およそ10年ぶりに、Mさんから突如電話があった。前に連絡があったのは、私が会社を辞めた後だった。Mさんは、私が20代半ばの若手だった頃、同じ支店の他部署にいた先輩だ。当時30代後半で、専門職として主にタフな交渉事を担当していた。
事務所から帰宅しようとした時、携帯電話に登録していない番号からかかってきた。「Mです、久しぶりだね、元気?まだ仕事?今度そっちへ遊びに行くことになって、覚えてるかな、Kさんと会うんだけど、来る?」昔と変わらない声と話し方だった。
「これから飲みに行くんだけど、来る?仕事なんかやめて、明日の朝来てやれよ。」よく飯や飲みに誘ってくれて、お酒の飲み方も教えてくれた先輩の一人だ。バブル時代の終わりの頃、当時携帯電話はなかったので、よく内線電話で誘われたり、残業中に強制的に仕事をやめさせられ連れて行かれた。そんな時代だった。
「体は元気なんだけど、頭がついて行けなくなって、もう仕事は完全にやめたよ。」最近は、好きなテニスと近くに住むお孫さんの世話の日々とのこと。「毎年年賀状に来てくださいって書いてくれてたから、元気なうちに行っておこうかと思って。」会うのは、MさんもKさんもおそらく30年ぶりくらい。
「ありがとうございます!いつ来られるんですか?」とつい声を弾ませて答えると、「相変わらずだねえ。」とMさん。相変わらずと言われて、心の中で苦笑しつつも、会社を辞めて10年の私にも声をかけてくれたことが嬉しかった。中部地方の都市からの電波に乗ったリアルな音声に、内線電話で呼び出されたあの頃にタイムスリップしたような感覚になった。
Mさんはどんな人生を歩んで来られたのだろう。これからどんな人生を考えているのだろう。昔ほどは飲まなくなったという酒を一緒に飲みながら、話を聴くのが楽しみだ。会うのは、次の時代のスタートの月。
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