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(アリアーヌ) あなたはたいへん誇張していらっしゃるように思えますよ。ご事情は存じていました。マダム・フランシャールは、ただ、信頼感がおありになることを示されただけ。
(セルジュ) どうしてこれはぼくに同伴することにこだわったのかな? (フィリップに。)ムッシュー、あなたはご結婚かどうか存じ上げないのですが…
(アリアーヌ) 兄は離婚しております。
(セルジュ) わかりますね。
(シュザンヌ、猛然と。) 私たちは、いずれにせよ、離婚しないことを、あなたに請け合うわ。まず、宗教に反するわ。それに、ママにたいして…
(セルジュ、皮肉っぽく。) きみのママはきみを相続者から外すだろうからね。
(シュザンヌ、痛いところを突かれて。) 困ったことね… (アリアーヌに。)申し上げなければならないのですけれど、母は自分のお金を全部、ある銀行家に預けていたところ、その銀行家に、この二月、そのすべてを持ち逃げされたのです。それで現在、母は私たちの世話になっています。ああ! 母は家事を助けてくれますし、それから、料理をしてくれます。
(セルジュ) お母さんの料理について話そうじゃないか!
(シュザンヌ) あなたの食欲がないからといって、母のせいじゃないわ。
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(セルジュ) ぼくの食欲の調子を狂わせたのはお母さんだよ。
(シュザンヌ) 私たちが結婚した時、あなたは自分から言っていたわよね、キャベツも、茄子も、何とかも、食べられない、って…
(フィリップ、立ち上がって。) ぼくは失礼しますよ。急いで書かねばならない手紙があることが、気になっているので。(アリアーヌに。)ジェロームの事務室にぼくを落ち着かせてくれないかい?
(アリアーヌ) もちろんよ。彼の万年筆は取らないでね。それだけ注意してね… あれは誰も使ってはいけないのよ。
(フィリップ) 多分またお目にかかります。すぐに。(挨拶して出る。)
第三場
アリアーヌ、セルジュ、シュザンヌ
(セルジュ) あなたのお兄さんは、ぼくたちのことをどう思ってらっしゃるんだろうか。
(アリアーヌ) 心配なさらないで。説明しておきますから。
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(セルジュ) 妻をどうかおゆるしください。慎みが全然無くて。
(アリアーヌ) それが欠点ですの?
(シュザンヌ) あの方はあなたのお兄さまだから、と思ったのです… 分かりませんが、あなたご自身が、このような信頼を抱かせるのです…
(アリアーヌ、自分の考えを追って。) 私は、パリに来る度に、確かめるのですけれど、私自身の家族内にいたるまで、自分を抑制しようと努めることさえ、もう、されなくなっています。まるで、生活の重圧が、あまりに強く、あまりに耐え難くなってしまって、心という心が破裂しているみたい。
(シュザンヌ) そのとおりです、マダム、あなたがあそこで仰っていることは…
(アリアーヌ) あの高地、私の居るところでは、私は、ほとんど病人としか会いません。
(シュザンヌ) あなたはほんとうに善いお方で、すごく献身的に働いておられます…
(アリアーヌ) 病人たちの事情は、ちょっと違います。どんな場合でも、彼らはもっと護られ、もっと防御されています。彼らの病気そのものが、彼らと世の出来事との間の、一種の幕みたいなものなのです。でも、ここでは… あなた方は、あらゆる力に、あらゆる酷い流れに、引き渡さていて、この流れは、世界の上に荒れ狂っています。あなた方は、保護されていません。