教育基本条例案がどうしても許されないと思う最大の理由の一つとして、教員同士、校長と教員、生徒と教員、そして学校と保護者と、あらゆるレベルでの信頼関係を崩してしまうということがあります。
ところが橋下徹氏が2007年に出した本『どうして君は友だちがいないのか』を読めば、人と人との信頼関係というものの意味を彼が理解していないということがわかります。
この本は「14歳の世渡り術」という副題がついていて、橋下氏自身の半生をふりかえりながら、「友だちなんていなくたってかまわない」など世渡りの仕方を指南するのです。
橋下氏は、中学生の時にいじめられないためにあえてラグビー部に入った、パシリをした、いじめに加担しても自己保身のためなら仕方がないなどと、さまざまな経験や教訓を語っていきます。たしかにわたしたち一人一人の人生をふりかえってみても、自分は一度もいじめに加担したことがないとか、だれかに媚びを売ったことがないとかいう人は少ないと思うので、子ども時代の橋下氏のふるまいをとやかくいうものではありません。
しかしそれらの行為を反省したり悔やんだりするのではなく、全てを世渡りの術として、この本を書いている大人になった時点で正当化し、しかもそれを子どもたちに奨励するのは理解できません。
そして彼が特に強調するコミュニケーション能力の意義を、他者を思いやり人と人との信頼関係を築いていく力ではなく、単に「人間関係を営む能力」、世渡りの術と位置づけていくのに大きな違和感があります。
この本は最初から最後まで、あらゆるものが「世渡りの術」「テクニック」に解消されています。
彼には、人生で信頼関係を築いていくということのもつ意味を理解できないのではないかと思います。だから、「相互不信」「監視」「強制」「服従」などの思想でいっぱいのこの異様な条例がだされていると思います。そして信頼関係を一度崩したら再構築することは並大抵のことではないということを認識していないのではないかと思います。
あらためて、教育基本条例が成立したら大変なことになると思いました。
(ハンマー)