著者:タミム・アンサーリー
訳者:小沢千重子
発行:紀伊國屋書店 2011
著者はアメリカ在住のアフガニスタン人。題名のとおり、イスラム世界から見た世界史である。アケメネス朝ペルシャ、アレクサンドロス大王、サーサーン朝ペルシャ、ビザンツ帝国を簡単に触れた後、ムハンマドの誕生からのイスラムの歴史が詳細に語られている。
スンニ派とシーア派という言葉がよく新聞やテレビで出てくるが、なぜ2派あるのかが詳しく語られている。また、イスラム教は本来非常に寛容な宗教であるということが印象に残った。アラビア半島の砂漠の一角で生まれた宗教が、もともとゾロアスター教を信奉していたペルシャを含め、あっという間に広範な地域に広まったのはそんな性格があるからではないだろうか。他の宗教にも寛容で、国内の異教徒を排斥するようなことはなかったようだ。14世紀以降繫栄したオスマントルコはそんな性格を有した帝国で、産業革命後から特に顕著になっていった西欧諸国の勝手放題の振る舞いが、現在の中東地域の混乱の元凶であることがよくわかる。もっともオスマントルコの支配者層の振る舞いにも大きな責任があるのではあるが。
第1次世界大戦後、西欧諸国により、オスマントルコは解体され、民族や文化にかかわりなく、政治的駆け引きで国境線が引かれてしまった。トルコ、シリア、イラクに分かれてしまったクルド人問題はその蛮行の象徴と考えられる。その後、1960年ごろからのアフリカ諸国の独立等により、世界には約200の国が誕生した。本書の576ページには以下の記述がある。
「第二次世界大戦後に脱植民地化とともに重大な局面を迎えたのが、「国民国家主義」だった。つい忘れしまいがちだが、世界を国家の集合体に組織するという動きが始まってから、まだ一世紀も経っていないのだ。このプロセスが完了したのは終戦後のことで、1945年から75年のあいだに100ほどの国が誕生し、ついに地上の土地が寸土も残さずいずれかの国民国家に属することになった。」
この部分を読んで、小学生のころ使っていた世界地図帳のアラビア半島には、国境線が描かれていなかったことを思い出した。
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