四日目(8/4)
天候:のち一時、夕方から
ブレバン・バットレス サウス・フェイス(Brevent Buttresses-South Face)"La somone"
さて今日は午後から少し天気が崩れるというので、再びエギーユ・ルージュのマルチ・ピッチへ。
選んだのはブレバンの"La somone"(ラ・ズモヌ)というルート。全7ピッチで最高グレードが5b(アルパインの5級+)
途中ルートが何ケ所かトレイルで分断されており、適当な所でエスケープ可能。ここもFully Equippedのお手軽ルートだ。
ブレバンへのロープウェイ乗り場は朝から混み合っていた。
本場シャモニーのガイドやクライマーのいでたちを見ると、皆ザックは小さく、ロープやギア類は外付け。ハーネスなどはロープウェイに乗る前から着けている。
山岳交通が発達し、降りたらすぐクライミング開始というアプローチの無い環境だからできるスタイルだろう。
途中駅のプランプラ(planpraz)を経由して、山頂駅のブレバン(Le Brevent。2,525m)へ。
ロープウェイからは眼下の急峻なトレイルを歩いて登っている人たちや、有名なフリゾン・ロッシュのルートなどが至近に望め、見事だ。
山頂駅で降りると目の前に広がるのはヨーロッパというより、アメリカを思わせる乾いた山々。
人気ルートの順番取りか、多くのクライマーが小走りになってトレイルを下っていく。
皆、我れ先にと小走りに取付きへ。
途中、人気のフリー・エリア、"ブレバン・クラッグス"を通りかかる。
既に多くのクライマーが取り付き、トップ・ロープが垂れ下がっている。
遠目に見ると小振りな岩場に見えるが、近づくとけっこう高さがあり、スネル・スポーツに日本ではなかなかお目にかかれないペッツルの80mとか100mのロープが売っていたのに納得がいった。
さらにブレバン頂上からいきなりウィング・スーツの鳥人たちが飛び立つのを生で見て驚く!あれはさすがに怖くてできないなぁ。
緩やかな乾いたトレイルをジグザグに下りていってサウス・バットレスへ。
目指す"La somone"は人気ルートのようで、既に何パーティーかが取り付く準備をしている。
男三人のポリス・パトロール隊(教官はフランス人のようだったが、後の二人明らかに東南アジア系の見習い風)、その後が一年に数回クライミングを楽しむというパリからの熟年夫婦を連れたガイド・パーティー。
そして我々と続き、ラストはイギリスから来たという陽気で垢抜けた女性二人組。
東南アジアの一人はここまで来てクライミング・シューズを忘れたことに気づいたようで、教官から予備を借りる始末。
それを見て、パリの奥さんは私に向かって欧米特有の呆れたポーズを見せたりして、大丈夫かねホントに。
(左)人気ルートのようで取付きは順番待ち (右)「靴忘レタヨ、ドンマイ、ドンマイ」「←自分で言うな!」
とりあえずスタート。
1ピッチ目 4b、20m
リッジ・フェース、juqcho氏リード。
出だしの数手がやや外傾気味だが、後は快適に上がる。
2ピッチ目 4c、25m
凹角フェース、私がリード。
下から見ると傾斜もそれほど感じず簡単そうだが、登ってみると意外と手頃なホールドが無く、ピリ辛。
先行のパリご主人も苦労していたが、納得する。
上部テラスから左壁に移る所もちょっとシビレて、小気味良い。4cだが、このピッチが一番面白く感じた。
(左)1P目 (右)2P目
3ピッチ目 4a、30m
緩いリッジ、juqcho氏リード。
4ピッチ目 5b、20m
フェース、私がリード。
剱の6峰フェース、剣稜会ルートを思わせる小岩峰。出だしがちょっとバランシー、上部に行くほど立ってくるが、ホールドは適度にある。
グレードとしてはこちらが核心らしいが、2ピッチ目の方がムズいとjuqcho氏と同意。
この後、岩峰の天辺から15mほど懸垂下降。
5ピッチ目 4c、30m
