KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

夏の剱岳・Ⅵ峰フェースと剱尾根 #3

2012年07月28日 | アルパイン(無雪期)

三日目

天候:のち
行程:BC4:10-池ノ谷左俣下降-R10取付6:00-剱尾根コルE6:30-下半部終了12:00-長次郎ノ頭14:30~15:20-BC16:00

 さて、本日はメインの剱尾根。
 ヒロケン氏の「チャレ・アル~」によれば下半部のコースタイムは5~8h、上半部が2~3h。
 当然、我々中高年組は長くかかる方に照準を合わせなければならず、そうなると剱尾根だけで11h。
 さらに出だしのBCからR10取付まで2h、最後、稜線からBC帰着までを1h見込むと、トータル14h行動!
  (正直、私はこの時点でワンデイ・ワンプッシュは無理だと思っていたのだが・・・。)

 まずは暗い中、ガレガレの池ノ谷ガリーをヘッデン点けて下降。
 昨年行った穂高・滝谷の下降もひどかったが、こちらもボロボロ。
 浮石にヒヤヒヤしながら三ノ窓を通過し、下部へと下っていく。

  早朝の池ノ谷を下っていく。

 池ノ谷のテン場を過ぎるとやがて雪渓となり、R2へ通じる大きな枝沢はわかったが、R10の取付が初見の我々にイマイチわからない。

 一応、三ノ窓から約1時間と目星をつけて、それらしいルンゼが見てとれるが、確信をもてないのでそのまま下ると下方から三人パーティーが上がってくる。
 先頭を歩くリーダーらしき人に聞いてみると、今通り過ぎた所がやはりR10と言う。

 急いで登り返し、ちょうどR10の取付に差し掛かったjuqcho氏に「そのまま先に行って!」と合図を送るが、途中で水を飲んだりしていて余裕モード?・・・早くしないと日が暮れちゃいますよっ!
 後続の三人組と前後したら時間が掛かるし、彼らにも悪い。とにかくさっさと登って一定の間隔を開けなければ。

  R10の登り返し

 下から見ると中途半端に雪渓が残るR10は悪そうに見えたが、それほどでもなく、アイゼン履いたままの沢登りでさっさとコルEに上がる。
 コルといっても二人も立てばいっぱいの所で、軽く息を整えてから、いよいよ剱尾根に突入する。

 しばらく細いリッジに煩わしい這松漕ぎが続く。
 上越の沢の熊笹やしゃくなげ地獄に較べればまだ軽い方だが、立ち塞がる枝を掻き分け進むのは結構パワーをロスする。

  剱尾根出だしの藪登り

 高度を上げるにつれ森林限界を越えると次第に視界が開けてくる。
 
 やがて20mほどの岩場。
 ヒロケン氏の本によればロープを結ぶのはまだ先で、手前に簡単な岩場があるというので、先を行く私はそのまま取り付いてしまったが・・・途中に残置ハーケンもいくつかあり、部分的にはⅣ級ぐらいある感じ。
 結局、登山靴のままフリーソロで登ってしまったが、安全を期すならここはロープを結んだ方が良さそう。
 その後でもっと簡単なスラブ・フェースが出てきて、ヒロケン氏の本にある「簡単な岩場」とはどうやらこちらのことを言っているようで最初の岩場は省かれてしまっているようだ。
 後続のjuqcho氏には上からロープを出す。

  最初の20m壁。中央に私の人影。

 そして、第二の簡単な岩場を過ぎると、次第に剱尾根の顔とも言える「門」と呼ばれる岩場近づいてきた。
 ガスの中、見え隠れする鬼の角のような岩峰はちょっと日本離れした景観で迫力があり、アルパイン心をそそられる。

  「門」の岩峰が見えてきた。

  

 やがて急な下りとなり細く切れ込んだキレットに着くと、そこがコルC。
 剱尾根の核心はここから。改めてロープを出し、登山靴からクライミング・シューズに履き替える。

 まずは1ピッチ目、私がリード。

 トポではⅣ、A1となっていて一応アブミを持ってきているが、見た感じ何とかフリーで行けそう。
 フェースを少し直上した後、擦り切れたスリングがブラブラする支点に沿って右上方へトラバース気味に越えていく。

