地面の目印 -エスワン-

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物理学を変えた二人の男                      -ファラデー、マクスウェル、場の発見- を読む

2021-08-16 17:18:58 | 

著者:ナンシー・フォーブス
   ベイジル・メイボン
訳者:米沢富美子、米沢恵美
発行:岩波書店 2016 
原書名:Faraday, Maxwell, and the electromagnetic field 2014
          How two men revolutionized physics

 電気に関する物理が神秘に包まれていた18世紀末から19世紀にかけてその謎の解明に活躍したファラデーとマクスウェルの物語。なんでも実験して確認しなければ納得しなかったファラデー。数式で現象を説明することはできなかったが、言葉でうまく表現した。
それを洗練した数式で表現したマクスウェル。ただマクスウェルは単なる理論家ではなく優れた実験家でもあった。
 少し話はそれるが、物理学では、素粒子物理でも、ひも理論でも、重力波でも一般大衆向けに数式を使わずに書かれた本が多数出版されている。それらを読むのが私の楽しみでもあるが、最先端の数学を一般向けに解説した書物はほとんど出版されていないように思う。ファラデーのような人が数学でも現れないものであろうか。

 非常に心洗われる本であったが、本筋とはあまり関係なく印象に残った点をいくつか。
・マクスウェルは、有名なキャヴェンディッシュ研究所の設立に奔走し、初代所長を務めた。
・マクスウェルは、ケンブリッジのトライポス(卒業試験)で2位であった。トライポスについては、志村五郎が「数学で何が重要か」の中で「悪名高いトライパス」として「イギリスが純粋数学ではある期間後進国であった一つの大きな理由であるらしい。」と書いている。でも天才は何でもできるということか。
・電磁気学の教科書で出てくる4つのマクスウェル方程式は、もともと20の方程式からなり、マクスウェルの死後それを4つにまとめたのはヘヴィサイドとのことである。

 題名にある「場の発見」という面での理解はなかなかおぼつかない。P244 に「電気回路では、電線を伝ってエネルギーが流れるのではない。エネルギーは周りの空間を伝って流れ、電線は道案内役を務めるだけだ。」等々の記述があるが、それをマクスウェル方程式から実感を持って理解したいものだ。

 

 


皇帝たちの中国史 を読む

2020-05-23 16:20:43 | 

宮脇淳子

徳間書店 2019

 始皇帝や武帝、元、明、清の何人かの皇帝を取り上げて、漢民族の周辺の民族も含めて広域的な視点から中国の皇帝の事績等について、わかりやすく説明した本。目から鱗のような話がたくさんあった。例えば、

・漢民族の建てた王朝は、現在の中国を除けば、秦、漢、宋、明だけである。その漢民族の範囲も時代とともに変わっている。
・始皇帝は文字を統一したが、発音は統一していない。離れた地域の中国語は外国語のようなもの。
・元寇の主体はモンゴル兵士ではなく、高麗や契丹、女真人だった。
・モンゴルにはチベット仏教の信者が多く、歴史的なつながりが強固
・清の時代の公用語は満州語で、文書は縦書きの表音文字。
・清の最盛期の康熙帝、雍正帝、乾隆帝のうち、雍正帝は目立たないと思っていたが、意外と有能な皇帝だった。

 ややもすると中国は周辺諸国に対して圧倒的な力を誇り、歴史的にずっと支配する側にいたようなイメージを持っていたが、周辺異民族が建てた王朝も多く、また、周辺にも、特にユーラシアの草原地帯には強大な帝国がいくつも存在していた。そうした帝国の実態はあまり文書として残されていないせいなのか、印象が極めて薄い。文書に残すこと、記録することが重要ということか。

 


見えざる宇宙のかたち を読む

2019-12-22 11:36:49 | 
シン=トゥン・ヤウ/スティ-ヴ・ネイディス 水谷淳 訳
岩波書店 2012
 
 カラビ=ヤウ多様体の発見者の一人のヤウによるカラビ=ヤウ多様体とひも理論について
数式を使わずに解説した本。かといって、「宇宙のかたち」がすんなり頭にはいてくるわけではない。1次元のカラビ=ヤウ多様体が楕円曲線、2次元がK3曲面、3次元のカラビ=ヤウ・スリーフォールドが深く宇宙論(ひも理論)と関係しているという。また、トーラスの曲率は0とのこと。などなど、そうなんだという話もいろいろ出てくる。
 かつて「宇宙のランドスケープ」という本を読んだとき、ありうる宇宙の形が10の500乗ぐらいあると書かれていて何のことかと思ったが、その点についてもいろいろ説明があった。といってもよく分かったわけではない。
 著者(ヤン)は、20歳のときに香港からロサンゼルスのバークレーに移り、最初のクリスマス休暇にミルナーの「モース理論」を読みトポロジーと曲率の関係に興味を持ったという。そこでたちまち新たな定理を証明してしまったとのこと。私は久しぶりに本棚の「モース理論」を紐解いてみたが、ビーンとくるものは何もなかった。さすがにフィールズ賞受賞者は違うものだ。
 「13章 真理、美、そして数学」の323ページにラマヌジャンのτ関数とK3曲面の話が出てくる。面白そうな話がたくさん出てくるが、まだ、遠くから眺めているに過ぎない。

「帰還兵はなぜ自殺するのか」 を読む

2019-06-23 12:15:25 | 
著者:デイヴィット・フィンケル
訳者:古屋美登里
発行:亜紀書房 2015年
 
戦場で心が傷ついて帰還したアメリカ兵の話。
戦場で身体的な障害を負った人ではなく、精神的な問題を抱えてしまった人に焦点を当てている。戦場の舞台は、主にイラクやアフガニスタン。
戦争には国レベル見ると勝ち負けはあるのかもしれない。それも最近のアメリカの各地への介入ではよくわからない部分があるが、個人レベルで見ると敗者しかいないと思えてくる。勲章をもらっても失われたものはあまりにも大きい。

宇宙へようこそ -宇宙物理学をめぐる旅- を読む

2019-06-16 17:36:09 | 

著者:ニール・ドグラース・タイソン
   マイケル・A・ストラウス
   リチャード・ゴッド
訳者:松浦俊輔
発行:青土社 2018 原作:WELCOME TO UNIVERSE 2016

「第1部 恒星、惑星、生命」、「第2部 銀河」、「第3部 アインシュタインと宇宙」と地球に近いところから宇宙論までのさまざまな話題をやさしい語り口で理論的に説明している。第1部の「星はどのようにエネルギーを放射するか」の説明で黒体放射について分かったような気がした。物体は温度に応じて電磁波を放出しているということ。人間も熱を出しているからな。体温がものすごく高温になれば、そんなことはないけれども、サイヤ人みたいに光り出すというわけか。第3部の一般相対性理論、ブラックホールやインフレーションの話はよくわからなかったが、十分楽しめた本でした。