと時間を伸ばすために、バスで病院に行くようです。

 千可ちゃんはまず皆川駅までバスで行き、バスを乗り換えました。午前中に1度乗ったバス、病院行きのバスです。
 片側2車線の道路。休日の昼下がりのせいか、道路は閑散としてます。その中を1台のバスが走ってます。千可ちゃんが乗ったバスです。バスの乗客はイスに半分くらいでしょうか。
 バスの目の前に大きな交差点が見えてきました。直行する道路も片側2車線です。今信号は千可ちゃんから見て赤です。赤信号の前に1台の乗用車が停車しています。
 と、千可ちゃんの身体にふいに悪寒が走りました。
「な、何、この嫌な感覚は?…」
 千可ちゃんの脳裏に、今千可ちゃんが乗ってるバスの側面に大型のトレーラートラックが激しく激突する映像が思い浮かびました。
「バ、バスを止めないと!」
 千可ちゃんが慌てて降車用のブザーを押しました。ピンポーン。バスの運転手が反応しました。
「はい、次停まります」
 交差点のちょっと手前にバス停があります。バスがその前に停まりました。そのとき信号が青になり、信号待ちの1台の乗用車が走り出しました。次の瞬間、とんでもないことが起きました。右側から巨大なトレーラートラックが現れ、乗用車の真後ろを通り抜けて行ったのです。それは千可ちゃんが予知で見たトレーラートラックでした。あからさまな信号無視。もし千可ちゃんが降車用ブザーを押してなかったら、トレーラートラックはバスに激突していたはずです。バスの客は騒然としました。千可ちゃんも青ざめてます。
「山上静可の呪い…」
 そうです、これは山上静可の呪いです。ついに千可ゃんにも山上静可の呪いが降りかかったのです。