  第1の核心部をフリーで越える。
 
 登山靴だとスメアが効かせられずA1となっているのだろうが、フラットソールならそれほど難しくはなくアブミは不要。
 途中、ポロッと欠けそうなカチやレストできると思ったフレークが意外と持ちづらく、ちょいアセるが、何とか切り抜ける。
 むしろカンテを右に回り込んだ後半の方がロープがグッと重くなって気が抜けない。それでも、どうにかフリーで突破。
 体感5.10a/b?しかし、登山靴、アイゼンなど入った6kgほどのザックを背負ってても、それほど苦労はしなかったので5.9ぐらいが妥当かも。
 フォローのjuqcho氏は敢えてフリーにこだわらなかったが、それでもA0で上がってきた。

 その後、しばらくコンテで岩稜を進んでいくと、例の「門」の中に入っていくよう細いトラバース道が続いている。
 先行するjuqcho氏の後を追って最初は突き当たりまで行ってしまったが、実はその少し手前、右側壁の逆V字状フレークの地点からがよく登られているルートのようだ。 

 で、お次はjuqcho氏リード。
 頭上の太陽が眩しく先が読めないため、セオリーどおり無難にA1で登っていく。
 出だしのフレークを越えると、後は左上に向かってクラックとバンドが斜めに走っており、しばらく待つと上から「ビレイ解除」の声が掛かった。
 フォローの私はjuqcho氏の様子を見ていたので、ここももちろんフリーでやらせていただく。
 右手フレーク、左手サイドガバをアンダー気味に持ってスメアでヒョイと伸びたら簡単に上の棚に手が届いた。ここはインドアボルダーのせいぜい7級。
 残りの斜めクラックは足元のバンドがしっかりしており、Ⅳ-程度だろう。

  第二の核心

 後は簡単な緩いスラブから脆いルンゼを伝い、しばらくリッジを進んでいくとコルBに着き、これで下半部は終了。
 R10取付からちょうど6時間。当初8時間を見込んでいたので、これは上出来、後半戦に向けて「貯金」ができた。

 

  

 一休みした後、後半の上半部を私のリードでスタート。

 上半部はトポでもピッチごとにあまり細かく解説がなく、グレードもⅢとなっているので適当に登っていくが、あまり考えないとⅣ+のライン取りになったり、また絶対動きそうもない大岩が足を乗せたとたんゴロンと動いたりして、やはりアルパインは気が抜けない。

 その後、赤茶けたフェースを2ピッチほど登るが、上半部でロープを使ったのはせいぜいここまで。
 後は岩のリッジが延々と続く。それにしても、ここから見る景色はまるで「北鎌」のよう。
 長次郎ノ頭(・・かな?)がちょうど大槍のように前方遥かに聳え、まだまだ先は長い。
 
  剱尾根上部から見る風景は北鎌のよう。

 上部に行くに従い、また少し急な岩場が出てくるが、板状の岩が細かく積み重なったような状態でホールドは豊富。
 特に苦労せず、お互いマイペースで高度を上げる。
 剱岳の頂上からも我々の姿が見えるのだろう。コールすると、手を振って応えてくれた。
 
  剱尾根ノ頭を過ぎ、一登りで長次郎ノ頭に着。
 上半部のタイムは2時間半で、これまた自分たちにとっては上出来。
 天候に恵まれたことが大きいが十分余裕のタイムでこなし、ワンプッシュで完登できた。

 最終日の明日は長次郎谷上部のクレバスがイヤらしいので、往路のコースを止め、本峰越え室堂へ降りることを確認。
 それならば明日またここを通るということで、長次郎ノ頭に重たいロープやらガチャ類をデポすることにした。

  長次郎ノ頭から剱本峰を望む。

 ゆっくり休んだ後、意気揚々とBCに帰着。
 もしかしたら時間切れ敗退か途中ビバークを予想していただけに、一日で抜けれて本当に良かった。

 剱尾根の印象は、何となく北鎌にロープが必要な壁を数ピッチを加えたような感じ。
 雪のある時期ならもう少しすっきりしたアルパイン・ルートなのだろうが、夏の剱尾根は這松の藪漕ぎと岩尾根が続き、けっこう泥臭い男気ルート(?)だった。



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