「高田馬場の赤いきつねじゃなくて、下北沢の赤いきつねが食べたいんです!!」
吉本浩二、宮崎 克両氏による、『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~』より。本書に収録された手塚珍語録の代表格かもしれない。
これは『コブラ』の寺沢武一氏がアシスタント時代のエピソードだ。深夜、高田馬場の虫プロで一人作業していると、手塚はこういったのだそうだ。
「寺沢氏、赤いきつねを買ってきてください」
寺沢氏が気よく(きぃよく、と関西風に読んでください)コンビニに走ろうとすると、「ちがうんです!!寺沢氏!!」と手塚は呼び止め、そこで飛び出したのが、この「高田馬場の赤いきつねじゃなくて、下北沢の赤いきつねが食べたいんです!!」という迷言である。
高田馬場と下北沢の赤いきつねに、一体、どんな違いがあるというのか。しかし寺沢氏は指示に素直に従い、下北沢までタクシーを飛ばして、赤いきつねを買いにいったそうだ。
手塚治虫はどん兵衛派ではなく、赤いきつね派だったのか。私もそうなので、ちょっとうれしい。赤いきつねがスーパーで安いのもあるが、どん兵衛のストレート麺になじめなかったことが大きい。ストレート麺はたしかに素晴らしい技術だけれど、カップ麺に求めるのはチープさでありジャンクさであって、本物感ではない。だったら普通のうどんを食べる。そちらのほうが安い。
しかし「下北沢の赤いきつね」理論は、糖尿病患者のウォーキング療法に応用がきく。
ノルマの歩数を稼ぐため、地元の玉出スーパーではなく、玉出本店まで赤いきつねうどんを買いに行くのである。
行ったことはないけどな。
「地元の立ち食いそばじゃない、梅田の立ち食いそばが食べたいんだ!」
というわけで、夜、閉店ギリギリの梅田の都そばに駆け込んだことがありましたよ。
しかし疲れてお腹が減り、帰りの途中で半チャンラーメンを食べて完全にカロリーオーバーになってしまいました。あんまり意味はなかったですね。
今はもっとドライに考えている。
通勤に往復3000歩。昔は夜に7000歩以上は歩いていて、睡眠時間を削ってしまった。平日は平均3、4時間で、これが脳梗塞で倒れる原因の一つだったかもしれない。
今は睡眠時間を最低7、8時間は確保するようにしている。昼休みに最低3000歩、社内で1000歩を目標に歩くようにして、夜のノルマは3000歩まで圧縮した。夜のノルマはプラス3000歩遠回りで済む。
ウォーキングがてら、スーパーをあちこち回るのが楽しい。れんちゃん、今日はおいしいトマトがお得に手に入ったね!
寺沢氏がアシスタント時代には、『ブラックジャック』の締め切りがあるのというのに、手塚が漫画協会かなにかのツアーでNYに旅立ってしまい、原稿料より国際電話代が高くついたという電話送稿のエピソードがある。このエピソードには、直感的な感性表現にみえる漫画を、言語表現、数値表現に落とし込むことを知っていた手塚の偉大さを再確認せざるをえない。これについては、また機会があれば触れたい。