西欧には天の神があり、グレゴリオ聖歌を生むほどであるが、ロシアには地の神があり、リルケの「神さまの話」のなかでそれは感得される。この本を読んでも、今の時期以前には、そのロシア性がどういうものなのか、ぼくにははっきり感得されなかったろう。リルケはロシアの民衆の敬虔な信仰感に感動し、ロシアに旅行しロシアの勉強に没頭し、「神さまの話」を書いた。それほどまでにリルケを惹いたのは、西欧の神とは異なるロシアの神感覚であり、それを、地の神、とぼくは(西欧のそれと対照させて)言っておきたい。新しい神観を求めていた詩人リルケに、ロシアのそれは莫大なインスピレーションを与えたにちがいなく、それゆえの彼のロシア熱狂だったろうことは、いまこそはっきりと感覚される。
「カトリック」と「正教」はちがうことも(価値判定ではなく、歴史化した人間経験のちがいである)