立ったフェース、juqcho氏リード。
このルートで一番見栄えのする壁で、最初ここが核心のピッチだと思った。
厳しいかと思ったがホールドは豊富で、ちょっとライン取りに迷うが、全体的にスッキリした快適なピッチ。
登り切った所からは緩い草付の踏み跡を歩いて、先ほどのブレバン・クラッグス前の広いトレイルに降り立つ。
クライミング・シューズを履き、ロープを付けたまま平坦な幅広いトレイルを150mほど歩いて移動。
このルートは小川山にあるような短いピッチをつなげていて、どこでもエスケープ可能という利点の反面、「ちょっと無理があるのでは?」とツッコミを入れたくなる。
6ピッチ目 4c、35m
リッジ沿いのフェース、私がリード。
傾斜は適度だが割と長く、上部はやや支点の間隔が遠く、それなりに高度感も出てくる。
7ピッチ目 4b、20m
リッジ、juqcho氏リード。
最後に傾斜の落ちたリッジをサクッと片付けて終了。
終了点は小広い平坦地で、この頃からタイミング良く小雨がパラパラと降ってきて、遠くで雷鳴も聞こえ出した。
後から来るはずのブリティシュ・ギャル組は意外と遅く、5ピッチ目でやめてしまったようだ。
そそくさとロープを巻き、シューズを履き替え、ロープウェイ駅へ。
今回も早い時間に終わったので、ホテルへの帰り道、juqcho氏の案内で山岳博物館"Espace Tairraz - L'Espace Alpinisme"に寄る。
シャモニーには山岳博物館が二つあり、こちらはブレバンに近い方で、アルピニズム博物館といった内容。
(もう一つ、繁華街の中心にある"Musee Alpin"は、どちらかというとシャモニーの町の歴史も含めた古い時代に重点を置いたものらしい。)
入口から入ってすぐの所にミレーの歴代ザックが陳列されていて、まず興味を惹く。しかし、この紺色のザックはちょっと年代が違っているような・・・。
中は映像や写真などビジュアル展示が中心。過去から現代まで山のルートや歴史を作り上げてきたアルピニストなどが紹介されている。
ボナッティの写真が若々しい。
ホテルに戻り一休みしてから、私一人で近くの「山の家」"Maison de La Montagne"へ情報収集に行く。
建物の前は小さな円形広場となっており、綺麗な花壇の回りにミシェル・クローなど往年の名ガイドのパネルが佇んでいる。
ここはシャモニーのガイド組合、そして世界最高のアルピニストだけが入れるGHM(グループ・ド・オートモンターニュ)の事務所もあるようだ。
さっそく中に入り、精悍だがギョロ目がひょうきんな窓口のガイドに尋ねてみる。
「ソーリー、英語を少ししか喋れないんだけど。」と言うと、「ノー・プロブレム。オレもだ。」とフレンチ・ジョークで応えてくれる。
彼が言うには、
・モンブランのグーテ側はクーロワールで落石事故があり、現在閉鎖中。
・ミディからのタキュル、モディ経由は所々で小さな雪崩、そして部分的に凍った箇所が出てきてしまって、あまり良くない。
ガイド無しか?そうなると行けるか行けないかは、あなた次第だ。(そりゃ、そうだ。)
もう一つの案であるミディからエギーユ・ド・プランへの縦走について尋ねると、こちらはハッキリと「Bad condition.」とのこと。
今年は好天が続き、雪が解けてしまっているので、不安定な岩が出てきて悪いらしい。
うーん、それなら一体どこへ行けばいいのか。
「山の家」"Maison de La Montagne"
帰って、そのことをjuqcho氏に伝えると、あまり気にしていないのか「とりあえず明日はプランへ行ってみましょう。」とのこと。
プランは位置的にはミディの隣の山だが、その間にはギャップと小ピークが連なり、複雑な岩と雪のミックス・ルートになっている。
買ったガイド・ブックのルート図を見ると、せいぜいミディを下り切った最初のコルまで行ければいいかなぁという感じだが、はたして・・・。